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壊滅の足音


 前回更新後(昨日ですね)新しく1件レビューをいただきました。ありがとうございます。






 現在、戦況は五分五分と言えた。

 が、わずかな変化で容易に逆転が起こりうる状況でもあった。

 そこで、ニコは気づく。


 足音が、近づいてくる。


 姿はまだ目視できないが、確かに、迫っている。

 山肌の角の、向こうから――


「第四の連中、ようやく来たようじゃて!」


 勝ち誇った声を上げつつ、斬りかかってくる敵の老隊長。

 その隊長に呼応して死角から斬りつけてくる老婆。


 ニコは、この二人の相手で手いっぱいだった。


 ここへ敵の援軍となると――拮抗が崩れるかもしれない。

 もちろん不利になるのはこちらである。

 ニコは理解していた。

 数で劣るなら、自分が先頭に立ち”穴”を埋めねばならないと。


「ぐっ……!」


(早くこの二人を倒して、敵の援軍の相手をせねばならぬのに……ッ!)


 二人の老兵が、動きを加速させた。

 まるで、ニコの焦りをつくみたいに。


「二対一じゃあ! 数が多い方が強ぇのは、世の道理なのよ!」


 刹那。

 ニコは、目を疑った。


「おじいさん!」

「どうした、ばあさん!」

「だ――第四じゃ、ありませんよ!」

「……なんじゃと!?」


 ニコの視界に飛び込んできたのは、魔物の群れであった。


 数はそう多くない。


 が、。 


「あれまあ!? 第四は何をやっているんですか!? 本当に今どきの若者は、役に立ちませんよ!」

「後方に敵じゃあ! ここで挟撃の形を許すと面倒じゃぞ! 後方の敵増援は、コロムの隊で対応せい!」


 魔物の増援を見ても敵の動揺は薄かった。

 敵の後方が迅速に陣形を整え、増援の魔物を待ち構える体勢に入る。

 ニコは苦虫を噛み潰した。


(多少戦況が不利になろうと、びくともせぬか……この敵ら、かなり戦慣れしている……ッ! 何より……やはり、強いのだ!)


「こっちはこのまま儂らで引き受けた! コロムの隊は――調子に乗った後ろの魔物どもを、騎兵の力で磨り潰せい! 魔群帯のやつらに比べりゃあ、大したことねぇじゃろ!」

「おほほほほ……アライオン十三騎兵隊を舐めすぎですよ! 死体は煮込んで、犬にでも食わせましょうねー!」

「?」


 老隊長と老婆の後方――ニコは、それを見つけた。


 黒の豹人族。


 否――



「――【パラ、ライズ】――」



 豹王装に身を包んだ、ベルゼギア。


 ――――ピシッ、ビキッ――――


「!」


(止ま、った……?)


 老兵の動きが。


「――――ッ!」


 ニコは躊躇わず、大剣を斜めに振り降ろす。


「お、いぃ!? ちょ……、待っ――」


 ズンッ!


 老隊長の左肩から右腰にかけてが、斬撃で割れた。

 誰の目にも絶命は明らか。

 ニコはそのまま太ももに力を込め、身体を捻る。


 再、加速――――


「ぬぅ、ん!」


 薪を割るのに近い要領で――

 大剣を、老婆の頭頂へ力任せに振り降ろす。


 ブンッ!


「ぎぃ、ゃ!?」


 老婆の頭部が割れた。

 こちらも、即死。


 ニコは、即座に大音声だいおんじょうを発した。


「敵の大将格は、某が討ち取った!」


 ニコのそのひと言で敵兵は浮き足立った。

 彼女はすぐさま、その敵兵ら目がけて突進をかける。

 そうして、苦戦していた仲間を助けた。


「?」


 魔物の増援の方へ向かった敵の隊をニコの目が捉える。


 ほぼ一方的に、蹂躙されていた。


(いや……あの、敵の隊――動けていない、のか?)


「動けなくなってるのは、俺の呪術にかかったからだ」

「ベル――、……ドリス」


 そうだ。

 豹王装の彼は”ベルゼギア”ではなく”ドリス”。

 フン、と蠅王が鼻を鳴らす。


「情報を吐かせる前に、殺しちまったか」


「すまぬ……はやった」


「ま、気にするな――さ、


「……寛容さに、感謝する」


 趨勢は、決した。




 14:36――――第十二騎兵隊、壊滅。




     ▽



 ようやくひと息つける段になって、ニコは蠅王に礼を述べた。


「助かった。しかし、あの増援の魔物たちは中央方面の戦力ではないのか?」

「こっちに向かうと伝えたら、ジオが”使え”と言ってな」

「ジオが?」

「どうやらリィゼが迅速に動いてくれたみたいで、中の方から少し増援を出してくれるらしい。で、そいつらがジオと合流する予定だそうだ」

「なるほど。それで戦力が補充されるから、その場にいた中央方面の魔物たちを貴様に貸し与えたわけか」

「そういうことだ」


 自分たちが来た方角を見やる蠅王。


「こっちへ向かう途中で、同じくこっちに向かってた第四騎兵隊を見つけてな……先に、潰しておいた。で、そのまま俺たちはここを目指したってわけだ」

「呪術と口にしていたが、あの強かった二人の動きを完全に止めた不思議な力……術式とは違うのか?」

「術式とは違う。ま、俺だけの特別な力だと思っといてくれ」

「わかった。某、余計な詮索はせぬ。それにしても……」


 戦場の敵の死体に視線を飛ばすニコ。


「貴様の策……実に上手くハマった。白状すると……貴様を敵の側に回したらと考えると、少々、恐ろしくなった」

「とはいえ、実行できる能力がなけりゃどんな策も机上の空論でしかない。ちゃんと実行できるあんたやその仲間がいて、初めて俺の策は”現実”となる。俺だけが”恐ろしい”わけじゃないさ」

「……ふ、口が上手い」

「口八丁で乗り切ってきたんでな。ともあれ……」


 蠅王が膝をつき、敵の装備を確認する。


「これで、第十二騎兵隊も潰した」


 ニコの表情を見てか、蠅王が尋ねる。


「どうした?」

「……いや、ジオたちの方は大丈夫かと思ってな。魔物たちをすべてこちらへ向かわせたとなると……もし、扉の中からの増援が到着するまでに敵と戦うことになったら……ジオたちは、豹煌兵団だけで戦わねばならぬ」


 その時だった。

 伝令がやって来た。

 中央方面――ジオたちのいる方面からの伝令。

 荒い息を整え、伝令は報告した。


「はぁっ、はぁっ……報告します! 中央方面にて、ジオ様率いる豹煌兵団が敵と交戦――」


 飛び込んできたのは、このような報告であった。





 ジオ・シャドウブレード率いる豹煌兵団が、第十三騎兵隊を撃退。





「第十三騎兵隊はほぼ壊滅とのこと! 敵の隊長も、ジオ様自ら討ち取ったとのことです!」







 ◇【第六騎兵隊】◇



 副長フェルエノクは、高台から広がる風景を眺望していた。


 空には厚ぼったい雲が数を増やし始めている。

 もしかしたら近々、ひと雨くるのかもしれない。


「伝令の情報を聞く限り、最果ての連中もなかなかやるなー。第一のミカエラも、やっぱりもう死んでるのかもなー」


 彼の背後には第六騎兵隊の兵たち。

 その斜め後ろには――隊長ジョンドゥの姿。

 ジョンドゥが、フェルエノクの前へ歩み出る。


「長らく扉の中に引きこもっていた割には、敵全体の動きが明らかに戦慣れした動きであります。内紛などが頻発していて戦争慣れしているのか……あるいは、よほど優れた指揮官がいるか」


「すでにミラと組んでるとかなー」


「ありえるであります。遠くでハーピーらしき影が飛んでいますが、前線まで出てきていない……地上から撃ち落とされる危険を避け、安全な後方で使っているのであります。おそらく前線では、別の種族を伝令として用いているのでありましょう。ここから読み取れるのは……敵には堅実に”守りに入る”知性があるということであります。単純に突撃してきてくれれば楽なのですが……こうなると、少々面倒かもしれないであります」


「隊長、よく見てるなー」


「敵がここまでやるとは、いささか想定外でありました。こうなってくると……この戦場で勇の剣が使えなかったのは残念でありますな」

「どうした、隊長ー?」


 手もとの金貨を宙に弾いて弄び、ジョンドゥが続ける。


「伝令を使って、各騎兵隊へ通達を」


 ジョンドゥはフェルエノクを通し、いくつかの指示を出した。

 その中には伝令に関するものもあった。


「伝令の、隊番と身元の確認を徹底ー? どういうことだー?」


「敵が亜人や魔物だけなら問題ないであります。しかし”人間”を駒として使える狂美帝が味方していたら、人間がこちらの伝令に粉し、情報を錯綜させる危険があるのであります。狂美帝は、魔戦騎士団に扮させた刺客を勇の剣にぶつけた……そのくらいは、やるでありますよ」


「うちらはあんまり他の隊に興味がないし、大した交流もないからなー。他の隊の兵の顔なんて、いちいち覚えてないー」


「そこを利用されるかもしれない……すでにやられた隊がいる以上、その隊の装備を偽装に利用される可能性は十分ある……もしわたしが敵側で”人間”という手札を使えるなら、そうするであります」


「なるほどなー……こっちは亜人や魔物に化けられねぇが、狂美帝が向こうに協力してるならその手が使えるのかー。敵ばっかり、ずるいなー」


 ピトッ


 宙に弾かれた金貨が、ジョンドゥの手の甲に着地。


「第二と第九あたりは、生き残るべき隊であります。我々第六が”裏”なら、その二隊は”表”の顔として、今後も活躍すべきであります」


 表を示す金貨に視線を落とすジョンドゥ。


「表が存在しなければ……当然、裏はその姿を隠すことができない」

「つまりご親切に他の隊に警告を発するのは、第二と第九がやられると困るからかー」

「それと、敵は確実に”鍵”であるラディス……神獣を狙ってくるはずであります」


 その神獣はというと、後方で小用を足していた。

 ずだ袋の上に口笛を吹きながら小便をかけている。

 ちなみに、まだ袋の”中身”はしぶとく生きているようだった。


「こっちとしちゃ、この戦いは神獣を取られた時点で負けみたいなもんだからなー。ラディスを、ミカエラの騎兵隊に預けるわけがないんだよなー」

「ゆえに”神獣”が撒き餌となる――であります」

「……隊長、何か考えてるなー?」

「敵もなかなか考えて動いているであります。狂美帝が入れ知恵しているとすれば、油断は禁物であります」

「――え?」

「? なんでありますか?」

「隊長、今……ちょっと笑ったかー? いつも無表情なのにー」

「まさか、であります。ただ……」


 ジョンドゥが手もとの金貨を弾いた。


 パシッ


 フェルエノクが、それを掴み取る。


「敵側の動きに、どうも……わたしに近しいものを感じるのであります。変な表現ですが、どこか合わせ鏡のような……こんな感覚は、初めてであります」


 血を分けたあの”人類最強”よりも――近しい感覚。


「で、それが狂美帝かー?」

「まず、間違いなく」

「なら、侮れねぇなー」

「……さて。そろそろ、我々も動くであります――フェルエノク」

「任せろー」


 指示を受け、ジョンドゥの隣に立つフェルエノク。

 彼は目を閉じると、両耳に手を添えた。

 まるで、聞き耳を立てるみたいに。


「この空気……戦場全体の流れ……感じるぞー……この第六騎兵隊が、ゆくべき場所――、……あっちだー」


 目を開いたフェルエノクが、ジョンドゥに耳打ちした。

 と、ジョンドゥはある方角へ指を向ける。



「では……我々第六は、あちらへ向かうであります」



 そのままジョンドゥは、後方の兵たちへ出撃準備を促した。


 ザッ!


 準備を整えた第六騎兵隊が――整列。

 普段は比較的、緩い空気の漂う隊である。

 が、こういう時はどの隊よりも迫力と威圧感を放つ。

 先頭で率いるフェルエノクが、大剣を肩に担ぎ直した。



「じゃあまあ、行くとするかー」



 大柄な彼と巨馬の組み合わせ。

 それが発する圧は、凄まじいものがあった。

 一方の、ジョンドゥ……


「それでは――」


 彼は隊列の中に紛れ、もはや、他の一般兵と区別がつかない。






「第六騎兵隊、出撃であります」







  

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― 新着の感想 ―
言い方がめっちゃ緩いけど、第六の副大将(?)能力高くね
不安要素は第6の隊長が人類最強の兄弟だということを知らないことですね
[気になる点] >その神獣(ラディス)はというと、後方で小用を足していた。 >ずだ袋の上に口笛を吹きながら小便をかけている。 >ちなみに、まだ袋の”中身”はしぶとく生きているようだった。 ヤス・・・…
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