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[完結]銀色の兎姫 ――母を亡くした一人ぽっちの少女と、母の顔を知らぬ軍人王子との、愛を知るまでの物語。  作者: momo_Ö
第二章『天地別るる瀬にありて』

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おまけ:小動物に好かれてしまうひと(イラストあり)

 どうしてもあと少しだけシリアスが続いてしまうので、読者の皆様もそろそろほのぼのをお求めだろうか……と、小休憩のおまけです。

 後書きにイラストがあります(苦手な方はお避けください)。


 二人がだいぶ打ち解けてからの、第二章が始まるちょっと前くらいの出来事です。





 とある昼下がり。

 リオレティウスが軍部の訓練を終えて、王宮内へ戻ろうとしていたところ。


「――こら、待てったら」


 狼狽(うろた)えた声とともに、息を切らしてこちらへ走ってくる者がある。


 何事かと思って足を止めると、その瞬間リオレティウスの足元に何かがぶつかった。

 見下ろせば、そこには白い、ふわふわとした生き物。


「あっ、殿下……申し訳ございません。それは、うちの、猫でして……」


 走ってきた者は、王宮にて草木の手入れを任せている庭師だった。息も絶え絶えになりながら、王子に対して深々と頭を下げる。


 庭師はこれを追ってきたのかと気づいて、リオレティウスは足元のふわふわをそっと抱き上げた。

 猫は何の抵抗もなく彼の胸に収まった。だが、それを見た庭師はつい頓狂(とんきょう)な声を上げた。


「えっ」

「? どうした」

「あっ、いや、申し訳ありません。そんなふうに大人しく抱かれているのは、めずらしいもので……」



 話を聞けば、この猫は元野良で、王宮の庭を彷徨(さまよ)っていたらしい。親とはぐれでもしたのか仔猫が一匹で。不憫に思った庭師らが、許可を得て庭園内の小屋で面倒を見ている。


 段々と人に馴れてきたものの、お転婆で、ちょっと目を離せば庭の手入れ道具などに悪戯(いたずら)をしようとすることもしばしば。人の手に静かに抱かれることは、まずないと。


「へえ……」


 しかしそんな話は嘘のように、猫は彼の腕の中でごろごろと(のど)を鳴らしていた。



 リオレティウスは、動物が好きでも嫌いでもない。というかあまり考える機会がなかった。日常的に接する動物といえば、交通手段としての馬くらいだ。


 けれども今手の中にいるものは、嫌いではないなと思う。

 柔らかに触れる毛がくすぐったく、温かく、またその身体はふにゃふにゃと頼りなくて。


「少し、借りてもいいか?」

「あっはい、もちろん問題ありませんが、どうなさるのです?」

「……妃に見せる」




 彼はティモンを呼び、業務に急ぎのものがないこととシェリエンの予定を確認すると、猫を抱えたまま彼女の部屋へと向かった。



 屈強な男性、それも日々訓練や机仕事に忙しくしている夫が、腕にちょこんと収まる猫とともに――なかなか見ない光景に、シェリエンは目を丸くし。


 けれど、恐る恐る手を伸ばした彼女は、そのふわふわした毛の柔らかさを知って途端に顔を(ほころ)ばせた。


「気に入ったか?」

「はい、かわいいです」


 気まぐれに身体を動かす猫をじっと見つめては、時々そうっと()でてみる。

 頬を染め、どうやら夢中になっている彼女の様子に、リオレティウスは(おの)ずと目を細めた。




 少し経って。お互いだいぶ馴れたかと、彼はシェリエンの腕の中に猫を移してみた。

 猫は嫌がることもなく、一旦は少女の腕に収まったのだが。


 なんとなくもぞもぞした動きをしたあとで、そのふわふわした生き物は、立ち上がってしれっとリオレティウスの胸に帰っていった。



「……リオ様のほうが、好きみたいです」


 その、どこか恨めしそうにこぼす少女が、リオレティウスにはなんだか可笑(おか)しく。「残念か?」と問えば、彼女はこくりと頷いた。



 微笑ましいような、ちょっと申し訳なくもあるような。そんな気持ちを抱きつつ、彼が猫を撫でていると。


 まったく何気ない様子で、少女はもう一つ呟きを重ねた。


「でも、仕方ないです。リオ様の腕の中(そこ)が落ち着くのは、私も知っていますので……」


「…………」






 猫を返しに来た王子に、庭師は「お気に召したのであれば殿下のお猫様になさってください、普段の世話は引き続きこちらでしますから」と言った。


 しかし、彼はこの申し出を丁重に断った。

 ――手元に置く小さな生き物は、もう間に合っている、と。







 ……あとで庭師からこの話を聞いたティモンは、生温かい(?)視線を送ったことと思います。

 お読みいただき、ありがとうございました!



 挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 悶えました(。-_-。) [一言] これからの展開がどうなるのかハラハラしていましたが、心配しなくてもこの2人なら大丈夫と思えるエピソードでした(^ ^)
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