表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[完結]銀色の兎姫 ――母を亡くした一人ぽっちの少女と、母の顔を知らぬ軍人王子との、愛を知るまでの物語。  作者: momo_Ö
第一章『天地引き合う機にて』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/68

庭園にて -4


 無事に花冠が出来上がり、シェリエンは小径を戻っていた。

 ――作ったのは何年ぶりだろう。やり方を覚えているか心配だったけれど、思ったより上手くできた。


 ベンチが見えるあたりまで来て、座っていたはずのリオレティウスが立っているのが見えた。誰かと話している。

 近寄れば話を邪魔してしまうかもしれない――そう思ったけれど、ではこのまま出ていかない、というのも身を隠すようで無礼な気がする。


 彼女は意を決し、ベンチ付近まで進むことにした。



「あ、シェリエン」

 数歩の距離に近づいたところで、リオレティウスが振り返る。


 彼と話していたのは第一王子エドゥアルスだ。これに気がついて、シェリエンは急いで頭を下げた。


「では、私はもう行く。邪魔をしたな」


 エドゥアルスは短く言うと、今シェリエンが来たほうとは別の、小径が枝分かれした先へと歩いていった。



 ――冷静沈着といえばいいのか。エドゥアルスはいつ見ても落ち着き払い、その表情から何かを読み取るのは難しい。加えて、国王ほどとは言わないまでも、王子としてある種の威厳を湛えている。

 外見は絵本に出てくる王子様そのもの。美しい顔立ち、金の色見本みたいに輝く髪に、宝石のような青い瞳。


 それでも、シェリエンはその青にどことなく冷たさを感じてしまう。少し怖いとさえ思う。初めの頃、体格の良いリオレティウスに感じた怖さとは別の種類のものだ。



「……あまり、似ていないのですね」

 無意識のうちに、口から言葉がこぼれ出てしまった。


 シェリエンは一人っ子だが、村では何組かの兄弟が近所に住んでいた。皆すぐにそれとわかるくらい、そっくりだったけれど。

 彼ら二人はあまり似ていない。外見どうこうというより、纏う雰囲気が違う。



 そう感じてのことだったが、リオレティウスからは予期せぬ答えが返ってきた。


「ああ、母が違うからな」

「えっ?」


 驚いて、シェリエンは彼の顔を見上げた。知らずうちに、触れてはいけない部分に踏み込んでしまったのだろうかと。

 けれども彼には気にする様子はない。むしろ、狼狽(うろた)えるシェリエンを意外そうに見つめ返してきた。


「知らなかったのか。内密でもなんでもない、皆知っていることだ」


 リオレティウスは、ゆっくりした動作でベンチに腰を下ろした。促されるまま、シェリエンも隣に座る。

 一応知っていたほうがいいだろうと、彼は自身の出生について話してくれた。




 ウレノス王家は原則として一夫一妻制だ。しかし子ができないなど何か事情があれば、側妃を置くこともある。


 約二十年前、当時王太子と王太子妃であった現ウレノス王夫妻は、何年も子に恵まれなかった。そこで側妃を設ける案が挙がり、一人の侍女が選ばれた。とある片田舎の領主の娘で、侍女として王太子妃の信頼が厚い者であった。


 彼女はその役割を受けたが、妃の座は望まなかった。自分の産む子は王太子夫妻の子であり、私は任を果たすだけに過ぎませんと。王子を産んだらすぐに王宮を出るという約束で、彼女は期限付きの側妃となった。



 王太子は彼女の寝室に通い始めた。だが程なくして、王太子妃が懐妊していたことが判明。王太子は側妃の元へ通うのを中断したが、その後すぐ彼女にも懐妊の兆候が見られた。


 王太子妃は男児を産み、二か月後には側妃もまた男児を産んだ。いずれも王家の血を引く子。二か月しか年齢差のない兄弟は、共に王子として育てられた。

 そして、一時側妃であった侍女は、当初の約束どおり王宮を出た。それがリオレティウスの母だという。



「――だから俺は、生まれるはずのなかった王子だ」


 事実を淡々と説明した最後、彼は何でもないことのようにそう付け足した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ