表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[完結]銀色の兎姫 ――母を亡くした一人ぽっちの少女と、母の顔を知らぬ軍人王子との、愛を知るまでの物語。  作者: momo_Ö
第一章『天地引き合う機にて』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/68

庭園にて -3


 そよ風が、ベンチに腰掛けるリオレティウスの髪を軽く揺らした。

 小径に消えゆくシェリエンの後ろ姿を見送ったあと、彼は、何とはなしに空を仰いだ。――のどかだ。たまにはこういうのも悪くない。



 そうして彼が束の間思考を空っぽにしていると、宮殿のほうから一人の男性が歩いてきた。

 落ち着いた静けさを纏いながら、どこか堂々とした佇まい。繊細で艶やかな金の髪を後ろで一つに束ねている。


 この人物に気づいて、リオレティウスはベンチからさっと腰を上げた。


「兄上」


 やってきたのは第一王子エドゥアルスだ。

 弟王子からの呼びかけに気づくと、奇遇だとでもいう視線を返してよこす。


「めずらしいな、こんなところで」

「ちょっと、シェリエンと散歩を。兄上こそ、どうして庭に?」

「私は、ステーシャへの花を見繕(みつくろ)いに」

「へえ」



 兄の返答に、今度はリオレティウスが目を見張る番だった。


 エドゥアルスは常に冷静で淡々とした人だ。妃であるステーシャとの仲は悪くないはずだが、人前での二人の空気感はあっさりとしている。そんな彼が手ずから選んだ花を妻に贈るとは、少々意外だった。


 ――まあでも、あれだけの美しさなら花の一つや二つ、贈りたくもなるか。

 義姉の姿を浮かべたリオレティウスは、心の中で頷く。


 華奢で儚げで、誰もが振り返るような美貌を持ち、妃としての教養や気品も備えている。第一王子との結婚は何年も前から決まっていたが、異を唱えるなど誰も思いつきもしなかった。

 正式な婚姻は、二人が十八歳に達するのを待って結ばれた。此国がシェリエンを迎えた、約半年前のことだ。


 父同様に真面目で政務のことばかりの兄上に、自らの手で花を贈らせるとは。義姉上はなかなかやるな――リオレティウスはそこまで考えて、ふと思い至った。


 いや、もしかして妻に花を贈るというのは特別なことではないのか? 俺が至らないだけか、やはりシェリエンにも何か。いや、あれは要らないと言って雑草を摘みに行った訳だし……



 いつの間にか、思考はそんな方向へ。とはいえ彼の逡巡は表には現れず、静かに脳内を巡ったに過ぎなかったが。

 それらを読み取りでもしたかのように、エドゥアルスは弟に声をかけた。


「案外仲良くやっているんだな」

「え?」

「お前の、妃どのと」

「……まあ」



 隣国ガイレアとの同盟と婚姻が決まったとき、ウレノス王家の誰も、“シェリエン自身”には関心がなかった。リオレティウスもそのうちの一人だ。


 兄王子には既に(しか)るべき相手がいて、その兄はいずれ王位に相応(ふさわ)しいと皆が認めている。ならば自分は結婚などしなくとも別に問題ないかと考えていたところに、隣国からの縁談が来た。国のために必要ならちょうどいいと、二つ返事で受けただけだ。


 初めて実物の彼女がウレノスに到着した日。その毒にも薬にもならなそうな少女を、国王は王子の好きにしてよいと言った。

 リオレティウスとしては、この夫婦関係に取り立てて望むことはなかった。ただ、震える彼女を目にし、できるだけ不自由のないようにはしてやりたいと、そう思った。


 彼女はいきなり現れた「夫」というものに怯えた様子だったので、初めはなるべく関わらないようにしていた。

 気づけば、見知らぬ夫に対する彼女の警戒は少しずつ解かれている。といっても、二人の間に夫婦らしい何かがあるわけではない。


 ――仲良くと言っていいのかはわからないが……、まあ悪くはないだろう。多分。

 そんなふうに結論付ける。



「政略結婚を押し付けたようで気にしていた。お前には縁談もたくさんあったのに」


 普段ほとんど喜怒哀楽の表情を映さないエドゥアルスの顔が、ほんの僅かすまなそうに(かげ)った。

 しかし、リオレティウスは即座に首を横に振る。


「いえ、縁談には元々興味もなかったし。…………あ、」

 兄に返事をしながら、彼は後ろを振り返った。


「シェリエン」


 そこには、花冠を作りに出向いた少女が戻ってきていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ