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[完結]銀色の兎姫 ――母を亡くした一人ぽっちの少女と、母の顔を知らぬ軍人王子との、愛を知るまでの物語。  作者: momo_Ö
第一章『天地引き合う機にて』

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隣国での生活(2) -2


 月に何回かの間隔で、国王一家が揃っての夕食がある。国王と王妃、第一王子とその妃、リオレティウスとシェリエン。

 その場においてシェリエンは相変わらず空気のような存在だったが、徐々に料理の味がわかるくらいには慣れてきた。


 国王一家は総じて、物静かで堅い印象だ。

 シェリエンには初め、リオレティウスは一家の中で異質な存在にも感じられた。これまで気取(きど)らず振る舞う彼を目にしてきたからだ。

 けれど、夕食時に王や王妃と並んでいるのを見ればそんなこともなかった。寝室で見るよりずっと、彼は静かで真面目な表情をしている気がした。


 夕食の席は家族団欒(だんらん)というには程遠く、必要最小限の会話で成り立っている。その内容は公務や政策等、シェリエンの(あずか)り知らないこと。これは食事というより会議や報告会ではないかと思えてくる。



 この夕食以外に、夫以外の彼らと顔を合わせる機会はない。初対面は緊張していて(おぼろ)げな記憶しかなかったので、何度目かの夕食のとき、シェリエンは改めて彼らを見てみた。


 国王と第一王子エドゥアルスはよく似ている。もちろん威厳や貫禄という面で違いはあるが、一目ですぐ親子だとわかる。髪や瞳の色も同じ、混じり気なく明度が高い金髪に、深い青の瞳。


 国王は顎先(あごさき)くらいまでの長さの髪を、後ろに流す形で整えている。

 王子エドゥアルスの髪の長さは、リオレティウスと同じくらい。二人とも食事や公の場では長髪を後ろで束ねているが、リオレティウスの髪は纏めても豊かに広がった印象になるのに対し、エドゥアルスの繊細な金髪の束は背に細く流れている。


 王妃は暗めの濃い金色の髪を、襟足あたりで全てきっちり纏めている。その一糸乱れぬ様子は彼女の性格を表しているのだろうか。どことなくぴりりとした空気を伴い、瞳は落ち着いた琥珀色をしている。


 第一王子妃であるステーシャはどこか儚くもあり、息を呑む美しさ。色素の薄い透けるような金髪に、灰がかった淡い水色の瞳。手入れの行き届いた長い髪を、半分(すく)うように後ろで結い上げている。

 指先まで上品な仕草の一つ一つは、これがお姫様というものなのかとシェリエンに思わせる。



 ……やっぱりこの人たちは、自分とは違う。

 シェリエンはつくづくと考える。


 いくら自分が王族の血を引くといっても、元々住む世界が違った、と。


 容姿という点でいえば。シェリエンの母は美しく村では似ていると褒められたから、ものすごく劣っているとまではいかない、と思いたい。

 しかし、立ち居振る舞いや滲み出る気品のようなもの……きっと、間に合わせの花嫁修行ではどうにもならないのだ。


 武人らしさや飾らぬ言動と相まって一見粗野に見えるリオレティウスも、彼らと並んで真面目な顔をしてみればまったく遜色(そんしょく)ない。寝室で目にする、少し気を抜いたような表情のほうが嘘みたいで。


 そもそも彼だって、端正な顔立ちをしている。例えばお伽噺の王子様に浮かべるみたいな、輝く金髪に華やかなつくりの顔とかではないけれど。無駄のない美しさというのか、すっきり整った精悍(せいかん)な面差し。


 こうして改めて彼らを観察したとき、自分との違いが大きすぎて、シェリエンは落ち込む気も起きなかった。



 ……でも、色々と気にしても仕方ない。彼らはこちらに関心がないようだし、この婚姻は形だけのもの。

 王子妃として何かを求められている訳ではなさそう――むしろ、目立たないよう静かに過ごすほうがいいのかもしれない。


 幸い、一応の夫であるリオレティウスは好きに生きていいと言ってくれた。彼やティモンに迷惑をかけないよう、ひっそり慎ましく生きていこう。


 自身を取り巻く環境について少しずつ把握していく中で、シェリエンは密かにそう決意した。



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