隣国での生活(2) -1
それから、シェリエンの異国での日々は穏やかに過ぎていった。
朝、早い時間にベッドを出ていくリオレティウスを見送る。再び少々微睡んだあと、着替え等の支度と朝食。
日中は、のんびり本を捲ったり文字を勉強したり。天気が良ければ、ティモンが散歩しましょうと言って時々裏庭に連れ出してくれる。
合間に昼食とティータイム。侍女が日替わりで淹れてくれるハーブティーはどれも美味しくて、紅茶にはいくつもの色や香りがあることを彼女は知った。
夕食を終えて少し休んだあとは、入浴と寝支度。ここでも本を取り出して寝室のソファーで眺めたりするうちに、リオレティウスがやってくる。
一応の“夫”ということになった彼は、シェリエンの部屋及び寝室では眠ること以外何もしない。
朝は夜着のまま自分の部屋に戻り、そこで着替えや朝食を済ませているようだ。夜も、入浴など寝支度を全て終えてから寝室に来る。
挨拶や多少の会話は交わすようになったものの、夫婦らしい何かがある気配はない。という訳で、寝室は本当にただ眠るだけの場所なのだが、それでも彼は毎晩律儀に訪れる。
それを不思議に思いつつ、シェリエンにとってはありがたいことでもあった。
ここへ来て数日の間の出来事から、彼が怖い人ではないとわかった。けれど、それは彼がシェリエンを単なる同室者として扱っているからだ。もしも寝室で妻の役割を求められたらと思うと体がすくむ。
おそらく子どもだと思われているのだろうが、反論する気持ちや不満は特にない。十三歳のシェリエンは、五歳上のリオレティウスからしたら十分子どもだろう。
彼は日中どんなふうに過ごしているのかと、ティモンに尋ねたことがある。
基本的にはざっくりと、午前から午後早めの時間帯にかけて軍の訓練に出て、それ以降に王子としての政務を行なっているらしい。朝早いのは、軍の訓練前に個人的な修練をしているからとのこと。
将来第一王子が王位を継ぐ際に、王弟にあたるリオレティウスは、軍を率いる主要人物として国を支える役割を望まれているそうだ。
――きっと、大変なんだろうな……。
そんな簡単な感想しか出ないのが恥ずかしいくらい、シェリエンには想像もつかない。一国の王子として生きるのが、どれほど重責であるのか。
彼の飾らない言動や雰囲気は、“王子”という言葉に思い描く姿からは少々外れているように思う。細かいことは気にせず、気楽に生きているようにさえ見えるけれど。裏には並大抵ではない努力があるのかもしれない。
……などと、有り余る自由時間において、小さな王子妃は漠然とそんなことを考えたりした。




