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【コラボカフェ決定】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する【アニメ化しました!】  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜7章2節〜

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287 かつてのことを知るために(7章2節・完)

 何もかも見透かすようなアルノルトの双眸が、少しだけ伏せられる。

 逸らすことなくリーシェも見詰めた。すると、静かな声が尋ねてくる。


「……生まれてから、俺と婚約してこの国を(おとな)うまでの間に、自国の外に出たことがあるか?」

「!」


 リーシェはほんの少しだけ、答えに澱む。

 それでも顔には出さないように、真っ直ぐに告げた。


「いいえ」


 口にするのは、嘘でも真実でもある言葉だ。


「……ただの、一度も」


 この『繰り返し』を経験するまで、リーシェは外の国を見たことがなかった。

 海だって書物で読んだだけだ。あとは自国の中から出ることなく、いつか王妃になるときのために、ずっと学びと実務を続けてきたのである。


(『この人生』の私は、自国以外に初めて知った国が、ガルクハインになるのだわ)


 これまで繰り返してきた人生の中では、ただの一度も訪れることが出来なかった国だ。

 それがこの七度目の人生では、リーシェにとって故国の次に深く関わる国なのである。しかしそれでも、幼いリーシェにとって、ここが遠い遠い国のひとつだった事実に変わりはない。


「俺も、お前に初めて出会ったあのときまで、お前の国に足を踏み入れたことはなかった。――それが答えだろう」


 確かにあのときアルノルトは、リーシェに向かってこう言った。


『俺を、知っているのか。この国に来たのはこれが初めてだが』

(……嘘をついていらっしゃるようには、感じられなかった)


 出会ったばかりの頃であり、今ほどアルノルトの機微を読めていた訳ではないとはいえ、この感覚に間違いはないように思える。

 アルノルトは恐らく本当に、リーシェの故国を訪れたことはなかったのだ。


(アルノルト殿下らしい、論理的な否定だわ。私たちが幼少期に出会うなんて、理論上は有り得ない)


 端的な結論を告げられるよりも、よほど納得できる説明のはずだ。

 それでも素直に頷けないのは、アンスヴァルトとザハドのふたりが、よく似た問いを向けてきたことに起因する。


(お義父さまは、私の出身国と、幼少期に会った可能性の有無をお尋ねになった。――ザハドからは、母君を殺めた日のアルノルト殿下を、『塔』から連れ出した人物ではないかという確認が)


 だが、ザハドの問いについては、明確な人違いだと言い切れる。


(アルノルト殿下が九歳のとき、私はたった五歳の子供だわ。アルノルト殿下をお連れすることなんて、絶対に出来ないもの……)


 繋いだままだったアルノルトの手を、無意識にきゅっと握り込んだ。


(――あの日、母君の死の後に、何があったの?)


 ザハドはそれを知っている。

 そしてリーシェは、アルノルトから話してくれるまで、無理やりに『塔』の話を聞き出したくはなかった。


 下手に動くことも得策ではない。ザハドがリーシェに話したのだと悟られれば、アルノルトからザハドへの口止めが生まれ、ザハドから聞き出すことも難しくなる。


(私が『繰り返し』を始めるよりも、ずっとずっと前の日々)


 アルノルトが背負ってきたもののことを想像すると、リーシェはとても悲しくなる。


(たとえこれからもう一度死んで、あの日にまた戻ってみたところで、小さな殿下をお助けすることは出来ない……)

「……部屋に戻るぞ」


 アルノルトが、再びリーシェを促した。


「湯浴みをして、もう休め」

「…………」


 月の光に透き通った青の瞳が、とても美しい。


(アルノルト殿下は着実に、お父君の殺害と、戦争の準備を始めていらっしゃる)


 運河の街ベゼトリアで、リーシェはそのことを痛感した。


(この人生でアルノルト殿下にお会いしてから、少しずつ、変化を積み重ねてきたつもりだったけれど。――私はまだ、なんの運命も変えられていない)


 これまでの全ての人生では、自分の未来を選ぶことで、精一杯だった。

 けれども今世のリーシェにとって、最早それだけを幸せとは呼ばない。アルノルトの戦争を回避した上で、彼がそうまでして得たかった『何か』を叶えた上でなければ、望む未来を勝ち取ることが出来ないのだ。


(アルノルト殿下を知るためにも、もうひとり接触する必要がある。ザハドとは別の視点を持ち、『塔』の中に居たお方……)


 リーシェは左手でアルノルトの手を取ると、その薬指のサファイアを見遣る。


(――お義父さまの正妃、フロレンツィアさま)


 標的は、すでに定まっている。

 リーシェは手段を選ぶつもりはない。望む未来は、そうしなければ得られないことを、知っている。


(たとえ、アルノルト殿下と敵対することになろうとも)


 改めての決意を押し隠し、代わりにリーシェはアルノルトに告げる。


「……私を寝かせるつもりのご様子ですが、誤魔化されませんよ! すっかり治ったようなお顔をされていますが、お腹の傷の件!」

「…………」


 そう言って、つい先日リーシェを庇って刺されたばかりの婚約者を、しっかりと下から覗き込んだ。


「今夜も傷口の確認と治療ならびに、包帯の巻き直しを対応させていただきます。お風呂のあと、今日は殿下の寝室にお邪魔する形でよろしいですか? それとも昨晩のように、私の部屋にいらっしゃいますか?」

「………………」

「な、何故そんなに難しいお顔で溜め息を……!」


 もちろん声は抑えているので、他の誰にも聞こえない。

 にも拘わらず、『なんでもない』と答えたアルノルトが物言いたげに感じられて、リーシェは首を傾げるのだった。



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7章3節へ続く


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― 新着の感想 ―
リーシェが覚えてないだけでガルクハインに来たことはあったのかな、そうだったら発言とは矛盾しないけど……,ループの記憶を持ち続けるなら幼い頃の代わり映えのない記憶は薄れるだろうけど、他国の記憶とかは忘れ…
過去に出会った事はない・・・。アルノルトは実母を殺した後、一体何があったの?そして、どんだけ辛い日々を送ってたの?皇后陛下がリーシェの事をたくさん可愛がってくれたらいいな。本当に。私もリーシェの「別の…
これからの展開で、リーシェが一瞬だけ過去のアルノルトを助けに行くシーンがあるのでは、、どういう仕組みかわからないけど。 まだまだ先は長そうですが、着実に2人の距離が縮まっていてニヨニヨします。
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