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【コラボカフェ決定】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する【アニメ化しました!】  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜7章2節〜

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286 私が一番知っています


 おそらくは、こんな説明を重ねたところで、アルノルトの疑念は払えないということなのだろう。


(私が浮かない顔をしているのが、ザハドの所為だと思っていらっしゃるのだわ。なんの話をしていたのか、本当のことは全部言えないけれど、ザハドの名誉を守らなきゃ……!!)


 とはいえ、アルノルトに嘘は通用しない。

 だからリーシェは、自分の心にある感情の中から、アルノルトに説明出来そうなものをひとつ選ぶ。


「本当に、何も問題は起きませんでした。ただ、幼いアルノルト殿下のお話を聞いているうちに、私が……」


 俯いて、少し視線を彷徨わせた。


「悋気を、抱いてしまい」

「悋気?」

「その、お義父さまやザハド陛下が、羨ましくて」


 思わず口をついたのは、こんな言葉だった。


「……私の知らないアルノルト殿下が沢山いらして、すごくさみしい……」

「………………」


 そうまで言って、はっとする。


(……今、とんでもなく子供じみた我が儘を言ってしまったのでは!!)


 アルノルトは僅かに眉根を寄せていた。呆れられても仕方がないので、リーシェは慌てて謝罪をする。


「も、申し訳ありません。おかしなことを」

「……時間を戻すことは、不可能だ」

(う…………!)


 何度も時間を逆行しているリーシェにも、十分それは分かっている。

 それでも、ついつい『繰り返し』経験者の視点が出てしまったのかもしれない。


(時間が戻るという現象について、アルノルト殿下は想像すらしたことがないはずだもの。叶えていただくことの出来ないおねだりをしてしまうなんて、やはり我が儘が過ぎたわ)


 反省しているリーシェを見下ろして、アルノルトは少しだけ目を伏せる。

 これは恐らく、何かを考えているときの表情だ。リーシェが首を傾げようとした、そのときだ。


「!」


 アルノルトの両手で、頬をくるまれる。


「殿下……?」

「…………」


 そうかと思えば、今度は親指でまなじりをなぞられた。


「ひわ」


 これがどうにもくすぐったい。けれどもアルノルトは、リーシェのことを見下ろしたまま、無言でむにむにと頬を撫でてくる。

 思わぬ行動に戸惑いながらも、リーシェはようやく思い至った。


(……これは、あやされているのかも……?)


 願いを叶えられないことを、償われているような気がしたのだ。

 そう考えると、これもアルノルトが困った末の行動に見えてきて、ついつい可笑しさが勝ってしまった。


「ふふっ」

「……なんだ」


 リーシェは、自分自身の手をアルノルトの手に重ね、目を細める。


「ありがとうございます。殿下」


 ひとつ、分かってしまったことがあるのだ。

 リーシェは微笑み、アルノルトがくれたものが何かを言葉にする。


「少なくとも、こうしたアルノルト殿下のご様子を知っているのは、私だけですね?」

「――――……」


 アルノルトが僅かに目を眇めた。

 その耳には、リーシェの瞳と同じ色をしたエメラルドの石が輝いている。


「我が儘を、たくさん聞いてくださるのも。お嫌いなはずの宝飾を、こうして身に付けてくださるのも」


 本来ならばエメラルドという石は、色が濃いほど価値が高い。リーシェの瞳に合わせた淡い色は、ガルクハインの皇太子が持つには似つかわしくないと、そんな批判を受けてもおかしくはなかった。


 そんな中、アルノルトがくだんの宝石店で手配をしてくれたのは、たったひとつの地域からしか採取できないエメラルドだ。

 アルノルトがそこまですることに、従者のオリヴァーは驚いていたようだが、リーシェだってとてもびっくりした。


「それに今夜は、ハリル・ラシャの正装まで」

「……あの男の国の衣服を、お前だけに纏わせる訳にいかないだろう」

「?」


 不思議な言葉に首を傾げるが、異なる国の伝統衣装を着るという行為が、政治的な意味合いを持つ場面もある。恐らくアルノルトは、そのことを言っているのだ。


「!」


 今度は親指でくちびるをなぞられて、リーシェは身を竦める。

 ザハドへのやきもちはもう消えたと、遠回しにそう告げたつもりだったのだが、上手く伝わらなかっただろうか。


「アルノルト殿下……?」

「…………」


 意図を尋ねるまなざしを送ると、アルノルトは、穏やかな声音でこう言った。


「ようやくちゃんと笑ったな、と思っただけだ」

「…………っ!!」


 やはり、アルノルトはとてもリーシェに甘い。


(……どうしてこんなに、優しくしてくださるの……!)


 冷たく残忍に振る舞おうとも、根底にあるその優しさこそが、アルノルトの本質なのだとは知っている。

 それでもやはり、どうしても考えてしまうのだ。


(決して自惚れではないわ。アルノルト殿下にとっての『私』には、他の方と違う何かがある)


 それこそが、アルノルトに婚姻を申し込まれた理由なのだろうか。

 アルノルトに恋をしているからこそ、踏み込むことには勇気がいる。それでもリーシェは、口を開いた。


「……ここ最近は、あなたへの我が儘ばかりです」


 リーシェの頬から、アルノルトの手がゆっくりと離れる。それを名残惜しく感じながらも、アルノルトの瞳を見上げた。


「特にお義父さまとの謁見については、無理なお願いを申し訳ありませんでした。――あのあと、アルノルト殿下がおひとりで残られたのは、お義父さまからのお叱りがあったからでは?」

「あれは、お前に起因したものではない」


 アルノルトは、はっきりと言葉で否定する。


「騎士たちの今後の訓練計画について、報告する点があった。ただ、それだけだ」

「…………」


 たとえリーシェの懸念通りでも、アルノルトならそんな風に庇ってくれるはずだ。

 分かっているからこそ、これ以上を尋ねることは難しい。だから、とある選択をした。


「……お義父さまが、仰いましたが」


 月の光が差し込む窓の前で、リーシェは真っ直ぐに言葉を向ける。


「私たち、幼い頃に出会ったことなど、ありませんよね?」

「――――……」



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― 新着の感想 ―
うわぁ〜 色んな謎がありすぎて、、 予想が全く出来ず、気になりすぎて何も手につきません、、!笑 アルノルトの嫉妬も悶えますし,優しさに溶けそうになるけど、、何かの目的のためなの?過去が関係してるの? …
何だかんだでアルノルトはリーシェには優しい。
ちょ!えぇ!!! 私のような浅慮なものには到底予測できない展開!!! 勝手に無意識な恋愛感情や愛が芽生えてきていると勘違いしてたけど… もしかして血縁やったりしてしまう? いや、流石にそれはないか…
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