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入 国 審 査

 

さぁ皆さん、いよいよ入国です。

パスポートは持ちましたか?出入国カードは書きましたか?忘れ物はありませんか?それでは皆さん行きましょうか……。

 


新生アルメルクン共和国。


アフリカの大西洋の島国、サントメ・プリンシペの南沖、38キロに位置する19の島々からなる国家社会主義体制の共和国である。


そこに人類は住んではおらず猫のような姿をした住人が住んでいる獣人の国家だ。

そこに住んでいるのはシーナと同じ様な完全に二足歩行をしている猫のような姿をした獣人種猫種と呼ばれる種族と人間に獣耳と尻尾を生やしたような新生種と呼ばれる種族が共に生活をしているとされる。

両種族の人口を合わせて新生アルメルクン共和国政府が公表している人口は302,111人。


しかし、この国は2009年までは影も形もなかった。

それは言葉の通りここは何もない海だったのだ。

しかし、2009年9月2日、後に異界転移と呼ばれる事件によってこの国は異世界から転移してきた。

科学的には新生アルメルクン共和国は異世界とも他の惑星から転移したとも言われている。


文明のレベルは中世のヨーロッパと呼ばれており、新生アルメルクン共和国では未だに帆船などが海での交通機関だ。

国際空港も存在しておらず空の玄関の役目は隣国の友好国、サントメ・プリンシペが担っている。


そんな国際的に見ればこのまだ発展途上国のこの国に僕は単身日本からやってきた。


この異世界からやってきた国家で僕は何を見て何を思うのか。


僕の三週間だけ異世界旅行はついに始まったのだ。











僕とシーナを乗せたフェリーは新生アルメルクン共和国の首都、アーリア州のアーリアの港に入港した。

僕は何度か海外に行った経験がある為、入国審査は何度か経験していたがフェリーの船内で行われた新生アルメルクン共和国の入国審査は僕からすれば衝撃的なものだった。


「えへへ、それじゃあ七海先輩、頑張って下さいね」


ニヤニヤしたシーナにそう言われ送り出された僕は一人で入国審査が行われるフェリーの船室に行った。

その船室には恐らく入港後に乗り込んできたであろう新生アルメルクンの親衛隊員の獣人が5人が怖い形相で待ち構えていた。

その内、1人は長机に座り、もう1人は肩下げカバンを肩にかけて立っており残りの3人は肩にマスケット銃と思われる銃を肩にかけていた。


シーナ以外の獣人とは話した事や接した事が一度もない為、コミ障の僕が内心恐ろしく感じたが勇気を振り絞って親衛隊員に「よろしくおねがいします」と片言のアルメルクン語で話しかけた。


それに対して肩下げカバンを肩にかけた親衛隊員は無言で手招きをする。

僕が恐ろ恐ろその隊員に近づくとその隊員はファイルの様なものをカバンから取り出して開いて手に持ったまま僕に見せてきた。

ファイルに入っていたコピー用紙と思われる紙には印刷された文字で〝手荷物を水色の籠に入れて置いてください。スマートフォン、携帯電話などの通信機器は黄色い籠に入れてください〟と日本語で書かれイラスト付きで指示が描かれていた。


僕は頷くと指示に従いリュックサック、腕時計、通信機器を長机の上に置かれていた籠に入れる。


それを確認するとファイルを持った隊員はページをめくり次の指示を出してきた。

次の指示は〝パスポート、出入国カード、健康診断書を渡してください〟というものだった。


僕は淡々と指示に従い片手にあらかじめ準備していた書類を隊員に手渡す。

すると、書類を受け取った隊員は書類のチェックをはじめ、一方手荷物の方は長机の前に座っている隊員が荷物を机の上に広げて検査を始めた。

ちなみに、飲み物や液体類は他の空港と同じで専用のビニール袋に入れてある。


それから5分後、ファイルを持った隊員が全ての書類を読み終わり次の指示を出してきた。

その指示は衝撃的だった。


「え……?」


僕はその指示に一瞬、唖然としてしまった。

だが隊員達の今にも獲物に飛び掛りそうな眼光を見てその指示に従った。


その指示とは〝衣類を全て脱いで青い籠に入れてください〟といった物だったのだ。


僕は恥ずかしさと恐ろしさを感じながらも指示にしたがい衣類を全て脱いだ。

ベージュ色の半ズボンを脱ぎ、上に着ていた水色のアロハシャツと昔、イタリアのミラノで買った派手にイタリア国旗の柄を模したTシャツを脱ぎ、最後に上下のシャツとパンツを羞恥心を隠しながら脱ぎ青い籠に入れる。


すると、ファイルを持った隊員が僕の足元を指差した。


「へ?」


僕は指が指された自分の足元を見る。


「ああ、なるほど……」


僕は苦笑いを浮かべた。

隊員は僕が履いていたスニーカーと白いスリークォータースの靴下を指差していた。

僕はそれすらも脱ぎ青い籠に入れる。


その後、僕は直ぐ近くの椅子へと案内され裸のまま座って待つように指示された。


それから15分ほどの時間が過ぎたであろうか。

室内には時計があったがあまり良く見ていなかった為、正確な時間は分からなかった。

だが、その間、僕は隊員たちから冷たい目線を送られ時間が長く感じたが入国審査は終わる事になった。


ファイルを持った隊員が手招きをしたのだ。


僕が局部を手で隠しながら行くと隊員がファイルのページをめくって指示を出した。


「ふぅ……」


僕はその指示に安堵した。

指示の内容は〝服を着て手荷物を持ってください〟だったのだ。


僕は急いで下着を着て服を着て靴を履くと腕時計を身につけ荷物をまとめてリュックサックを背負った。


それを見届けるとファイルを持った隊員が僕にパスポートを手渡す。


「オーケー」


隊員は完全に棒読みのOKを僕に向かって言うとファイルのページを僕に見せた。

ページには〝あなたの入国は許可されました。入国審査は終了です。退出してください〟と書いてあった。それを見て僕は真の意味で安堵し隊員が部屋の出入口の扉を開けて退出するように促した為、船室から退出したのだった。


バタンと僕が退出した瞬間に船室の扉が閉められる。

そして、退出した先の廊下で僕を待っていたのは満面の笑みで僕をニヤニヤと見るシーナだった。


「お疲れ様です!七海先輩!」


「はぁ……お前これ知ってたな?」


僕はシーナの満面の笑みを見ながら苦笑いを浮かべた。


「えー?なんのことですかー?」


「何とわざとらしい」


「まぁまぁ、先輩。無事に入国審査は通ったわけですし良いじゃありませんか~」


「まぁ……確かにそうだけど」


「でも~先輩の恥ずかしがってる姿、見たかったなぁ~」


「何かドッと疲れた気がするよ……」


「まぁまぁ、それじゃあ、入国審査も終わりましたし行きましょうか!」


「……そうだな。行くか!」


僕はシーナの笑顔を見てさっきの恥ずかしい記憶を封印し元気にそう言うとシーナと一緒にフェリーの出口へと向かった。











フェリーを降りようやくたどり着き僕が最初に踏みしめた大地は異世界風のかけらも無い新生アルメルクン側の国際フェリー乗り場だった。

シーナの解説によると、この国際フェリー乗り場はアメリカの資金で建設されたものらしく現代風のデザインで作られており国際フェリー乗り場の外部は光沢のある壁と曇りガラスでさえぎられ見る事はできず、その様相はまるで国際空港の内部を凝縮したような姿だった。


この異世界感の欠片も無い光景に少し残念に思った僕だったがその感情は国際フェリー乗り場の表玄関の自動ドアを出た所で消え去る事となった。


「こ、これが…………」


フェリーを降りついに念願の異世界の大地に降り立った僕は人気の無い国際フェリー乗り場から出た所でその光景に目を完全に奪われてしまった。

感動、感激、興奮、そのいずれの感情にも入らない今まで経験した事の無い感情が僕の心を埋め尽くし僕をしばらく放心状態にさせた。


「――――い。――――ぱい!――先輩!七海先輩!!」


「はっ!」


しばらく続いた放心状態になったあと、僕は隣のシーナの呼びかけでようやく我に返った。

僕はシーナの方を向く。


「なんだか、心ここにあらずって感じですね七海先輩。大丈夫ですか?」


シーナが僕の顔を覗き見るように見つめる。


「いや……この光景を見ちゃうとな……」


僕はもう一度ゆっくりとシーナの方から目線を目の前の光景へと移した。


「まぁ、先輩ならこんな反応になるんじゃないかなぁーとは思ってましたよ」


シーナがイタズラっぽく言う。

だが、僕はそんなシーナにかける言葉が全然、思いつかなかった。

僕は半ば放心状態のまま目の前の光景を脳裏に焼き付けた。


僕の目の前に広がっていた光景。

それは、港沿いに広がる西洋風のレンガ造りの5階建てくらい高さのカラフルな色をした建築物群とその建物の前にある広い道を僕が今まで見た事のないほど沢山の獣人たちが中世ヨーロッパの様な服を着て歩き生活している姿だった。


その光景はまさしく、ここが異世界からやって来た国である事を表していたのだ。


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