ローレルの意趣返し
結局、シャロンのもとへ二人そろって向かったのだが、予想通り、こっぴどく怒られた。くどくど、くどくど。お説教というよりはもはや、拷問だ。
時は金なり、ではなかったのか。何時間こうしているつもり?! アイリスは内心で悪態をつき、こっそりとばれないようにシャロンを睨みつけた。ばれるとまた面倒くさいので、あくまでもばれないように、こっそりと、だ。
「だいたい! ローレル! 元はと言えば、お前が悪い! 何も言わずにほっつき歩いて、挙句の果てには杖を取りに来ないどころか、金すら払わない?! どういう魂胆だ、孤児だからといって、なんでも許されると思うなよ!」
シャロンはキッと鋭くローレルを睨みつける。が、ローレルもその視線を素早く逸らした。
ローレルももう十五歳。良い大人なのだ。あの頃のように、シャロンの話を馬鹿正直に聞けるほど幼くはない。
シャロンが再び、くどくど、と話を始めた時、ローレルがそっとアイリスの手を握った。そして、パッと立ちあがる。アイリスはローレルに引っ張られ、慌てて体を起こした。シャロンが突然のことに目を丸くして、ローレルを見つめる。シャロンよりもやや背が高くなったローレルの瞳が、シャロンを捉えた。
「シャロンさん、ご心配おかけしてすみませんでした! 今度からは、必ず旅に出る前にはご報告します!」
バッと頭を下げたローレルに、アイリスも慌てて習う。
「は……?」
「というわけで、僕は、これから、アイリスさんとともに、世界中の困っている人を救う旅に出ようと思いますので! これからはご心配なく!」
「はぁっ?!」
全く予想だにしなかった展開に、シャロンも、そしてアイリスも目を見開く。
一体、何がどうなっているのか。
いたずらっ子のような笑みを浮かべたローレルが、パタパタと素早くシャロンの店の階段を駆け下りる。アイリスも手を握られていてはそれに従うしかない。
「待て! ローレル! お前!」
後ろからシャロンの怒鳴り声が聞こえたが、ローレルが立ち止まることはなかった。
王都を抜けて、ようやくローレルは足を止める。さすがにシャロンが追ってくることはない。アイリスも、ゆっくりと足を止め、乱れた呼吸を整えた。ローレル探しの旅で、ずいぶんと体力がついたらしい。
しばらくして呼吸が整うと、アイリスはおなかをかかえて笑い声をあげる。
「最高! あなたって、本当に最高よ、ローレル! まさか、あんなこと!」
豆鉄砲をくらったようなシャロンの顔がよっぽど気に入ったらしい。ローレルが魔法を放ち、的を消し去ったあの日のように、アイリスは満面の笑みを浮かべた。
「でも、これじゃぁ、また伝書鳩が飛んできますね」
ローレルもつられて笑う。アイリスは、最悪ね、といたずらな笑みを浮かべた。
「それにしても、よくあんな嘘を。ローレル、役者の才能があるんじゃない?」
「あれは……」
アイリスの言葉に、ローレルは視線をさまよわせる。そして、少し照れくさそうに頬をかくと、アイリスへちらりと視線を投げかけた。
「……本当に、そうしたいと思っているんです」
ローレルの声は、いつしか真剣なものに変わっていた。




