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魔法使いと杖屋さん  作者: 安井優
第十一章 アイリスは、最果ての村に

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最果てを目指して

 山岳(さんがく)地帯へと向かい、アイリス達は村を離れた。

 ここから先は、いつ魔物が現れてもおかしくない。そうアスターに念押しされ、アイリスは緊張の面持ちである。コルザとガーベラはさすがに慣れているのか、先頭で軽口をたたきあっていた。


「さすがに、昨日の今日じゃ、魔物も出てこないみたい。良かったね」

 ガーベラが不意にアイリスの方へと視線を向ける。本格的な魔物討伐(とうばつ)には慣れていないアイリスを気遣うように、あえて話しかけてくれているのだろう。杖の材料になる魔物と、討伐師が相手にするような魔物には雲泥(うんでい)の差がある。


「昨日は、このあたりの魔物討伐を?」

 アイリスが尋ねると、ガーベラは、そうよ、とうなずく。

 それで、昨日はあの村に。

「……ってことは、もしかして、王都の方へ戻るところだったんじゃ……」

 アイリスがハッと気づいたようにアスターへ視線を向けると、アスターはそれ以上言うな、と視線でアイリスを制した。


「困っている人を助けるのが、魔法警団の役目だもんね」

 ガーベラはからかうように笑う。

「それに、俺たち討伐師もフリーランスだしな」

 コルザもニコリと微笑んで、まるで気にしていない、というように体を(ひるがえ)した。


 山岳(さんがく)地帯へと近づくにつれ、家の数は少なくなっていく。集落もあるが、家がぽつぽつと並んでいるばかりで、人の気配はない。畑は荒らされたまま。雑草も好き放題に生え、もはや荒れ地と化している。


「この先は、もっとひどいよ」

 コルザの明るい声が、目の前の光景にはひどく不釣り合いだった。

「たまにだけど……まだ、この辺りには住んでる人もいるからね」

「ほんと、物好きだよな。いくら愛着があったってさ」

「ま、家を持たない私たちにはわからないことね」


 ガーベラとコルザの会話に耳を傾けながら、アイリスはあたりを見回す。自分も、森のふもとで一人ひっそりと杖屋を構えてはいるが、それとは違う寂しさがある。人のいた気配が色濃く残っているからこそ、人のいなくなってしまった荒廃(こうはい)した土地に、どうしようもなく胸が締め付けられた。


「この先は、しばらく家もなくなるし……早いけど、この辺の空き家を拝借(はいしゃく)して、今日はここまでにしよう」

 コルザの提案に、アイリス達はうなずいた。


 ◇◇◇


 翌日、アイリスはその道のりに唖然(あぜん)とした。

 コルザの言う通り、半日以上歩いているのに、村どころか、家の一つも見当たらない。長い道がずっと続いているだけで、あとは荒れた土地と静寂が横たわっているだけだ。


「アスターさんたちに出会わなかったら、私、今頃この辺りで餓死(がし)していたかもしれません……」

 アイリスが呆然(ぼうぜん)と呟くと、アスターが苦笑する。

「縁起でもないな……」


「ローレルは……大丈夫でしょうか……」

「コルザとガーベラがローレルを見たのはこの先にある、この国最果ての村だ。それ以上先は山岳(さんがく)地帯に入る。半年以上も前となると……」

 アスターは顔をしかめた。大丈夫だとアイリスを励ましてやりたいが、変に希望を持たせても仕方がないことはわかっていた。


「ちょっと。アスター、やめてくれる?」

 ガーベラが前方から辛気(しんき)(くさ)いのはごめんだ、と言わんばかりにムッとした声を上げた。

「多分、あの子はまだ、生きてるわ。私、こういう勘は当たるの」

「そうだな、俺も、そんな気がするんだよな」

 ガーベラに賛同したのはコルザだ。ローレルを最後に見た二人が口をそろえて言うのだ。アイリスとアスターの気持ちは少しだけ晴れやかになったのだった。


 夕暮れが迫り、あたりが鮮やかな朱に包まれた時――

「来るわ」

 ガーベラは端的(たんてき)に言うと、右奥の(しげ)みに体を向けた。アスターとアイリスもそれに続いて杖を取り出す。

「二体。大型の魔物だな」


 コルザが言い終わるやいなや、音もなく魔物が空中へと飛び上がった。金色の瞳がアイリス達を(とら)え、威嚇(いかく)する。

「羽持ち!」

 アイリスは初めて見る魔物に目を見開く。


「アイリスちゃんはアスターの後ろへ!」

 ガーベラの指示が(するど)く飛び、アイリスは慌ててアスターの後方へと下がった。瞬間、アイリスは杖に両足をかけて空へと舞うコルザの姿を見る。


「とりあえず、一匹!」

 コルザは器用に空を飛ぶ二匹の間をすり抜けると、腰につけていた薬品瓶を一匹に向かって放つ。ボンッ! と火薬の弾ける音とともに、一匹の翼に炎がともった。


「アイリス、中級の攻撃魔法は使えるか? 二人を援護(えんご)する」

 アイリスが頷くと、まさに飛び立たんとするガーベラに、アスターが声を上げた。

「ガーベラ! やけどを負った一匹は、俺とアイリスでなんとかする!」


「了解!」

 ガーベラは素早く返事をすると、コルザのもとへと舞い上がった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 32/32 ・アイリスさん頑張ってますね。 ・なんか強そうなの出ました [気になる点] フリーランスがちょっと魅力的に見えてきました。 [一言] ローレルは何してるんでしょうか… お楽し…
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