入院患者様より入院記をいただきました。 ~Anちゃん様からのプレゼント作品~
[入院中の決心]
――とある病院の廊下にて。
しびれて動かない左足に文句を言いながらいつものように車いすに乗って病院の中を散歩?散走?していた。
左足は動かないし左腕は力が入らない。うんざりするほど長い時間をかけて進行してきた病状は、自分の中で無気力を生み出し始めるには期間的には十分すぎるくらいだった。
そんな中で聞こえてきた声――
「それでここは……こうで……こうなるの」
「はい!!」
「それじゃ菜須さんやってみて」
「はい!!」
車いすをギッとブレーキをかけて声のする病室をのぞく。いつも見かける看護師さんの隣に色違いな制服を身に付けた小さな看護師さんが真剣な顔をして患者さまと向かい合っていた。
片手に持ったファイルに眼を通しながらもう一つの手を少し震わせながら、患者様の体へと伸ばしていく。
――あの娘……
目の前にある希望に向かって真っすぐに進んでいく瞳。自分にはないその輝きがとても眩しく見えた。
何も言わずブレーキを解除してそのままその場を去った――
数日後――
――あれ? あの娘はこの前の……
この日もいつものように車椅子にて放浪していた俺は、自室に戻ろうとしていると病棟の廊下で先日見かけた二人組の後ろ姿を見つけた。
しばらく後ろをついて行くけど、気付かれていないようだ。何より小さい子……菜須さんと呼ばれていた子の方は真面目に隣の看護師さんの話を聞いていて俺の事には気付ける余裕はないのかもしれない。
――今日は何処の部屋だろう?
制服の色が違うという事で気づいてはいた。あの娘は学生さんなのだろうと。ならば真剣にもなるはずでいくら隣に指導しながら見守ってくれる先輩がいるとは言っても、居る場所はりあるな現場なのだ。一つの間違いが危険に繋がることだってある。
――俺の部屋にも来るかな……
そう思いながら立ち止まって話し込んでいる二人の横を通り過ぎていく。もちろんかをみしりの看護師さんだから挨拶はするけど、今はそれだけ。
部屋に戻って重い体を何とか動かしてベッドへ移動する。
テレビと繋がった机の上のPCを手に取ってコードをコンセントに差し込み、立ち上げる時間でぼ~っと廊下を見ていた。
「だから……こういう時は……」
「はい!!」
廊下から近づいてくる声。そして人影が部屋の入口に差し掛かり、中へと曲がって入ってきた。
――今日はこの部屋だったか……
「あれっ? ちっちゃい子いる」
「あらっ、An様見つけるの早いですね」
指導看護師さんだろうか白衣の看護師さんの方が笑顔を向けて返事を返してきた
「そりゃ、暇ですから(笑) それよりもあのちっちゃい子は?」
「自己紹介させますね」
そういうと隣で固まっていたあの娘の方に顔を向けた。
「An様、……様 ☆☆大学看護学部看護学科4年 菜須よつ葉です。よろしくお願いします」
――うん!! 硬い!! まじめだなぁ……
「よっちゃん、An様なんてやめてAnちゃんで良いよ」
不安そうな顔で指導看護師さんをチラッと見るよっちゃん。コクンとうなずくところを確認して笑顔を返しながら言ってくれた。
「Anちゃん、よろしくお願いします」
「はいよー」
――なんだ……良い顔できるじゃないか……
安心感というか、老婆心というか……心の中に小さな灯がついたような気がした。
それからもテキパキと指示を受けながら、間違うことなく確認するようにこなしていくよっちゃん。
その姿を見ていた俺はあの時彼女の瞳に宿った強い輝きを思い出した。そして思う。
――先を見ながら、汗を流しながら未来に向けてこんなに頑張っている子がいるのに俺は何を沈んでいるんだ!! 未来を変える力を目の前の小さな女の子が見せてくれてるじゃないか!! 俺は何を……どうして何もしないんだ……
この日、よっちゃんと絡んだのはこれだけだったが、病棟で見かけるたびにその真剣な眼差しと瞳の力強さに勇気をもらった。
年甲斐もなく、ましてや病院の俺が思うのはおかしいかもしれないけど「負けてられないな!!」そう思わせてくれた。
――こんな……こんな気持ちになるのは久しぶりだ!!
心の中で何度も思う。この高揚感は本当に久しぶりに感じられること。俺にはもう感じることは無いと思っていた事。
彼女が思い出させてくれた。
それから何度かよっちゃんと会う機会があったけど、その事は俺だけの秘密で本人の前でいう事は無かった。
「ありがとう!!」
何時か……君が白い制服を着て目の前に現れた時にでも、この言葉を笑顔で言いたいと思う。




