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なろう大学附属病院   作者: 菜須よつ葉
お気に入り様の看護実習 ~看護学生編~
12/48

入院患者様より入院記をいただきました。 ~小林汐希様からのプレゼント作品~

第4部分・第5部分・第8部分に登場していただいた小林汐希さまからのプレゼント作品です。

「今年は暑い夏だったよなぁ……」


 病室の白い天井を見上げる。ふと視線を移すと、点滴の袋の中身がもうすぐなくなる。

 終わったらナースコールをすると約束をしていたので、手元にあったボタンを押した。


『はーい。どうされましたか?』

 いつも聞こえる訳あり声にももう慣れた。


「点滴がもうすぐ終わりそうです」

『分かりました。すぐに行きますね!』


 1分もしないうちにノックがあって病室の扉が開いた。


「お待たせしました」


 ナース服に身を固めた、若い女性がすぐに近づいてくる。

 胸元の名札に、菜須よつ葉と書いてある。ただし、まだ正式な看護師さんではなくて、看護学生という身分で、この病院で実習中だという。でも指導看護師さんからの信頼も厚いようで、この程度なら一人で任せてもらえているようだ。


「はい、今日の投薬分は終わりです。お疲れさまでした」

「寝ていながら、点滴受けていただけなのに、お疲れ様もなにもないよ?」


「ううん、お薬が入れば体力は使うんですもの。本当はこの針だって抜いてあげたいくらい。……パパ、ごめんなさいね」


 ドアが全て閉まっていることを確認して、よつ葉が小さな声で謝ってくる。


 そう、病院関係者に伝えていないこと。それは俺とよつ葉が父娘関係にあるということ。今では名字や住所も違うから、普通では気づかない。



 生まれて初めて入院をすることになり、しかも特別室という部屋。しかし指導看護師さんと一緒に入ってきた彼女を見たときから分かった。


 いつの間にこんなに立派な姿になっていたんだなと、ぼんやりした思考の中でもハッキリと覚えている。



 読者の皆様に複雑な家庭関係をお話ししたところで面白くもないので省かせてもらうけれど、本当に予想もできない形での再会。しかも、救急車で運ばれて、聞けば入院も必要だという。

 そんな普通なら慌てたり不安になる状態のときに、現れてくれたのがよつ葉だ。


「もう、ずっと長いこと無理ばっかりしていたんでしょう? 少しは休まないと……」


 こうして娘に諭されるくらい、自分も歳を取ったんだなとしみじみ思う。


 仕方ない。こうして不器用に生きてくるしかなかった。時間は不規則、おまけにストレスのかかる仕事だ。


 そんな中で今年の暑さが加わったことで、救急搬送されてしまったというのがことの始まりになる。


 あのときは疲れと暑さから来る熱中症ということで、保水と栄養の点滴を射ってもらい、一晩で退院したものの、やはり無理は利かない体になっていたようで……。





 そのあとも寝不足にストレスが重なり、ついに2度目の救急搬送。今度は治療や検査もかねて経過観察もするとのことで、再び入院となった。


 今回は救急病棟から一般病棟に迎えに来てもらうときにご対面となったわけだけど、今回は同じ特別室といってもナースセンターの目の前だ。


 あー、情けない。再び娘にこんな姿を見せることになるなんて。親不孝という言葉があるけれど、これじゃ全く正反対じゃないか……。


「いま、お薬のみます? それとも夜になってからにしますか?」


 一応、誰が見ているかわからないし、仕事中でもあるので、形式上は患者と看護師ということで会話を進める。


「このまま少し眠ってみます。夜中に寝れなかったらお薬処方してください」

「はい、分かりました。そうしましょう」


 カルテに書き込んでいる姿を見ているうちに瞼が重くなってしまう。


 ふと、ブラインドを閉めて薄暗くしてくれた部屋の中で布団からはみ出ていた右手が握られている。きっとこちらが起きていることに気づいていない。


「もう……、心配しちゃうんだから……」


 黙っていることにした。そのとおりだ。返す言葉もない。


 でも、ひとつだけはっきりしているのは、この子は羽ばたいて飛び立てるまでもう一歩のところまで来ているということ。

 あとは自信を持てと背中を押してやることと、何があったとしても見守ってやることだ。


 それがいまの自分にしてあげられること。


 この子が資格を取ったら、患者の第1号になってやろう。注射だって、点滴だって、俺になら何度失敗したって構わない。そうやって上手くなればいいんだから……。


「パパ元気になってね。いつか父娘デートしようね」


 そうだな。そのときはこれまでの頑張りのぶん、思い切り甘えさせてやるのもいいだろう。誰がなんと言ったってここまで努力してきたのは事実なのだから。


 きっとそれが出来る日はそう遠くはないはずだ。

 仕事のナース服ではなく、若い女の子のお洒落をして笑うよつ葉の顔が、幼い頃の笑顔と重なっている。今日は久しぶりにいい夢が見られそうだ。


『ありがとうな。とてもいい看護師に看てもらえた。俺も頑張る。よつ葉もあともう少し、頑張れよ……』


そんなことを思いつつ、俺は再び深い眠りに落ちていった。


汐希パパ、素敵な作品を本当にありがとうございました。父親の愛を教えていただきました。

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