入院患者様より入院記をいただきました。 ~日下部様からのプレゼント作品~
先日、担当をさせていただいた患者様より、入院に至るまでの経緯と入院中の患者様目線での物語を書いてくださいました。
【なろう大学附属病院入院記】
いよいよ明日から夏季休暇に入るという時、足に違和感を覚えた。
「これはヤバいな…。仕事は早めに切り上げて病院に行っておくか」
違和感の正体は解かっている。長年付き合っている持病のせいだ。
ところが、こんな日に限って仕事も区切りがつかない。掛り付けの病院に着いた時には既に診療時間が終わっていた。
「仕方ない…」
帰宅して残っている薬の量を確認してみる。あと1回分…
「なんとかなるか」
薬はいよいよヤバい時のために取っておくことにした。
休みの間は痛みが悪化することはなかった。一か月前から孫を連れて行くために予約していたヒーローショーや映画には無事に行くことが出来た。
そして迎えた夏季休暇の最終日。何とか乗り切ったと思ったところに地元の友人から声が掛った。
「一杯どうだ?」
「おう! 行く、行く」
ずっと我慢していたから即答で誘いに乗った。けれど、誘われて行ったのはホルモンで有名な人気店。嫌な予感がした。
「ハイボール」
本当はビールで乾杯したいところだったけれど、ハイボールにしておいた。そして料理が運ばれてきた。見事に内蔵系の料理ばかりがテーブルに並んだ。この手の料理は大好物。けれど、今食べるとヤバい。なにしろ、僕の持病は痛風なのだから。
付き合いだから食べない訳にはいかない。だから、極力量を少なくしようと思った。
「どうした? あまり食わないな」
「ああ、連絡貰う前に軽く食っていたから」
「そうか。じゃあ、俺が遠慮なく食っちまうぞ」
「おお。存分に食ってくれ」
ホルモンも酒もセーブした。これで勘定が割り勘なのは納得いかないが、仕方ない。
翌日、傷みが増してきた。残っていた痛み止めを飲んで出社した。その日一日なんとかしのぐことが出来た。痛みもそれ以上は悪化しなかった。
次の日、目が覚めた瞬間、諦めた。体をうつぶせにして四つん這いになった。近くの椅子やテーブルを手掛かりにしてなんとか片足だけで立ち上がった。もう片方の足は床に付けない。付けば激痛が走る。それが痛風の発作だ。病院はこの日を含めてあと三日間は夏季休暇だ。取り敢えず、会社に電話を掛けた。
「痛風の発作が出ちゃいまして…」
それから、妻に市販の痛み止めを買ってきて貰った。けれど、一向に傷みは収まらなかった。仕方なく救急病院へ行くことにした。タクシーを呼んで乗り込んだ。
「なろう大学附属病院まで」
どこの病院もお盆休みなのだろう。救急病院の外来は混み合っていた。受付で症状を告げると、待っている間に受付の女性が杖を持ってきてくれた。これはありがたい。
名前を呼ばれて診察室へ。
「痛みが引くまで入院しますか? このままでは日常の生活もきついでしょう?」
「入院ですか? 薬さえもらえれば何とかなりますから」
「痛みが引くまでには2,3日掛るでしょう。どうせそれまでは身動き取れないんだから入院していきなさい。ただし、特別室しか空きがないですけど」
「特別室ですか…。解かりました」
こうして僕は短期入院をすることになった。
病室に入るとすぐに担当の看護師さんが実習生と共にやって来た。
「日下部様、看護を担当させていただく看護実習生を連れてきました。菜須さん、ご挨拶して」
看護師さんがそう言って実習生を紹介してくれた。
「☆☆大学看護学部看護学科4年 菜須よつ葉です。よろしくお願いします」
実習生ということは、まだ学生さん? でも、生き死にの病気ではないから関係ないか。久しぶりに若い子と話が出来るのは悪くない。
「よろしくね」
お互いに挨拶を終えると、よつ葉ちゃんが検温と血圧を測定してくれた。
「痛みはありますか?」
「お薬が効いてます」
「良かったです。何かありましたらナースコールしてくださいね」
そう言って立ち去ろうとするよつ葉ちゃん。
「あれ? もうおしまい?」
「はい。どうかされましたか?」
「入院って退屈で……」
「それじゃあ、コミュニケーションタイムの時間をたくさんとりますね」
「待ってるよ」
うん、なんだか楽しくなりそうだ。入院してよかった。ただ、特別室の料金は気になるけど。
よつ葉ちゃんはそれから定期的に病室を訪ねてくれた。
「痛みはどうですか?」
「さっき、薬飲んだから今は楽だよ」
「良かったです」
しばらく話をしていると、よつ葉ちゃんが窓の外に目をやった。
「少しお散歩でもしましょうか?」
そう言って、車いすに移るのを手伝ってくれた。そのままよつ葉ちゃんに車いすを押してもらって中庭へ。
「外の空気は良いね」
「そうですね」
「このまま外出できそうだね」
「それはダメです」
「やっぱり」
思わず笑みがこぼれる。
翌日、発作も収まり痛みも引いてきた。何とか杖なしでも歩けるようになったので僕は退院した。気になっていた特別室の料金も思ったほど高くなかった。お互いに連絡先を交換したのは内緒だ。次の休日にはデートをする約束もした。デートと言っても親子ほど年が離れているのだからどこに連れて行ってやろう悩むところだ。それを考えるのもまた楽しい。
実は後日談でもうひとつ退院後のデートのお話も書いてくださいました。こちらの作品はよつ葉だけの宝物とさせていただいています。
日下部様、素敵なプレゼントをありがとうございました。




