「IF1章終盤・中編:主城突入(修正)」 メスガキベルリカちゃん
聖都より南方、メリタリ家のマシマ領は内陸部に位置する。
総長討伐隊は分進合撃。全体統括は自分ベルリカ。魔神代理領式の城主連隊長となれば大佐級で肩書は十分。
経路その一、陸路は主街道沿いを進む。
前衛、フェルシッタ傭兵団約四百。指揮アデロ=アンベル。案内を兼ね、道行く住人の動揺を抑える。評判最低の妖精が先頭では思わぬ民兵との交戦が発生したりと無用な騒動が起こるだろう。
後衛、ヒルド同胞団約九百。指揮ヒルド。信頼と実績のフェルシッタが裏切る可能性は低いが、これは督戦配置。暴走阻止のためラシージが監督。
経路その二、海路を南進後に上陸し西進する。これが最時短経路になるが船に全員を乗せ切れない。海軍高級将校でもあるヴィルキレクが指揮。
エデルト中大洋艦隊は陸戦隊約三百を編制し、攻城兵器となる艦砲を降ろして牽引してくる。シルヴは自分と陸戦隊間の連絡将校ということになっている。セリンは客人として同道する。
フェルシッタ軽騎兵と、馬を受け取ったシルヴが互いの距離、状況、現状における合流予測地点を細かく連絡し合って調整。
メリタリ領内に侵入してからは敵騎兵の妨害もあってフェルシッタ軽騎兵に損害が出る。シルヴは遭遇する相手全てを生け捕って、肘と膝を一捻り。馬も奪って数を増やす。流石のセレード同胞、魔族、アソリウスの聖女(笑)。
道行くメリタリ領民は大体捕縛。放置するのは老人、怪我人、病人、妊婦、赤子のような武装蜂起も出来ない連中。これは、事情をさて置いたら侵略戦争である。住民抵抗前提。
道中にて、脅迫で占領した町にて民家を一つ借用。腕の折れた騎兵の捕虜、ただ座っているだけの妖精傭兵、そして自分の三名が揃い、マシマ=グラッセーノ城の見取り図が置かれた卓を囲んで椅子に座る。
「これをねぇ、おにーさんに正しく描き直して欲しいの❤ でーきるかな? でーきるかな?」
「仲間を裏切れるかっ!」
「へえ? でもでも、おにーさんはぁ、三つ数えると言っちゃうの❤」
立って扉を開ける。
「一つ❤」
外にいる妖精傭兵に手招きすると、準備していた、泣いて赤くなった目を濡らしている可愛い女の子が連行されて入室。将来はきっと美人。
「豚さんが好きです。でも人間さんの方がもーっと好きです!」
妖精の一言は純粋悪か極自然か。
捕虜は心身共に苦しそうにする。女の子は小便を我慢しているみたいにもじもじする。あらかわいい。
「二つ❤」
次は男の赤ん坊。可愛い女の子に返すと抱き締めて頭に接吻して「良かった良かった」と言う。占領時の状況から、親に代わって世話をしていた弟というところ。
「骨がね、柔らかいんだよ」
「三つ❤」
最後にその捕虜の老いた父親、村長。声にならぬ驚愕といった表情。妻子は城下町住まいとのこと。
「固いのは叩いてほぐすんだよ」
「……きます」
「あんだって?」
耳に手を当て、再度尋ねる。
「描かせて頂きます」
見取り図は聖都に所蔵されている。あの眼鏡官僚からは写しを入手してある。
目的の城は古い時代に要衝として設定され、長年かけて基礎から拡張されてきている拠点。前の聖戦で魔神代理領軍によるベルシア上陸作戦を受けて、教会から補助金を出す際に事前調査がされた折に見取り図が作成される。現代改修がされ始め、完了前に終戦を迎えた。そして提供は打ち切り。後に自力で完成させたかは届け出が無い。
捕虜に見せている見取り図はあえて誤った描き方がされている複製品。そこをちゃんと訂正するかどうかで誠実さや城内を把握しているかを見定める。これを複数人に何度も繰り返すと正確な情報が掴める、かもしれない。
「良い子ねぇ❤」
「この人間さん達使っていいの?」
「今回は駄目でーす。でも、次はどうかな? 次行ってみよー」
騎兵のような立場が比較的高い者達は城への出入りが頻繁で、場合によってはそこに領主直臣として住んでいる。狙い目、シルヴも分かっている。
■■■
総長討伐隊――明確な名前はつけてない――合流。野戦を前提に、敵斥候が見ている中、戦場入場隊形でマシマ=グラッセーノ城へ接近し、戦闘隊形へ。
フェルシッタ傭兵団、太鼓と笛にラッパを鳴らし、歩調合せ、各隊号令に合わせた方向転換の繰り返しで行進縦隊から攻撃可能な横隊へ美しく、無駄無く、素早く変形。おそらく人間の最高峰だろう。
ヒルド同胞団は何と言うか、掛け声だけで”わらぁ”っと崩れて綺麗に整っていった。人間の小細工を馬鹿にする。
陸戦隊は大砲を引っ張り、ゆっくり前進した。尚、ヴィルキレクはこんなところで死んで良い人物ではないので後方に下がったままという約束になっている。
城目前、現着。敵は野戦で争わない心算で籠城の構えである。
エルシオ総長を監視していた密偵がいつの間にかヴィルキレクに書状を提出。敵の状況は以下。
メリタリ家当主にして領主ミスコリニは、エルシオ総長と数名の化物騎士を主城グラッセーノにて客人待遇で保護している。
城には即応可能なメリタリ正規兵約三百が集まっており、壁内の城下町には軍属と兵士およびその家族が同数程度居住。民兵と合わせて五百名未満程度と見做す。大砲等重装備有り。
他正規兵は参集に間に合ってはいないが、直に別動隊として編制される予定。一千名近い規模の軽歩兵になる可能性あり。ただし武器弾薬庫は城にあるので猟銃、刀槍、農具以上の装備は困難が見込まれる。
銀行預金の動向から、ロベセダ地方から傭兵を呼び寄せている可能性大。
同家メリタリ統貴族筆頭に加勢しに来る可能性は否定されない。
城内居住の聖職者を通じて、戦っても良いことは無い、という婉曲な警告を受け取った領主だが、総長の人質同然とのこと。魔族化した己の力を一度誇示した様子。
以上。本家が別家のメリタリ=パスコンティに脅されている。世知辛いことだ。
野戦が無いということが判明してから野戦隊形を徐々に解除して城を包囲していく。
マシマ=グラッセーノ城は全周を水濠に囲まれ、石壁を表面に張り付けた土塁で更に囲い、背の低い砲塔が並ぶ。高さより厚み、砲弾を食らう前提の構造。
この規模の城の四方を厳重に包囲するだけの戦力は無いので要所だけ抑える。討伐隊を四分、五分と分けて各個撃破されたら負ける。
フェルシッタ傭兵団とヒルド同胞団と陸戦隊は共同し、要塞砲射程圏外に塹壕、宿営地、捕虜収容所を建設する。またラシージが選抜した工兵隊が坑道掘削を開始。それから音楽隊が労作歌の演奏で作業を応援し、定期演奏会でも楽しませて士気低下を抑制。
正攻法の正面突撃を企図して正門、主街道沿い側に陣取る。同時に、完全ではないが、街道からの人員物資の入出を断って補給増援をほぼ断つ。別の出入口から敵は試みるだろうがそれは襲撃対象。
諸作業を円滑にするため側面をフェルシッタ騎兵が警戒。敵騎兵狩りが出来れば最善。
建設資材は、近隣の資材屋をまず尋ねる。金と銃口があれば買えた。まだ不足しているので周辺家屋の解体で充足させたいが、その前に話し合いである。
交渉役を示す白旗を掲げて進む。城壁と水濠を渡す跳ね橋は上がっている。
馬上から正門の上部、門楼で我等討伐隊を見張っている守備隊長に呼びかける。
「皆のお家をバラされたくなかったら城から資材を出しなさい! 全部壊しちゃうよ! 灌漑までやっちゃうよ!」
それから今まで連行して来た捕虜に食べさせる食糧が不足しているので追加注文。
「メリタリ住民の子達、お腹空かせてるんだけどぉ! それもそっちから出しなさい!」
黙殺された。家から小屋から柵、灌漑水路の板張りから仕切弁まで解体開始。攻城機材の作成にも入る。捕虜の見張りには、食事時になる度に住民を正門前に連れて行って物乞いするよう手配させる。声がうるさい母子が望ましい。
正面の封鎖が一段落したら陸戦隊砲兵が塹壕に守られながら城を砲撃出来る準備を進める。聴取して作成した最新の城の見取り図から破壊予定箇所が定められており、現場で直接観測してから予定箇所に修正を入れる。高い視点が欲しいので一番近いところにある風車を、また別角度からも見たかったので攻城梯子と竿で組んだ簡易高台を利用。もっと細かく見る為にシルヴが風の魔術で飛行して観測するのだが抑制。
魔術を使うと肉体疲労とは違う方向で精神というか、魂的な何かが疲労するらしい。一定限度を超えると気力ではどうにもならなくなるほど脱力。最悪、心肺すら脱力して停止。総長との決戦を考慮した。
討伐隊に訓示。「メリタリ住民は全て民兵。正規兵と見做して。悪い子は銃殺してね、お願い❤」と念押し。
正門を抑える陣地が仕上がってから左右に、囲むように延翼を開始。皆の足元が濡れないよう、水が流れ込まないように水路を掘削、変更、穴埋めして他所へと排水。
またエルシオ総長が単独で逃げないか、セリンは常に陣地外で人目に付き辛い水中から監視。実際に逃げたら城からも様々な反応があるだろう。
■■■
陣地構築は進捗。作戦の全段取り、副案を含めて用意良し。泥だらけの穴ウサギちゃんみたいなラシージからも「用意良し」と報告してきた。いよいよである。
「ラシージー❤ 後で一緒にお風呂入ろーねー❤」
「分かりました」
うっそ!?
気分も乗って来たので正門前にお立ち台を運ばせ、登壇。白旗はシルヴに持たせる。ラッパ手も連れて来て演奏させ、正門や城壁上に敵を、耳目を集める。人数がある程度集まったところで口上。
「旧アソリウス島騎士団の脱走兵、敵前逃亡罪のエルシオ・メリタリ=パスコンティを差し出しなさい! でなければ城を落とし、傭兵達に無制限の略奪を許可する!」
門楼にいる守備隊長が珍しく口を開く。
「客人を守るのが義務である!」
「おじさん達みたいなぁ、よわよわ腰抜け尻穴軍団の構えは……」
後ろを向いて尻を突き上げ、親指を咥える。
「こうでしょ! 何時までも引き籠ってシコシコしてないで掛かって来なさい!」
「可愛い尻だなお嬢さん! おじさんと楽しいことしてみるか!?」
敵兵等、爆笑。
はん、なめやがって。
背を向け股下を覗き、尻をパンパン叩いて鳴らす。
「ならふぁっくしてみろぉ! 私のおマンコなめやがれ!」
敵は絶句、フェルシッタ傭兵団が今度は爆笑。
「シルヴも一緒に!」
「やるわけないでしょ!」
「それはぁ! シルヴと違ってぇ! 私のマンコがつるつるだからぁ!?」
「それはぁ! シルヴと違ってぇ! 私のマンコがつるつるだからぁ!?」
シルヴに向かって手を叩く。
「まっくろシルシル出ておいで! 出ないとマンコをいじくるぞ!」
「こら!」
「ぎゃー逃げろー!」
追いかけっこ。お立ち台を使ってぐるぐる回る。
「あのね、ごめんね! シルヴのマン毛は掃除用具みたいなんだよって言って! でもね、だから臭くないって言ったの!」
シルヴ、拳を振り上げる。
「ぎゃー!」
拳骨直撃。
「あ゛ぁいだぁい゛! ぶぇえ!」
泣き声を出す。正門側には敵兵どころか住人まで見物人が集まり出した。壁の内側へ手招き、こちらを指差し「あれ見てみろよ!」と大勢に見下ろされ、大声で笑われる。
見上げると青い空。天地人揃い、蒼天の神はこの城を我等に賜った。
シルヴがお立ち台を半ば引っ繰り返して立てる。自分とラッパ手、その陰に隠れる。裏面は鉄板張りで、これは足付きの置き盾だ。
正門基礎から突き上げの土砂突風、火球黒煙が膨張、土塁と石造が雪崩れ打って外側に傾斜して跳ね橋は潰れる。弾薬に誘爆し”子”爆発連鎖。吹き上がった瓦礫に砕けた大勢が降り注いで周囲の屋根、人を潰す。血脂が降る。お立ち台に破片が刺さる。
ラシージの地雷発破。短期間で水濠の下を潜って仕掛け、しかも地上構造物の倒れる方向も自在。魔術工兵だとでも言おうか? マトラの至宝である。
「フェルシッタ傭兵ぇ! 突撃にぃ、進めぇ!」
ラッパ手、突撃ラッパ吹奏。塹壕からアデロ=アンベルが先頭で、各種装備を担いだフェルシッタ傭兵団が駆け出す。そこそこ距離があるのに最初から駆け足、大丈夫か?
陸戦隊砲兵、敵砲台射程圏内に素早く前進して破壊予定箇所へ砲撃開始。砲台砲眼が主、突撃部隊の側面を打つ横矢が副。現代改修された城壁を砲撃崩落させる程の弾薬は持ち込めなかったため、防御施設の無力化に専念する。また臼砲が城内へ曲射で砲撃開始、弾種榴散弾。
城外、方々で連続して堰を切る。城の水濠へこちらが改造した灌漑水路、溜め池を通じて注水開始。
長く走って、攻城機材を引っ張っても息が簡単に上がらないフェルシッタ兵が突入開始。高級傭兵を気取るだけはある。
ほぼ地表と並んだ水濠に戦闘工兵が小船を苦も無く進水、乗船、櫂漕ぎ即上陸。両端に人を置いてから長板を並べ、煉瓦のように組んで仮設橋が出来る。滑り止めの砂を撒いて攻城梯子や置き盾も担いだ突撃兵が突入。城上空で火薬の黒煙を量産、鉛散弾を雨と降らせていた臼砲、砲撃停止。
崩れて水濠側に斜路を形成した正門を本隊が駆け上り、昇り辛い箇所には梯子を掛ける。
アデロ=アンベルが笑う。
「ははははは! あんた戦場の女神だよ!」
「どんかん❤ 今更気づいたの?」
シルヴから拳銃を受け取って仮設橋を走って渡る。
「きゃっははーい!」
先頭はちょっと譲ってしまったが追いつく。斜路登攀、梯子を渡る。
着剣したフェルシッタの突撃兵に混じって城下町を前進。
正門城壁の内側、地雷と弾薬誘爆の影響で壊滅状態。火炎よりも吹き飛んだ石片の影響大。瓦礫、散弾、降った死体による死傷者累々。本格戦闘前に既に血塗れ、呻き声と泣き声が合唱。籠城作業を手伝っていた女子供も中々多い。
突撃兵が置き盾、手榴弾も使いながら小規模一斉射撃の繰り返しで敵を牽制しながら城中枢、本丸への進路開拓。家屋全てに突入するのは時間が掛かるので放火処置が中心。
進む先頭は自分ベルリカ。敵がこちらを見て、女の子!? と理解不能の顔を見せる。そこを撃ち殺す。
女が立てば男は死ぬ、と言われる。男は女の姿を見て、声を聞くと良いところを見せようと、負けじと、男の馬鹿が刺激されて遮二無二突撃して己が身体を疎かにする。
シルヴの魔術を使っての戦闘行動はまだ抑制、後方待機で温存。エルシオ総長とお供の化物騎士は強敵。
突撃兵が開いた道を追って、フェルシッタ傭兵本隊到着。疲れた突撃兵は下がって休み、弾薬補充。死傷した場合は後送。
本隊は旋回砲、携帯砲、大型小銃も持ち込み。家屋、置き盾に隠れながら本丸の敵を射撃。大口径弾なら窓は勿論、鎧戸、壁越しでも撃ち抜ける。投石、煮た油に糞尿を投げて来る奴も撃つ。
シルヴは、常人なら台座に据えないと撃てない携帯砲を小銃のように持って射撃。術は可能な限り使わない。
ヴィルキレクから”突撃手伝うか?”と伝言が来るけれど拒否。聖都では何となく共闘してしまったが、この王子様が死ぬと全体計画が崩壊して下手をするとイスタメルへ帰れなくなる。教会の資金力、影響力を借り入れる受け口、後援者様なのだ。顔が知られていて立場が使えて対高級貴族の交渉役にもなれる。”黙って私のこと考えてちんちん弄っててね❤”と返信。
本丸周辺に戦闘工兵配置。配置のための城内配置の敵銃兵には射撃牽制続行中。
正面扉、勝手口、排水口、便所穴、大きな窓の下などに梱包爆薬を設置。号令で一斉爆破して一斉開放。煙が上がる破孔へ突入。
全ては見取り図を参考にし、各隊分散。
鉄板張りの置き盾を持って進めて室内、廊下を詰める。
フェルシッタ傭兵の挙動はメリハリがついて機敏。さっと横三縦二の小さな横隊を組んで一斉射撃をするような芸当も見せている。
流石、要人警護もやっているだけあって室内戦闘の研究が出来ている。敵にやられたら困ることを出来るようにしているためか”守り”だけではなく”攻め”が出来ている。そこらの野戦雑兵とは格が違うか。
手榴弾を惜しまず使って進路を掃討する。一部屋一発、一角一発、一陰一発。
演習では侵攻段階に応じて封鎖するところ、攻め進むところ、逆に後退するところなどが決めてある。
相手も家具を重ねて封鎖して出入口が一か所しかない要所を固めようとした時には、その背後には別動隊が回っている。そう計画して訓練した。最新見取り図の作成は役に立った。
爆破突入は一階で良く出来た。二階、地下階となれば階段の位置が制限される。しかしそこで使うのはまた梱包爆薬。出入口の無い壁、床、天井を爆破して破孔開放。爆風瓦礫が向こう側の敵を吹っ飛ばす、潰す、落とす。地震のように震えて埃、飾り花、死んだ虫にネズミ、家具に引き出し、食器、陶器、本、壁掛け絵画、吊り下げ照明、鎧戸に露台までもが落ちる、傾く、滑る。硝子窓が割れ、飾り柱が折れた。
男の低い悲鳴、女の高い悲鳴、爆音に混ざる。分散した各隊で敵の後退位置を調整し、まとめて爆殺する工夫もしているが、口から音を出す余裕がある者も中々多い。
非戦闘員も中々多い。一部屋丸ごと住民が詰まっていることもあり、まとめて爆弾で潰れていることもある。
しかし流石に改修した城、崩壊する気配は無い。掘っ立て小屋のように柱一本引いただけでペタンコになるような現象から遠い。屋根は攻城臼砲に備え、また一枚二枚と抜かれても良いような設計だ。床も大重量の大型砲に弾薬を集めても抜けないようにと鉄筋凝固土。
自分が向かった先の部屋に領主と思しき人物がいた。怯える妻子に覆い被さるように、ずれた天井板から落ちる埃を被った、身形が特に良く、大物然とした雰囲気がある男。
「ご領主のミスコリニ卿ね!」
「な、なんだ君!?」
「エルシオ討伐隊隊長! 逃げるなら今よ」
「え!? え?」
こちらは拳銃を持った、まるで年端もいかない少女。
「むむ?」
しまったかな? この背格好では何の肩書を付けても初見で頭に入らない。
男の悲鳴、聞き慣れたと思ったがちょっと違う。覚えが浅いものの知っている声。銃声よりも白兵の、武器を打ち合う音が増えている。板金を叩く音。
廊下を見る。猛烈な勢いで化物騎士が鉤のついた斧槍でフェルシッタ傭兵を殺戮、圧迫、蹴散らしながら走る勢いで進んで来る。あれが白痴の得物捌きか? 資金距離で銃撃されても甲冑に丸い痕がつくだけ。
総長は? いない? 自分の部屋か、逃げたか。
そろそろシルヴの出番だが、彼女はアソリウス島でかなり疲れている。航路中に休んだが万全ではなく、聖都での戦いでまた疲れている。エルシオ総長の戦闘能力は光の盾のようなものを使う奇跡が確認されており、おそらく強敵。可能なら一対一以上の有利な条件で戦わせたい。
フェルシッタ傭兵の死亡数、激増。箒で掃かれるみたいに斧槍で殺されて吹っ飛ばされている。手足胴体、千切れて落ちてる。
「無理だ、撤退!」
これからやろうというところでアデロ=アンベルが撤退指示を出し、壊走。勢いが殺された。シルヴ投入の機会、失敗か。
うっそ、まじ?。
「覚えてなさいよ!」
領主に言い捨てて本丸を脱出する。
城外に出ると、逆襲警戒に横隊射撃準備を済ませていたヒルド同胞団がいて、その前で敗走したフェルシッタ傭兵がうろうろしている。顔色は敗走と別の恐怖。督戦隊に銃殺されるような表情。
そうすれば良かったかもしれない。
自分が領主の部屋ではなく、総長の部屋に辿り着いていたならまだ何か、工夫が……帽子が吹っ飛ぶ。
あービックリした、狙撃か。振り向くと城の割れた窓に敵銃兵。爆破の繰り返しで顔が埃と煤で黒い。
「へーたっくそ! 粗ちーん! 筒の長さ足りてないんじゃない!」
もう、唾吐くか小便引っかけるかどっちかしたい。
「次はヒルド同胞団を投入しろ!」
ケツ犬から負け犬に転職したアデロ=アンベルがわんわん吠える。
「はぁあ!? 今何つったこの糞犬雑兵が! 敵の増援確実って時に予備出せ? は? お前等雑魚がもうちょっと踏ん張ればシルヴ出して決着って時に逃げやがってこの童貞共が、きっしょ! 童貞が許されんのは訓練生までって習わなかったのか!? 金のためにくたばんのがお前等傭兵だろうがよ! マンコに一発売女以下のドタマに一発傭兵が逃げてんじゃねぇよ、何時から高級になった心算だ都市坊っちゃん共。その辺に転がってる肉見てみろ、お前等あれとどれくらい価値の差があんだよ!」
頭に血が昇る。感情の制御が効かないってこれか? 頭の中が二つになったみたいだ。
「あんたらってあんな城も落とせないの? 途中で逃げて、壁が破れてるのに? 勢いもばっちりだったのにぃ? 兵隊辞めたら? ホントにチンポついてんの? 粗ちんすら怪しいわ。だっさ、糞よわ、家の親父と爺様に報告出来んのそれ? 代わりにしてやろうか、あ?」
「死神が! あんなのがいるなんて聞いていない」
「はあ? あんた聖戦に参加してなかったのぉ? それとも酒保女でちんぽこ擦ってただけぇ? 術に化物なんでもござれでしょうが。知らなかったの坊や!? 箱入り世間知らずなら仕方ないわね。ヒルド同胞団構え!」
妖精傭兵横隊、射撃用意。照準は勿論敗残兵、フェルシッタ傭兵。逃げる途中で装備を捨てて多く失い、立場は圧倒的。
アデロ=アンベルは目を背けた。くぅあっ、負け犬。
シルヴが肩を叩いてくる。
血の気が降りて来た。次に何をしようか? 指を一本立てる。
「一つ。あんたらを皆殺しにして、まるで激戦を繰り広げたみたいに軍旗を銃で穴だらけにして、見事玉砕しましたよって弔文を送る。ああ優しい私、馬鹿みたいに喜びなさい」
指の二本目を立てる。今度はズボンを履かせて貰う。
「二つ。しっぽ巻いてわんわん逃げる。武装は解除、眉毛と頭髪は半分剃って、メリタリ住民の復讐を掻い潜る。事務所に置いてある前払い金は、もしかしたら泥棒が入るかも。負け犬にお似合い」
指の三本目を立てる。穴の開いた三角帽子を被せて貰う。顔の埃、煤を唾つけた手巾で拭られる。
「三つ。突っ込む! 勇気を取り戻して死ぬ! 男ならどうする!?」
「メスガキ……」
アデロ=アンベル、背けていた目で睨んできた。
「何その目付き? 私のこと見て欲情してるんだ❤ 少女趣味❤ へんたい❤ そのくせチンポも勃てずに何にも出来ないの? きっしょ❤ ざぁこ❤ 雑魚はぁ、一体どこの田舎で今まで何の訓練してきたのぉ? おちんちんばっかり弄ってたんでしょ? だっさ❤ くっさ❤ 出稼ぎ農民は落穂ごはんばっかり食べてておいしいの? あーおかしい、藁生える❤ わら❤ その被ってる粗ちんも脱穀してきたら?」
フェルシッタ傭兵へ向かって尻を叩く。
「悔しかったらふぁっくしてみろぉ❤」
城の方から撃ち下ろしの銃撃。周辺に跳弾、フェルシッタ兵に流れ弾、逃げ出す。自分には当たらない。集中射撃。
「あーあ、どうしようもないへたくそ❤ 私だけ先に行っちゃおっと。あっ、シルヴ、そこの雑魚軍旗取って」
シルヴからフェルシッタ傭兵団の軍旗を借りて、刀を抜いて担いで前進。
「今からこの旗だけ童貞卒業させてくるから待っててね❤ あっ、幕が裂けちゃうから処女卒業だ! うわっ、他人に処女任せるなんてフェルシッタのおにーさん方、ひっど、しょーもな、かいしょ無し、寝取られ上手。最低、マジきっも❤」
銃弾は当たらない。前からそうだが不思議に当たらない。旗の竿に当たらず、垂れた旗自体に穴が開き出した。良い見た目、やはり破れた旗にこそ誉がある。こいつだけはちゃんと返納してやらないとな。
アデロ=アンベル、走り出してこの手の旗竿を奪って走る。持ち主が誰かようやくわかったようだ。本当に馬鹿者。
「突撃!」
盛りがやっとついたフェルシッタ傭兵団、アデロ=アンベルの号令を受けて城へ、立ち上がりつんのめりながら再突入。
「シルヴ、次は行けるからついてって」
「そっちは解囲軍警戒と、あの野郎、また逃げるかもしれないから待ち伏せ」
「あいよ」




