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二人の冒険者  作者: じいちゃんっ子


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最終話 アレックスとサムソニア 後編

再開します。

 戦いが始まった。

 ルネの街を出た100名の冒険者は3つに分かれ、魔獣の群れに向かう。


 グランツ率いる50名の冒険者はケルベロスに。

 そして30名はヒュドラへ。

 アレックスとサムソニアは、残り20名を率いワイバーンへと走った。


 全員が腕に覚えのある精鋭達、しかし数が足りない。

 殲滅は最初から考えず、討ち漏らした魔獣は街の前に控える下級冒険者達が迎え討つ事になっていた。


「サムソニアさん、きっと帰ってきて」


 城門の前でカルツが祈る。

 周りにいる冒険者達の実力は期待出来ない。

 怪我をしているか、盛りを過ぎた者、あるいはカルツのような実力が低い冒険者だった。


「頼むぜ、なるべく数を減らしてくれよ」


 そんな声が方々から聞こえる。

 しかし彼等はルネを去らず、戦う事を決めた人間達。

 決して臆病風に吹かれた訳ではない。

 その証拠に、ルネの城門は堅く閉ざされ、外からは城内へ入る事が出来なくなっていた。


「ガキの為だ」


「おう、一匹たりとも中に入れる訳にゃいかねえ…」


 街を守る冒険者達と、魔獣に立ち向かう冒険者達。


 心は1つだった。



「もう一度だ!」


「「「おう!」」」


 グランツの激に、冒険者達は再び突撃する。

 既に2頭のケルベロスを倒し、残りは1頭。

 しかし冒険者達の損害も激しく、今は20名しかいなかった。


「退いてはならんぞ!」


 グランツが叫ぶ。

 陣形は形を失い、ケルベロスを取り囲む乱戦。

 更に他の魔獣も加わり、収集がつかなくなっていた。


「死ね!」


 グランツの剣がケルベロスの首筋に落ちる。

 断末魔を上げながら、倒れるケルベロス。

 しかし同時にケルベロスの爪がグランツの顔を横薙ぎに払い、その首が宙に舞った。


「撤退だ、急げ!」


 サブリーダーの叫び声。

 勝ち鬨など上げられる余裕は無い。

 一人の冒険者が吹き飛ばされたグランツの首を袋へ詰めると、急いで城門へと引き返した。


 一方ヒュドラに向かった冒険者達は、更に悲惨な戦いを強いられていた。

 その理由はヒュドラの数が2頭ではなく、実は4頭だったからであった。


「畜生!数が多いじゃねえか!」


「仕方ねえ、数え損なったんだろ!」


「覚えてろよ!帰ったらとっちめてやる!」


 彼等もまた勇敢だった。

 口々に叫びながら、次々とヒュドラを倒して行き、やがて全て倒すのだった。

 ほぼ全ての戦力をすり潰すのと引き換えに…


 そして、アレックスとサムソニア隊は。


「行けるかサムソニア」


「もちろんよ」


 崖の上からワイバーンを見下ろす二人。

 他の冒険者は下に控え、アレックス達を見守っていた。


 空へ逃げられては成す術が無い。

 二人は崖から飛び降り、ワイバーンの翼を切り裂き、飛べなくする作戦を立てた。


 崖の高さは20メートルを越える絶壁、飛び降りるだけでも大怪我は免れない、更にワイバーンへ攻撃を加わえる、二人にしか出来ない芸当であった。


「愛してるわアレックス」


「俺も」


 口づけを交わす二人。

 もう死ぬ覚悟は出来ていた。

 下にいる仲間だけでは、翼を切り裂いただけのワイバーンを倒す事は出来ない。

 更なる致命傷をワイバーンに与える必要があった。


「行ったぞ!」


 冒険者達が叫ぶ。

 2つの人影がワイバーンに迫る、アレックスは翼に、サムソニアは首筋へと向かっていた。


「どうだ!!」


 アレックスの剣が正確にワイバーンの翼の付け根を切り裂く。

 バランスを崩しながら、ワイバーンは鋭い爪の右手でアレックスをはじき落とした。


「くたばれ!!」


 叫び声を上げながらサムソニアはワイバーンの首筋へ大剣を突き入れる。

 アレックスを見る余裕など無い、心の中は心配で張り裂けそうになりながら、しかし戦士としての本分を尽くした一撃だった。


 倒れるワイバーン。

 しかし、まだ死んではいない。

 最後の力を振り絞るかのように暴れ回る。


「早く止めを!」


 地面に叩きつけられながらも叫ぶサムソニア。

 冒険者達がワイバーンへ殺到する。

 やがてワイバーンはその動きを止めた。


「やったぞ!!」


「…勝ったんだよな」


 劇的な勝利に湧く冒険者達。

 まさか怪我人すら出さないで完勝するとは思ってもみなかったのだ。


「そうだ、アレックスは?」


「サムソニアもどこに行ったんだ?」


 興奮が収まり、冒険者達はアレックスとサムソニアの姿が無い事に気づいた。


「アレックス…アレックス…」


 冒険者達は小さな声に導かれる。


「お…おいアレックス」


「まさか…嘘だろ」


 そこには左腕を失い、両足が砕かれたアレックスを抱きしめるサムソニアが。


「た…助けて…お願いよ」


 嗚咽を洩らすサムソニア。

 先程までの勇猛さは失せ、愛する人の為に泣く女が居た。


「…やったの…か」


「アレックス!」


「生きてやがったのか!」


 掠れる声、アレックスの生存に湧き返る。


「サムソニ…ア」


「大丈夫よ、ちゃんと倒したから」


「さす…がは英雄…だ」


「ううん、アレックスのおかげよ」


 必死で語りかけるサムソニア。

 冒険者達はアレックスに簡単な応急処置を済ませると、散乱していた材木を集めて担架を作りアレックスを寝かせた。


「そっとだ、揺らすな」


 6人の男達が、そっと担架を持ち上げ歩き始める。


 アレックスは時折血を吐きながら、一行は先へと進んだ。


「ゴフッ」


「アレックス…」


 その度、血を吸い出すサムソニア。

 顔中がアレックスの血に塗れていく。


「帰ったらアレックスも結婚か!」


「街の女共が悲しむぜ!」


 仲間達は必死でアレックスに叫ぶ。

 出血か激しく、意識が途切れがちになり、一度でも気を失ったなら、死が訪れるのをみんな分かっていた。


「サムソニアも何か言ってやれ!」


「う…うん」


 サムソニアはそっとアレックスに顔を近づける。


「1人にしないで…

 あなたが死んだら直ぐに後を追っちゃうよ、それとも私を未亡人にするつもり?」


 僅かな意識のアレックス、その目はサムソニアを離さない。


「結婚式はリリー公国のやり方で良いかな、ずっと憧れてたんだ…あと子供が生まれたら…」


 長い道のりを呟きながら歩くサムソニア。

彼女が語っている言葉は、全てアレックスと語り合った将来の夢。

 知られざる二人の冒険者の秘密に、一行は涙を流すのだった。

エピローグ行きます。

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