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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
3371/3386

18

 夕方になった。安楽市民球場は内側にPO対策機構が陣取り、周辺に転烙ガーディアンとオキアミの反逆が陣取るという構図になった。


「何で台風ノ中で待たされなあかんネん。帰りたいわ」

「中までズブ濡れよ。雨風を何とかできる能力者とかいないのかな?」


 エカチェリーナと陽菜がぼやき合う。


「私が何とかしよう。このままではこちらの兵士の士気も体力も低下するし」


 柚が言うと、首から下げた鏡が光り出す。


 球場周辺に吹き荒れていた雨も風も、嘘のように止み、サイキック・オフェンダー達がどよめく。


「何をしたの?」

「私は森の中に準ずるもの――水や土や樹木を操る力に長けているからね。水の操作はわりと楽にできるのだ。風は……試してみたが、何とか上手くいったようだ」


 陽菜が尋ねると、柚ははにかみながら答えた。


「それ、もっと早よしてほシかったわ。おーきに、ありがとうな」

「私も温存していたの。でも純子が転烙魂命祭の余剰エネルギーで回復できるからって言ってたから」


 にっこりと笑って礼を述べるエカチェリーナに、柚が言う。


「すまんこ。皆にキツい思いさせて」

「マイナス48くらいとしくわ」


 純子が謝罪すると、蟻広がガムを紙の中に吐き捨てながら吐き捨てた。


「柚ちゃん、さらに仕事を上乗せして悪いけど、空間操作封じの結界強化も手伝ってもらえれば、もっと早く済みそうなんだ」

「わかったよ。霧崎の所に行けばいいのね」

「本当に悪い」


 純子の要請を柚は快く受けたが、蟻広は不満げに吐き捨てて、新しいガムを口の中に放り込む。


 二人と入り違いの格好で、ミスター・マンジがやってくる。


「ミスター・マンジ、今まで何やってたの?」

 ネコミミー博士が声をかける。


「ムッフッフッフッ、雪岡君に言われて、準備をね」


 いつものように泥鰌髭をいじりながら笑うミスター・マンジ。


「そうか……いよいよあれをやるんだね」


 ミスター・マンジの曖昧な台詞を聞いただけで、ネコミミー博士は何のことか察した。


「そそ。第二の奥の手を使うよ」


 純子がにやりと笑って頷くと、電話をかける。


「霧崎教授、空間操作封じ結界の強化の進捗はどう?」

『65%といった所だ。予定時刻には間に合いそうにはない。木島柚君が来た分、早くはなりそうだがな』


 純子の問いに、霧崎は芳しくない答えを返す。


「そういえば雪岡君、アルラウネの散布を終えたら、人類の敵? を造って、それに抗う者を募集するプランはどうなったね?」

「それは面倒だから無しにしよう」


 ミスター・マンジの確認に、純子は肩をすくめた。


 人類全員に超常の力を付与したうえで、人類の敵を意図的に造って侵略させる事で、人類全体に危機感を煽る。それによって、人類が超常の力を扱う事が必須であり、正義であるという、そんな精神改革プランも用意していた純子である。しかしここまでのPO対策機構との抗争を振り返り、これ以上動くのも面倒な気分になっていた。


「それにしても累君、どこ行っちゃったのかなあ。結界強化の手伝いして欲しいのに」


 何度電話をしても、累が出る気配が無い。何かあったのは間違いない。


***


 上野原家。上野原道場。


「今日も稽古に身が入っていないねえ」

「ジャプジャップ」


 道着姿で一人稽古に打ち込む上美に、道場の入口に現れた梅子とアンジェリーナが声をかける。


「心配でさ……」


 稽古を中断して、うつむき加減になる上美。額から汗がしたたり落ちる。


「安楽市民球場に、裏通りの人達や政府機関や安楽警察署裏通り課やサイキック・オフェンダーが、大集結して睨みあっているんだって」

「台風の中よくやるねえ」


 上美の話を聞いて、梅子がホログラフィー・ディスプレイを開き、裏通り関連の情報サイトでチェックする。


「ジャップジャップー」


 梅子が開いたサイトを横から見て、アンジェリーナが声をかける。球場前にいる純子やネコミミー博士、それに数多くのサイキック・オフェンダー達が映し出されていた。


「随分と派手にやりあったもんだ」


 道路や街路樹や周囲の建物の損壊具合を見ながら、梅子が鼻を鳴らす。


「純子さんも相沢先輩もツグミちゃんもいるのよ。ていうか、首謀者は純子さんだけど」

「ジャップー!」


 アンジェリーナが興奮して立ち上がり、手をぶんぶん振り回して怒りの声をあげる。やっぱり純子は悪い奴だろうと主張しているのは、上美にも梅子にも伝わった。


「あんたは行くんじゃないよ。あんた一人行ってどうにかなるもんじゃないからね」


 梅子が厳しい声で釘を刺す。


「わかってる。ツグミちゃんを助けたいけど……逆に足手まといになっちゃいそうだしね」


 道義の帯をキツく握りしめ、口惜しげな上美。


「皆どうか無事で……って祈るしかないのももどかしい」

「気持ちは大事さね」


 梅子が微笑みながら、ホログラフィー・ディスプレイに、アルバムを映し出した。アルバムをめくると、梅子がフランスの外人部隊で新兵の指導員をしていた頃の写真が何枚も映し出された。


(あの頃は弱っちかったのに、随分と強くなったもんさ。なのに、私より先におっ死んぢまいやがって……)


 まだあどけなさが残る顔立ちの葉山の写真を見て、梅子は目を細める。


(しかも殺したのは上美の先輩だっていう話じゃないか。皮肉な因果だよ)


 このような因果が、上美にまで及ばないようにと、梅子は祈る。


***


 安楽市絶好町繁華街南にある夜叉踊神社。その中にある和風喫茶、暗黒魔神龍庵。


「暗黒魔神龍の量子風煮込み、深淵から覗いてくるパフェ、マクスウェルの悪魔が沸かしたコーヒー」

「あ、ワイはデウスエクスマキナミルクとメメントモリそばでー。そのガタイでパフェ食うんかい」

「悪いですか?」


 裏通りのジャーナリスト高田義久と、犯罪心理学教授の丸井沢丸男が、それぞれ注文する。


「高田君も大変やったなー。しかしよーやりなはった」

「いえいえ……。俺の出来ることはここまでです。あとは切った張ったの専門家達の領分です」


 労う丸井沢に、義久は微苦笑を浮かべる。結局最後は暴力に行き着くといういつものパターンに、嘆息気味だ。


「裏通りに関わっていると、何度も疑うことがあるんです。結局世界は暴力が全て。最後に笑うのは暴力なのかなって。それを否定したくて、今の道を進んでいたのに」

「そうかもしれへんが、ワイや君みたいな職種のもんが、そいつを受け入れて諦めてもーたらあかんよ」


 つい弱音を吐いてしまう義久に、丸井沢が力強い声で告げた。


「言い分を力で押し通そうとしても、心までそうそう折れるもんやない」

「あくまで言論で勝負ですか」

「言論いうても、やり方は気ぃ付けへんとなー。頭ごなしに否定しにかかる奴は信じられへんやろ? たとえ脳減賞貰った科学者の言い分だろうと、具体例を挙げない言説は信じられへんやろ?」

「むしろ権威のある人物だと余計に、自分の肩書きと権威で誤魔化しにかかっているかのように感じられます」

「何やそれ、ワイに対するあてつけかい? ちゅーか偏見きっついなー。それでも君ほんまにジャーナリスト?」

「経験則です」


 丸井沢の問いに、義久はにやりと笑って答えた。

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