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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
3369/3386

16

 大暴れする巨大ピィィィポ君の前に、ネコミミー博士が立ち塞がる。

 巨大ピィィィポ君はネコミミー博士を見て動きを止め、警戒して身構える。


「これは骨が折れそうだね」


 シリアスな口調でネコミミー博士が言うと、人が乗れるほどの巨大カボチャを呼び出して、その上に跨る。カボチャには例によって光るルーン文字が刻まれていた。ネコミミー博士を乗せたカボチャが空を飛び、巨大ピィィィポ君の頭部に向かっていく。


「ふむ、これで三狂揃い踏みとなったか。グラス・デュー以来かな?」

『お前まで出てきたのか』


 球場の中から出てきた霧崎を見て、ミルクが忌々しげに唸る。


 その霧崎の姿が忽然と消える。


「堂々と姿を晒すとは君らしくもない――と言いたい所だが、それだけ本気という事なのだね。ミルク」


 ミルクのすぐ真横で霧崎の声がした。気配もする。しかしそこに霧崎がいないことはわかっている。空間の歪みが生じていない。転移したわけではないし、音声は遠隔操作の念動力で生じているだけだ。


『相変わらずくだらない手品めいた演出が好きだな』


 霧崎が現れた場所に視線を向けたまま、ミルクが蔑みを込めて言う。すると消えたはずの霧崎が現れる。霧崎は動いていない。自分の姿を見えないようにして、ミルクの側に移動したように演出してみせただけだ。


『お前まで純子につくとはね。ま、史愉未満の雑魚同士で仲良くしてろよ』

「ほう、ミルクの中では我々は音木君未満となったのか」


 ミルクの悪態を聞いて、霧崎はおかしそうに笑う。


「私の理想が叶うと、人外上位が人類を支配する社会を作るっていうミルクの目的は、遠ざかるみたいだからねえ。ミルクが私達と相対するのも無理はないよね」


 純子が言った。


『そういうことだ』


 ミルクが怒気に満ちた声で認めると、霧崎めがけて念動力猫パンチを放つ。


 霧崎はミルクの攻撃が来ると察知したが、避ける事が出来なかった。避けようとする前に問答無用の一撃を受け、体がぺっちゃんこに潰される。


「あ、不味い」


 周囲に漂う金色の粉を見て、純子が呟く。これもミルクの攻撃だ。エネルギーの運動方向を狂わせる効果がある。浸蝕が著しいと、舌の動きや瞬きまで狂う。


「何だ、これ……攻撃が明後日の方向に……」

「うわわばばば! おまべ! どろ攻撃しへるんだ! 敵に操りゃりぇてんのきゃよ!?」

「喋りがだおがじ! 舌噛んじゃげど痛くない!」

「おいおいおい、混乱に乗じて敵が中に入ってるぞ!」


 純子は警戒していたが、転烙ガーディアンやオキアミの反逆の兵士達はあっさりとミルクの攻撃によって大混乱を引き起こされていた。同士討ちも発生している。純子が呼び出したバトルクリーチャー達も同様だった。


「よーし、今のうちだ。さっさと中に突入しろ」


 それを見た新居が、PO対策機構の兵士達に球場内へ入るよう命じる。


「PO対策機構の皆、球場に入っていこうとしているね。でも……入って何するつもりなんだろ」


 呟きつつ、純子は真のことを意識した。真は球場内から出てきて、自分の用事は済んだと口にしていた。


 純子は戦闘を中断し、ホログラフィー・ディスプレイを投影し、ガオケレナの状態をチェックしてみる。


「んー、ガオケレナに異常は見受けられないなー。いや……」


 一見異常は無いと見てとれたが、一つだけ気になるポイントがあった。


(成長速度が著しく減少している。ほぼ止まっている。でもこれは異常なのかな?)


 ガオケレナの成長スピードの減少な停滞は、たまに発生するものだった。今回たまたまその時期になったのか、あるいは真達が何かをしてそうなったのか、判別できない。しかし後者である可能性を考慮すべきだと、純子は判断する。


 蟻広がミルクに向かって妖魔銃を撃つ。内臓のような物が広がってミルクにかかろうとしたが、ミルクは跳びはねてかわす。


『何だこれ……純子のゲロキモ術に似てるな』


 しかめっ面になるミルク。


「エンジェル・バリスタ」


 つくしが上空から、蟻広めがけて光の矢を射出する。


 しかし蟻広の頭上に巨大などんぐりが飛んできて、光の矢を全て受け止めた。


「蟻広……手を出さない方がいいのに」


 柚が溜息をつく。首から下げた鏡が淡い光を放っている。どんぐりを出して蟻広を守ったのは、言うまでも無く柚だ。


「そうも言ってられないだろ。このまま見過ごしたらポイントマイナス100以上だ」


 そう言って蟻広が呪文を唱える。


「私からすれば、お前に何かあったらポイントマイナス無限大だぞ」


 柚が蟻広の背後に回り、背を護る格好になる。鏡の光が増す。


「人喰い蛍」


 球場内に入って行こうとする安楽市民球場襲撃部隊の者達を狙って、蟻広が術を放った。


 しかし殺到する人喰い蛍は、全て途中で撃ち落とされた。


「ここは俺が引き受けるよ。さっさと行け」


 安楽警察署裏通り課の刑事、警察の最終兵器と呼ばれる男、芦屋黒斗が蟻広と柚の前に立ち、襲撃部隊の兵士達に促す。


「これは手強そうね」


 柚が不敵な笑みを浮かべ、鏡から一層眩い光を放射する。


 鏡から放たれる光の中から、光り輝く巨大タイワンリス四匹が現れ、黒斗に向かって駆けていく。


 黒斗がその場で拳を振り抜く。パンチの市区座をした直後、四匹の光り輝く巨大リスの体のあちこちに無数の穴が開いた。巨大リスが動きを止め、消滅する。


「悶仁郎と同系統の力のようだ。攻撃を拡散転移している」


 柚は即座に黒斗の攻撃の術理を見抜くと同時に、危機感を覚えた。あの攻撃の矛先が蟻広に向けられたら、護るのは難しいと。黒斗だけではなく、上空にはつくしもいる。こちらもかなりの強敵と見なす。


「え? お、おいっ、何の真似だよっ!?」


 狼狽えた声をあげる蟻広。柚がいきなり御姫様抱っこをしてきたのだ。


「蟻広、どんなにポイントをマイナスされてもいい。下がるぞ」


 蟻広を担ぎ上げた柚が、有無を言わせぬ口調で告げ、転移した。


「あっさり逃げたな」


 柚と対峙し、強敵だと見なして気合いを入れてかかった黒斗であったが、相手がすぐさま逃げたので拍子抜けする。


「降ってきたね」


 頬に冷たい感触を受けた純子が呟く。まだ少量ではあるが、とうとう雨が降り出した。


 呟いた直後、純子は転移する。純子がいた空間に強力な念動力が叩きつけられ、地面に巨大な肉球マークがつく。


「ミルク。一人で私霧崎教授の二人を相手にするつもりなの? それは無茶なんじゃないかなー?」

『バカか? ずっと私一人で戦うわけねーだろ』


 問いかける純子に、ミルクが嘲笑する。


「おや、そこで潰れておるのは霧崎か。累はおらんのか?」

「ミルクと戦った後の弱った純子ならきっと倒せるぞーっ! 積年の恨みを今晴らしてやるぞー」


 そこに史愉とチロンがやってくる。バイパー、輝明、修、ふく、ツクナミカーズのクローン四名、澤村聖人、シャルル、李磊、カバディマン達もやってきた。これで褥通りに待機していたPO対策機構の精鋭は全員集結した。


「ふみゅーちゃんに恨まれるようなことした覚えは無いんだけどなー」

『今戦い出したばかりで、全くダメージ与えてないし、弱らせてもいないぞ』

「ついでに言うと、消耗してもすぐ回復できるし」

「恨まれるようなことはしてないだとー!? よくそんなことぬかせたもんだぞー!」


 暴風雨の轟音に消されないよう、大声で喚く史愉。ミルクの台詞と、すぐ回復できるという台詞について、聞き逃していた。


「あたしが君に対してどれだけ劣等感持っていると思ってんスかーっ! あたしより才能があって、知名度があって、比べ物にならないくらい功績があって、人脈もあって、顔もよくて、それで……それで……畜生ーッ! あれこれ並べ立てて、すっごく虚しくなってきたぞーっ!」

『お前よく人前で、そこまで堂々と嫉妬丸出しにできるもんだな……』

「ある意味凄いと思うけど、恥ずかしくないんかのー?」


 ぎゃんぎゃん喚きたてる史愉に、ミルクとチロンが呆れる。


「うるさいっ! ずっと悔しくて妬ましくて仕方なかったんだぞ! 今こそ全部ぶつけてやるぞー!」


 純子を睨みつけ、闘志を滾らせる史愉。


「ちょっと……あんたがそんなになってるんて……」


 ふくが倒れている男治を見て驚愕の表情になり、駆け寄る。


「ふく~……貴方が私を心配してくれるなんて……嗚呼……これは夢ですか? お父さん、もう死んでもいいくらい嬉しいですね~。えっへっへっへっ……」

「そのまま死ねば?」


 倒れたままへらへら笑う男治を見下ろして、ふくは心配して損したと心底思った。


「こっち、押され気味だよー。どんどん球場内に入られちゃってるよー」


 カボチャに乗って飛びながら、巨大ピィィィポ君と必死に交戦しているネコミミー博士が助けを求めて、味方を見渡すが、ミルクの力で混乱状態に陥っている者が多い。霧崎は潰されて再生中、純子は史愉と交戦しだした。


「苦戦しているようですね」


 球場内からワグナーが現れ、巨大ピィィィポ君とネコミミー博士を見やる。


「戦いも、この姿を見せる事も好みませんが、私だけ安全圏にはいられませんね」


 溜息混じりにワグナーが言うと、その体が変色しながら膨れ上がり、みるみるうちに巨大化して、巨大ピィィィポ君を上回る巨体のマッコウクジラとなった。身長はピィィィポ君の方が大きいが、全長でもって全身を比較すると、ワグナーの方がずっと大きく見える。


「鯨に変身とは……」

「手足ついてるし、ウェアホエールとでも呼べばいいのか?」

「じゃあアンジェリーナはウェアドルフィンになるのか?」

「ま、またあの鯨さんにゃっ……」

「前に酷い目にあったなー……」


 澤村、輝明、バイパー、七号、二号が、変身したワグナーを見て喋っている。クローンズが御目にかかるのは二度目だった。


 鯨男と化したワグナーが、巨大ピィィィポ君に突進していく。


 巨大ピィィィポ君はワグナーの一撃を受け止めようと構えたが、ワグナーの突進を止められずに吹き飛ばされ、近くの建物へと倒れ込み、建物を倒壊させながら転倒する。


「うおー、怪獣バトルが始まってるよー」

「巻き添えにならないよう気を付けろよ」


 シャルルが興奮し、新居が注意を促す。


「ぐぴゅう、死ねえっ!」


 史愉が羽虫の群れを放った。これらの羽虫は、命と引き換えに高電圧高電流の電撃を放電する力が付与されている。


「水子囃子」


 純子がビニール水子霊を何体も出し、電撃昆虫を全て包み込んでしまう。それで無力化した。


「あれ、ツグミのビニール魔人のパクリ?」

「雫野の妖術だし、時系列考えるとツグミの方がパクリ」


 純子の術を見て、伽耶と麻耶が言う。


「おい、防ぐんじゃないぞ! 大人しく攻撃受けてくたばるがいいぞー! そして早くあたしをすっきりさせろーっ!」


 史愉が喚きながら、白衣の袖からまた大量の羽虫を放った。次は爆発する羽虫だった。


 純子がワグナーと巨大ピィィィポ君の方を一瞥する。


「さて、盛り上がってきたことだし、そろそろ奥の手の一つ目を出すかなあ」


 迫る羽虫を横目に、純子がホログラフィー・ディスプレイを投影し、脳波で操作する。


「む……これは……」


 異変に真っ先に気が付いたのはチロンだった。尻尾と耳が同時に立つ。


「気が激しく流れ……いや、溢れていやがるな」


 次に気が付いた李磊が、顎髭をこすりながら目を凝らす。


「え……?」

「あれ? 怪我が治った?」

「グルルル?」


 PO対策機構に倒され、重傷を負っていたサイキック・オフェンダーやバトルクリーチャーが、怪訝な様子で次々と起き上がる。傷は全て回復している。


 ただし、死んだ者達はそのままだ。息が有った者だけが回復している。


「ぐぴゅう……どうなってんだ……? こんな広範囲の全体治癒能力なんて聞いたことないぞ」

『突然溢れた力による効果ですね。しかしこのエネルギー量は尋常じゃない。一体何をした?』


 史愉とミルクが動揺を隠しきれない様子で、純子を見やる。


「色々と準備はしてきたからねえ。そのうちの一つだよ」


 いつもの屈託の無い笑みを広げる純子。


「転烙市での転烙魂命祭で人々から奪った生命エネルギー、ガオケレナに全て注ぎ込むには、余るとわかっていたからね。その余剰分を最後の戦いに回すつもりでいたんだ」

「ぐ……ぐぴゅ……そんな手が……」


 純子に突然の全体回復の正体を教えられて、史愉は絶句する。


『備えは十分てことか。なるほど、お前らしい』


 憎々しげに純子を睨みながらも、ミルクは感心し、称賛したい気分にもなっていた。


「ま、備えはいくらあっても憂いは生じるものだけど」


 微笑をたたえたまま、純子はそう言って頬を掻いた。

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