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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
最終章 マッドサイエンティストをやっつけて遊ぼう
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最後の四つの序章 -後日談-

 ずっとずっと、一人で歩いてきた。

 甘い日々の記憶に縋りながら。受けついだ理想の成就を夢見ながら。己の力を高めながら。数多の命を弄びながら。新たな敵を作りながら。人の世の移り変わりを楽しみながら。望郷の念に焦がれながら。多くの敵を滅ぼしながら。輪廻の渦へと消えた大事な人の魂との再会を待ちわびながら。


 たまにわからなくなる。想いに揺らぎはない。その時が来ることを待ち焦がれているはずだ。しかし自分の心が少しずつ少しずつ削られ、世界の移り変わりを見続け、命を永らえるという選択は、本当に正しかったのか。たまに問いかける。もちろん答えは返ってこない。

 さりとて自身の手で、この命に終止符を打つ気にもなれず、ただ歩き続ける。


 途方もなく長い永い時間は、いつしか諦観をもたらしていた。そこに矛盾があった。心は折れているが、砕けてはいない。愛しい者といつまで経っても会えない事で、諦めている気持ちがあるのに、諦めきれない。


『そんなに長生きしていて、飽きるって事は無いのか?』


 何時、言われた言葉か。そんな問いかけをされた事がある。


『飽きないよー。生きていれば、いろんな事を体験できて面白いじゃない』


 確かその時は、そんな答えを笑いながら返していた気がする。


 飽きることは無い。しかし諦めの気持ちは引きずっていた。きっと願いは叶わないという諦めの気持ちを抱きながら、しかしどうしても諦められずに生きてきた。

 諦めなくてよかったと、今では思う。歩み続けてよかったと、自分を褒めてやりたい気持ちが自然と湧く。


「疲れただろ」


 声をかけられて、どきっとする。その台詞が、別の意味で聞こえてしまった。


『積み上げてきた罪業――お前がどれだけ罪を犯したか、知らないけど、何万の命を奪ったかわからない大悪党だろうと、償いはできる。僕はお前に償わせて、お前の罪も全て浄化する』


 かつて同じ声で言われた台詞が、脳内に蘇る。


 罪を犯し続けることに、生きることに疲れないのか――? まるでそんな問いかけだと、その時は感じた。

 罪を犯すことを疲れたとは思っていない。罪悪感も無い。それは声の主の勝手な尺度だ。しかしそれを否定したくもない。そう告げられ事を、そしてそれを告げた相手に対し、微笑ましいと感じている。


「別に疲れてないよー」

「変わるよ」


 微笑んで否定したが、相手は構わず、両手にそれぞれ抱いた子の一人を手に取って抱いた。


「じゃ、帰ろうか」

「うん」


 促され、帰路に着く。


 それは何十年後の話?


***


 頼りになる人間が側にいると、精神的に依存してしまう。

 行動力があった、自分をぐいぐいと引っ張っていってくれる、頼もしい人間。そういう牽引力あるタイプは、多少性格に難があっても、人は惹かれてしまうし、ついていってしまう。むしろ性格に難があれば余計に惹かれるかもしれない。


 柴谷十夜にとっては、雲塚晃が正にそういう存在だった。幼い頃からずっと、十夜は晃に引っ張られ続けていた。側に晃がいた。例え晃がいない場所でも、晃を意識して歩いてきた。


 だが晃には晃で、憧れる存在が現れた。相沢真という安楽二中の伝説。裏通りの有名人。相沢真。

 晃にとって頼る者も現れた。最初は敵であったが、やがて保護者的なポジションとなって、同じ組織の一員となった、岸部凛。


 晃が憧れて懐いている真も、雪岡純子というマッドサイエンティストを強く意識している。それはリスペクトも有り、反発も有り、目的でもあり、愛情でもある。縁の大収束とやらは、真と純子によって発生しているのだと、彼等こそが中心なのだろうと、十夜は思う。

 二人のストーリーの中に入る事で、十夜と晃は、生き方を大きく変えた。相応しい道を選べたと思う。そして今、また原点に戻ってきたような、そんな気がしている。


 しかしただ原点回帰したわけではない。ひょっとしたら二人のストーリーの終焉を見届けることが出来るかしもれないと、そんなことを予感していた。


「本当にほころびレジスタンスやめちゃうのか?」

 晃が不満げに尋ねる。


 十夜は申し訳なさそうに頷く。悩んだ末に決めた事だ。未練が無いわけではないが、それでも


「晃、十夜が決めた事なんだから、笑って見送ってあげなさい」

「無理……」


 凛がたしなめるが、晃は不貞腐れたままだった。


「ごめん。どうしても俺一人でどこまでやれるか、試してみたくてさ」

「裏通りに堕ちてきた時も、十夜は僕と離れようとしていた。結局戻って来たけど」

「あの時と違って、今回は考えに考えて、前向きな気持ちで決めたことなんだよ。それにさ、ずっとお別れってわけじゃない。そのうちまた戻ってくるつもりでいる。いつになるかはわからないけど」

「そっか……」


 ここでようやく晃は表情を輝かせた。


「デカくなって戻ってこいよ。あ、でもタッパはもう伸びなくていいよ。僕と差がつき過ぎちゃう」

「どっちもデカくなっておくよ。凛さん、晃のことよろしく頼むね」

「よろしくされたくもないけどわかったわ」


 十夜が凛の方を向いて言うと、凛は微笑んで頷いた。


「十夜が返ってきた時には、僕と凛さんの赤ちゃん、二人くらい作っでりゅっ!」


 全て言い終わる前に、凛が晃の後頭部を殴りつけた。


 それは二ヶ月半後の話。


***


「おじさん、とうとう俺は男になったよ」


 プルトニウム・ダンディーの設立者である蔵大輔の遺影に向かって、来夢は告げる。


「女になって、克彦兄ちゃんと結ばれて、セックス漬けの毎日も夢も見たけどさ、俺のメンタリティーは男だったから、やっぱり男にしたんだ。ちんちんつけた。ちゃんと機能する。これでセックス出来る。ただ……俺がやりたい相手がやらせてくれないけど……」


 そこまで話した所で来夢は溜息をつき、遺影から視線を外して、恨めしげにマリエを見る。


「何なのさ……」


 憮然とした顔になるマリエ。次に来夢が何を言うかは、大体わかっている。


「やらせて。マリエ。せっかく男になったのに。もう二日だよ? 二人のぜんまいを巻いて。俺の性欲を空っぽにさせて」

「はっ、お断りだね」


 来夢が懇願するが、マリエはぷいとそっぽを向く。


「来夢さあ……ちょっとは口説き文句とかムード作りとか、考えたらどうだ? というか、付き合っているわけでもないし」

「そうですよー。ストレートすぎなんですよー。いや、昔から散々注意しているのに、全然耳傾けようとしませんし」


 克彦と怜奈が口を出す。


「我等の天使長は色恋沙汰が苦手。それも個性の一つとして受け止めのもまたよし」

「個性で何でも受け止めればいいって話じゃないだろ」


 エンジェルの言葉を切って捨てるマリエ。


「マリエは手順踏んだ方がいいの? 告白して、友達付き合いから初めて、少しずつ気持ち育みたい? 俺、そういうの面倒臭くて……さっさとやりたくて……」


 不思議そうに尋ねた後、本音を零す来夢。


「それが面倒臭くて、いきなり体求めるような奴が好きになる女も、世の中いるかもしれないけどね、あたしはごめんだよ」

「わかったよ。もういい」


 マリエがぴしゃりと言うと、来夢は不貞腐れる。


「やっぱり男辞める。女にしてもらう。そして克彦兄ちゃんに即ハメしてもらう」

「いやいやいや、そんな目的だけでころころ性別変えるもんじゃないだろ」

「じゃあ自由に男にも女にもなれる体にしてもらって、俺が見つめた相手は性欲マックスになってすぐやりたくなる能力も、純子に付与して貰う」

「純子に拒否するようお願いしておきますね」

「怜奈、余計ことしないで」


 それは一年後の話。


***


「がおー」

「あ、虎さん、いらっしゃーい」


 明時神社拝殿の朝。鈴音が朝食の片付けをしていると、虎が室内に突然現れ、迫力の無い声で吠えた。


「何かまた難題を持ち込むんじゃないだろうな? 俺はしばらくお休みだ」


 寝転がってゲームをしている勇気が、虎に一瞥もくれず、にべもない口調で言ってのける。


「ずっとお休みでいいんじゃない? もう支配者もやめちゃおうよ」

「鈴音の分際で俺に意見するとか生意気の極みだぞ。罰だ」

「痛たたたたっ。痛いよ勇気。髪は嫌だってば」


 勇気が鈴音の髪の毛を引っ張ると、鈴音が本気で抗議したので、勇気はすぐに手を離した。


「ぐるるる」


 虎が勇気の手に自分の頭をこすりつけて甘える。撫でられたがっている事を察して、勇気は虎の顎の下を撫でてやる。


「虎は遊びに来ただけか」

「勇気のことが心配で様子を見に来たんじゃない?」

「肝心な時にはいなかったくせにな」

「がおっ」


 勇気の一言を聞いて、虎はあんぐり口を開けて一声発する。


「おやおや、虎までいたか」

 拝殿の入り口が開き、星炭玉夫が入ってくる。


「おっさんは星炭の戦いをサボったんだな」

「悪い卦が出ておったしのー。参戦していたらおそらく死んでおったよ。ま、おかげで私の星炭家での立場はより悪くなってしまったわ。先程本家に顔出してきたら、冷たい目で見られまくったしな。よっこらしょっと」


 笑いながら腰を下ろす玉夫。


「全て終わったそうだな。鬼ン子達が無事で良かったよ。ま、それは占いでわかっていたことだがね」

「俺達は無事だったさ。だが誰もが無事だったわけじゃない。だから俺は、良かったと受け取る気にはなれない」

「ぐるるる……」


 玉夫の台詞を聞き、勇気は虎の喉を撫でながら、憂いを帯びた表情で言った。


「相変わらず優しいの。鬼ン子は」

「うん、勇気は優しいんだよ」


 玉夫の言葉をきいて、鈴音が満足げに微笑みながら同意する。


「痛い痛い痛いっ」

「そうとも。俺はこの世界の主人公であり、宇宙の支配者だから、優しいんだ」


 勇気が鈴音の頬を両手で捻じりあげながら、こちらも満足そうに笑っていた。


 それが数日後の話。

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