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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
97 命と魂を弄ぶお祭りで遊ぼう
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14

「さっきはよくもやってくれたな」


 席を少し詰めて、隣に座るようにデビルに促しながら、真は忌々しげに言い放つ。


「犬飼を失って、それでむしゃくしゃしていたせいもある。でもあれで少しすっとした」


 座ろうとせずに喋るデビル。


「通路に立っていると迷惑だし、こっちも落ち着いて喋れないだろ。さっさと座れ」


 立ったままのデビルに、有無を言わせぬ口調で告げる真。


 数秒思案したデビルだが、やがてゆっくりとした動作で、真の隣に座る。


「狭そうだね」


 熱次郎、真、デビルの三名で詰め込まれた席を見て、ツグミがおかしそうに微笑む。


「そっちに大打撃だったらしく、純子は喜んでいた」

「そうか……」


 デビルの言葉を聞き、真は怒りの表情を露わにする。続け様に感情が表に出ている真を見て、他の面々は少し引く。


「喜ぶくらいならあいつ自らやればいいのにな。汚れ仕事をお前にやらせたんだな」

「おい、真。落ち着けよ。敵なんだし、純子の性格考えればそりゃ喜ぶだろ。冷静になれ」


 いつになくヒートアップしている真を、熱次郎がなだめる。怒りが純子にまで飛び火している時点で、かなりカッカッしていると見えた。


「真先輩、頭の中をそういう風に繋げない方がいいんじゃないかな。足元すくわれかねないよ。僕の経験談でもあるけど」

「真先輩、わりとキレやすい」

「真パイセンはキレやすいお年頃ナノダ」


 ツグミもなだめにかかり、伽耶と麻耶は茶化していた。


 真は落ち着きを取り戻して息を吐く。


「他の子達が言うように、君らしくない反応。正義漢気取りで安直に逆上? それは君らしくない」

「僕らしくないって何だ? いや……こっそり僕のことを観察でもしていたのか?」


 デビルの発言を聞いて、真が尋ねた。


「わりと見ていた。君だけじゃない。アルラウネを通じて関わった裏通りの住人達は皆面白かった。陰からよく観察していた」


 デビルが言った。


「それで――お前の行動は、ただむしゃくしゃしていたから憂さ晴らしをしただけで、深い意味は無かったのか。その理由の方がよほどタチが悪い」

「真、そういうことより、聞くべきことがあるだろ。せっかく接触してきてくれたんだし」


 また真が感情的になりそうな気配を感じて、熱次郎が制する。


「たまに熱次郎の方が兄貴分に見える」「たまに熱次郎が大人びて見える」


 伽耶と麻耶が同時に言い、同時にストローでシェイクを飲みだす。


「たまにじゃなくて、実年齢は俺の方が真よりちょっと上なんだよ。それに一応研究施設の所長っていう、責任ある立場にも就いているし」


 熱次郎は言いながら既視感を覚える。以前も似たような台詞を口にした気がする。


「そうだな。でも……まずこいつの話を聞こう」


 すぐ隣にいるデビルに視線を向ける真。


「話というか……愚痴になるかも」


 デビルは視線を落とし、そう言ってから話し出すかと思いきや、中々口を開こうとしない。


 どう喋ったらいいか、どこから話せばいいか、本当にこんな話をしていいものかと、デビルはこの期に及んで迷っていた。


「デビル、犬飼を殺したことを気に病んでいるのか」


 デビルが発言しようとしないので、真の方から声をかけた。悪の限りを尽くし、悪事を好み、人を殺すことも、人に人を殺させることも大好きというデビルにも、大事な存在があったという事実に、しかし真は別段驚いていない。悪魔気取りのこの少年も所詮は人であり、人はそういう生き物だ。


「気に病んではいない。喪失感が凄いだけ」

『それって気に病んでるってこと』


 デビルの台詞を聞いて、姉妹が口を揃えて突っ込む。


「悪魔の僕が、こんなことになっている無様さと滑稽さ。情けないけど、心がおかしい。さっき純子相手にも愚痴った」

「雪岡先生は何て言ってたの?」


 ツグミが問う。


「一人で溜め込んでないで誰かに吐き出せとか。あとは純子の話。悲しみや怒りの感情が希薄になっていると」


 そのまま伝えるデビル。


「だから僕達にも吐き出して、意見を伺うのか。敵だっていうのに」

「敵だけど話を聞いてくれると思った。敵だけど僕は、真のことは嫌いじゃない」


 真が言うと、デビルは臆面もなく言ってのける。


「気の利いた事なんて僕に言えない。ましてやお前は複雑すぎる。面倒すぎとか、捻くれすぎとも言えるが」

「そういう反応でもいい」

「お前は自意識過剰で、自分はトクベツだと思って、他人を見下しているタイプか? 自分で自分のことを悪魔とか言ってる時点で、何となくそれっぽいが」


 真の指摘に、デビルは顔を上げ、真の方を見て押し黙る。無言で自分を見つめ直す。


 意図的に見下していることはない。見下すこともあるが、それは自然発生する感情だ。自意識過剰ではあるかもしれないと認める。


(人を見下しているというより、世界の多くは僕にとっての敵。そして世界に組み込まれて生きている人は、悪魔の餌だから)


 それを今口にすることは、デビルには出来なかった。そんなことを主張したい気分ではない。


「お前は全然トクベツでも何でも無い。よくあるパターンだ。父性が欠如した環境で育った男が、父性の補完を本能的に求める。その対象は、ミュージシャンであったり、コメンテーターであったり、インフルエンサーであったり、教祖様であったり、ギャングであったりする。良し悪しはともかくとして、強い言葉を発する男に惹かれ、依存する。そういった奴をカモにして、商売している奴等もいる。そのよくあるパターンに、お前もハマっていただけだよ」


 結構キツい分析を遠慮なく口にする真に、熱次郎も伽耶も麻耶も、はらはらして見守る。いつデビルがキレて戦闘になるかわからないと、危惧していた。ツグミだけは、警戒していない。デビルがそのような真似をするとは考えなかった。


「言っておくけど、お前をディスってわけじゃない。僕が感じたことをそのまま口にしているだけだからな」


 真がそう付け加える。デビルは真から顔を背けた。


「大丘と……僕は同じか」


 うつむき加減になってデビルが口にした大丘の名に、ツグミが反応して小さく身震いする。


「大丘も犬飼に依存していたようだ。今真が言った、欠如している父性を補う対象だった。大丘は、自分がそうだったからこそ、あんな風に大勢の若者や子供を集めて、甘い言葉を吐き続けて、心を捉えた」

「自分をモデルにしたのか。道理で……」


 ツグミが納得する。


「真もお父さんいなかったんでしょ?」

「父親代わりになるような対象あったの? いや、真もデビルや大丘と似ている経験あるの?」


 伽耶と麻耶が質問する。


「父親はいたけど寝たきりだったから、いなかったも同然だ。父親代わりというわけじゃないけど、年上の男性でリスペクトできる対象とは出会えたよ。ただ、大丘やデビルが犬飼に依存していた事とは、違うと思う」


 言いつつ真は、サイモンのことを思い浮かべる。


「真先輩にもリスペクトしている年長者がいたんだね。僕にはいないな。熱次郎君はどうなんだろう?」

「お、俺……?」


 ツグミに振られて、動揺する熱次郎。


「熱次郎はマザコンだから」「熱次郎は純子ラブすぎて」

「おい、ふざけるな。やめろ」


 伽耶と麻耶が同時に溜息をついて言い、狼狽する熱次郎。


「ああ、そうか。熱次郎君は雪岡先生ではなく真先輩の方を選んだから、ようするに熱次郎君にとっての父性は……」

「いやいやいやいや、もっとふざけるなよ。俺の方が真より年上だって言ってるだろ」


 ツグミの指摘に、困惑する熱次郎。


「でも熱次郎は真を選んだ」

「つまり今はブラコン」

「どいつもこいつも好き勝手に……」


 伽耶麻耶がなおもからかい、熱次郎は拗ねてそっぽを向く。


「自分がいつの間にか誰かに依存してしまっていたという事は、やはり嫌なことなんだ」


 熱次郎の反応を見て、デビルが言った。


「みっともいいことではないな。否定的に思っている者の方が多い」


 と、真。


「僕もそう思う。でも知らない間に自分がそうなっていた。失った……自分で壊した今、その反動で心が変になってしまっている事を見ても、駄目な事なんだろう」


 そう言ってデビルは顔を上げた。


「話せて少し落ち着いた」

 一同を見渡し、デヒルは言った。


「デビルの意外な一面を見たね」

 ツグミが小さく微笑む。


「もう一つ……質問」

 デビルが伽耶と麻耶を見た。


「二つの頭で同時に違う飲み物を飲んでいる。それ、喉で混じってどんな感触?」

『喉を流れる液体』


 二人揃って苦笑しながら、姉妹はストレートな答えを返した。


 デビルが立ち上がり、真を見下ろす。


「他にも……君のことで話したいことがあったけど、今はいい。後で。落ち着いてから」


 意味深な言葉を残し、デビルは立ち去る。


「寂しがり屋なのかな? あの子」

「ああ、俺にもそう見えた」


 ツグミがデビルを見送りながら言うと、熱次郎が同意した。


(危険と思う一方で、嫌いきれない所がある。前世からの因縁のせいかな?)


 嘘鼠の魔法使いの記憶の中で見た悪魔と、現代のデビルを重ねて意識する真であった。


***


 市庁舎内。


「機を待つしかないとか電話で言ってたけど、悠長に機を待っていたら何もならないぞー」

「えっへっへっへっ、だから私が頑張っているんですよ~」

「男治の頑張りに期待じゃな」


 史愉、男治、チロンの三名は、市庁舎内を調査しつつ、こっそりと仕掛けを施してもいた。

 監視カメラに見つからないように、男治が幻術の防護膜をかけた状態で、三人は行動している。


「ん? 何あれ?」


 移動中、史愉が足を止めて怪訝な顔になった。


 硝子人が二つの列を作って、大人数で廊下を歩いている。


「硝子人が市庁舎内にあんなに……妙ではないですか~?」

「そう言えば、硝子人に秘密があるような話じゃったのー」

「硝子人を操り、その記憶に触れる能力を得た、区車亀三が知った情報ね」


 男治、チロン、史愉がそれぞれ言った。


「区車亀三は硝子人を通じて、祭りの秘密を知った。転烙市民の命が吸い取られるという話や、欲望を力に転換するという話をしていた。それらを実行するのが硝子人とう可能性もあるぞー」


 目の前を歩く硝子人の群れが、それと関係があるのではないかと、史愉は勘繰る。


「たは~、正直私はその話、あまり信じていないんですけどねえ。せっかくこさえた未来都市、そこに住む住人全てを生贄にするなんて、そんな勿体無いことしますかねえ~?」

「ぐっぴゅう。甘い甘い。純子なら笑顔でやってのけるぞー。あいつは悪逆非道のマッドサイエンティストなんだぞー。テクノロジーさえ確立していれば、住人なんてまた増やせばいいだけの話ッス。あるいは別の都市をまた発展されるだけのことだぞー」


 懐疑的な男治に、史愉がオーバーな口振りで語る。


「いやあ……ワシも男治寄りの考えじゃな。都市一つ壊滅させるに至るとは思えん」


 チロンも男治に同意したので、史愉はぶすっとなる。


「まあいいッス。あの硝子人を確保して調べてみるぞー」

「ふむ。よいな」


 史愉の提案に、チロンは頷いた。

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