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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
96 マッドサイエンティストの玩具箱で遊ぼう
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『俺と似ている? そうかもな。でもよ、完璧に同じ奴なんていねーし、どっかでズレが生じるし、そのズレがあるからこそ、人ってのは楽しいんだ』


 デビルは蹲ったまま思いだす。いつもへらへら笑っている、あの痩せた男の言葉の数々を。


『もう、どうにもできないズレが出たら、その時は、先にズレを感じた方が、背中を押して崖から落とせばいいんじゃね? あるいは寝ている隙に火をつけるのもいい』

『前にも聞いた』

『そうだったっけ?』

『もう三度目』


 彼の言葉の多くが魅力的だった。彼に対し、デビルは素っ気ない対応が多かったが、彼との会話は実に楽しかった。彼の考え方には一目置いていたし、指示の的確さにも感服していた。


 デビルはずっと蹲ったまま落ち込み続けている。そして時折、犬飼との会話の数々を思い出し、良い気分に浸る。しかし思い出に浸っていい気分になっている己の情けなさを自覚し、また落ち込む。


「落ち込むようなキャラだとは思わなかった。何があったのやら」

「何のかんの言ってまだ子供だしね。もろい所もあるでしょ」

「聞くところによると、彼はプラナリアのように自分を分裂できるそうですね。その能力、非常に興味があります。かつて私は、画期的な形でのクローン技術を作れないかと考え、プラナリアの研究をしてみましたが、人に組み込むことはできませんでした」


 そんなデビルの前で、勤一、凡美、ワグナーが会話を交わしている。


(僕がこんな姿を晒していることがそんなに珍しいか。でも勤一の言う通りだ。こんなのは僕のキャラじゃない。悪魔が人に裏切られて落ち込むなんて、滑稽すぎる)


 デビルが立ち上がる。ようやく吹っ切れた。吹っ切るどうこう以前に、やることは決まっている。すでに決めてある。


「あ、やっと動いた」

 凡美が呟く。


(頼みごとをしていた。僕の方から頼んだことだし、このまましょぼくれてはいられない)


 改めてデビルは決意する。やる事はもう決めてある。


「どこ行くの?」

「ケリをつけてくる」


 凡美の問いに、熱と冷たさが同時に宿った眼差しと声で答え、デビルは部屋から出ていった。


***


「ヨブの報酬はケリがついた」


 新居、ミルク、史愉、チロン、澤村を前にして、真が告げる。ミルクはバスケットの中にいる。

「お疲れ様、真君。失敗したら一大事だった大変な任務をよくやり遂げたよ」


 澤村が爽やかな笑顔で労う。


「ぐぴゅう。シメは純子が持っていったんだし、こいつら大して役に立ってなかったんじゃないスかー?」


 史愉が憎まれ口を叩くと、新居が史愉の眼鏡を取り上げる。


「現場にいない者が言うことじゃねーだろ」

「嗚呼……メガネ……メガネ返して……」

「すでにこやつの弱点を見切っておったのか」


 新居が吐き捨て、史愉が弱々しい声をあげて首を左右に振り、チロンは笑っていた。


「追加で来たPO対策機構の兵士が多数、戦闘不能になったのは痛いですね」


 澤村が眉をひそめる。追加の兵士達は、ヨブの報酬との戦闘でかなり消耗してしまっていた。


「取り敢えず休戦協定はここまでだな」

 と、新居。


『祭りは明日の正午からか。準備も急ピッチで進んでいるぞ。このまま手をこまねいて祭りを実行させるつもりですか? 区車亀三が言っていた話が本当なら、祭りの際に転烙市民の命が吸い取られちまう可能性があるってのに』

「力押しで正面から全面対決すると、被害も甚大だ。一般人も含めてな」


 ミルクが伺うと、新居が難しい顔で答える。


「内通者がいる。雪岡にかなり近いポジションのな」

 真の発言に、その場にいる一同が注目する。


「しかしその内通者も、全てを知っているわけではない。赤猫電波が途切れた時に現れた、あの脳の正体も知らないとのことだ。今、色々と探って貰っている」

「そいつは信用していいんスかあ?」


 眼鏡を取り戻した史愉が不審げに問う。


「お前よりはな」

「ぐっぴゅっ。ふざけんじゃねーぞーっ」


 真の答えを聞き、史愉は声を荒げた。


***


 スノーフレーク・ソサエティーの面々が滞在しているホテル。


「ヨブの報酬討伐完了だってさ。これでPO対策機構と転烙市の同盟も終わりだね」


 政馬が報告する。


「同盟以前にも、俺達転烙市のあちこちのホテルに堂々と泊っているのに、よく気付かれないよね」

「流石に気付かれてると思うんよ。ホテルの襲撃なんかして、騒ぎを起こしたくないんじゃね?」


 雅紀の言葉に対し、季里江が考えを述べる。


「それもあるかもしれないが、純子の考えは違うだろうな」


 ジュデッカが微笑をたたえて否定した。


「あいつは祭りまで、積極的に俺達を狩る気が無いんだろうよ」


 そして祭りの時に、派手にぶつかり合うつもりなのだろうと、ジュデッカは見ている。


「ところでお前の親父があっちについちまってるが」

「あの馬鹿親父は見つけ次第殺して構わないんよ」


 ジュデッカが季里江に向かって言うと、季里江は不機嫌そうに吐き捨てた。


「俺達このままずっとPO対策機構や政府に協力し続けるのかよ」


 カシムが政馬の方を見て、不満げな顔で確認する。


「もう勇気がここのトップだからね。そうなるよね」

「純粋な者だけの理想郷を作って、他は皆殺しにするという夢は、もう諦めたのか?」


 政馬があっさりと答えると、今度はジュデッカが尋ねた。


「諦めたよ。勇気がそれを望まないからさ」

 またもあっさりと答える政馬。


「何でもかんでもお前は勇気基準か」

「だから何? それが悪い?」


 カシム呆れるが、政馬は涼しい顔だ。


「あっさり諦めたで済ますのかよ。俺は一度抜けた身だからあまり強く言えねーが、納得していない奴等が多いぞ?」

「政馬、そろそろ代替案を発表してもいいじゃん?」


 カシムが指摘すると、季里江が口を出した。


「代替案? そんなものあったのか」

「代替案ねえ……」


 意外そうに目を丸くする雅紀と、不審げに眉根を寄せるカシム。ジュデッカはすでに知っているので、大した反応は無い。


「これも言ったら反発されそうだけどね。僕はもう決めたし、勇気とも話している」


 政馬が得意げな顔で言う。


「どっか手頃な島で、僕達のための国を作る。穢れた人類を浄化するのは諦めたけど、僕達の理想郷を作る夢は捨てない。純子がいいモデルを作ってくれた。この転烙市がそうだよ。僕達も世俗と隔絶された僕達の国で、文明を発展させよう」

「妥協したわけか。ま、それならいいか。いや、それでもいいか」


 政馬の新たなプランに、カシムは反発することは無く受け入れた。


***


 転烙市市庁舎内にあるレストラン。累、綾音、霧崎、日葵、悶仁郎の五名で、夕食を取っている。


「フェッフェッフッエ、いよいよかねえ。日が変われば転烙魂命祭じゃ」

「いやいや、違うぞ。祭りが始まるのは明日の正午からじゃ。ま、店舗は明日の朝から転烙市の各商店街に出るがのー」


 日葵が言うと、悶仁郎が訂正した。


「ワグナー教授の様子はどうです?」

「クローン研究施設に戻ったきりだ。市庁舎に来るように声をかけたが、応じなかったよ」


 累が誰とはなしに伺うと、霧崎が答えた。


「祭りが始まる前か、それとも始まった後になるか、彼奴等との戦は激しさを増すであろうな。ここが城になるというわけじゃ」


 と、悶仁郎。


「例の装置も準備は出来ているのですね」

「うむ」


 累が悶仁郎の方を向いて伺うと、悶仁郎は頷いた。


「何だね、その例の装置とは」

「極秘事項です。まあ、すぐにわかりますが」


 霧崎が尋ねると、累が微笑みながら口元に人差し指を立てる。


(以前耳にした、エネルギー転送装置とやらのことですね。父上も知っていますが、私や霧崎教授にも教えられていない、秘中の秘ですか)


 累を一瞥し、綾音は思った。


***


 犬飼は若い頃に博打にはまっていたことがある。まだ売れない作家時代に、稼いだ金を尽くつぎ込んではスッていた。

 金が入るようになってから、博打は楽しくなくなった。明日の生活にも困るような状況で、あえて金をつぎ込むから面白いのであって、金に困らない状況でつぎこんでも楽しくない。


 ホルマリン漬け大統領という組織を作り、リアルな物語の創造と題して他人の運命を弄ぶ遊びに明け暮れた。それはとても楽しい一方で、何か物足りなかった。


 ヴァンダムとのゲームと敗北は、犬飼の心に火を灯した。デビルとの出会いも、犬飼の心に大いなる刺激をもたらした。


 そしてデビルという玩具に飽きがきたので、壊して楽しむことにしたが、それは己の身を危険に晒す博打だという事も承知している。

 犬飼は密かに期待していた。デビルが裏切られて壊されかけた事を気付くことを。悪魔を気取って悪意を振りまき、数多の人間を破滅させてきた自分が、信じていた者から特大の悪意に晒されたという事実に気付くことを。そしてそんなデビルが自分の前にやってくることを。


「おっ、来たか」


 体の隆起すら判別しづらいほどの漆黒一色の少年を見て、犬飼は明るい声で迎える。


 デビルはじっと犬飼を見つめていた。いつもと明らかに違う眼差し。いつもとまるで異なる空気を纏って。


「その様子じゃあ、お察しみたいだな。デビル」


 心底楽しそうな笑みをたたえる犬飼に対し、デビルは何も言葉を発しない。

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