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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
96 マッドサイエンティストの玩具箱で遊ぼう
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28

 ネロ・クレーバーは少女の変化を見て、密かに心を痛めていた。年月を経て、彼女は変わってしまった。幼い頃の彼女はもういなくなってしまったと思っていた。


 ある時、ネロが少女と再会した時の話。


 少女は昔のように愛くるしい笑みを絶やさず、口調も明るかった。普通に会話をしていると、昔のままだ。しかし一皮剥けば違う。人を人と思わない恐るべき魔女に成り果てたことを、ネロは知っている。


 ネロは少女と会話を楽しんでいたが、そこで事件が起きた。

 突如発生した地震。倒壊していく建造物の数々逃げ回る人々。

 地震が収まって一段落……ともいかなかった。余震がさらに何度も起こったのだ。


「助けてーっ!」

「ざけんなー! 俺は帰りたいんだーっ! 道を開けろこのガキャー!」

「また来たーっ! 神の御怒りじゃーっ!」

「うちの孫! うちの孫はどこですかーっ!?」


 怒号と悲鳴が交差し、逃げ惑う人々。


「おい、全員俺に従え! 勝手に動くな! おかげで俺が逃げらんねーだろ!」


 ガラの悪そうな男が怒鳴り散らしている。さらには逃げようとしている人々を蹴り飛ばしまでしている。


「これ、余震よりパニックの方が厄介だね」


 少女が言った。民度の低い国故に、そのうち暴動にも発展しかねないと見る。


「おい、お前等こっちを見ろ! 俺の言う通りにしろ! さもないとぶっ殺すぞ! 俺はこの町の領主の息子だって、知らない奴もいるのか!?」


 ガラの悪い男が高台の上に登って喚く。しかしパニックは静まらない。領主の息子は評判の悪いチンピラであり、誰も相手にしようとしなかった。


「あ、あいつはこのままいくと、足を引っ張る要因にしかならないな」


 先程から怒鳴り散らしている男を睨むネロ。


「取り敢えず指導する役の人が必要だねえ。ま、ここは私が名乗りでるかな。パニックも防げるし」

「君が? それなら俺の方が……」


 少女の言葉を聞き、ネロが怪訝な表情で申し出たが、少女は構わず、騒ぎの中へと入っていった。


「何だこのガキグルミミュ!」


 ガラの悪い男が少女に向かって怒鳴りかけたその刹那、少女は手刀を男の腹部に突き刺して殺害した。


 その光景を見て、人々が静まり返る。高台の上だったので目立った。


「えーっと、皆さん静粛に」


 足元の死体を指して、にっこりと笑う少女。


「これから町の皆さんには言う通りにしてもらうよー。皆さんも一緒に助かりたければ、くれぐれも私の指示に逆らわないようにしてねー。この人みたいに、自分勝手なこと言ったり、パニック起こしたりしないように。私が助かるための邪魔になると判断されたら、こうなるからねー」


 少女の呼びかけに全ての住人が耳を傾けたわけではないが、かなりの人数が、パニックの支配から逃れられた。


「き、君が一番不安を煽っているじゃないか」

 ネロがやってきて呆れながら言う。


「でも一発で鎮めたよ? 恐怖を鎮めるには、恐怖の上書きが一番てっとり早いよー」


 少女は悪びれず、先程談笑していた時と同じ笑みを見せる。


(やはり……変わってしまった。しかし、俺はこの子が変わってしまったと嘆きたくない。いや、本質は変わっていないと信じたい。今だって、皆を助けたのだし)


 自分がそう信じたいという都合のいい解釈かもしれないと、ネロは意識している。しかしそれでも、この少女は優しい心を捨てていないと、ネロは自分に言い聞かせ続ける。


***


 純子、累、ホツミ、悶仁郎の四人の姿を見て、真はほっとした。この強者四人組なら、ネロ達二人にも引けを取らないと。


「何じゃい、こりゃあ。血の海じゃぞ」

「うわー、被害甚大。死人怪我人ごろごろー」


 悶仁郎がおかしそうに笑い、ホツミが悲しそうな表情になる。


「真君達、よく頑張ったねえ――って、凄いじゃない。モニカちゃんやっつけちゃったんだ。その子はオーバーライフの中でもかなり戦闘力高い子なのに」

『私の手柄』


 純子が労うと、伽耶と麻耶が揃ってドヤ顔で主張した。


「僕達は休むとしよう。あいつらに任せた方がいい」

「ひゃっはーっ、サボりだー。雪岡先生あとよろ~」

「助かった」「わりと疲れてた」


 真が声をかけると、ツグミ、伽耶、麻耶が胸を撫でおろして後方へと下がる。


「ありがとさままま、真君。ネロさんは……どうしても私の手でケリつけたかったんだ」


 純子がネロを見つめながら言った。ネロも純子が現れてからというもの、純子にのみ視線を注いでいる。


「純子ー、ホツミー、累ー、タスケテー。薄情な真に代わってタスケテー。俺転烙市に寝返るからタスケテー」


 赤いヴェールに包まれたままの熱次郎が、棒読みで助けを乞う。


「ネロさんは私が相手するから、アジモフさんは他の三人でお願い。アジモフさんは空間操作と、陣を張って特殊な効果をもたらす事が得意だから注意してね」

「ほう、何の因果かのぅ?」


 同じく空間操作を得手とする悶仁郎が、純子の忠告を聞いて、アジモフを見やりながら不敵な笑みを浮かべる。


「さ、最後になるかもしれないから、言っておきたいことがある」


 純子と向かい合ったネロが告げる。


「え、ネロさん、ひょっとして告白? それは困っちゃうなあ。ねえ? 真君」

「真面目に聞いてやれよ」


 茶化しながら純子が真をチラ見すると、真は無表情に言った。


「君のことを……魔女になってしまったのかと疑った時期もあった」

「え? 実際魔女だったけど?」

「しかし心まで、堕ちてはいなかった。心まで魔女にはなっていなかった」

「そ、そうかな……。えへへ、今は魔女じゃなくてマッドサイエンティストだしねえ」


 ネロの言葉を受け、純子が照れ笑いを浮かべる。


「それ照れる所なの? やっぱり純子っておかしいよね」

「皆心の中で同じこと突っ込んでると思うな~」


 正美とツグミが言う。


「では……やるか。君を屠った後、俺もすぐに逝く。この都市と共に、き、消える」

「いいねえ、それ。漫画やゲームやアニメでは何度も見て聞いた台詞だけど、現実で私に向かって言われると、嬉しくなっちゃうなあ」


 屈託の無い笑顔で純子が告げた直後、純子の横から青い炎を纏った青い獅子が飛びかかった。


 青獅子に視線をやることも無く、純子は飛びかかってきた青獅子に向かって軽く手をかざすと、青獅子が空中で制止する。

 空間に繋ぎ止められたかのように、空中で固まった青獅子が、手足と首だけを振って懸命にもがく。その間も、純子とネロは互いを見ている。


 ネロが軽く手を上げると、青獅子が姿を消した。


「主の盟により来たれ。第五の神獣、哀叫の駄犬」


 ネロが静かに名を呼び、痩せ細り、毛があちこち禿げ、体中に腫瘍が出来た巨大な犬が現れた。


「何かあれ、見てるだけで凄く可哀想なんだよね」


 ツグミが犬を見てぽつりと呟く。以前にもぽっくり市で一度見た。あの時、ネロは味方だった。


「ぎゃおんぎゃおおおんっ」

「無理だよ。その犬の力でも、私に涙は戻らない」


 吠える犬を見て、純子が小さく息を吐く。


 この犬の声には、悲しみの感情を激しく呼び起こし、行動を阻害する効果を持つ。純子はそれを知っている。そしてネロがそんな犬をここで出した意味もわかっていた。


「殺す前に……試してみたかった」

 ネロが犬を消す。


「お心遣いありがとさままま」

「主に背き者よ、宿れ。第二の魔獣、光切り裂く黒刃!」


 純子が笑顔で礼を述べると、ネロが叫ぶ。


 ネロの姿が変貌していく。体色が甲虫のような黒光りする黒色になった。顔はげっ歯類のようなものに、肘と膝の先は湾曲した黒い刃となる。背中からも湾曲した黒い刃が何本も生えていた。


(記憶の中で見たな。前世の僕と戦った時に、あの姿になった)


 変身したネロを見て、真の中に様々な感情が吹き荒れていた。


「さて、こちらもやりましょうか」

「やろうやろう」


 アジモフの側に移動した累が、アジモフに声をかける。空中に浮かんだホツミが笑顔で頷く。


「三対一か? どっこいしょっと。拙者はしばしさぼたーじゅさせて頂くかのう」


 悶仁郎は地面に腰を下ろして、戦いに加わろうとしない構えを見せる。


 アジモフは無表情のまま、透明の宝石を取り出し、顔の前にかざした。

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