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転烙市の数ヵ所の繁華街で、PO対策機構の陽動班と、駆けつけた転烙ガーディアンとの戦闘が発生している。
オンドレイ、正美、シャルル、李磊がいる班は、かなりの激戦になっていた。PO対策機構側も数が多いが、投入された転烙ガーディアンの数も多い。
様々な能力が飛び交い、双方に何名もの犠牲者が出ている。
「んー……あっという間にこの惨状。最初は何が何だかわからないうちにやられていった……って感じだったねー」
路上に転がる敵味方の様々な死因による骸を見やり、シャルルが呻く。
犠牲者の多くはファーストコンタクト時に生じている。その後は双方が物陰に隠れ、遠距離攻撃をしあい、その際もそこそこの犠牲者が出ていたが、遭遇時ほどではない。
そして時間の経過と共に、次第に互いの攻撃の手が緩んでいき、とうとう転烙ガーディアンから攻撃がされなくなった。
「収まったか?」
オンドレイが物陰から身を乗り出す。そしてすぐに引っ込める。
「こっち大分やられちゃったよ。半分近くとられちゃってる。ひどくない? ひどいよね?」
仲間の亡骸を見ながら、いつもの調子で憤慨する正美。
「どうもこちらの勝利のようだな」
「そうみたいだ。気配無いし。知らないうちに全滅させていたみたい」
再び物陰から身を乗り出したオンドレイが言い、李磊も敵の気配を探りながら同意した。
「ああ、糞。援軍だ。空から新たに来やがる」
PO対策機構の兵士の一人が毒づく。遠視が出来る能力者だった。
空の道を通って、新たな転烙ガーディアンの兵士が複数名現れる。
「遅かったみたいだ」
「そーだな。救援聞いて駆けつけたらすでに全滅とか、16ポイントは引いておかないとな」
「それは誰から引くポイントなの?」
「俺達が来るまでもたなかったこいつらにきまってるだろ」
転烙ガーディアンの亡骸と、PO対策機構の面々を見やりながら、援軍として駆けつけた柚と蟻広が喋っていた。
***
凡美は勤一の支援から、石像への対処に回った。
「本っ当、厄介な能力っ」
暴れ回る石像と交戦しながら、忌々しげに吐き捨てる凡美。敵のすぐ側に――相手陣営の中に問答無用で複数の石像を出現させるというマリエの力は、集団戦ではこのうえなく有効だ。ましてやそれが、遠隔攻撃特化の後衛の間に出現させたとあれば、尚更だ。
石像だけではない。巨大なタコの触手が何本も地面から生え、直接転烙ガーディアン陣営を襲っている。熱次郎の能力だ。マリエよりかは射程距離が短いが、それでも今いる位置からなら届いた。
「私一人でこいつはしんどいっ、誰か前衛出来る人いないの!?」
勤一の攻撃を必死で凌ぎながら、悲鳴に近い叫びをあげる十一号。
「任せて」
ツグミが応じ、デブウサギ、叫乱ベルーガおじさん、影子の、三体の怪異を出現させる。
(いきなり敵が増えやがった。しかも人間じゃないし)
突然すぐ側に三体の怪異が現れて襲ってきたので、流石の勤一もたじろいだ。
「ばーりあっ」「でぃっふぇーんす」
浜谷が眠りの矢を続け様に放つが、伽耶と麻耶が作った不可視の防壁に当たり、矢は光の粒となって霧散する。それがもうすでに何度も行われている。
「うむむむ……私は自分の能力に自信があったが、こうも簡単に防がれてしまうとは……」
眠りの矢を尽く無効化され、浜谷は悔しげに唸る。
「加勢が来てから劣勢になってなーい?」
殺された仲間の死体の肉を利用し、カワセミを補充していきながら、一華が緊張感の無い声をあげた。カワセミの多くは、真、美香、エンジェルの銃撃によって落とされていたが、その分すぐに補充している。
「向こうの方が強そうですね……。無念ですが、これ以上の犠牲を出す前に、撤退した方がよいでしょう。というわけで――撤退! 撤退!」
浜谷が叫んだその時だった。
「キュアアァアァッ!」
叫乱ベルーガおじさんの渾身のアッパーを受け、勤一の体が大きくのけぞって倒された。
「とどめぇ!」
影子が残忍な笑みを浮かべながら、倒れた勤一めがけて飛びかかる。
「ギャアッ!」
その影子を、凡美が口から吐いたビームが貫いた。影子の腹部に大穴が開き、影子は悲鳴をあげた直後にゆっくりと消滅する。
「影子、油断するからだよ」
ツグミが顔をしかめる。
(いつも貴方を見ている。護れるように。もう……失わないように)
凡美が勤一を見ながら、口の中で力強く呟いた。石像と交戦しながらも、勤一の方に注意を払う事も忘れてはいなかった。
「糞……」
身を起こす勤一。浜谷の撤退指令は耳に入っている。戦況が不利な事もわかっている。しかしここで退くことが悔しくてたまらない。
「すまんこ。撤退は撤回してー」
その場にいる多くの者が知っている声が響いた。
「あ、貴女達は……」
現れた二人組を見て、浜谷が呻く。白衣を着た少年と少女だ。
「純子、まさかのここでお出まし。魔が差した?」
「何故ここに純子が!?」
唐突に現れた純子とネコミミー博士を見て、来夢が興味深そうに微笑み、美香は驚きの声をあげていた。
「大して深い意味はないよー。暇だから遊びに来ただけだよー。私の知り合いが多く、集まってくれているんだしさ」
一同を見渡して、いつもの屈託の無い笑みを浮かべる純子。
「唐突なラスボスかまってちゃん」
「心の準備できなかったから、少し動揺はしてる」
鼻白む麻耶と伽耶。
「ネコミミー博士も来たのか」
「う、うん。純子さんに誘われて……」
熱次郎が言うと、ネコミミー博士は躊躇いがちに頷いた。
「この前はやってくれたな。逃げようとした所を邪魔してくれて」
「ごめんね。でも仕方ないし、今はもう逃げられたからいいじゃない」
「よくない。あの時の借りを返してやる」
謝るネコミミー博士であったが、熱次郎は聞く耳を持たず、臨戦態勢を取る。
「遊んでくれるよねえ? 真君?」
「ああ」
純子が真の方を見て問いかけると、真は一瞬だが確かに微笑を零して頷いた。
***
陽動班の一つであるバイパー、桜、つくし、ミルクの四名も、転烙ガーディアンとの戦闘に入った。
そして二分も経たないうちに転烙ガーディアンは退散した。
「敵、少なかったね」
意外そうに言いながらも、未だ警戒を解かず、刀も収めない桜。転烙ガーディアンの数はたった五名で、形勢不利となると退散していった。
「犠牲が出る前にすぐ逃げたのは賢明と言ってやるが、こっちが少数と見て、向こうも数を出し惜しみか? 俺達のことも知らないのか? もっとちゃんとした駒を揃えて楽しませろってんだ」
バイパーが獰猛な笑みをたたえてうそぶく。
『おい、粋がってるそこの馬鹿。純子が私達のことを監視していないはずがない。油断は禁物だ。桜の方がまだわかってる』
「油断はしてねーよ。つまらねーのは事実だ」
ミルクの台詞を聞き、バイパーは笑みを消して言い返す。
『今、情報が入った。美香達が担当している場所に真達が移動した後、何と純子がおでましだとさ』
「大将自ら出陣かあ。ヨブの報酬のシスターって人もそうだったらしいけど、出しゃばり人っているのねー」
ミルクの報告を聞き、桜がおかしそうに言う。
『私だってお前等の大将ですけどね。推測だが、純子か誰か、私を知る者が、ここに私がいるのを見抜いたうえで、ここに少数だけ派遣し、すぐ撤退させたんだろう。バイパー程度であれば、もっと大人数投入して押し切る』
「はいはい、すごーござんすね、この糞猫は。主に自意識が」
ミルクが言い切ると、バイパーは皮肉たっぷりな口調で言い返した。
***
「純子まで出張ってくるとはねー」
現地の報告を聞いて、義久が眉根を寄せる。
「昔からわりとそういう奴だったよ。後ろで黒幕気取りしているかと思えば、適度にちょっかいもかけてくる」
かつてサイモンと共に純子を師事した新居は、懐かしそうに微笑む。
「よし、いい頃合いだな。空の道を通っている転落ガーディアンも、今はいない」
新居がホログラフィー・ディスプレイを覗き、メッセージを入力する。
「赤猫電波発信管理塔急襲班、突入――と」
同室にいる義久と犬飼にもわかるように、送信した指令内容を口にした。
「勇気とスノーフレーク・ソサエティーにも赤猫電波発信管理塔に行って貰うとするか」
「何かそれ遊軍にした意味、いまいち不明だったな」
新居の決定を聞き、犬飼が苦笑気味に言う。
「そんなことはない。陽動で使う機会が無ければ、本命に回すつもりだったからな」
新居の返した言葉が、どうにも後付け臭く犬飼には聞こえた。




