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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
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15

 陽が落ちた。

 同じ部屋にて、イヤホンをつけて音楽を聴いている凡美を、勤一はちらちらと見ている。


「ん? どうかした?」


 一曲聞き終えた凡美が勤一の視線に気づき、イヤホンを外す。


「凡美さん、音楽聴いている時はいつも上機嫌だな」

「え? そう見える?」


 勤一の指摘を受けて、意外そうな顔になる凡美。


「自然と微笑んでいる。遠くを見ている感じでさ。どんな曲聴いてるんだ?」

「言うの恥ずかしいわ」

「月那美香の曲じゃないだろうな?」

「冗談でしょ。あんな薄っぺらいの。大嫌い。ああ、でも一時期暗い曲が多かったわね。あれは好き」


 嫌いと言いつつもちゃんとチェックしてるのかと勤一は思ったが、それは口にしないでおいた。


「音楽は心を洗い流してくれる。自分が一番好きだった時間を思い起こせる」


 夢見るような眼差しで虚空を見上げる凡美。


 勤一は凡美の言葉を聞いて、ふと思った。


「その音楽を作ってる人達も社会の側なんだよな。そして俺達はパブリック・エネミーだ」


 複雑な気分になって、勤一が呟く。凡美もその言葉を受けて、表情を曇らせる。


「凡美さん……情けないこと言うようだけど、もし時間を巻き戻せるなら、俺達がこんな風になった色々な理由が無くなったら――そうなって欲しいと思う」

「それは絶対に……そうよ。誰も私達をいじめなければ、勤一君のような優しい人に先に巡り合えていたらと思うわ」

「お、俺、優しい……?」


 凡美の台詞を受けて戸惑い、うわずった声をあげる勤一。


「ま、まあ……俺も同じだ。今からやり直すってのは、俺は無理だけどな」

「私にもできないわ。心の中で、憎しみと怒りの火がいつも渦巻いている。音楽を聴いている時と、勤一君と喋っている時だけ落ち着くけど」

「う……うんんっ、うほんっ」


 凡美の台詞を受けて狼狽し、咳払いをする勤一。


「照れてるの?」

「ベ、別にっ……」


 にっこりと笑う凡美に、勤一は露骨に顔を逸らす。


(凡美さん、随分攻めてきてるような……。困るな……)


 相手にそういう意識があるのかと思うと、嬉しい反面困る勤一である。


「平穏な日々を過ごしたいと思うことは何でもあったよ。山の中を吉川や明智と一緒に逃げていた時は、特に思った」

「あれは中々しんどかったわね。でも……明智君は小柄で、ちょっと凡助に似てるところあって……懐かしい気分になったかな」


 寂しそうな笑みを浮かべてうつむく凡美


「今聴いてた曲……あの子も好きだったんだ。よく聴いてた」


 凡美の目がうるむ。


「会いたいな……あの子に……凡助に……。凄く会いたい。でも……もう二度と会えない……」


 ぽろぽろと涙をこぼし、震える声を出す凡美を見て、勤一は自然に体が動いた。

 勤一は凡美の隣に座ると、軽く肩に手を添えて抱きよせる。

 しかしそれ以上のことは何もしようとしない。


「それだけでいいの?」

「え……?」


 凡美に問われ、勤一はぎくりとした。


「勢いに任せて押し倒しちゃってもいいのに。それとも私、好みじゃない?」

「いや、そうじゃなくて……そんなことじゃなくて……」


 凡美に問われ、勤一は返答に困る。


「今のムードで押し倒すのはどう考えてもおかしいよ。据え膳食わぬは男の恥って言うが、泣いて悲しんでいる凡美さんにそんなことするのは変だろ」


 取り繕っても仕方ないので、思ったことをそのまま口にする勤一。


「そうなのかしらね……? よくわからない。私ちょっと混乱してたかな」

「それに、好みじゃないということはないけど……そのさ、気を悪くしないでくれ。俺はもう女を抱く気が起きない。トラウマがあって怖い」


 口にするのは抵抗があったが、勤一は吐露した。


「俺は凡美さんが嫌じゃなければ、凡美さんの側にいる。それだけじゃダメか?」

「いつまでいてくれるの?」


 凡美に問われたその時、何故か勤一の脳裏にデビルの言葉がよぎる。


「世界を焼き尽くすまでは一緒だ」

「焼き尽くした後も一緒にいてほしいな」


 勤一が静かに告げると、凡美は甘えた声で言った。


***


 夜の十時。

 鳥山正美、オンドレイ・マサリク、シャルル、李磊は陽動部隊の一つとして配置につく。


「正美とオンドレイと仕事するの、爆弾の奪い合い以来かな~? あの時はアドニスと葉山もいたけど、葉山は死んじゃったねー」

「アドニスはPO対策機構に入っているぞ。何度か見かけた」

「アドニスさんも来れば心強かったのに。凄く残念。本当に残念。ていうか、あの強い葉山さんが殺されちゃうとか信じらんない。しかも殺したのが真でしょ。どう考えても葉山さんの方が強そうなのに」

「勝負とはわからぬものだ。格上と思える方が必ず勝つわけでもない」

「だよねー。でも真が成長しているみたいで俺は嬉しいよ」


 シャルル、正美、オンドレイが楽しげに喋っている一方で、李磊だけが無言になっている。


(俺だけ会話からハブられてる感。とほほ)


 他三名が共に仕事をした事のある知己で、話が盛り上がってしまっているので、自分が話に入ることが出来ず、孤立感を味わっている李磊であった。


 この陽動班は人数が多めで、オンドレイや李磊だけが配属されているわけではない。PO対策機構の兵士が多くいる。


「ここのラインナップは凄いな。かつての裏通りで名の知れた強者が二人もいる」

「オンドレイさんはワールドクラスだろ」

「あのシャルルって人は裏通りでも名をあげていたフリーの始末屋だったが、PO対策機構にも来たのか」


 他の兵士達が、オンドレイ、正美、シャルル達を見て、ひそひそと噂する。


「何か噂されてるね~」

 シャルルが微苦笑と共に呟く。


「でも俺の噂だけ聞こえてこなーい。へんっ」

「李磊は工作員だから有名になっちゃ駄目でしょー」


 李磊がひがみっぽく言うと、シャルルが突っ込んだ。


「ここにある店舗とか、飾りつけとか壊してまわればいいんだよね?」


 正美が周囲を見渡して伺う。一同がいるのは繁華街だ。すでに祭りの店舗が出来上がっている。


「そういうことだな。転落ガーディアンだとかぬかす敵兵士が出てきても、無理せず戦う程度にしておけと言われている。そしてそいつらが出るまでは、破壊活動に従事しろとのことだ」


 オンドレイが作戦内容を改めて伝える。


「どれくらい破壊できるんだろう。全部壊しきれるか?」

「火つけちゃっていいの?」

「火事になるようなことはやめろって指示見てなかったのか?」


 PO対策機構の兵士達も破壊工作の程度について話し合う。


「うわ……これ壊すのかあ」

 李磊が渋い顔をする。


 李磊の視線の先にあるものを見て、オンドレイと正美も眉をひそめ、シャルルは苦笑いを浮かべていた。

 明らかに子供達が描いた、転烙市の風景の絵。粘土細工の出し物が置かれている。


「子供達の手作りか……どする?」

 シャルルが一同を見渡して確認する。


「私は反対。これだけ壊さずに避けておこう。もし壊した奴がいたら私ぷんぷんだよ。頭にきちゃうよ」


 正美が釘を刺すようにして告げる。


「そういう私情を仕事に持ち込むな……と言いたい所だが、それくらいなら持ち込んでも構わんか」


 オンドレイまでもが同意したので、他の兵士達も合わせるほか無かった。

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