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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
3214/3386

3

 熱次郎、ツグミ、伽耶と麻耶の四人は、勧誘員の浜谷に指定されたビルへと赴いた。


 市庁舎近くにある高層ビルの一つに入る。受付で名乗ると、すんなりと奥へ通された。すでに浜谷が手続きをしてくれていた。


 建物の廊下を歩く。四人は面接のために会場に向かっている。

 面接はほぼ形式的なものであるが、一応能力の所持者であるかどうかテストするとのことだ。全ての能力を見せなくてもいいと浜谷に言われた。


「うわ、いっぱいいる~」


 ツグミが声をあげる。四人が通された会場広間には、大勢の老若男女でひしめいていた。間違いなく百人以上はいるよう見える。


「人の多い所は嫌だな」

「それでなくても有名人」


 伽耶と麻耶は非常に居心地悪そうだった。好奇の視線が集中している。


「あ、あの二つ頭の子、第百二回死民戦挙で硝子山市長と戦った子じゃねーか」

「実はPO対策機構だったっていう噂だぞ。それなのにどうしてここに?」

「ここにいるってことは、PO対策機構からこっちに鞍替えしたんでしょ」

「確かにそうだな。そうでなければここに通されないだろ。強さは証明済みだし、心強いな」


 会場にいる者達は伽耶と麻耶を見てあれこれ囁いている。その声は四人にも届いている。


「伽耶と麻耶の評価、悪くないみたいだぞ」

 熱次郎がフォローのニュアンスも込めて言う。


「そんな高評価受けてもねえ。しかも誤解もされているし」

「ふっふっふっ、朕を崇めて奉れ、愚民共」


 伽耶は渋い顔のままだったが、麻耶は鼻息を荒くして歪な笑みを浮かべていた。


「伽耶は慎み深いけど、麻耶はすぐ調子に乗るんだな」

「なん……だと……小僧……」

「はい、全くその通りです」


 熱次郎の言葉を聞き、麻耶が憤怒の形相になり、伽耶は深く頷く。


「でもここの人達、私達を見ても気味悪がる人の度合いが少なめ」

「ゼロってわけでもないけど、でも一般人よりは少ない」


 伽耶と麻耶がそれぞれ周囲を見渡して言った。


「そんなことわかるんだ~?」

『わかる』


 感心するような声をあげるツグミに、同時に頷く姉妹。


「迫害された経験の奴も多いからじゃないか? 自分も他人に同じようなことをしたくない。差別の目で見たくないからじゃないか?」


 声をかけたのは四人の中の誰でもない。近くにいた青年だった。四人が青年の方に視線を向ける。


「少なくとも私は勤一君が今言った通りね。人を見た目や境遇で差別したいとは思わないわ」


 青年の横にいる三十代と思われる女性が、青年に同意した。


「ここに集まった多くはサイキック・オフェンダーでしょ。そしてサイキック・オフェンダーになった人達は、世の中にいじめられたことのある人が多いのよ」

「納得」「そういう人が多いのね」


 女性の言葉を聞いて、安心感と共感を覚える伽耶と麻耶。


「うーん……私も学校でいじめられていたなあ。あははは……。しかも能力覚醒させてから仕返しに、いじめてた子を殺しちゃったし」


 ツグミが自虐的な笑みを浮かべて言う。


「よくあるパターンだし、悪いことじゃないだろ。引きずらない方がいい」

「そうよ。気に病まなくていいわ」


 とんでもないことを言っているツグミに対し、青年と女性はあっさりとした口調で慰めの言葉をかけた。


 それから六人はそれぞれ自己紹介をする。青年は原山勤一。女性は山駄凡美と名乗った。


「俺は世の中っていうか、生れたその時から境遇が酷かったな」

「それなら世界に虐げられたと言い直してもいい」


 熱次郎のぼやきに対し、勤一が告げた。


「俺も……俺は世界から虐げられたんだ」

 隣の凡美を一瞥して勤一が言う。


「罵られ、蔑まれ、いじめられ、疎まれて、不要と断じられ……。ただ不器用だったから、馬鹿だったから、運が悪かったから、劣っていたから、世の中の奴等に否定され、拒まれ、嬲られ続けた。人の痛みも、悲しみも知らず……いや、知ってて痛めつけてくるのか? わかっていてなお人の心を蝕んでくるのか? 俺達はそこまでやられなくちゃならない悪なのか? 世界にとって俺達はいらない存在なのか? だとしたら世界こそ俺達にとっての敵だ」


 長々と恨み言を口にする勤一に、四人は複雑な気分だった。勤一の深い憎悪も、後ろ向きな姿勢も、安易に否定できない。


「でもさ、その世界を蹂躙する力を、俺達は手に入れた。立場は逆転した。俺達をいじめていた奴等、罵るであろう奴等、蔑んだ目を向ける奴等を、逆に俺達がぶち殺してやれる。だから、殺せるだけ殺してやる。世界に火を放ってやる。世界を焼き尽くして――」

「サイキック・オフェンダーは、そんな人達の集まりよ。ぽっくり市の……オキアミの反逆のボスの陽菜ちゃんも、私達と同じだったと思う」


 勤一がくどくなってきたし、初対面の四人の少年少女が引き気味であることを見て、凡美が強引に割って入った。


「貴女達もこっち側みたいだし、これからよろしくね」


 にっこりと笑う凡美だが、熱次郎も伽耶も麻耶も鼻白んでいた。ツグミはあからさまに暗い面持ちになっている。


「そういう意味では同じ側と言える」「世界から爪はじきされる被差別者」


 伽耶と麻耶が同時に言った。


「確かに私も……こっち側。貴方達二人と同じだと思う。貴方達がどうしてそうなったかは知らないけど、今の話を聞いただけでも、私も気持ちわかるよ。私、今言った通り、いじめられてたし、そのうえクラスの皆の前で自殺しようとしたし」


 ツグミがぼそぼそと語りだす。


「私は麻耶のせいでいつも変な目で見られて、差別される」

「ちょっと伽耶……それ私の台詞」


 伽耶の台詞を聞いてむっとする麻耶。


「でもさ、私は悪いことばかりじゃなかったんだよね。自殺しようとした後で、クラスの皆は、私への接し方を変えて、優しくなったもん。友達も出来たもん。だから……ごめんなさい。同じ側だけど、微妙に違う側でもあるの。気持ちはわかるけど、私は……いや、私も伽耶と麻耶さんも、そっち側にはいけないよ。ごめん」


 突然深々と頭を下げるツグミに、困惑気味の表情になる勤一と凡美。


「いきなり謝った」

 伽耶が苦笑いを得浮かべる。


「ていうか、そんなことここで言うのは……」

「あ……」


 麻耶の台詞を聞き、はっとする伽耶。


「俺はハブかれるのか」

「あ、忘れていたけど熱次郎君ね」


 肩を落とす熱次郎に、ツグミが付け加えた。


「こっちに来られないというなら、何でここにいるの?」

 凡美が問う。


「そうなるよね」「言われると思った」


 衝突の予感を覚えつつ、揃って溜息をつく牛村姉妹。


「えーっと……それは~……あっ、真先輩」


 何とか誤魔化そうと頭を働かせていたツグミが、会場入り口に入ってきた真の姿を捉えた。


「先輩こっちーっ」

「真こっちーっ」

「麻耶キモい」


 ツグミが弾んだ声をあげて手を振ると、麻耶もツグミを真似て同じ声をあげて手を振り、伽耶は憮然とした顔で吐き捨てた。


 真がツグミ達の方を見て、その近くにいる二人の男女を見て、頭の中で眉をひそめる自分を思い浮かべる。


(原山勤一と山駄凡美じゃないか。東で散々お騒がせだったうえに、西に落ち伸びて、ぽっくり市でもオキアミの反逆に肩入れし、今度は転烙ガーディアンか)


 東のA級サイキック・オフェンダー二人の姿を確認しつつも、真は堂々と接近する。


「相沢真……こんな場所に堂々とよくもまあ……」


 先に勤一の方が声をかけた。敵意を露わにした顔だ。


「僕を知ってるのか」

 真が勤一を見上げる。


「そりゃあ有名人だしな」

「そっちほどじゃないよ」


 勤一の言葉に対し、言い返す真。


「この人有名人?」

「私は知らない」


 勤一を見て、伽耶が問い、麻耶が言う。


「東ではA級指定サイキック・オフェンダーとして、PO対策機構と散々やりあった強者だよ。名前と顔だけは知っていた」


 真が勤一の素性を教える。


(でも、実際に見てみると、そんなに毒のある奴等には見えないな)


 勤一と凡美をそれぞれ見て、真は思った。


「僕がここにいるのは勧誘されたからであって、不自然なことはないぞ」

 真が告げる。


「PO対策機構から、サイキック・オフェンダーに鞍替えするの?」

「サイキック・オフェンダーになる気は無い。転烙ガーディアンに鞍替えするだけだ。ちゃんと手続きも取ってある。こいつらとセットで入れられるようにしてもらったから、ここにいるんだぞ」


 凡美に問われ、真は答えた。


「そ、そうか。言われてみれば……PO対策機構がここにいるはずもないよな。入れるわけがない」


 真のあまりにも堂々とした態度を見て、納得してしまう勤一。


「念のため雪岡にも電話して許可してもらえるかどうか、確認をしよう」

「ええっ」「マジ?」

「それはどうなんだ……」


 真の台詞を聞いて、伽耶と麻耶が驚きの声をあげ、熱次郎が呆れる。


 真は構わず電話をかける。


「雪岡、今新しく出来たばかり転烙ガーディアンの選考会場にいるんだ。僕達もここに入ろうと思って」

『ええええええっ!?』


 電話の向こうから純子が驚く声が聞こえた。


「純子、思いっきり驚きの声あげてるじゃないか」

「こっちにも雪岡先生の声、聞こえたね」


 熱次郎が半眼で呟き、ツグミがおかしそうに微笑む。


『どういう風の吹き回しというか……何でそこにいるの。真君、一応私の敵なんだよ?』

「つまらない台詞を言ってくれるなよ。お前らしくもない。でもその調子じゃ駄目なのかな? 一応ここの責任者であるお前に断りも入れようと思って、電話したんだぞ」

『何か事情があるってこと?』


 純子の確認に、真は少し思案する。


(上手いこと深読みしてくれたけど、それを利用してこいつに嘘をつくのは嫌だな)


 そう思い、真は正直に述べることにした。


「気になるから調べるだけだ。そもそも僕達揃って、そっちの勧誘員に勧誘されて、こうしてここにいるんだぞ」

『んー……』


 純子が唸る。純子も思案する。


『じゃあまたつまらないこと言わせてね。転烙ガーディアンは、PO対策機構と戦闘を前提にして作った組織なんだよ? 君はどっちにつくつもりなの?』

「それはそうなった時のお楽しみだ」

『はあ……真君も言うようになったねえ。すまんこ。容認できないよ。内部に入った状態で、転烙ガーディアンの人達を後ろから撃つような真似するかもしれない君達を、そのまま放っておけないもん』

「そこまで外道な真似を僕がすると思うか?」

『思ってるよー。私だったらやるし。あと内情偵察させるのも認められないし、いくらなんでも遊びすぎだってばー』


 柔らかな口調だが、純子は断固として拒む構えだった。


「ちゃんと筋を通して、お前に断りを入れているんだから認めろよ」

「すっごい強引な捻じ込み方……」

「真らしくて素敵」

「純子も困ってるだろうな……」


 真の押しの強さに、伽耶と熱次郎は呆気に取られていたが、麻耶は瞳を輝かせていた。


『せめてどうしても必要な事情があるなら、その事情次第で認められるけどさあ……』

「そうだな。今度は事情を作ってくる。今回は諦めておく」

『すまんこ。真君、ちゃんと私に声かけて断りを入れてきたのは、何か凄く嬉しかったよ』

「そうか。僕も正直嬉しかった。お前の声聞けただけでもな」


 心の中で微笑む自分を思い描く真。


「何かいちゃいちゃしてないか?」

 二人のやり取りを聞いて、熱次郎が囁く。


「どう見てものろけてる。ヘイ、麻耶っ、コメントして。今の麻耶のコメントが凄く聞きたいのっ。ねえ、お願いっ、どうぞっ、プリーズっ」

「アーアーキコエナーイ」


 伽耶が意地悪い顏で麻耶に声をかけるが、麻耶は片方の耳に指を入れてそっぽを向く。


「麻耶さん、死んだ魚の目で現実逃避っ」

「死んだ魚の目になっている時点で逃避しきれていないとも言える」


 ツグミと熱次郎が言った。


 真が電話を切る。


「そういうわけで、雪岡の許可は下りなかった。帰ろう」

「お邪魔しましたー」


 真が踵を返し、ツグミが勤一と凡美に一礼した。


「待てよ。つまりはやっぱりPO対策機構ってわけか? それならただで帰すわけにはいかなくなるぞ。ていうか、何だよ……今の茶番は……」


 勤一が呆れ顔で引き留める。


「雪岡純子の殺人人形なんて通り名の時点で、親しい間柄なのはわかるわ。今は理由があって対立している所だけど、本気で憎み合って殺し合う間柄ってわけでもなさそうね」


 凡美がやり取りを聞いて、冷静に言った。


「はいはい、ここで争いをしても面倒なだけだと思いまーす」

 ツグミが両手を広げて訴える。


「それにさ、ここでやりあわなくても、勤一さん凡美さんとはまた会って、その時は戦う予感するなー。でも、お二人は……話を聞いていて、半分? 途中まで、私と同族なんじゃないかなーって。伽耶さんや麻耶さん、熱次郎君とも。だから……」

「言いたいことはわかるわ。全部言わなくてもいい。それ以上話すと、戦う時にすごくやりにくくなっちゃうでしょ」


 ツグミの訴えをきいて、凡美は柔和な笑みをたたえて告げた。それを聞いたツグミも微笑み、無言で頷いてから背を向ける。


 真達五名が会場を立ち去る。


「凡美さん、あれ」

 会場の中に知り合いを発見し、勤一が指した。


 相手も気付いたようで、勤一と凡美の方を向いて、歯を見せてにかっと笑い、軽く手を振ってくる。

 ボーイッシュな服装の、ミディアムボブの小柄な少女だった。目の下にうっすらとクマがあるが、顔立ちは整っている。


「やっほ~、ここに来てたんだあ。奇遇~」


 眠たそうな声をあげ、しかし笑顔で勤一と凡美の方に小走りに駆け寄ってくる少女。

 少女の名は泡崎一華といった。勤一と凡美が転烙市に来るまでに関わったサイキック・オフェンダーで、ちょっとした騒動に巻き込まれた際、二人はこの少女に味方した。

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