表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
93 マッドサイエンティストの箱庭で遊ぼう
3177/3386

31

 みどりは犬飼と義久と会うことにした。直接会ってこれまでの経緯を報告し、PO対策機構の助けを借りて、真達の救出を要請するためだ。

 三人は、駅前喫茶店で合流した。


「目立つ場所だけど、大丈夫なのか? 追われているんだろう?」


 義久がみどりに問う。


「ふわ~、狙われているから、人の多い場所の方が安全だしさあ」

「そんなのお構いなしに襲ってきそうじゃないか?」


 みどりが言うと、犬飼が苦笑気味に突っ込んだ。


 それからみどりは、これまでの経緯を二人に話す。


「つまりここはどこにいても、純子の監視の目が光っている可能性があるし、設備を利用しようものなら、即バレでヤバいってことか」


 みどりの話を聞いて、犬飼はそう結論づける。


「PO対策機構の連中にも報告しておかないとな。転落市内に入った時点で、情報の伝達も出来るようだし。つーか、すげえ貴重な情報を身を張ってゲットしてきて、お手柄だぜ」

「ふぇ~……そういう言われ方するとイラっとするわ~」


 笑顔で褒める犬飼だが、みどりは憮然としていた。


「取り逃がしたとはいえ、みどりも狙われているんだろ? そして転烙市内のどこにいても監視されているんなら、ここから出た方がいいんじゃないのか? いつまた誰に襲われるかわからないだろう」


 義久が危ぶむ。


「イェア。よっしーの言う通りなんだけどね。でも街中のどこにいても、ずっと監視され続けるってのは、ちょっと考えにくいかなあ。それは流石に監視する側が大変すぎるべー」

「見つかってないならそうかもな。でも一度見つかったらマークされ続けるんじゃないか? そういうシステムは、先進国で備えているっていうしさ。街中にある監視カメラと自動照合――」


 喋っていた義久が途中で言葉を止めた。みどりの表情も険しくなる。


「ヘーイ、綾音姉、しつこくね? しかもいい歳こいてパパに助太刀頼むとかさァ、みっともなくね?」


 喫茶店の中入ってきた綾音と累を見て、みどりが不機嫌そうな口振りで挑発する。


「パパ?」

「累がそうらしい。あれでも五百年以上生きてるそうな」


 訝る犬飼に、義久が説明した。


「いや……累が長生きなのは知ってたけどさ、あんな可愛い娘さんが……。見た目だけだと姉と弟だな」


 綾音と累を見ておかししそうに笑う犬飼。


「人の多い場所でも関係無く来たぞ」

「ふぇ~……そうみたい」


 義久が言うと、みどりは苦笑いを浮かべつつ、覚悟を決めた。


(そっちがその気ならこっちにも考えがあるぜィ)


 非情な手段を思い浮かべ、実行することを決意するみどり。


「人の多い場所だと巻き添え出さないために、襲撃も無いと考えていたけど、綾音姉も見境無く人を殺すクチだったんだ?」

「私はそのような行為に及びませんよ。みどりが人を盾にしない限り、巻き添えの被害を出さないように注意して戦います。店に与えた損害は、あとで市に弁償して頂けよろしいでしょう」


 みどりの指摘を受けた綾音が、穏やかな口調で告げる。


「人喰い蛍」


 一切の会話を行わず、累がいきなり妖術を用いる。累を覆いつくすほどの小さな光滅が出現し、みどり達のいる席に飛ばす。


「おいーっ!」

「わわわ」


 犬飼と義久が大慌てでテーブルの下に避難する。特にみどりの隣に座っていた義久は肝を冷やした。光滅は全てみどりを狙っていたからだ。


「ヘーイ、よっしー薄情だなァ。ここは身を挺して女の子をかばう場面なんじゃね?」


 転移して避けたみどりがおどけた声で言う。みどりは累と綾音の背後に転移していた。


「黒髑髏の舞踏」


 累と綾音が振り返った時には、みどりは術を発動させていた。


 喫茶店内が大量の黒い骸骨で溢れかえる。客のいる席の上にも客の上にも髑髏がひしめき、累と綾音に向かって殺到する。


 累と綾音は店の外へと転移する。店内で黒髑髏を対処しようとなると、どうやっても無関係な客や店員を傷つけることになると、二人して判断した。そしてみどりも二人がそう判断して店の外に出ることを狙って、いきなり雫野流妖術の奥義である黒髑髏の舞踏を用いた。


 黒髑髏達は店の外に飛び出し、累と綾音を追う。


「赤饅頭」

「捻くれ坊主」


 累が巨大な真っ赤な赤ん坊の頭部を呼び出し、綾音は僧服を着た長く伸びた肉バネを呼び出した。


 捻くれ坊主が高速で跳びはね、次々と髑髏を潰していく。4メートルを超えるサイズの真っ赤な赤ん坊ヘッドは、群がる黒髑髏に突き刺された箇所から腐食液を噴出して、黒髑髏を月々と腐れさせていく。


(捻くれ坊主も赤饅頭も、通常のよりサイズがデカいし、性能もいい。術を改良強化してやがるんか~)


 不敵に笑うみどり。


「上っ等ッ。あたしにも切り札があるんだよォ~」


 みどりは意識を心の内面深くへと向けた。そして、心の中にある扉を開く。


(友達……百人できるかな? 何でも言うこと聞く友達……)


 古い思念が呼び起こされる。遥か昔の自分の思念。何代もの前世の魂。千年前の自分の思念と能力を蘇らせる。


「え?」


 店の中から、黒髑髏に紛れて店員や客が飛び出してくる様を見て、累が怪訝な声をあげた。

 店員も客も、生気に欠けた顔になっている。しかしその視線は全て、累と綾音に注がれている。二人に目を向けたまま、黒髑髏と共に二人に向かって走ってきている。


「父上、お気を付けを。誤って髑髏と共に一般人を攻撃せぬように」


 綾音が注意を促し、正気を失って向かってくる客や店員を潰さぬように、捻くれ坊主のコントロールを行う。


「巻き添えにしているのは君じゃないですか……。いや、最初からそのつもりだったのですね」


 店内のみどりを見て呆れる累。黒髑髏の中に、マインドジャックした一般人を混ぜて、無差別に攻撃できないようにしたのだ。


 みどりが用いたのは、雫野の術でも無いし、他人の心を操る生来の力でも無い。そもそも強引に人の精神に干渉するのは、条件や難点がある。千年前のみどりの前世の力を呼び覚まして用いたのだ。真の魂の扉を開き、真の前世の力を呼び覚ましているうちに、みどりは自身にも同様のことが出来るようになっていた。


(狂われ姫ヴェルデの力、中々おぞましいもんだわさ。いや、おぞましいのは前世のあたしか……。人の心を乗っ取る事も躊躇無く、心を乗っ取った奴の扱いもひどいもんだよォ)


 自分でした事とはいえ、みどりは後ろめたさを感じている。しかし相手は雫野の高位術師が二人がかりだ。手段を選んではいられない。普通に戦えば勝ち目は無い。


 赤饅頭を消す累。赤饅頭の腐食体液では、黒髑髏も操られた一般人も区別なく腐らせてしまう。


「すぐに続いて来てください。そしてみどりの転移を封じてください」


 累が綾音に言い残し、呪文を唱えた後、転移した。


「あばばばば、来ると思ったぜィ」


 すぐ目の前に転移し、再び店内に戻ってきた累を見て、みどりが笑いながら薙刀をアポートした。累はすでに黒い妖刀『妾松』を抜いていた。


 累が無言でみどりに斬りかかる。


 みどりが薙刀の木刀で、累の刀を打ち払う。同時に薙刀を回転しきって、石突でもって累を攻撃する。

 累はみどりと散々手合わせをしている仲なので、この攻撃は読めた。素早く後ろに身を引いて避けた。


 累の回避行動に合わせて、みどりが踏み込み、薙刀を振るい続ける。これも二人のパターンとなっている。


 みどりと累の近接戦闘は、長くは続かなかった。


 店の中に大量の黒髑髏が雪崩れ込んできて、みどりを後ろから襲いかかったのだ。

 累は店の中に転移する前に、黒髑髏の舞踏の術をかけていた。自分が交戦している間に不意打ちさせるために。


「ちっ」


 みどりが舌打ちし、転移して逃れようとする。


 しかし転移能力は働かなかった。累とみどりの足元から、回転する円盤盤が出現した。円盤の中央からは、黒いボロ布を纏った巨大な四本腕の骸骨の上半身が生えている。骸骨の手には、刀と骨を繋ぎ合わせた棒が握られ、棒で円盤を回している。


「頌死旋盤かよォ~……。綾音姉の仕業だな」


 みどりが後方を意識する。綾音も店内に戻ってきて、こっそり術をかけていたのだ。空間操作を封じる術を。円盤の中にいる間は空間操作が出来ない。


(これ、かけた術師も中に入る条件があったのに、その条件を無視してるじゃんよ。いや……その条件は御先祖様が肩代わりしているってこと? そんなこともできるんだね)


 累と綾音、どちらかが術を改良したものと思われる。


 骸骨が刀で攻撃してくる。それに合わせて累も刀を振るう。さらには黒髑髏達がみどりに襲いかかる。


 みどりが操作する大量の黒髑髏と客と店員も店内に飛び込んできて、累の呼び出した黒髑髏と衝突しあい、店内はわやくちゃになっていた。


「くっそォ……」


 みどりが毒づく。反撃はおろか逃げる場も無く、一方的に体中を斬られ、突き刺され、崩れ落ちてしまった。


「みどりが……ヤバいぞ……」

「俺達には何もできないけどな……」


 黒髑髏達にたかられた状態で、血塗れで倒れているみどりを見て、義久と犬飼が呻く。


「みどり、貴女は何のために戦っているのですか?」

「ふわ~? 何だよそれ」


 黒髑髏にたかられているみどりに、累が問いかける。


「真兄のため……じゃ不十分? 御先祖様達の方が余程わからないよォ~。純姉の理想に共感しているわけ?」

「それは――」


 何か言いかけた累が口を閉ざした。


 何かが飛んできて、累とみどりの前に割って入った。

 それを見て累とみどりは呆気に取られる。二人はそれに見覚えがあった。


「ぺ、ペンギン~っ?」

「見たことあるぞ。あれは……」


 突如現れたのは、シルクハットを被り、蝶ネクタイをつけ、ステッキを持ち、髭を生やしたペンギンだった。それを見て、義久が素っ頓狂な声をあげ、犬飼が言いかけた直後――


「ワンッ、ツーッ、スリーッ!」


 ペンギンが高らかに叫んでステッキをかざすと、みどりの全身が赤い布で覆われる。


 さらにステッキが振られると、赤い布がめくれ上がる。そこにみどりはいない。みどりにたかっていた黒髑髏がいるだけだ。


「パラダイスペイン」


 一声発せられると、爆発が起こり、店内にいた多くの黒髑髏達が一斉に吹き飛んだ。綾音もその爆発に巻き込まれて吹き飛ぶ。テーブルの下にいた義久と犬飼は難を逃れた。


「駅から降りたらいきなり戦闘場面。しかも見知った顔が幾つもあるとはな」


 喫茶店の入口に現れた小柄な少年が、眼鏡に手をかけながら不敵な笑みをたたえ、累を見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ