15
「ヘーイ、このおかしな動物達は何なん? 地球上にいない動物ばかりだけど」
「イルカはいるけど空飛ぶイルカはいないしねー」
みどりとツグミが言う。
「よくわかりません。でも可愛いですし、人懐っこい生き物ばかりですし、ここでは受け入れられています。動物だけではなく、見かけない昆虫も増えましたね」
「変な色の植物は?」「オレンジの柱は?」
「流れている川は?」
「ごめんなさい。その三つもよくわかりませんけど、青っぽい樹々や植物は、変わった動物達や、変わった昆虫達の餌になっているみたいです」
伽耶、麻耶、ツグミに立て続けに質問され、美咲が答えた。
「やはり環境をグラス・デュー化しているわけか。空の川や柱や植物は、そのためと見てもいいか」
「そんな風にあっさり繋げるのは早計っつーか、安直っつーか、大雑把っつーか」
真の台詞に対し、みどりが笑いながら突っ込んだ。
「この都市だけが未来を先取りするように急速に進歩し、しかしその情報は表には出せない。ここだけ別世界になっている。それに関して、ここの人達はどう思ってるんだ?」
真が問う。
「もう皆受け入れています。最初は急激な変化にびっくりしましたけど、今は日常ですから。でも皆不思議には思っています。転烙市のこの変化の理由は、謎のままですしね」
と、美咲。日常が激変したとしても、新たに日常を人は受け入れざるを得ない。新たに日常の裏側や底など、知りようが無くても。
「真、知りたいことは聞けたか?」
熱次郎が伺う。
「あと一つ。能力者を量産している施設に関して何か情報無いか? パンフレットに書かれていること以外で、ヤバイ噂とか無いか?」
「……あります」
急に沈んだ表情になる美咲。
「私の父は、そこに出かけて、多分死にました……。別にいいんですけど……」
そう話した美咲の口元に、嘲笑が浮かんでいた。目にも光が無い。
「突っ込んで聞かない方がいいことだとわかっているけど、知っていることがあったら、教えてほしい」
淡々とした口調ではなく、意識して柔らかい声かつ丁寧な口調になって尋ねる真。
「能力覚醒を促す超常能力覚醒施設に関して、悪い噂があるんです。半年前の覚醒記念日以上に、強い力を目覚めさせるための施設だっていう噂が……。すでに能力を得ている人も、より強い力を得られるという話です。そしてそこで力を得た人は、お金もいっぱいもらえて、いい地位にもつけるって……」
美咲のその話を聞いて、一同は顔を見合わせる。
(雪岡研究所の延長みたいな施設だ)
真は思った。みどりも同様のことを思う。熱次郎は正にそのような施設の所長をしている。
「父はそれを信じて、施設に行って、それっきり音沙汰無しです。他にもそういう人はいるという噂、聞きました……」
「わかった。話に付き合ってくれてありがとう」
「いえいえ。お役に立てたなら幸いです」
礼を述べる真に、美咲は小さく微笑んだ。
「感じのいい子だった」「ちょっと影のある子だった」
「その両方と感じた。でもいい人だったよー」
美咲が離れてから、伽耶と麻耶とツグミが感想を述べる。
「中々いい情報ゲットできたんじゃないか? 取り敢えずその施設を調べてみるか」
(真兄、すぐ近くにホツミ姉いるし、聞き耳立てられている可能性あるぜィ。聴力凄いって可能性もあるんだからさァ)
真が方針を口にすると、みどりが念話で注意する。
(そうだった。迂闊だったな。ホツミの存在を忘れていた。本人に直接聞いてみよう)
(ええええっ? どうしてそうなるん~?)
注意を逆手に取る真に、みどりは半笑いになる。
「ホツミ、能力を覚醒させる施設があると、今の美咲って子から聞いたんだが」
「あ、聞いたんだ……超常能力覚醒施設のこと」
真がホツミに声をかけると、ホツミは暗い面持ちになる。
「何かありそうだな? お前も事情を知っているのか?」
「お父さんいなくなったって話でしょー? それはいいんじゃない? 美咲ちゃんもせいせいしているみたいだし。でもさ、その話自体は何か怪しいっていうか、純子ちゃんの作った施設で、そんなヤバい事故が頻発するのって、ちょっと怖い……」
ホツミも施設のことをよく知ら無さそうであるうえに、疑念と不審を抱いているようであった。
「私も怪しい研究施設で作られた存在だけど、純子ちゃんに救われて、今の私があるのに……まさか純子ちゃん、マッドサイエンティストっぽいことしてるんじゃないかって、そんな悪い考えが浮かんじゃうんだよ」
「その考えはおかしい」「それは違う」
「いや、あいつは自他共に認めるマッドサイエンティストだぞ。昔から、死んでも文句は言いませんという条件付きで、実験台募集していたし」
不安に思うホツミに、伽耶と麻耶と真が続け様に突っ込んだ。
「そんなことないっ。純子ちゃんは悪いことしないよっ」
「そんなことあるから。悪いこといっぱいしてるから」
ホツミがムキになって否定するも、真は引かない。
「ホツミ姉は、空の道の台座の正体知ってるん?」
「え? だいざのしょーたい?」
みどりの確認に、きょとんとした顔になるホツミ。
「空の道に行く時、台座の前で行先思い浮かべただけで、移動できるよね? あれ、どういう仕掛けかわかってる?」
「きっと純子が作った、最新式のBMIなんだろ?」
みどりが何を言わんとしているのか、その意図が読み取れないまま、熱次郎が思ったことを口にする。
「ヘッドギアもないし、サイバーパンクでお馴染みの電脳化でコード繋ぐあれも無いんだぜィ? まあ、ぶっちゃけて言うわ。あの台座の中には人間の脳が入ってるんよ。テレパシー能力があって、脳の信号というより、精神の信号を受け取って、答えるんだわさ。そして空の道を操作してるんよ」
みどりが告げた衝撃の真実に、その場にいる全員が固まった。
「嘘だよっ! 純子ちゃんがそんなことするわけないよっ。みどりちゃんの思い違いだよっ。何かの間違いだよっ! 純子ちゃんは正義のマッドサイエンティストだもんっ!」
ホツミが涙ぐんで、声を荒げる。
「正義のマッドサイエンティストという謎のパワーワードはいいね~」
『それ、パワーワード?』
ツグミが苦笑気味に言うと、伽耶と麻耶が揃って否定気味な声をあげる。
「ホツミは俺以上に純子を妄信しているのかな? 俺もかなり妄信していると自分で思っていたけど……」
ホツミを見やり、熱次郎が言う。ホツミは落ち込んで俯いている。
「お前もホツミも、妄信するまでには至ってないだろう。雪岡はそういう輩を凄く嫌う。そういう奴はラット扱いにしてしまう」
真が言った。
「雪岡が熱次郎に目をかけたのも、あえて自分の陣営につけなかったのも、熱次郎のことをよく考えたうえでの判断だからな。だから拗ねたり不貞腐れたり怒ったり引け目に思ったり泣いたりするな」
「少し拗ねてるし不貞腐れてるし引け目にも感じてるけど、泣いてはない」
真に言われ、ぶすっとした顔になって否定する熱次郎。
「ホツミにも同じことが言える。雪岡に恩義はあっても、妄信はしてないだろ。妄信に至っていたら、その施設の話を聞いて、悩みもしない。雪岡を信じ切っているわけじゃないからこそ、あんなリアクションだったんだ」
「そ、そうか……言われてみれば」
「む~……」
真に言われ、納得する熱次郎。ホツミは憮然として唸っている。
「超常能力覚醒施設に行ってみよう。ホツミも来るか?」
真がホツミの方を見て尋ねる。
「んー……やめとくっ。一応は敵同士なんだから……いや、熱次郎君とも真君やみどりちゃん達とも、本当は戦いたくないんだけどねー。でも敵同士だから、馴れ合いはこれまでっ」
「十分馴れ合った感」
「きっとまた馴れ合ってくれる」
ホツミが明るい表情に戻って宣言し、伽耶が突っ込み、麻耶が予想した。
***
ふらふらとした足取りで、大丘はその建物の前へとやってきた。途中で空の道も使ったので、移動はすぐだった。
大丘の目は虚ろで、口は半開きで、猫背気味で、足取りは怪しい。どう見ても怪しい人――いや、危ない人のそれだ。
超常能力覚醒施設と名札のついた名付けられた建物の敷地前受付で、手続きを済ます。受付き大丘の様子があからさまにおかしくても。大して意に介さない。思いつめた末に、ここに来るものは多いからだ。ジャンキーが来ることも有る。
デビルは大丘の影の中に隠れて、共に移動していた。
手続きはあっさりと済んだ。大丘は受け入れられた。この施設は基本的に、来る者拒まずという方針だ。




