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オキアミの反逆アジトビル前。
ぽっくり連合は撤収作業に入っていた。大丘からの連絡で、敗北の旨が伝えられていたからである。
共闘していたヨブの報酬も、すでにオキアミの反逆と戦う理由を失っている。苗床のアルラウネが回収されたと、中に入ったネロから連絡を受けている。PO対策機構が向かってきていることも、ネロから知らされた。
「これから俺達はどーすんだ? 大人しく撤収か?」
「いえいえー、ちょっと様子を伺いましょうかー。PO対策機構が大部隊でこちらに向かっているようですしー。どのような状況になるかわかりません」
ブラウンが問うと、シスターが方針を告げた。
「戦闘に加わるのはもう勘弁してほしいぜ。消耗しきってる」
「盲霊も使い果たしました」
ブラウンが疲れ顏で言い、幸子は申し訳なさそうに告げた。
「私はサボっていて元気いっぱいですのでー、どうしても戦闘しなくてはならない局面がありましたら、私が戦いまーす」
シスターが言うものの、今日はもうその可能性は低いと考えていた。
「雪岡純子が来ているそうですが、交戦しますか?」
幸子が伺う。先程のネロの報告で、真が純子と会ったと聞かされている。
「ネロが直接確認したわけでもありませんし、ここで強引に純子を斃しに行ったとしても、空振りで終わりそうでーす」
シスターが話していると、そのネロがビルの入口から出てきた。
「も、もうこことの戦いは多分終わる。純子は、さ、さっき報告した通り、転烙市にいるようだ」
「転烙市で何か企んでいるということですねー。向かってみるとしますかー」
ネロの言葉を聞き、シスターは今後の方針を決定した。
***
真、十夜、晃、伽耶、麻耶、ツグミ、凛の七名は、未だオキアミの反逆のビルの一室にいた。
「先輩、これからどうするの?」
「転烙市に行く。招待を受けたことだしな」
晃が尋ねると、真は即答する。
「それ以前に、PO対策機構とオキアミの反逆の戦いがあるでしょ。もう目と鼻の先まで来ているし」
凛が窓の外を見る。大通りを複数の軍用車が、オキアミの反逆アジトビルに向かってくるのが見えた。バイクで向かってくる者も多い。
「陽菜さん殺されちゃう?」「どっちが勝つ?」
伽耶と麻耶も、窓の外を見て言う。
「オキアミの反逆は、ぽっくり連合とヨブの報酬と戦っていて、かなり消耗してはいるが、まだかなりの数のサイキック・オフェンダーが残っている。PO対策機構は数で劣るが、質ではかなり優位だろうな。殺人倶楽部も来ているし、タブーのバイパーやつくし、音木史愉や男治遊蔵やチロンといった超越者もいる。いずれにせよ、どちらもただでは済まないな」
真からしてみると、PO対策機構にここで戦闘して、戦力を消耗してほしくもない。転烙市の方がメインであるのだから、そちらに温存した方がよいと考える。
「渦畑陽菜は毒のある奴じゃないし、死んでほしくはないという気持ちもわかる」
「対話だけで解決すればそれに越したことはないね」
真と十夜が言った。
「純子がいたんなら、ここで何かしら介入してくる可能性もあるよね?」
「そうかもな。一応、報告はしておいた」
凛が懸念を口にすると、真が告げた。
(雪岡が参戦するなら、放射線攻撃でPO対策機構の兵が殺されまくる可能性がある。でもその手段は、オキアミの反逆側にも害を及ぼしかねないし、放射線耐性を持っている奴も多いから、決定打になるとは限らないけど……)
それでも、純子が戦いの場に赴いて放射線攻撃を行えば、大惨事になることは間違いないと真は見る。
「どちらも、殺し尽くすまで戦うわけじゃないだろう。そこまでやって被害を出す前に、どちらかが降伏するか撤退だろう。しかし、オキアミの反逆が降伏したとして、得体の知れないカリスマで、サイキック・オフェンダーを支配している渦畑を殺害すれば、オキアミの反逆のサイキック・オフェンダーも暴走しかねない」
と、真。
「PO対策機構にそう伝えておいたら?」
「そうだな。進言しておく」
ツグミに促され、真はメールで連絡した。しかし進言するつもりはない。命令するつもりでいる。
***
PO対策機構の軍団は、軍用車及びバイクを走らせ、オキアミの反逆アジトビル手前まで迫っていた。
真からのメールを着信し、命令を読んだ新居は、満足そうに微笑む。
「渦畑陽菜は殺さないでおけだとよ。戦後処理を任せる役目を、ちゃんと引き受けてくれるなら言うことないが、そうでないとややこしいな」
同じ車の犬飼、李磊、シャルル、義久に伝える新居。
(しっかりと先遣隊の役目を果たしてるじゃねーかよ)
そう思っての満足の笑みだった。
「ぽっくり連合、ヨブの報酬と戦って消耗しているのは確かだが、それでもまだ兵隊がいっぱい残っているらしい」
「漁夫の利は見込めなかったか」
真からの報告を新居の口から聞き、シャルルは肩をすくめた。
「ぽっくり連合が撤退したことに関しては悪くない。そっちの相手はしなくて済んだってことだしな」
と、李磊。
「ヨブの報酬と手を組むってのは?」
「あいつら気に入らねーし、声かけても応じてくれねーだろ」
犬飼が提案すると、新居は嫌そうな顔になる。
「ぽっくり連合とやらとは組んだのに、こっちは駄目なのかよ」
「ヨブの報酬がこっちに応じてくれないんじゃなくて、新居がヨブの報酬と組むのが嫌なんだろうな」
不思議そうに言う義久に、犬飼が言った。
***
「おいおい、どういう風の吹き回しだ。お前から電話かけてよこすとはな」
某所にて、その少年は電話を取り、嬉しそうな顔になった。
『ははっ、追い出した相手の電話も拒否らず取ってくれるとは、お優しいことだぜ。ジュデッカ』
電話をかけてきた相手が皮肉げに笑う。こちらも久しぶりに声を聞けて、喜びを隠しきれない様子だ。
「好奇心は猫をも殺すって言うだろ。プライドばかりは法外なお前が、わざわざ電話よこすんだ。よほどのことだと思ってな」
『おい、いいニュースをくれてやるんだ。俺の機嫌損ねないように慎重に言葉選びな』
ジュデッカがからかうと、電話をかけてきたカシムも冗談めかす。
「ふーん。いいニュースねえ。逆かと思ったぜ」
『崖室ツグミと行動を共にした』
「政馬が執着していたあの娘か」
カシムの報告を聞いて、ジュデッカは興味を抱く。
『あいつの能力も見た。魂を持ち、超常の力も持つイメージ体を次々と創り出す。これだけでも脅威だが、それだけじゃねえ。あいつは絵に描いた世界を、現実世界に現出させる能力を持つ。現出した絵の中に捉われたら、余程の力が無い限り、絵の法則から抜け出せない。抗えない。釣りをしている絵の主人公になったら、延々と釣りをし続けるって具合にな』
「おいおい……」
カシムのさらなる報告を聞いて、ジュデッカは息を飲む。
(累は絵の世界に引きずり込むことが出来る。亜空間内に絵の世界を描く。しかしカシムの話を聞く限り、これはその逆。累の力よりもさらにとんでもねー代物なんじゃねーか?)
『な? いい情報だろう? あの女は惜しげも無く力をひけらかしていたが、この力が知れ渡れば、狙う奴はいくらでも出てくるぞ。可能性は無限大だ』
「そうだな……。いい情報ありがとうよ」
電話を切るジュデッカ。
(政馬に報告すれば、以前よりもさらに崖室ツグミを欲するようになるだろうな。しかしこの情報が純子にも知れたら……)
今、純子がさらに大きな何かを目論んでいる事は、ジュデッカ達も知っている。ここでツグミの能力が純子の手に落ちるのは、非常に危険だとジュデッカは判断した。




