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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
93 マッドサイエンティストの箱庭で遊ぼう
3149/3386

3

 エカチェリーナが報告を受ける数分前。


 五機の大型輸送ヘリコプターが、ぽっくり市手前にあるヘリポートに順番に着地していく。PO対策機構の精鋭達が次々と降りていく。

 ぽっくり市内に入ったら何が起こるかわからない。超常の能力者達の巣窟なので、空中からヘリで入っていくのは非常に危険と判断し、その手前で降りた。ヘリポート前には軍用車やバイクが用意されているので、乗り換えて移動する形になる。


「ぽっくり市に入る前だというのに、緊張感凄いですねえ」


 緊張感の欠片も無い口調で、殺人倶楽部の暁優が言った。


「例え外だろうと、到着した時点でいきなり襲われる可能性もあるからな。ヘリで空からやってくる間にも、気付かれていた可能性もある」

「ぽっくり市のサイキック・オフェンダー達の動きは、こちらからは読めませんからねー」

「偵察に入った連中が逐次報告してくれればな」

「偵察の真君も今色々忙しくて、逐一情報送って来られない状態のようですしー」


 同じく殺人倶楽部の芹沢鋭一と鈴木竜二郎が喋りあう。


「乱戦になりそうね」


 日本刀を携えたセーラー服の少女電々院桜が、肩笑いにいる長身褐色肌の男バイパーを意識して声を発する。足元には園児服姿のつくしもいる。


「俺もお前も乱戦を凌ぐのは得意だろ?」

 桜の傍らにいるバイパーが言った。


「得意かな? ま、背中を預ける相手がバイパーさんだから安心していられるけど」

「俺はお前の御守りしなくちゃならねーから気が重いぜ」

「ちょっとー」


 冗談を口にするバイパーに、桜も微笑む。


「ぐぴゅう。あたしは車もバイクも運転できないぞー」

「私が運転できますよ~。ペーパードライバーですけど~。たっはっはっ」

「こやつに運転はさせないでおけよ。おーい、グリムペニスの兵で運転出来る奴こっちこ~い」


 史愉が車の前で言うと、男治が笑い、チロンが呼びかける。


「緊張している奴が多い中、ピクニック気分の奴等もちらほらいるのな」


 周囲を見渡し、犬飼が皮肉げに微笑みながら言った。


「そういう人等は強者なんじゃないか?」


 犬飼の隣にいる巨漢が微笑みながら言う。裏通り専門のジャーナリスト、高田義久だ。


「うん。そうだろうな。しかし俺は一般ぴーぽーだから緊張しておくぜ」


 肩をすくめる犬飼。


「真から連絡が入ったぜ。純子がオキアミの反逆アジトのビルの中にいるとよ」


 新居の報告を聞き、空気が張り詰める。


「おいおい、つーことはこれからラストバトルいくか?」

「ラストバトルになるかどうかはともかく、逃さない手は無い。とっとと攻め込むぞ」


 犬飼がおどけた口調で確認すると、新居が淡々と告げた。


***


 純子はオキアミの反逆アジト内を歩いていた。ある人物に呼び出され、ある部屋に向かっていた。

 実の所、純子にその人物と会う理由は無い。その人物にさしたる用が無い。純子に用があるのは相手の方だ。その人物にさしたる興味も無いので、無視しても構わないが、その人物がしたことを考えると、一度会ってケリをつけた方がよいとも考え、会う事に決めた。


 相手の意図は何となくわかっている。読めている。裏切りの末、勝手に追い詰められた状態を作った愚か者。そういう人間のやることなど、いつもパターンは決まっている。純子はこれから、それに付き合ってやるつもりでいる。


 指定された部屋の扉からは、禍々しい雰囲気が溢れている。


(なるるー、おもてなしの準備万端てわけだー)

 微苦笑を浮かべ、扉に手をかける純子。


「お待ちしていましたよ」


 扉を開けると、大丘越智雄がいつも通りの爽やか笑顔で出迎えた。


 室内には何も無い。異様に禍々しい気配と、大丘だけだ。しかし見えていないだけだ。次元が一つずれた亜空間の中に、その気配の元を隠してあるのだろうと、純子は即座に見抜く。


「おひさー。何だか裏切ったらしいけど、裏切っておいて私に用事って、何だろうねえ?」


 こっちらも屈託の無い笑みを広げ、からかうように言う純子。無造作に部屋の中に歩を進めていく。そこに罠があることも承知のうえで。


「実に簡単な用事ですよ。雪岡純子さんには、死んで頂きたいのです」


 笑顔で言い放つと、大丘は印を結んだ。呪文は全て唱えている。触媒も使用済みだ。印を結べば即座に術が発動するようにしておいた。


 背もたれが異様に高い大きな椅子が、何十個も出現した。室内に入ってきた純子に向かって、に向かって放射状の配置で。


(伝説の魔人や大妖怪達を封じた外法。実験も無しにぶっつけ本番となりますが、果たして……)


 印を結んだまま、精神を集中させる大丘の顔からは、笑みが消えていた。純子の方は笑顔のままだ。


 禍々しい気配はこの大量の椅子から発せられていた。椅子の中から生じる思念も、純子は見て問った。全ての椅子に、魂が封じられている。

 名の知れた外法の封印術『永劫会議』。純子を斃すために、大丘が何日もかけて用意した儀式呪術が、発動された。


 椅子の中より生じた怨念が純粋な力へと変わり、空間を軋ませる。純子の体を、精神を、蝕まんとする。魂を彼等と同じ封印にかけようとする。


(さて……出来る限りのことをしてみましたが……)


 怨嗟の力の渦に包まれる純子を凝視する大丘。その額から――いや、全身から汗が流れている。


 やがて大丘の体から力が抜けた。その一秒前に、大丘の心が折れた。

 怨嗟の渦はすぐに晴れた。空間の軋みが消えた。椅子から生じるパワーも霧散していた。


「いやー、危ない危ない。剣呑剣呑。残念残念」


 変わらぬ笑顔で、弾んだ声をあげる純子。


「まさか永劫会議を用意しておくなんて、大丘さんも頑張るねえ。危ない所だったあ。五百年前の私だったら一巻の終わりだったかもしれないよ。いや……五百年前なら平気かな。六百年前かなあ?」

「どこが……」


 余裕をもって抵抗レジストしてのけた純子に、汗だくになった大丘は荒い息をつきながら、膝をついた。その顔は憔悴しきっている。


「それにしても大丘さん強くなったねえ。もしかしなくても、苗床が育てたアルラウネを取り込んでる?」

「御明察の通りです。三つほどちょろまかしました。三つが限界でしたけどね」


 純子に問われ、素直に認める大丘。


「あれをパワーアップに応用できる術を独自に編み出したとしたら、素晴らしい才能だよ。それは本来の用途とは違うしね。色んな流派の術を独学で、しかも短期間で、成人してから学びまくったのも、とても凄い才能なんだけどね。勿体無いなあ」


 純子の称賛を聞いても、当然大丘は嬉しくない。怒りで腸が煮えくり返り、同時に絶望で胸が押し潰されそうになる。


「で、どうしてこんなことするのかな? よかったら聞かせてくれないかなあ」

(相変わらず好奇心の強い御方だ。おかげで助かりそうですが)


 純子に質問され、大丘は思わず微笑を零す。


「私は現在の世界が気に入っています。しかし貴女はさらに世界を変えようとしている。それが気に入らないのですよ。それを食い止めたいのです」


 胸の内に黒い靄が現れていることを意識しつつ、大丘は包み隠さず心情を述べた。


「なるほどー。そういう人もいるわけか。でもさあ、実際に世界を変えてみないとわからなくない? 現時点で大丘さんはそう感じているかもしれないけど、私がもう一段回世界を押し上げたら、そっちの世界の方が気に入るかもよ?」

「思いません。私は今のこの状態が良いのです」


 皮肉げに笑い、かぶりを振るう大丘。


「適度にサイキック・オフェンダーが現れ、世を荒らす。今が一番いい塩梅ですよ。これ以上もこの先もいりません。世界中の人間全てが想いのままに願いを叶えられるようになる世界? 冗談じゃありませんよ。想像しただけでぞっとしますね。そんな悪平等」

「全然悪平等じゃないよー。悪平等のニュアンス間違えて覚えてない? 私は機会の平等があればいいと感じているだけで、完全に平等な世界を創りたいわけじゃないし、そんなものは出来ないと思ってるしね」

「好みの問題ですから、平行線ですね」


 言いつつ、大丘は胸を撫で下ろした。


 純子の顔から笑みが消える。床下から接近する気配に気づいたのだ。

 仮面を被った花嫁が床から飛び出したかと思うと、大丘の体を後ろから抱きすくめ、床の中へと消える。


「助かりました。カシム君。床の中でも喋れるんですね」

「追加料金は請求するぜ」


 床の中をすり抜けて移動しながら、大丘は礼を述べ、カシムは茶目っ気に満ちた口調で言った。


「味方だと思っていた人の中からも、そういう人は出てくるかあ。しかし残念だなあ。才能は凄いのに、使い方を間違っているというか」


 室内に放射状に並んだ椅子を見渡しながら、純子は呟いた。最早禍々しい気配は感じない。椅子の中に封じられた魂は解き放たれている。

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