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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
92 苗床を潰して遊ぼう
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23

 廃棄された地下鉄と隣接したデパート廃墟地下にある、ぽっくり連合アジト。


「負け戦ムードやな。今のうちに尻まくった方がええか?」

「負けっぱなしで逃げるのは癪だが、確かに旗色悪い方と心中するのは馬鹿げてるな」

「カバディ~」

「そうだな。かばでぃかばでぃかばでぃだよ」

「所詮俺達は雇われの身でございますよ。命を張るに値しないなら、とっとと逃げ出すが吉というもの」


 カシムとカバディマンとぽっくり連合の兵士達は、沈鬱な面持ちでたむろし、雑談を交わしていた。


(しかし……何でだろうなあ。ここで逃げるのをよしとしていない俺がいる)


 ネガティヴな会話を耳にしながら、カシムは色々と考える。


(どうもこの騒動、スノーフレーク・ソサエティーにも無関係と言い難い何かのような……。つーか、あいつらは今何してるんだろう)


 覚醒記念日が起こってから半年、カシムはスノーフレーク・ソサエティーと一切連絡を取っていないが、心にはずっと残っている。


(抜けて大分経つし、もう全然連絡してもいねえってのに、俺の心はずっとあそこにあるんだなあ。ま、俺は別に抜けたくて抜けたわけでもねえ。ジュデッカの奴に追い出されたんだから……)


***


 オキアミの反逆アジト。


「柚と一緒じゃないのね」


 エントランスにて、一人でぼんやりと虚空を見上げながらガムを噛んでいた蟻広に、凡美が声をかけた。横には勤一もいる。


「セットだと見られてるのか? まあ実際セットで行動してるけどな。柚は早朝に戦闘していたおかげで、今寝ている」


 蟻広が凡美と勤一を一瞥してから、また虚空を見上げて答える。


「あの騒ぎか……。拘束していたPO対策機構の犬を取り逃してしまったのか」


 勤一は戦闘場所と比較的近い部屋にいたため、亜空間トンネルの隙間から漏れる戦闘音で目を覚ましていた。


「外からの手引きがあったみたいだぞ。柚はそいつと戦闘していたが、中々厄介な奴だったようだ」


 と、蟻広。


「手練れなのはわかっているけど、貴方達は何者なの? この組織の者でもないみたいだし、ミルメコレオの晩餐会とも関わっていたというし」

「それは秘密ということで」


 凡美に問われるが、蟻広は答えない。


「お前達はただのサイキック・オフェンダーなのか? 誰かの手がかかっているとか、独自の目的があるとかは無いのか?」


 ガムを吐き出して紙にくるみながら、蟻広が逆に尋ねた。


「無いわ。私達は東から逃げてきた身だもの」

「フリーか。そっちも強い能力者だし、どっかからスカウト来そうなもんだがな」

「いや、ここの食客な時点で、ここ所属と見てくれていい」


 蟻広の言葉を聞いて、勤一は不思議がる。


「俺達を信じてないのか?」

「いや……勘違いしていたようだ。敵に回ると厄介そうだと思ったし、それなら一安心だ」


 微笑む蟻広。


「じゃあ話してもいいかな。俺と柚、それにここのボスの渦畑達は、雪岡純子というマッドサイエンティストに従っている。あいつの目的に賛同している」

「どんな目的?」


 答えは期待していないが、一応尋ねてみる凡美。


「今の世界をこんな風にしちまったのが純子だ。だが純子は不服なんだ。理想とは違う世界だった。足りないんだよ。全ての人間が、力を得られるようにしないといけない。それを達成することが純子の――俺達の目的だ。賛同者は俺や渦畑だけじゃない。賛同者の多くは今、転烙市に集まっている」

「転烙市……ここぽっくり市と同じように、サイキック・オフェンダーが集まって、やりたい放題の都市になっているって話だな」

「それどころじゃねーよ。想像以上に楽しいことになってるぜ。一度行ってみるといい。ああ、あの都市に行っても、情報を外に漏らすことは出来ないからな。少なくともネットでは絶対に上げられないように出来ている」


 勤一の方を向いて、蟻広が笑いながら言った。


***


 PO対策機構本部。グリムペニス、裏通り、政府による会議が行われていた。集まっているのは、史愉、宮国、新居、沖田、朱堂、壺丘の六名だ。


「てなわけで、以上が真からの報告だ」

「ぐぴゅ……たった二日で目まぐるしい展開だけど、もっと早く、もっとこまめに報告できなかったの?」


 新居の報告を聞いて、史愉が眉をひそめながら言う。


「全く同感だな……」

「一応そう伝えておいたが、真はあの性格だからなあ」


 沖田が頷き、新居も苦笑する。


「一番知りたかったのはぽっくり市におけるサイキック・オフェンダーの組織数、組織の規模、そしてサイキック・オフェンダーの数等だが……。報告を見た限り、想定していたよりは少ない」


 朱堂が言う。当然これは、良い報せであると受け取っている。


「PO対策機構の戦力を投入すれば、討滅は十分可能だぞー。ただし、こちらも甚大な被害を被るっス。ぐっぴゅ」

「転烙市も控えています。その後のサイキック・オフェンダーの抑制も必要ですし、PO対策機構の弱体化は好ましくありませんよ」


 史愉がやる気満々でにやにや笑いながら言うと、宮国が釘を刺した。


「でも良い機会とも言えるぜ。ぽっくり市内でサイキック・オフェンダーの同士の内乱が起こり、互いに弱体化しあっている状態だ。そこにPO対策機構が割り込む……じゃなくて、後ろから撃つのは効果的だろう」


 と、壺丘。


「仕掛ける好機だとしても、すぐに兵をまとめて動かせられるか?」

「殺人倶楽部はそれなりにいける」

「グリムペニスは万全だぞー」

「裏通りはわりと微妙だな」


 新居に問われ、壺丘、史愉、沖田が答える。


「おい、数のうえではそこが一番だっつーのに何が微妙なんスかー」

「裏通りはひとまとめの組織というわけではないからな。そして全員が中枢に従うわけでもない。PO対策機構として登録されている組織と個人、未登録でも金で請け負う者だけを動かせる」


 史愉が呆れ気味に言うと、新居が裏通りの内情を放す。


「私は今無理に攻めるのは反対です。理由は今申した通りです」


 宮国は姿勢を崩さない。


「ぐぴゅぴゅぴゅ……そんな慎重策の姿勢でいたら、いつまで経ってもサイキック・オフェンダーの制圧なんて無理だぞー。ま、いっか……あたしには関係無い話だった。せっかくの機会をふいにしたいなら、好きにするといいっス」


 不貞腐れる史愉。同じグリムペニス陣営にありながらも、他陣営の前で自分と反対意見を口にされるのが気に入らない。


「東の制圧に半年もかかったし、西はずっと未知数のままで、東よりずっと戦力が上だと思われていた。しかし真の調査によって真相が明かされ、しかも内乱中という好機にあたった。俺は攻め時だと考える」

「ふん、同感だ」

「あたしも同感だぞー」

「幸いに今は、動かせる戦力が整っています」


 新居が言うと、沖田、史愉、朱堂が同意を示したので、宮国は諦めて小さく息を吐いた。


「決まりだな」

「ぐっぴゅう。ぽっくり市が思った程でもなかったとわかった今、遠慮はいらねーぞ」


 新居が不敵な笑みを見せ、史愉は闘志を漲らせていた。


***


『そんなわけで、ぽっくり市に攻め込む』

「僕の許可も無しに新居の独断で決定したのか?」


 新居からの連絡を受け、真は淡々と問う。


『アホか。いくらお前が知られざる闇の王だろうと、それは裏通りに限った話だ。PO対策機構の指導者じゃねーんだぞ。加えて言えば、こんなこといちいちお前の許可や考えなんざ待ってらんねーっての。それとな、報告が遅えんだよ。何もねーならともかく、あれこれあったにも関わらず、二日も間を空けてやっと報告とかねありえねーからなっ』


 最後は苛立たしげな口調で吐き捨て、新居は電話を切った。


「PO対策機構がぽっくり市のサイキック・オフェンダー討伐に臨むらしい」


 真が一堂に報告する。


「正直僕はサイキック・オフェンダー討伐なんて、どうでもいいんだ。元凶である雪岡をどうにかしないかぎり、いくらサイキック・オフェンダーを潰していっても、どうにもならない」

「サイキック・オフェンダーの数を減らしていくことに、全く意味が無いわけでもないでしょ。あるいはわかっていて、あえてそう表現してるの?」


 真の主張を聞いて、凛がどことなく冷めた口調で異を唱え、伺う。


「そうだな。今のは言い過ぎた。でも興味が無いのは本当だ」


 あっさりと認めつつも、主張を崩さない真。


「あいつは今よりさらにろくでもないことをしようとしている。だからこそ僕の前から姿を消した。本気だ」

「雪岡先生……そんなにひどい人なの? 私には信じられないなあ」


 朝とは違い、女の子バージョンになってツグミが、憂い顔で言った。


「あいつは正真正銘のマッドサイエンティストだ。普段は優しい態度で接するし、親切だし、人助けもよくする。でもマッドサイエンティストだ。研究のためなら、倫理も良心も無くなる。目的のためなら何でも出来るし、何でもする。だから今だって、世界をこんな風に滅茶苦茶にした。十夜、晃、僕達が会った時のこと忘れたか?」

「ああ、あの時結構純子はエグい印象だったねー。あははは」


 真の話を聞いて、晃はかつて裏通りに足を踏み入れ、会ったばかりの頃の真と純子のことを思いだして笑う。


(サイキック・オフェンダー騒動も、そしてこれからあいつがやろうとしている事も、大勢の人間か巻き込まれる。そうなると必然的に、あいつを討伐するという流れに行き着く)


 それに真にとって歓迎しない流れであると同時に、場合によっては利用することも出来るかもしれないと、計算を働かせていた。


(雪岡は……純子は――シェムハザは、僕が作った。だから――あいつを壊すのは僕だ。壊せるのは僕だけだ。壊していいのは僕だけだ)


 PO対策機構含めて、他者の動きは途中まで利用して、最後の役割だけは、自分が果たせばいいと、真は考えている。

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