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オキアミの反逆アジトへ赴いた真、牛村姉妹、十夜の四名は、ボスである渦畑陽菜との面会を求めた。
「どうぞこちらへ」
しばらくして中へと通され、案内される。
「初めてまして。渦畑陽菜です」
綺麗に整った顔立ちだが、ジャージ姿で髪もあまり手入れされていないような女性が、気怠そうな顔で挨拶する。横には中山エカチェリーナもいる。
「伽耶の様子おかしい」
麻耶が真に顔を寄せて報告する。
真が伽耶を見ると、ぼうっとした顔で陽菜を見ている。
「何か……あの人見たら気持ちが落ち着くっていうか。凄く心奪われるっていうか。自分でもちょっとおかしいと思う……」
伽耶が陽菜に視線を向けたまま、現在の自信の異常を報告する。
「俺もだよ。これってさ。ひょっとして、そういう能力じゃない? 効く人と効かない人いそうだけど」
十夜も陽菜を見て言った。
「伽耶、麻耶、バリアー張って防げ」
「わかった。でぃっふぇーんす」
「心を蝕む謎の力、あっち行けー」
真に促され、伽耶と麻耶が術をかける。
「何やねん、今ノ」
いきなり変な台詞を口走ったので、エカチェリーナは怪訝な顔をしていた。
(私の能力に気付いて弾いたのか。気付かれたのも初めてだし、ましてや防ぐなんてね)
陽菜は思うが、実際の所、彼女の人を惹きつける力を不自然と感じた者は、かなりの数いる。陽菜がその事実に気付いていないだけだ。
「貴方達、PO対策機構のネズミじゃないの?」
不躾な指摘をする陽菜。
(ストレートだな。まあその方が話が早い)
無礼だろうと不躾だろうと、真にしてみれば、こういうタイプの方が好印象だった。
「繋がりが無いと言ったら嘘になる。でもお前達は僕達が潜入してもわからなかっただろう?」
「エカさんには見つけられたじゃない。それに、もうわかっているだけで、ここで二度も騒ぎを起こしているよね。そのうち一度は、私達の組織の幹部を痛めつけてくれた」
淡々と指摘する陽菜だが、怒りや不快感は見受けられなかった。探りを入れているだけのようだと、真は見なす。
「まずこちらが仕入れた情報を伝える。大丘越智雄がぽっくり連合の黒幕だ。そして大丘の狙いは、苗床だ」
真がカードを切ると、陽菜はぽかんと口を開き、エカチェリーナは一瞬目を丸くした後に険しい表情になった。
「その反応だと、知らなかったようだな」
「藪から棒すぎや。証拠はあるん?」
「会話を録音してある」
エカチェリーナに問われ、真は凛から送られてきた、大丘との会話の録音を聞かせる。
陽菜とエカチェリーナは集中した表情で、会話を聞いていた。時にエカチェリーナは細心の注意を払い、おかしなやり取りが無いかチェックしていた。
「作りもんちゃウん? 声作るなんて容易いやろ」
聞き終えた後で、エカチェリーナは指摘する。しかし言葉とは裏腹に、彼女は録音された会話に、一切おかしな部分を感じなかった。本物だと感じていた。
「そこまで疑われてもな。じゃあ大丘という男は今どこにいるんだ? お前達の組織の中にいるか? ちゃんと連絡が取れているか?」
真が矢継ぎ早に質問すると、エカチェリーナは押し黙る。
「苗床が狙い……。エカさん、苗床という単語を、外部の者が知っている時点で、信憑性は高くなってきている」
「せやな……」
陽菜に言われ、エカチェリーナはハッとする。
「雪岡純子と繋がりがあるのか? それを教えてくれ」
「貴方は彼女の直属のマウスじゃないの?」
真が尋ねると、訝しげに問い返す陽菜。
「違う。家族だとは思っている。その家族がいなくなって探している。それだけの話だ」
「喧嘩別れしたの?」
「違う」
陽菜の質問を否定し続ける真。
「本当に真の頭の中は純子のことばかり……はあ……」
「諦めたんじゃなかったの?」
溜息をつく麻耶に、伽耶がおかしそうに微笑む。
「この子が来たってことを純子に伝えておいた事を、この子に教えない方がいい?」
陽菜がエカチェリーナに耳打ちする。
「今は教えん方がええナ。喋らんとき」
と、エカチェリーナ。
「貴方達の事情がわからないし、どちらかに加担するのもどうかと思うから、迂闊なことは喋れないな。それが純子にとって不都合になるかもしれないしさ」
「わかった」
陽菜が言うと、真はその件に関してはもう食い下がっても無意味だと悟った。
「ところで、PO対策機構は東を管理下に収めて、今度はこちらを平定しにかかる。やり合うつもりでいるのか?」
真が話題を変えると、陽菜とエカチェリーナの表情がこれ以上になく険しくなる。
「お前達はいずれ滅ぼされるぞ。どう考えてもな。中枢、グリムペニス、政府を相手どって、勝てるわけがない」
「何やあんた、雪岡純子の殺人人形辞めて、中枢の犬に成り下がったンかい。はんっ。うちはもう二度と中枢には従わンわ」
敵意と侮蔑たっぷりに吐き捨てるエカチェリーナ。
「何かあったのか?」
「うちは元々裏通りの組織の者よ。戦場のティータイムとの抗争の際、中枢施設を護るために雇われ、中枢の者ハ皆逃げ出し、うちらにだけは残って戦わサれたわ。いくら雇われた身とはイえ、あれは何のための戦いで、何のための犠牲やったん」
「そうか。それは大変だったな」
話を聞いて、中枢のフォローが思ったより足りてないことを痛感する真。
(僕の管理下ではこういう見落としが無いように、十分気を付けないと……)
傘下の者を救わずに恨みを買うなど、もってのほかだと真は思う。
「話は済んだ?」
さっさと出て行って欲しいと言わんばかりの冷めた顔で、陽菜が伺う。
「いや、もう一つ。これからぽっくり連合と抗争があるようだが、僕達がお前達に協力してやってもいいぞ。ただし、こっちの仲間もあっちに潜り込んでいるから、そいつらとの戦いは避けるが」
「交換条件は? ボランティアで戦ってくれるわけないし」
全く期待していない顔で、一応問う陽菜。
「雪岡の居場所と目的を話してもらう。そして苗床に関してもな」
「今言ったばかりでしょ。本人の許可無く、私が勝手に純子の目的を話すわけにはいかない。純子の居場所はわからない。苗床に関しても、私の判断で勝手に教えていいかわからない。私が出来ることと言ったら、純子に貴方が来たことを伝えることくらいよ。貴方が会いたがって泣いてたとでも言っておこうか?」
陽菜は意地悪い口調で言ったつもりであったが、真達は陽菜の思惑通りに受け取れなかった。元々性格のいい子が、精一杯悪ぶって見せて、失敗しているように見えて。痛々しい。
「正直、苗床がどういうものか、大体想像はついている。100%の確信というわけでもないから、聞いてみた」
と、真。
「雪岡純子はあんたと距離とっトんのやろ? 陽菜が伝えた所で、会おうとするもんかいな?」
「会えなくても、僕の行動を伝えてくれるだけでも、十分に意義があるんだ」
エカチェリーナが尋ねると、真は珍しく熱のこもった声を発し、十夜と牛村姉妹を驚かせる。
「わかった。雇う。お金も払うわ」
陽菜は真の交渉に乗った。
「それでええ。敵に回られても厄介ヤし、おかしなことせーへんか、監視もできルしな」
エカチェリーナが微笑みながら、陽菜の耳元で囁いた。
***
犬飼はネットで裏通り関連の情報と、サイキック・オフェンダー関連の情報を漁っていた。
西日本から発信されるサイキック・オフェンダー関連の情報は、眉唾物が多い。きっと西のサイキック・オフェンダー達によって情報操作されているのだろうと犬飼は見ている
「二日目だが、真もデビルも全然情報寄越さないなー。何も無いってことか?」
呟いたその直後、まるで犬飼の呟きが届いたかのように、電話がかかってくる。相手はデビルだった。
「ははっ、こいつは驚きのタイミングだ。こういうこともあるもんだな」
電話を取る。
『大丘を見つけた』
それから犬飼は、大丘が今何をしているのか、デビルの口から全て伝えられる。
「ふーん……。誰も彼も裏切って……何がしたいんだか……」
『やはり犬飼にも行動原理はわからない?』
「想像は出来るが、それが当たっているかどうかはわからない。奴の行動に一貫性が無いわけでもない。パターンはあの頃から確かにあった」
かつての弟分の言動の数々を思い出しながら、犬飼は珍しく憂い顔になる。
「そのまま監視を続けてもいいが、ちょっかい出したくなったら、デビルの好きなようにしなよ。ただ、話は聞きたいから、いつでもいいから報告はしてくれよ」
犬飼が言うと、デビルは何の返答も無く電話を切った。
(相槌とか返答とか挨拶とか、そういうのが出来ない奴なんだよなあ。ま、そんなところがあいつの魅力なんだがね)
小さく息を吐き、犬飼は微笑んでいた。




