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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
3108/3386

25

 エントランスに到着した時点で、輝明、修、ふくの三名と、蟻広、柚の二名が向かい合う。


「俺はともかく、お前達でさー、柚に勝てると思うのか? あの時御久麗の森で柚に勝てたのは、お前達よりずっと強い、あの髪の長いガキのおかげだ。お前達だけでは無理だと思うぞ」


 特に挑発するわけでもなく、淡々とした口調で事実を語る蟻広。輝明も修もそれは承知しているので、反論はしない。


「あの柚って子は私が相手しとくよ」

 ふくが申し出た。


「強さの次元が違う。明らかにオーバーライフ級。輝明と修は、あのトレンチコートの子を相手にした方がいい。ここが同じランク」

「ああ、そうしてくれると助かるよ」

「ケッ、お任せだ。こっちもあっちもアンバランスな組み合わってか」


 ふくの申し出を聞き、修と輝明はかつてのふくとの戦いを思い出していた。あの時、二人がかりで手も足も出なかった。ふくが正気に戻らなければ、殺されていた可能性もある。


 ふくが柚を手招きして横に歩く。輝明や蟻広達と距離を取らせてから、一対一で戦おうと誘っている。


「妖なのか人なのかわからないな。あるいは混じっているの?」


 柚がその誘いに乗って移動してから、ふくを見据えて尋ねる。


「好奇心旺盛なのはいいけど、それはね、聞かれた相手が気分悪くなるかもしれない質問よ? 以後気を付けて。ちなみに私は、元々は人間よ。その後妖怪にされちゃった」

「そうか。悪かったわ。気を付ける。世間知らずなもので」


 素直に頭を下げて謝罪する柚。


「知ってる。輝明と修から貴女のことも色々聞いたから」

「そうか。では始めるね」


 柚の首から下げた鏡が光る。


 眩い光を放つ巨大なリスが現れ、ふくめがけて駆けていく。姿形はリスだが、ヒグマほどの大きさがある。


「おや?」


 訝る柚。光り輝くリスは、ふくに近付くにつれてその速度を落とし、ふくの前で動きを止めてしまう。

 ふくはマイクロ波を出して攻撃して、光リスの身体をシェイクして熱することで、動けなくした。イメージ体である光リスにも効果はあった。


「力の原理はわからないけど、これでは駄目なようだな」


 柚が光リスを消し、ポケットから何かを取り出し、ふくに向かって投げる。

 空中でそれは巨大化し、何を投げたか一目で判明するに至った。三つの巨大どんぐりだ。一つ一つがふくより大きい。


「じゃあこれで」


 ふくが両手を突き出すと、両手から金色に輝く紐のような物が高速で伸びていく。伸びた紐は猛スピードで次々と空中で交差して絡まり、網となった。

 金色の網が、空中で巨大どんぐりを受け止めた――かに見えたが、巨大どんぐりは一瞬動きが鈍ったが、網を突き破り、ふくに飛来する。


「う……嘘でしょ……」


 唸りながら、飛んできたどんぐりをかわすふく。


 どんぐりが余暇に当たった瞬間、爆発する。爆風とどんぐりの欠片がふくを襲う。


(あれ物凄く頑丈だし、今まで破られたことって、鈴音くらいだし……ていうか、鈴音に破られた時も、同じ台詞言ったっけ……)


 爆風で吹き飛ばされたふくが、そんなことを思う。


「加減したつもりだったが、強過ぎたか?」

 倒れたふくを見下ろし、柚が声をかける。


「おかまいなく。加減してもらわなくちゃならないほど、やわに出来てないのよね。私の体は」


 ふくが身を起こして言い放ち――


(あいつのおかげでね……)

 口の中で毒づく。


「然様か。いや、そうか。ならばこちらも気兼ねはいらないね」

 これまで無表情だった柚が、小さく微笑んだ。


「捻くれ坊主」

 蟻広が巨大肉バネ僧侶を呼び出す。


「どっちが強いか勝負してやっか。結果は見えてるがなー」


 輝明が不敵な笑みを張りつかせて呟くと、地面にかがむ。


「む……これは……」


 輝明の周囲の床に放射状に呪符が出現したかと思うと、輝明とその周囲に強い力が満ちる様を見て、蟻広は思わず唸ってしまう。


 肉バネ僧侶が跳躍する。エントランスは三階までの吹き抜けで、天井が高めであった。肉バネ僧侶は天井に当たって、天井でバウンドして勢いをつけて輝明めがけて飛来する。


 その肉バネ僧侶の軌道の先に、肉バネ僧侶よりずっと巨大かつ長大なものが現れ、肉バネ僧侶に噛みついて空中でキャッチした。


「龍だと……いや……死体かこれは」


 夥しい数の死体をくっつけて出来た死体龍を見上げ、再び唸る蟻広。

 肉バネ僧侶に噛みついたまま巻き付き、締め上げる死体龍。


「百合さんから習った術は色々あるけど、こいつを実戦で使うのは初めてだぜ」

「死体、どこで集めたの?」


 輝明が得意げに言うと、修が苦笑気味に尋ねた。


「そいつは聞かない方がいい話だ」


 修の方を向いて輝明が答えると、肉バネ僧侶の姿が消えた。


「人喰い蛍」

 蟻広が輝明と修に、人喰い蛍を放つ。


「人喰い蛍」


 輝明もすぐさま同じ術を唱え、迎えうつ。空中で三日月状の小さな明滅がぶつかり合い、相殺しあうが、幾つかは突き抜けて、互いのいる場所まで届く。


 修が輝明の前に立ちはだかり、木刀を高速で振るい、相殺されずに抜けてきた人喰い蛍を片っ端に打ち落としていく。

 一方で輝明が放った人喰い蛍で、相殺されなかった分は、蟻広は地力でかわすしかなかった。しかし避けきれずに、腕や肩や足に何発か受けてしまう。


「糞っ……俺マイナス6……いや、これは8ポイントくらい引いていいな」


 体のあちこちから出血し、片膝をついた蟻広が忌々しげに毒づいたその時だった。


「何でえ。お前も大した奴じゃねーんだなー」


 侮蔑たっぷりの声がエントランスに響いた。


「出てきたのか」


 通路の一つから姿を現した汚山悪重を見て、意外そうな顔をする蟻広。汚山の後方には部下も何人かいる。


「出てきて悪いか。ここは俺の城だ。城主自らネズミ退治しちゃ悪い法律でもあるのかよ。それはそうと……お前、人に点数付けとか偉そうなことしていたわりに、そのザマかよ」


 攻撃を食らって負傷した蟻広を見て、汚山は嘲笑を浴びせた。


「たまたま一度食らっただけだ」

「先制攻撃を許しちまった。つまりお前が劣っていたわけじゃねーか。つまりお前も劣る奴だったんだ」


 今まで西の取引相手という立場で、気遣っていなければならない相手だったので、汚山はここぞとばかりに蟻広を罵った。


 柚はふくとの戦闘を中断して、蟻広の近くまで移動し、汚山を睨む。


「俺は劣る奴等の存在が許せねえ。そんな奴が人権で守られて、堂々と空気を吸っていることが許せねえ。そんな奴を殺した程度で、俺の十二年を奪った社会が許せねえ。そいつらを……皆殺しにしてやりたいが、それはまあ無理だろう。だからせめて、相応の扱いにする世界を作ってやる。そのためにお前達と取引していたのに、その取引相手様がその様じゃなあ」

「お前達だけじゃ頼りないから、手を貸してやっている立場だぞ。こっちは。ポイントマイナス100。もういいや。やめた」


 言いたい放題の汚山に、蟻広は言い返し、戦闘放棄を宣言した。


「はは、拗ねちまってやんのー。これだから貧乏人は嫌だ」

「誰が貧乏人だ。そんなこと――」

「わかるさ。一度貧乏を経験した奴は、心まで貧しくなる。そういう奴を俺は何度も見てきたし、お前もその経験がある。俺にはわかる」


 蟻広の言葉を遮り、汚山は断言した。


「仮にそいつが貧乏だったら何だってんだ? それって、悪口になるのかねえ? むしろそんなことで相手を悪く言ってる方がよっぽど糞じゃね?」


 黙って両者のやり取りを聞いていた輝明だが、ここで口を出した。汚山以上に凄い嘲笑を広げて。


「ああん? お仲間意識で同情してひがんでんのか? この貧乏人がっ」


 汚山が輝明の方を見て罵る。


「ああん? 同情? ひがみ? 何でそんな発想になるんだ?」


 ねちっこい口調で輝明が舌戦に応じる。


「もし仮に俺が貧乏で、仮にそれがひがみだとすれば、俺は自分より金持っている奴全て、ひがまなくちゃならないことになる。でも俺はそんな感情わかない。金持ちで尊敬できる人格者は沢山いる。俺はお前の糞みたいな言動を聞いて、お前を軽蔑しているだけだ」

「な……」

「ついでに言うと、そこでお仲間だの同情だのひがみなんて発想に繋げて、ムキになってピント外れの恥ずかしい罵倒しているってのはよ……。お前は金の有無だけで人の価値を決めて、常日頃から自分より金を持っている人間は全てひがんで、金の無い者は全て見下して生きている、仲間もダチもいないぼっちの、とんでもなく心の貧しい奴だと、白状しているようなもんだぜ? 普通の人間はそんな発想に至らないからな。お前は普通じゃないんだ。性格破綻の異常者なんだ。人から軽蔑されるしかないゴミ人間なんだよ。自分で今そう言ったも同然だ」

「ああ? それでも俺の方が金持ってるし、能力も高いから俺の方が偉いだろうが! はい俺の勝ちーっ! ばーかぱーか!」


 人を見下して罵ることは大好きだが、罵られることにはあまり耐性が無い汚山は、むきになって喚き散らした。


「何だこいつ……」


 小さい子供のような反論をする汚山に、蟻広は呆れた。いや、その場にいる全員が呆れている。


「ふんっ、いくら口が達者だろうと、力で負けたら意味ねーぞ。それで帳消し、それで大恥の結果になる。口だけ達者な無能の構図の出来上がりになる。今からその構図を作ってやるよ」


 憎々しげに言い放つと、汚山は合図を送る。後方に控えていた部下達がエントランスになだれ込んで、戦闘態勢を取った。

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