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ミルメコレオの晩餐会のアジトの一室にて、大丘はとある施設に映像と音声を繋げて喋っていた。
「ぽっくり市へと送られた貴方達は、これから重要な使命を果たす役割があります」
穏やかな口調で、柔らかい声音で、優しい表情で、大丘は語りかける。
意識して作っているわけではない。昔からこうだ。大丘の内面が出ている。彼はとても温和な性格だ。殺意が生じた時も、優しい気持ちのまま、穏やかに実行する。出来るだけすぐに実行する。
大丘の目の前のホログラフィー・ディスプレイには、大勢の青少年が並んで座っている。向こうも画面越しに大丘の顔を見ている。
彼等はミルメコレオの晩餐会が、西へと送った者達だ。
「貴方達は世界を変える使命を帯びたのです。選ばれた栄誉ある者達です。貴方達は今の歪んだ世界を正すために頑張ってほしいのです」
何とも怪しい台詞であると、自分で喋りながら大丘はいつも思っている。だがこれらの台詞に嘘は無いと、大丘は信じている。
西に送った者達を安心させるために、時に指導するために、大丘はこうして定期的に声と映像を送っているが、彼等を騙しているわけではない。これは本当に世界を変えるためのプランだ。そしてこれは彼等への鼓舞であり、指導でもある。
西に送った者達の問いかけは返ってこない。一方的に大丘が喋るだけである。
一仕事終えて、部屋の扉を開ける。
「お疲れ様だ。プラス4ポイント」
部屋の前で待っていた神産巣蟻広が声をかける。木島柚もいる。
「あんたのおかげで、西に送られた奴等も安心している。大したもんだよ」
「西に送った者達の面倒まで見ることになるとは、中々人使いが荒いですね」
皮肉めいた称賛を口にする蟻広に、冗談めかして言い返す大丘。
「お前はPO対策機構と戦わないのか?」
柚が問う。
「戦いますよ? できれば貴方達の手も貸りたい所です」
「俺はてっきり戦わないかと思ったがな。あんたはこの組織の人間というよりも、西の者だろう?」
「だからこそです。今のうちに出に来る限り、PO対策機構を弱体化しておきたいのです」
にっこりと笑って口にした大丘の台詞を聞き、蟻広は眉根を寄せた。
(こいつはとんだ狸だ。ミルメコレオの晩餐会はそのための捨て駒か? 気に入らないやり方だ。マイナス4)
元々大丘に不審感を抱いていた蟻広であったが、この時点で嫌悪感も抱くようになっていた。
「PO対策機構の集結場所に兵士を送ったはいいが、ここにいるサイキック・オフェンダーの全員を投入はしなかったんだな?」
蟻広が確認する。
「伏兵の可能性もありますからね。全戦力の投入は出来ませんよ」
そもそも全戦力の投入など、そんなことは容易にするものではないだろうにと、大丘は思う。
「奴等は本気でミルメコレオの晩餐会を潰しにかかりにきている。中途半端に突っつく真似をしていたら勝てないだろうに」
「そうかもしれませんね。しかし、どちらかが全滅するまで戦争する必要は無いでしょう? それとも、PO対策機構の力を削るために、ミルメコレオの晩餐会が全滅するまで戦ってほしいのですか?」
「いや……」
大丘が穏やかな表情のまま確認すると、蟻広は鼻白んだ。
(俺の読み違いだったか。マイナス4は取り消しておく)
蟻広は大丘が、ミルメコレオの晩餐会を使い捨ての駒にするつもりだと思ったが、そういうつもりではないようだと、認識を改める。
***
真が市民センターの建物の中に戻った瞬間、市民センター前の駐車場が閃光で包まれ、強烈な破裂音が鳴り響いた。
「グレネードマシンガンの後にスタングレネードかよ……」
輝明が耳を押さえ、顔をしかめて呻く。
(よしよし、うまくいったな。ひるんだ所にダメ押しって奴だ)
ほくそ笑む新居。
「おい! お前等! 今だ! 敵が無力化した今のうちに全員突っ込んで皆殺しにしろ!」
新居が大声で命じると、PO対策機構の兵達は一斉に市民センターの外にと踊り出て、倒れているミルメコレオの晩餐会のサイキック・オフェンダー達を、一方的に殺害していく。
「最初からスタングレネードぽいぽい投げまくるとか、グレネードマシンガンだけで殲滅とかじゃダメなのか?」
輝明が疑問を覚えて、新居に尋ねる。輝明はとどめを刺す作業に参加する気は無かった。戦闘不能の敵を殺す作業で無駄に力を使いたくない。
「初っ端からスタングレネードだけ投げまくっても、防がれちまう可能性あるだろ。それでなくても相手は超常の能力者ばかりなんだし、何してくるかわからねー。グレネードだけで押し切れるわけでもない。敵が何してくるかわからねー能力者だらけの時点で、すぐに対策を講じられる可能性もある。だからこその二段構えだ。グレネードの連続攻撃で敵戦力を奪って、ひるませて動きを止めた所に、さらに動きを止めるスタングレネードで、防御や対策の暇も与えずに全員フリーズ、と。シンブルでありながらよく考えてある手。うん、流石俺」
「ケッ、またニーニーの自画自賛タイムだ。」
早口で解説する新居に、輝明が小さく息を吐く。そして新居の理屈も、わかるようでわからなかった。
「ただいま」
ツグミ達のいる場所に戻ってくる真。
「おかえり。先輩大胆なことするね」
「ジャッププ~」
真とアンジェリーナが迎える。
「傭兵時代も似たようなことやらされた。追い詰められた時にな」
そう言って真は、新居を一瞥した。
その後、ほぼ一方的な殺戮が続き、あっさりと決着がついた。
「まだ少し生き残りがいるか?」
「いましたけど逃げちゃいましたよう」
鋭一と優が言う。
「こっちは敵が来なかったぞー。暇だぞー。ぐぴゅ」
「うわ、こちらの犠牲者も多いですね~。私達もそっちで戦うべきでしたね~」
史愉と男治が戻ってきて言う。
「だからさー、こいつを大量に用意して、ぶちこみまくればそれで済むんじゃねーの?」
輝明がグレネードマシンガンを見て言う。
「街中でこれをぶっ放す許可を取るのも大変だったんだぞ。悦楽の十三階段の連中、俺ともう一人以外の全員が難色示しやがってよ。まあそれが一番手っ取り早いんだがな。ミルメコレオの晩餐会のアジトだってわかっているんだから、ロケット抱くだのグレネード弾だの撃ち込みまくればいいんだ」
新居が口にする、もう一人の賛同者とは真だったが、当然ここでは口にしない。
「戦闘はこちらの勝利だな。犠牲は……思ったより出ちまった。こっちが攻め込む前に、戦力ダウンだ。おまけにとっておきの自動擲弾銃も、いきなり使っちまったしなー」
渋い表情になる新居。
「弾はまだ残ってるんだよね?」
修が尋ねる。
「残っているけど、知られちまったから対策立てられそうだぜ。ただのドンパチする戦争じゃないから面倒臭え。何しでかすかわからん超常の奴等が相手なんだから、手持ちのカードがどんなに強くても、カードは出来るだけ伏せておいた方がいい」
新居が喋りながら電話をかける。
「裏通りの子飼いの病院に、救急車は手配した。戦闘不能の負傷者は連れていってもらう。無事な奴は予定通り、これからミルメコレオの晩餐会のアジトに攻め入るぞ」
電話を終えた新居が、一同を見渡して告げた。二階にいる者達にも連絡を入れる。
「次はこの二人を前に立たせた方がいい。二人共かなりの強力な能力者だ」
真が史愉と男治を親指で指して言った。
「ぐぴゅぴゅうう……それは構わんが、皆殺すのはやめろッス。あたしはサイキック・オフェンダーの生体を、実験台として確保しにきたってのに、皆殺しちまいやがって……」
「全くですよ~。とほほ~」
史愉が憮然とした顔で文句を言い、男治も市民センター前に転がる夥しい数の死体を見て、肩を落としていた。




