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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
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7

 ツグミ、上美、スピカ、洋司の四人は、七人の男達によって取り囲まれる格好となった。


「君達、セミナーに来た子達かな? ずっとあの窓を眺めているけど」

「そんな雰囲気にも見えないな。表通りですらなさそうな子もいる」


 男の一人が愛想笑いを浮かべながら声をかける。その隣の男が鋭い視線をツグミ達に向けて、冷ややかな声を発する。

 物々しい雰囲気に、洋司は怯えていたが、スピカとツグミは平然としている。


「そちら様はどういう御用で? いい歳した大人が中学生を取り囲むなんて、随分危険な構図ですね」


 上美に至っては不機嫌そうな顔で、皮肉たっぷりに応じている。


(さすが裏番だ……)

 そんな上美の態度を見て感心する洋司。


「確かにカタギじゃなさそうなのが二人ほどいるな。戦闘経験も、人殺しもしたことあるだろう。そこの二人」


 ガタイのいい男が、ツグミと上美を交互に見やって言った。


「ここを調べにきたPO対策機構の手の者なんだろ。そっちの二人は違うかな。ま、大人しくしな。戦えそうなのは二人だけ。この人数じゃかなわないってことくらいわかるだろ」


 別の男が静かな口調で告げる。


「この人達はただの能力覚醒者じゃないみたいだよ。裏通りの住人か、そうでなくても結構戦闘経験豊富みたいだ」


 ツグミが上美の耳元に顔を寄せて囁いた。言われずとも上美にもそれはわかっている。


「僕が何とかできると思うけど、念のため、スピカちゃんと洋司君のガードは上美ちゃんに頼みたい」

「七人相手に一人で平気?」


 上美はツグミの台詞に特に驚きはしていない。ツグミの能力がどのようなものか知っているし、念のために確認しただけだ。


「二十人以上となると辛いけど、この程度なら何とかなるよ。僕の力は、手が足りない時に手を増やすものだからね。こんな風に」


 ツグミが悪戯っぽく笑い、大きく手を開く。その直後、ツグミの腕が六本に増えたので、流石に上美はぎょっとした。スピカと洋司も、七人の男達も驚いた。

 増えた手は形こそ同じだが、色が異なっていた。赤っぽい肌と服、黒っぽい肌と服の腕が伸びている。


 やがてツグミの体から、全身真っ黒のツグミと、全身真っ赤のツグミが現れる。どちらもツグミと同じ顔だが、色が異なる。服装も異なる。女の方のツグミだ。


「影子……それと……」

「ハチジョウ」


 赤ツグミを見て、すぐに名前が出てこない上美であったが、本人が名前だけ端的に口にした。


「あはは、久しぶり~、上美」


 黒ツグミ――影子が上美に向かって微笑む。上美とはかつて戦ったこともある間柄だ。以前は上美に刺々しい態度で接してきたが、今はもう悪感情は無さそうだ。


 七人の男達は驚いていたが、そのうちの四人は即座に戦闘態勢を取った。ツグミが行った行為は、戦闘の前触れと見なした。


 ハチジョウがスケッチブックと鉛筆を手に取り、目にもとまらぬ速さでスケッチブックに絵を描きだす。


 まず影子が飛び出した。最も近くにいるガタいのいい男に突っ込んでいく。


「むんっ!」


 ガタイのいい男が一声唸ると、両腕を思いっきり地面へと叩きつける。前方のアスフファルトが大きくめりこんでへこんだかと思うと、影子の体も見えない力に上から叩きつけられたかのようにして、前のめりに倒され、そのまま地面に押し付けられる。


「重力使い。来夢君とかぶるかな」


 影子が倒されて地面に押し付けられている光景を見て、ツグミが呟く。


「捕まえたぁ」

「む……?」


 重力で潰されていると思いきや、地面を滑るようにして移動した影子が、手を伸ばして体格のいい男の足首を掴んで、にやりと笑った。

 直後、影子は立ち上がる。重力使いの男は一瞬呆けた顔をしたかと思うと、その全身がどんどん黒ずんでいく。


 体格のいい男が仲間達の方に振り返る。完全な無表情だ。


「お、おい……」


 重力使いの男の不自然な変化を見て、近くにいた男がたじろぐ。


「むん……」


 影子にした時と同じように、両腕を地面に叩きつける重力使いの男。すると側にいた仲間二人が、影子同様に地面に倒されて押し付けられる。


「そんなこと出来るようになったんだ……」


 影子と、影子のように黒ずんだ体にされて操られている男を見て、上美が唸る。かつて影子はツグミの怪異を取り込むことが出来たが、今は人間を取り込んで操っている。


 ハチジョウがあっという間に絵を描き終える。絵の中には周囲の建物と、全身から触手が生えた蛇が描かれていた。蛇は大きく鎌首をもたげており、頭部の位置は建物より高い。


「うおっ!」

「うわあっ!」


 男達が悲鳴をあげた。カウンセリングをしている建物の横に、全身から無数の触手を生やした巨大な蛇が出現したのだ。胴回りが人の胸ほどの高さもあり、鎌首をもたげたその頭部は、建物の屋上を越えていた。触手は人の脚くらいの太さがある。

 巨大蛇が軽く身を震わせると、触手が一斉に伸び、鞭のようにしなって、男達に襲いかかった。多くは避けたが、一人だけ触手の一撃を食らい、大きく吹き飛んで倒された。


「こ、こんなものどうしろと……」


 男の一人が絶望的な表情で巨大蛇を見上げて呟く。単純明快に巨大すぎて、自分の力ではどうにもできないように感じられた。


「馬鹿、そいつをまともに相手にする必要は無いだろ。呼び出した奴を狙え」


 他の男が言い、男達の視線がツグミとハチジョウに向けられる。


「むんっ」


 だがその直後、重力使いの男がまた仲間を攻撃して、新たに二人の男が倒される。


「画伯無双だ……」


 呆然として呟くスピカ。彼等とてただの雑兵ではない。超常の力を備え、荒事にも慣れた者達であるが、ツグミの呼び出した影子とハチジョウによって、成す術もなく蹂躙されていく。


「何の騒ぎでしょうねえ。これは」


 建物の中から出てきた男が、涼やかな声を発した。一同、建物の方に注目する。


 出てきた男は、大丘越智雄だった。しかし大丘だけではない。その手下と思われる男女もいるし、セミナーに来ていた青少年たちもいる。


「影子、ハチジョウ、ストップ」


 ツグミが指示すると、影子に操られている男と巨大蛇が動きを止めた。


「兄さんっ」


 大丘に連れられるようにして現れた青少年のうちの一人を見て、洋司が声をかける。

 一高は洋司を見て固まっていた。こんな所にまで弟が来ているとは思わなかった。洋司だけではない。


「洋司……それに上野原上美さんまで……」


 同じバレー部で、しかも一年の頃からレギュラーで、そのうえ裏番と恐れられている上美のことは、当然一高も知っていた。


「兄さん……ごめんなさい。僕が兄さんを苦しめていたなんて……。兄さんがそんなに悩んでいたなんて……」


 洋司が悲しそうな顔で謝罪すると、隣にいるスピカが口に手をあてて驚き、上美も眉をひそめた。


「それを言っちゃ不味いって……」

 スピカが言うも、もう遅い。


「僕のこと尾行していたのかっ! しかも今の僕の話、全て聞いたのか!?」


 弟の言葉を聞いて、激昂する一高。


「先輩っ、この人達、サイキック・オフェンダーを引きつれていて、しかも問答無用で襲いかかってくる人達なのよっ! その時点でヤバさ満点だして、信じちゃ駄目だよっ!」


 多分説得は無駄だろうと思いつつも、上美は強い語気で訴えた。


「PO対策機構の手勢のようですね。しかもかなりの手練れ」


 全く同様も緊張もしていない落ち着き払った様子で、大丘は倒れている部下達と、ツグミ達を一瞥する。


「全然違うんだけどな。僕達は一高先輩の様子がおかしいから調べていただけだ。でもPO対策機構の名を出す時点で、危険なサイキック・オフェンダーの集団だということはわかったよ」


 ツグミが言うと、大丘はツグミに顔を向け、優しげな微笑を浮かべる。


「男の子の格好をした女の子ですか。興味深いですね。私の直感ですが、貴方もこちらの子達と同じに見えます。何か悩みごとはありませんか?」

「悩みごとなら沢山あるよ。でもお構いなく。そんな子供達を利用して怪しいことを企む、悪人に騙されたいと思わないので」


 大丘とツグミが話していると、建物の中からさらに人が出てきた。これも大丘の部下であろう。


 さらにはハチジョウの大蛇や影子に操られていた重力使いの男達も起き上がる。そして重力使いの体の黒ずみも取れていく。影子の取り込み操作が時間切れで解けたのだ。


「多勢に無勢だし、こうなると人質に取られる可能性も出てくる。加えて、一高先輩がこちらに敵意を抱いて、あっちを信じちゃっている時点で、力押しは難しいよ。今は退いた方がいい」


 ツグミはそう判断した。わざわざセミナーに相談しに来た者達を連れて外に出てきた時点で、大丘が盾にするつもりであったことは明白だ。


(抜け目無いというか、あんな優しそうな顔をして、卑劣な手を使うんだな)


 大丘をじっと見て、ツグミは思う。


「そっか。残念。何かいい対策考えないとね」

 上美が小さく息を吐く。


「そういうこと。洋司君、残念だけど……」

「わかりました」


 ツグミに促され、洋司は肩を落とした。その視線は一高に向けられたままだ。


「手出しはしないでください」

 大丘が部下達に命じる。


「いいのですか?」

 撤退するツグミ達を見つつ、部下が確認する。


「ええ、今はやめておきましょう。この子達にも危害が及びかねません。それに、中司君の身内の方もいましたしね」


 にこやかに答える大丘。その台詞を聞いて、一高含め、セミナーに操舵に来ていた者達は、大丘に対する好感度を上げていた。誰一人、人質や盾として、この場に連れてこられたと考える者はいなかった。

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