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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
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1

 半年前の覚醒記念日より、世界の有様は大きく変わった。

 犯罪の増加により、小学生はもちろんのこと、中学生や高校生までもが集団での登下校を行うようになった。高校生は最寄りの駅までであるが。


 今日も安楽二中の生徒達が、集団登校を行っている。長蛇の列となって、道を歩く中学生集団。このように学生がぞろぞろと数十人単位の集団で歩く光景は、最早日常のものとなった。

 学生だけで歩いているわけではない。集団登下校の際に、警察及び、武装を許可された公認自警団が、最低でも三人は護衛についている。


「これって魚の群れみたいなものよね」


 朝、生徒の集団登校の中にいる弓村スピカが、隣の少女に向かって小声で囁く。同じクラスではないが、同じ報道部であり、帰る方向も同じなので、この集団登下校が始まる前も、一緒に登下校することが多かった。


「え? 魚の群れ? 私はセンサー搭載してないよ」


 スピカの横にいる少女――安楽二中の二年生である崖室ツグミが怪訝な顔になる。


「画伯の言葉の意味はわからないけど、魚の群れって、外敵から狙われても、生存率をあげるために群れてるでしょ。個々でいるより、自分以外の誰かが狙われるための安心感のためにさ。でも結局は群れてて目立っているから、群れに引き寄せられた大きな魚やイルカやクジラに、片っ端から食べられまくっちゃうと」

「つまり……サイキック・オフェンダーに本気で狙われたら、この集団登下校で被害者いっぱいになるってこと?」

「うん。むしろ狙われやすいし、狙われた際の被害はもっと多いでしょ」


 ツグミの言葉に、スピカは頷いた。


「護衛の人もついているけどさ、サイキック・オフェンダーに対して有効なのか疑問よね。まあ今の所、登下校の生徒が襲われたって話は、東では聞かないけど」

「西ではそういう事件があっても報道されないだろうな」


 一人の男子生徒が横から口を出した。昨年、ツグミとクラスメイトだった吉岡憲継だ。二年になってからはクラスが別々になってしまったが、それでもツグミとは親しい。というか憲継がツグミにしきりに声をかけてくる。


「でもうちの学校は、私と裏番と雅紀先輩がいるからへーきへーき。雅紀先輩は欠席多いけど」


 ツグミが胸を張る。


 その後、別の通学路から来た生徒達と合流し、登校生徒の数はさらに膨れ上がった。


「すみません。先輩達は、報道部の人達ですよね?」


 一年生の小柄な眼鏡男子が、スピカとツグミに話しかけてきた。顔立ちもあどけなく、制服を着なければ小学生と見間違いそうだ。


「へっへっへっ、その通りじゃ~。小僧、話が聞きたくばちこうよれ。可愛がっちゃる」


 ツグミが先日見た時代劇映画の、男色野伏の頭目の真似をして、後輩男子生徒にスケベ面で迫る。


「ちょ、ちょっと……」

「やめなさい画伯。何の用? ネタのタレコミなら大歓迎よ。入部希望ならもっと歓迎だけど」


 困る男子生徒から、まとわりつくツグミをひっぺがすスピカ。


「実は……調べて欲しいことが……他に相談できそうな人達もいなくて……あ、ここで話すのもちょっと……」

「んじゃ朝のホームルーム始まる前に、こっそり部室に忍び込んで、そこで話を聞こう」


 逡巡する男子生徒の台詞を聞いて、ツグミが笑顔で決定する。


「いいのかなー」


 後者に入り、報道部の部室前まで来た所で、スピカが苦笑い気味に言う。憲継はついてきていない。スピカとツグミと後輩男子生徒だけだ。


「いいのだー」


 スピカが何も考えていない笑顔で断言して、後輩生徒に椅子を出して座らせる。


「ぼ、僕は中司洋司なかじようじと言います。実は……僕の兄さん……ここの三年で中司一高なかじかずたかっていうんですけど……その……おかしくなっちゃって……」


 生徒が躊躇いがちに話しだす。


「変な人にはまっちゃってるんです。どうも……十代二十代の若い層をターゲットにしている、怪しい人っぽくて……」

「それって今話題のデスドライブ笛沢?」


 洋司の話を聞いて、スピカが眉をひそめた。スピカが口にしたのは最近ネットやテレビでよく見る有名人だが、スピカはその人物をかなり嫌っていた。


「いいえ……。違います。テレビに出ているような人ではないと思いますが、ネットでは有名なカウンセラーらしくて……。最初は音声無しの文字だけのチャットで、相談に乗ってくれる人なんです。で、兄さんはネットでその人と直接話して、カウンセリングしてもらっていて……もう、その人に取り憑かれちゃっているみたいなんです……。その人の言うことばかり聞いているようで、考え方も性格も……別物になっちゃって……。元の兄さんは、凄く優しくて穏やかな人だったのに……」


 喋りながら洋司は涙ぐむ。


「親に相談はしたの?」

 スピカが尋ねる。


「うちは……母さんしかいないんですけど、母さん、僕達二人のためにかなり無理して働いています。昼は工場で、たまに夜もバーで働いてて大変ですから、余計な心配かけたくなくて……。」

「もしかしてそれ、報道部に調査頼みたいんじゃなくて、七十七の怪異を引き起こす力を持つ画伯なら、問題の解決までしてくれると、そう期待して声かけたんじゃない?」


 スピカが冷めた声で指摘した。洋司はうつむいて沈黙する。


「正直に言ってよ」

「はい……その通りです」


 沈黙の時間が長かったので、スピカが険のある声を発すると、洋司は消え入りそうな声で認めた。


「よっしゃあ、任せてっ。解決してあげちゃう」

「ちょっと画伯……そういうのをね、安請け合いっていうんだよ」


 明るく弾んだ声で了承するツグミを見て、呆れるスピカ。


「困ってる人は放っておけないよ。私だって困ってること多いし、困らせることはもっと多いし、そんな時、いつも誰かの助けになって面倒かけまくりなんだもん。その分、私も誰かを助けるんだ。それに、うちも母さんだけだしさー。兄弟いないけど」

「まあ……こうなると思ってたけど」


 ツグミが言い張り、スピカは溜息をついた。


「そのカウンセラーさんの名前わかる? いや、サイトのアドレスわかる?」

「えっと……これです……」


 ツグミに促され、洋司は問題のサイトを開き、ホログラフィー・ディスプレイをコピペして、二人に飛ばした。


『カウンセラー大丘越智雄が青少年の悩みに答えます』と、大きな見出しの出たトップページ。管理者である白衣姿の男の顔が映っている。線が細く、柔和で優しそうな壮年の白衣姿の男が、涼やかな笑みをたたえている。


 サイトをくまなくチェックするスピカとツグミ。


「相談件数や利用者かなり多い。これ、一人でさばききれるものなの?」

「音声無しのチャットの時点で、中の人は別人かも……。でも兄さんはそんな疑いももっていないみたい」


 スピカが疑問を口にすると、洋司が答えた。


「大丘越智雄。これ偽名なのかな~? これにていっけんらくちゃーく」

「ハンドルネームと言おう」


 おどけるツグミに、スピカが言う。


「私達も相談する振りして様子見してみよう。おおお、我ながらナイスアイディア。今日の私は珍しく男の子バージョンの時みたいに冴えてるかもっ」

「確かに男の子の時の画伯の方が、かなり理知的ではあるね……。で、どんな相談にするの?」

「そんなの簡単だよー。私がいじめにあっていた時のことを、そのまんま喋ればいいもん」


 尋ねるスピカに、ツグミは笑顔であっさりと答えた。


「え……それは……悪いですよ……」

「画伯はそれ平気なの?」


 ツグミの作戦を聞いて、洋司が気おくれした顔でぼそぼそと言い、スピカは心なしか呆れたような響きの声で確認する。


「悪くなーい。もう私は過去を克服して、一人前の戦士として強くなったからへっちゃらよー」


 得意満面に、軽く己の拳を叩くツグミ。


『はじめまして。大丘越智雄です』


 チャット欄にアクセスすると、すぐに挨拶される。


「お、いきなりきたー」

「これは定型文じゃない?」


 ツグミが声をあげ、スピカが訝ったその時、部室の扉が開いた。


「貴様等……もう朝のホームルームの時間だろうに。ここで何をしている?」


 体育教師にしてサッカー部顧問の鶴賀が現れる。


「ゲゲゲゲーッ! 鶴賀先生!?」

 ツグミが恐怖に引きつった表情で喚く。


「化け物を生み出す能力者が、教師を見るなり化け物扱いの悲鳴をあげるとは、よほどやましいことをしていると見た。これは徹底的に問いただす必要がありそうだな」

「ううう……」

「これはヤバい」


 部室の中に入り、迫ってくる鶴賀を見て、たじろぐツグミとスピカ。


「ま、待ってください。じ、事情があって、僕が頼みごとをして、それで先輩達はここに通してくれたんです」


 洋司がかばう。


「ならばその事情とやらを教えろ」


「え~……鶴賀先生、後生&一生のお願いだから見逃してよ~。見逃してくれたら、相沢先輩を説得して登校させて、サッカー部に入るようにお願いしてみるからさー」


 洋司が事情を語る前に、ツグミが両手を合わせて懇願した。


「貴様……教師を買収しようというのか。俺も甘く見られたものよ」


 しかし鶴賀が聞き入れる気配は無い。


「ねね、画伯。鶴賀先生なら信用して、話をしてもいいんじゃない?」

「僕もそう思います」

「そっか……。スピカちゃんと洋司君がそう言うなら……。信用できそうな大人の協力者もいてくれた方が心強いしね」


 スピカが意見し、洋司も同意したので、ツグミも応じた。

 鶴賀に経緯を話す三名。


「なるほど。事情はわかった。しかし今しなくてもいいことだな。放課後か休み時間にやれ」

「え~……今せっかくノリノリな気分になってる所だし、今やりたいのに~」


 腕組みポーズの鶴賀に告げられ、ツグミは頬を膨らませる。


「崖室先輩、ここは退いた方が……」


 まとまりかけた話がこじれそうな気配を感じて、洋司がなだめる。


「画伯、私も今は諦めて時間のある時がいいと思う。それで鶴賀先生の協力も得られるんだから」

「協力するとはだれも言ってないが?」


 スピカの言葉を聞いて、鶴賀が硬質な声を発する。


「えー? 先生なんだから協力すべきじゃなーい。この話を聞いたら協力するのが良い教師ってもんだー」


 ツグミが抗議する。


「まあいい。出来る範囲で協力してやる」

「しゃあっ」


 鶴賀が折れ、ツグミはにやりと笑って歓声をあげた。

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