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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
90 欲望の赴くままに遊ぼう
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28

 初めて勤一と会った時、凡美はその青年が自分に対して、警戒しているかのように感じられた。しかしそれは最初だけだ。


 凡美が勤一の心をほぐしてやろうと意識して振舞った結果、勤一の警戒心は早い段階で和らいだ。恐れも消えたように見えた。

 何か女性に対して嫌な思い出があるのかもしれないと、凡美は思ったが、聞くつもりはなかった。


「少しは自分のことも大切にして」


 ある時凡美は勤一と二人きりになった際に、そう声をかけた。


「何でそんなこと言うんだ? 別に無理はしてない」


 目をぱちくりさせて尋ねる勤一。


「そうかな? リーダー的なポジションになっちゃってるのを意識して、率先して辛い役目をこなそうと無理しているように見えてるんだけど」


 凡美の指摘を受け、勤一は口ごもった。確かにその意識はある。


「でも無理はしてない」

「ならいいけど。助けが欲しくなったらちゃんと周りに言ってね」

「助け……」


 勤一の顔が如実に曇った。その変化を見て、凡美は直感した。


「私と同じかな。誰にも助けてもらえなかった? でも今は支え合う仲間がいるでしょ?」


 柔らかな口調で凡美が言うと、勤一の口元が綻んだ。その変化を見て、凡美も微笑を零す。


「見ている人は見ているのよ」


 凡美は何度も何度も、この台詞を勤一に向かって口にしたものだが、最初に言ったのはこの時だったと記憶している。


***


 凡美と吉川は、自警団を寄せつけまいと奮闘していた。一方で勤一は月那美香とやり合っている。

 美香が銃を撃ち、勤一が拳のヴィジョンを飛ばし、互いにかわしあう。この攻防が四回ほど続けて行われた後、凡美はおかしなことに気付いた。


(勤一君の相手をしているのは月那美香だけ? 他は手を出そうとしていない。自警団はともかくとして、ツクナミカーズの子達はただ見守ってるだけ。何か狙っている?)


 自警団と戦う一方で、凡美は常に勤一の方にも注意を払っていた。何かあったらすぐに助けにいけるようにと。


 凡美の嫌な予感は当たった。勤一が美香の銃撃を避け、樹木の間をくぐったその瞬間、樹木から大量の枝が伸びて、勤一の体のあちこちを串刺しにしたのだ。


「やったぜーっ。はっはっーっ」


 二号が歓声をあげる。オーガニック・トラップを樹木そのものに仕掛けておいて、勤一が近づくのを待っていた。美香もトラップがある場所を事前に把握し、それとなく誘導していた。


「ぐっ……ご……」


 くぐもったうめき声と共に吐血する勤一。枝は喉も刺し貫いていた。手足も、胸も、腹も。そして体内でさらに枝分かれして伸び、体のあちこちを貫き続ける。勤一の強い再生能力を上回る浸蝕率だ。二号の能力自体が、十三号のパワーアップ歌によってかなり強化されている。

 体内に枝を入れられて貫かれまくる攻撃は、以前も勤一は食らっている。この攻撃が有効だったことを、二号達は覚えていた。


 動きの止まった勤一に向けて、美香がさらに銃を三発撃つ。


 だが銃弾は一発も勤一に当たらなかった。巨大化した棘付き鉄球が勤一の前で回転し、全ての銃弾を跳ね返したからだ。


(いつだって貴方を見ているから)


 凡美が心の中で呟いた直後、巨大棘付き鉄球が高速回転しながら宙を舞い、勤一を貫いている枝を全てへし折ったうえに、勤一の体内の枝を全て、回転で巻き上げるかのように、体外へと排出させる。


「くっそーっ、また同じ手で防がれちまってーっ。あのおばはんが、自警団の奴等に気を捉われている隙を狙ったってのにいさーっ」


 悔しげに地団駄を踏む二号。


「また……」

 ユダの表情が変わる。目つきが鋭くなる


「禍々しい気配が近くに……。これ、あいつですよ。デビルですっ」

「デビルだと……?」


 ユダの報告を聞いて、吉川が声をあげる。凡美にも聞こえており、そちらに一瞬注意が向く。


(彼は本当に厄介)


 美香達と共に森の中に入って接近していたデビルは、二次元化したまま溜息をつく。


(一か八か)


 デビルが夜闇の中を移動する。きっとユダに気配は悟られているだろうが、それでも他の連中にはわからない。邪魔なユダを排除してしまおうと、短絡的なことを考えた。


 ユダの後方から飛び出したデビルが、手刀を突きだす。


 デビルに仕留められる自信はあったが、結果は思い通りにならなかった。デビルはがっかりする。

 デビルの手刀はユダではなく、咄嗟にかばった吉川の背中に突き刺さっていた。


「吉川さん!」


 自分の盾になる格好でデビルの攻撃を受けた吉川を見て、ユダは悲痛な叫び声をあげる。


「何? あいつ味方なん?」

「決めつけるのは早計だ! たまたま共通の敵という形なだけかも!」


 敵陣に現れて吉川を刺したデビルを見て、二号が訝り、美香が叫ぶ。

 デビルはすぐに地面に引っ込むようにして、二次元化した。


(シラけた)


 何も思い通りにいかないうえに、よくあるお涙頂戴展開を作り上げてしまったことで、デビルは何もかも面倒臭い気分になる。


「吉川さん……嘘だ……そんな……」

「まだ死んでないぞ。勝手に殺すな」


 涙ぐむユダに、吉川が額に油汗をにじませながら微笑む。


「デビルは……明智をずっと狙っていたようだな。感知能力があるせいで……」


 吉川が周囲を見渡す。


「まだデビルは近くにいます」


 ユダも周囲を見渡す。存在があることはわかっている。しかし具体的な場所がわからない。デビルに殺意も悪意も存在しないからだ。


(明智ユダ――実に面倒な存在。彼が僕の接近を尽く感じ取るおかげで、何も出来ない。せっかく色々考えていたことも全て台無し)


 苛立ちを覚えるデビルだが、その感情はすぐに消える。デビルは怒りという感情が人より乏しいうえに、持続することもない。


(諦めることはないか? まだ機会はあるか? いや、執着しない方がいい? 何だか今回は何をやっても駄目な気がする。彼のせいでドツボにハマってしまっているような気がする。もう諦めた方がいい。僕の負けでいい)


 そこまで考えて、デビルはあることを決めた。あることを認めた。


(だがその前に……)


 デビルが二次元化を解き、吉川とユダと凡美がいる近くに現れる。


 凡美がデビルめがけてビームを放つ。棘付き鉄球は、枝攻撃を食らってまだへばっている勤一のガードに回している。


 デビルは凡美のビームを避ける。その視線はビームを避ける際も、吉川に向けられていた。


「僕に勝った御褒美」

「む……」


 デビルが意味不明なことを呟いたその瞬間、吉川は自分の変化を感じて唸った。


「御褒美の結果がどうなるかはわからない。多分、良いことと悪いことが起こる」


 そう言い残して、デビルはまた二次元化して姿を消す。


「吉川さん、どうしたんですか?」


 呆然とした面持ちのまま固まっている吉川を、心配そうに覗き込むユダ。


「何だ……俺は……ああ……いや、そうか……」


 吉川が独り言ち、自虐的な笑みを浮かべてユダを見た。


「今までは……デビルが俺の精神に干渉していて……今……それを解いたらしい……。明智……以前の俺に戻ってしまったよ……」


 喋りながら吉川は、膝をついて落涙しだした。


「戻ってほっとしている。だが同時に、悲しく悔しい……。俺は仲間を殺してしまい、義賊屋吉川の頭目としての矜持も失い、義賊としての心も失っていた……」


 そこまで喋った所に、美香達の後方に十名近くの援軍が現れた。プルトニウム・ダンディーと海チワワが一斉に駆けつけたのだ。


「ここで援軍とか最悪のタイミングね……」


 凡美が荒い息をついている。能力を使い続けているせいで、体力の消耗が激しい。


 勤一もやっと立ち上がったが、二号のオーガニック・トラップのダメージは深刻だった。再生にかなりの力を使ってしまった。


「勤一、凡美さん、逃げろ」


 吉川が痛みに顔をしかめながらも、ちから強い声で告げる。


「吉川さんは?」


 どんな答えが返ってくるか、何となく予想しつつも、凡美は尋ねた。


「もう俺は君達の仲間ではない。無差別に人を殺す人間とは、相容れない。しかし君達とは……普通に話して、共に戦って……この数日、確かに仲間だった。その御礼と……ここで仲間をやめて裏切るお詫びだ」

「何を言ってるんだ……」


 勤一が呻く。美香とクローンズにも、吉川の言葉は聞こえていた。攻撃の手を止めて、吉川を見る。


「俺は出来るだけここで食い止める。その間に逃げろと言ってるんだ。そして明智……お前は投降しろ」

「嫌ですよ。僕は……」

「聞いてくれ! ここにいる明智ユダは、俺達と違って誰も殺していない。こいつだけは殺さないでくれ!」


 ユダが反発しようとしたが、それを遮るようにして、吉川は美香達に向かって叫んでいた。


「わかった! 抵抗しないのであれば応じる!」

「ふふふ……悪いが俺は抵抗するぞ」


 吉川がにやりと笑うと、凡美の肩に手を乗せて、転移能力を発動させた。


 それほど遠くへは転移はできないが、吉川は連続して転移を行える。すぐにまた転移して、今度は勤一の前に現れて、勤一に触れて転移する。


「吉川さん。どうして……?」

「だから償いだと言ってる。全てに対しての……。そして明智だけは助けたい。あとな……最期くらい格好つけてみたかった」


 転移した直後、勤一が尋ねると、吉川は笑顔で答える。


「行け。このままじゃ全滅だ。俺も負傷しているし、この様で、この人数相手に足止めは苦しい……。行けよ。皆して死ぬことはない」

「わかった。行こう、凡美さん」


 吉川が促し、勤一は逃げる決断をした。凡美と共に山中を駆け出す。


 その後また吉川は転移して、交戦していた場所に戻り、美香達と向かい合った。


「逃げられはしないぞ!」

「そうだろうな」


 美香が叫ぶと、吉川はあっさりと認めた。


「しかしこのまま何もしなければ……の話だ」


 転移して一時的にわからなくなっても、二人の場所はすぐに把握されるだろう。逃げ切る可能性を高めるためには、自分が足止めをしなければならないと、吉川は判断する。


(俺の力の全てを使い果たしてやる)


 吉川が能力をフルスロットルにして発動する。


「何だいっ、これはっ」

「ぐにゃぐにゃじゃねーか。うわっ、足が歪んでるっ」

「みんにゃの顔が歪んでてにらめっこバトルロワイアルにゃー」


 マリエ、ミラン、七号が声をあげる。


 周囲一面の空間が激しく歪み、一人の例外も無く空間の歪みに捉われた状態になっていた。美香とクローンズ、自警団、海チワワの全員が、空間の歪みに巻き込まれている。

 全員の体が歪んでいる。動こうとしてもまともに動けない。前に進んだつもりが倒れて地面に向かってめりこみ、身を低くしてかがめてみたら突然横に回転しながら宙を飛びと、下手に動くと、歪みのせいで予測不可能な状態になってしまう。


「むむむ、これが敵の奥義というわけですか……」

「ここまで大規模な力を使えるのであれば、最初からやってもいいはずです。使うことにリスクのある能力なのではないでしょうか?」


 怜奈が唸り、テレンスが可能性を示す。


(ドレッドヘアーの兄ちゃんが正解だ。何分持つかわからないが、しばらく足止めできれば……)


 力を全て使ってうつ伏せに倒れた格好で、ほくそ笑む吉川。


「吉川さんっ! しっかりしてくださいっ!」


 倒れた吉川にユダが泣きながら縋りついている。


「ぜんまいを巻いた本人はもう倒れているから、本人を殺害しても、この状態は解けそうにないね。克彦兄ちゃん。頼むよ」

「頼まれなくてもやってるんだけど……中々難しい」


 来夢に声をかけられた克彦の後方では、歪んだ黒手が、歪みゾーンの中をもがくようにして動いている。


 やがて克彦と来夢の体を黒手が掴むと、二人を亜空間トンネルの中へと引きこむ。

 二人は亜空間トンネルを抜けて、歪みゾーンの外へと脱出することに成功した。


「克彦兄ちゃん、この調子で全員助けて」

「大忙しだな……」


 来夢に言われ、克彦は苦笑しながら溜息をつく。


「二号! お前も亜空間トンネルが作れるだろう! 克彦の要領で皆を子の中から出せ!」

「あたしの場合、黒手なんて無いから、植物使ってやらないといけないし、もっと大変だぜ……」


 美香に命じられると、二号は嫌そうな顔で従った。


 やがて克彦と二号の力によって、全員が歪みゾーンの外へと脱出する。それなりに時間がかかった。


「怜奈、急いで治療を」

「は、はいっ」


 来夢が吉川を見下ろしながら促し、怜奈が吉川の応急処置を始める。


「情けをかけてくれるのか? それとも安心した所で殺すか」


 吉川が皮肉げに言う。


「俺はそんな悪趣味じゃない。魔が差すこともない。おじさんのことは殺したくない」

「おじさんか……まだ三十三歳なんだが……」


 来夢の言葉を聞いて、吉川はむっした顔になる。


「どう考えてもおじさん」

 来夢は嬉しそうな笑顔で断言した。


 その後、ユダと吉川は拘束されて自警団の生き残りによって連行され、美香とクローンズ、海チワワ、プルトニウム・ダンディーの面々は、凡美と勤一の後を追った。

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