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軍用ヘリで下の道路をチェックしていた美香達は、一台の車が停まる場面を目撃した。
車の中から四人の男女が出て、山の中へ入る光景を上空から確認する。
「しまった! 森の中に入られた!」
目撃した美香が叫ぶ。
「うへえ……。もうすぐ日が暮れるってのに、そんなんありかよ」
「前も山越えしていたにゃー」
嫌そうな顔になる二号と、口をへの字にする七号。
ヘリコプターの一団が降下していく。プルトニウム・ダンディー組、海チワワ組、自警団他組等が、ヘリから降りる。
「大捕り物になりそうですねー」
「とっくに大捕り物になっている気もするけど、ここで終わらせたいな。頑張ろう」
最後に美香達が降りると、怜奈と克彦が声をかけてきた。
「応!」
「無事お仕事終わらせるにゃー」
美香が威勢よく頷き、隣にいた七号がにっこりと微笑む。
「効率を計るために、ある程度分散して追わなくてはなりませんね。交戦状態になった場合、数にものを言わせて袋叩きにすることはできなくなります」
テレンスが来て提言する。
「発見したらすぐに交戦しないで、援軍を待ったらどうだ?」
自警団のリーダーが意見した。
「相手がこちらに気付かなかった場合は、その方がいいな! 気付かれたら連絡をしたうえで交戦するか、あるいは逃走してもいい!」
「本当に叫ぶんだな……。テレビ用に作っているキャラじゃないんだ。いや、失礼。了解した」
「よく言われる!」
美香が方針を示すと、自警団リーダーはおかしそうに微笑んでいた。
「向こうだって、発見されたら援軍呼ばれることも見越して、対策を考えているかもしれない。あるいはどこかで待ち構えていて、不意打ちを仕掛けてくるかもしれない。その時はどうするの?」
来夢が問う。
「その時はその時で何とかするしかない!」
「やっぱり美香は馬鹿。空っぽ。唾が飛んでいなかった事は評価する」
美香の答えを聞いて、来夢が溜息をつく、
「何だと! じゃあお前に何かいい案があるのか!?」
「いやー……今の答えは……オリジナル、そう言われても仕方ないと思うわ……」
むっとして怒鳴る美香と、呆れる二号。
「一網打尽にされないように、一組でがっちり固まるより、一組が前後に間隔を開けて歩いた方がいい。五人なら二人と三人といった感じで。もちろん離れすぎないように」
「その場合、先頭の二人組が奇襲かまされてやられている間に、後ろの三人が逃げ出すとか、そんな構図も出来そうだな。いい案だな。気にいった」
来夢が作戦を述べると、ミランがへらへら笑いながら茶化した。
「最初に狙われるのは先頭とは限らない」
「ま、そりゃそうだ。どこも危ねえわな」
真顔で言う来夢に、ミランが同意する。
「異論が無いようでしたら、砂城来夢君の案でいきましょう」
テレンスがそう言って一同を見回したが、異を唱える者はいなかった。
***
樹々の葉の合間から、夕日が差し込んでくる。
車を捨てて森の中に入る瞬間、攻撃される危険性があって身構えていた一同だが、攻撃されることは無かった。特に凡美は拍子抜けだった。
「日没まではあと二時間くらいですね」
森の中、最後尾を移動するユダが言った。
「今の所、誰かが迫ってくる様子は無いです」
ユダは歩きながら、自慢の感知能力を常に働かせ、同時に遠視能力や感知能力を遮るシールドも展開させている。かなり疲れるが、多数の追っ手がすぐ近くに迫ってきている状況であるため、敵の接近をいち早く察知して、アドバンテージを握るために無理をしている。
「この森さえ抜ければ、あとは西に一直線だ。ああ、その前に車を奪う必要もあるけどな」
吉川が先頭で草をかきわけながら言った。前回同様、勤一と交代でこの役割を担っている。
「勝手なこと言うけど……平穏な日々を過ごしたいとか、そんなこと考えちゃってる」
気恥ずかしさを覚えながらも、勤一は本音を吐露した。
「俺もだよ。ただし俺は、昔のような毎日ストレスばかりの平穏な日々は、ごめんだけどな」
やや皮肉げに言う吉川。
「私も、過労で倒れても上司になじられ続ける日に戻りたいばかりじゃないわ」
嫌な過去を思い出し、凡美が暗い面持ちになる。
「上司はちゃんと殺しておいたか?」
「当たり前でしょ。私よりずっといい生活していやがって。家族ごと皆殺しにしておいたわ。私を散々いじめた罰だし、当然の報いよ。死ぬ前の顔は傑作だったし、思い出すと胸がすっとするわ」
伺う勤一に、小気味よさそうに言ってのける凡美。
「復讐って行為を否定する人もいるけど、私は復讐して心底よかったと思う。私を散々いじめたあんな奴が、あのまま幸せな人生なんて送っていいわけがないもの」
「家族まで殺して……? 家族は関係無いんじゃないですか?」
凡美の言い分に、ユダは賛同できなかった。どう考えてもやり過ぎであるように思えた。
「復讐は人間だけではなく、動物もする。しかも子殺しという形でな。ライオンに子を殺されたヒョウやチーターやハイエナや水牛が、報復にライオンの子を殺すことがあるそうだ」
勤一が淡々と語る。
「その理屈なら、僕も殺されないと駄目ですね。僕の父親は犯罪者でしたから」
挑みかかるような口振りのユダ。
「私をいじめたのは明智君じゃないし、明智君の父親でもないわ。私は明智君に何も恨みは無いから、そんなことは考えなくていい」
凡美はユダの方を向いて微笑みながら、柔らかい口調で告げた。
「そうですか……。でも僕の父親に殺された人の家族は、僕のことも殺してやりたいと、罪は僕にもあると、そう思っているかもしれないってことですよね?」
「どうかしら? 普通の人はそこまでではないかも? 私が異常なんじゃない? 明智君、深く考えないで。私が憎んでいたのは貴方のお父さんではないし、今は一蓮托生の仲間なのよ」
凡美は優しい笑みを向けるが、ユダは納得いかなかった。
やがて日が暮れる。
「見事に真っ暗闇ですね……」
やや不安げな声をあげるユダ。
「俺は夜目が利くから平気だ。俺がこのまま先頭を歩くから、離れないで着いてこいって……」
喋っている途中に勤一が、藪を切り開く際に服も切り裂いてしまう。
「やっちまった……。あー……ズタズタだな」
「山を抜けたら通行人を殺して新しい服を奪いましょう」
「そうだな」
何気ない日常会話のようなやりとりで話す勤一と凡美の会話を聞いて、ユダはぞっとした。
(そんな理由で簡単に人を殺せちゃうんだ。この人達……。吉川さん、本当にこの人達と仲間になって、それでいいんでしょうか……)
心の中で不安を問いかけるユダ。
「敵さんもライトをつけるほど馬鹿じゃないようだが、敵の中にも夜目が利く者がいてもおかしくないな」
「あるいは暗視装置を用意している可能性もありますね」
「ノクトヴィジョンという呼び方の方が俺は好きだな」
吉川、ユダ、勤一がそれぞれ言った直後、ユダが足を止めて強張った顔になる。
「来ます。来てます。大勢接近してます。結構な数です」
ユダの報告を受け、全員緊張して足を止める。
「こっちに気付いているのか?」
「真っすぐこちらに来ています。多分、草木を分けた跡を辿っているのではないかと」
吉川の問いかけに、ユダが答えた。
「迎えうつぞ」
勤一が振り返り、自分達が歩いてきた森の中の闇を凝視した。




