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四台の軍用ヘリの眼下には、浜名湖が広がっている。
「たった四人のために物々しいと言いたい所だが、奴等は全員糞強い能力者だから、数で押すしかねーわけか」
窓から湖を眺めながら、ミランが言った。
「つーか、いつまでこうしてお空の上にいるんだ?」
「今、ターゲットの位置を探しているらしいわん」
ミランが問いかけると、キャサリンが答える。
「生体情報は取得してるんだろ? 超常の力で探れないわけ? あるいは人工衛星で探索とかは?」
次々と疑問をぶつけるミラン。
「生体情報の時点で後者は無理ですよ。特殊な監視装置に反応します。超常の力による探知は、ガードされてしまっているようです」
「しかし超常の力で、監視装置の生体情報キャッチは防げないわけか」
テレンスが答え、ロッドが言った。
「だからこそ相手も苦労して逃げているわけだ」
ミランが皮肉げに言った所で、ヘリが降下しだした。
「見つけたのか?」
ロッドが立ち上がる。
「それならまずこちらに報告があるはずです。どうして何の報告も無くいきなり降下しているのですか?」
テレンスが操縦席に声をかける。
「オフィスからの指示です。見失ったという判断に至りました。どの監視装置にも引っかかりません。この地形では、通れる場所は非常に限られていますし、他の面々と一度打ち合わせをした方がよいと」
PO対策機構の操縦士が、少し戸惑い気味に答えた。
「確かに湖にかかった橋の上を通らないのなら、大きく迂回するか、泳ぐしかないわね。私もあの湖で泳いでみたいわ~。泳ぐのは得意なのよ~」
「その脂肪は水より軽いのか? すぐに沈むイメージしか無いんだがな」
キャサリンが声を弾ませると、ミランが揶揄した。
***
湖畔にある広けた場所に、最初に降りた軍用ヘリは、プルトニウム・ダンディーを乗せたヘリコプターだった。
「ここまで来て見失うなんてね。何のために来たって話だい」
「それ以前はちゃんと追跡出来てたのか?」
「天使の足跡は、おぼろげながらにあったらしい。しかし突然途絶えたとか」
マリエ、克彦、エンジェルが言う。
「他のヘリも皆降りてきた」
来夢が言いつつ、ヘリを降りる。
「今のうちに給油します」
と、操縦士が報告する。来夢以外の面々もヘリの外に降りた。
「亜空間トンネルを通ったという可能性は無いですか?」
「サルバドール吉川は転移能力持ちだけど、そんなに長い亜空間トンネルを作れるなら、逃げることにも苦労しないだろうし、こちらは追い切れないんじゃないかな」
怜奈の疑問に対し、克彦が私見を述べた。
クローンズと義久もヘリから降りてきた。自警団の面々も降りる。しかし美香の姿は無い。
「本当に見失ってしまったのか!? そもそもちゃんと位置を把握していたというのか!? おかしいじゃないか! まだ来てないだけなんじゃないのか!? 何故ここにはいないという判断を下したんだ!? 誰が!?」
「オフィスがそういう判断をしたのです……」
ヘリの中で苛立たしげに叫ぶ美香に、ヘリ操縦士は困ったように答えた。
「遠視能力者や予知能力者による曖昧な判定ですから。それも妨害されまくっていたので、追跡は困難とのことでした」
「そいつらは、ターゲットの場所をしっかり特定できないのに、いないってことだけはわかるのか!」
「美香ちゃんさ、その人にクレームつけても仕方ないでしょ」
皮肉る美香を、ヘリの中に戻った義久がなだめる。
「とうとう美香はクレーマーになっちゃったんだ」
「黙れ!」
くすくす笑ってからかってくる来夢に、美香は腹立たしさ全開で怒鳴った。
最後に海チワワの面々も降りてきた。
「相変わらず太り過ぎ。何でダイエットしようとしないの?」
キャサリンを見るなり、来夢がうんざりした顔で問いかける。
「ちょっとっ、またそれを言うの? この脂肪には意味が有ると、もうわかったでしょう?」
「ベルーガがどうのこうのと言って、嫌な気分にさせてくれたことは覚えている。思い出して今もムカムカしてきた。ベルーガを辱められている気分。俺、ベルーガ好きだし」
互いにむっとした顔になるキャサリンと来夢。
「おお、テレンス久しぶり」
「おやおや、高田さんじゃないですか」
義久とテレンスが再会し、互いに頬を綻ばせる。
「取材ですか?」
「ああ。A級指定のヤバいサイキック・オフェンダーを追跡しているっていうんでね。取材させて貰っているよ」
「いい記事は書けそうです?」
「現時点では苦しいなあ。いい記事を書かせてくれよ。テレンスが捕まえてくれたら、いい記事になるぜ」
「頑張りますよ。最近で言えば、『ミルメコレオの晩餐会』――汚山悪重の悪事について色々と書いていたようですが、大丈夫でしたか?」
笑顔で話していたテレンスだが、真顔になって義久のことを案じる。
「大丈夫じゃなかったよ。しつこく狙われた。だから今はこうしてPO対策機構にべったりくっついて、身の安全を計ってるわけさ」
義久が苦笑していかつい肩をすくめた。
「『ミルメコレオの晩餐会』……サイキック・オフェンダーを集めて作った犯罪組織か。PO対策機構とはかなりやり合っている間柄だな」
二人の会話を聞いて、克彦が呟く。
「優達が一度派手にやりあったって言ってた。勝利はしたけど、犠牲も相当出たって」
「ボスが相当なろくでなしって聞いたね」
来夢とマリエが言う。
「マリエも昔は魔が差して相当なろくでなしになってたけど、改心してよかったよ」
「うるさいよ」
「マリエは天使の加護を失ったわけではなかった。心の中に天使が残っていた。それが大きい」
来夢がからかい、エンジェルは微笑みながらフォローする。
「我々はどうするのだ!?」
「しばらく待機して欲しいとのことです。目下、情報収集に全力で当たっているとのことで」
一方、相変わらず苛立ち気味の美香が問うと、操縦士は困り顔で報告した。
***
車で北に向かう勤一、凡美、吉川、ユダの四名。
「あれから一時間経ったけど……大丈夫そうね」
しきりに後方を伺っていた凡美である。
「ヘリが追ってくる気配は無いな」
「スリルいっぱいですねー」
勤一とユダが言う。
「明智がいてくれていつも助かっている。こいつは遠視能力者の力を妨害することも出来るからな」
「いえいえー」
運転席の吉川が言うと、ユダは照れ笑いを浮かべる。
「メールだ。他のサイキック・オフェンダーからだ」
勤一が硬質な声を発して報告した。
「知り合いか? それとも仲間か?」
吉川が尋ねる。
「仲間ではないが、知り合いだ。俺達の状況を知り、手助けしてやらなくもないとのことだ」
明らかに乗り気ではない口調の勤一。
「助っ人に来てくれそうな人だといいんですけどー。期待しちゃうんですけどー」
ユダが期待する。
「実は以前二回会っただけだ。しかし俺の状況を知っているうえに、助っ人に来てやってもいいと、横柄な言い方をしている」
「横柄な言い方ってことは……汚山悪重?」
凡美も知る人物だった。勤一が嫌そうにしている理由と、横柄な言い方の時点でわかった。
「そうだ」
「何だと……」
勤一が頷き、吉川が険悪な声を発し、ユダは蒼白な顔になって震えだした。
「どうしたの? 明智君」
凡美が尋ねたが、ユダは震えたままで答えない。まるで凡美の声も耳に入っていないようだ。
「そいつは論外だ。来なくていい」
吉川がきっぱりと拒む。
「何かあったのか?」
「以前、孤児院で明智を虐待していた奴だ。俺とも面識はある」
「わかった。断っておく」
吉川に言われ、勤一は断りのメールを返した。
「すまないな。戦力としては心強いだろうが」
「いや、いい。気にするな」
「私もあの男は嫌いだから、呼ばなくてほっとしたわ」
申し訳なさそうに吉川に、勤一と凡美は明るい声で言った。




