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凡美、勤一、吉川、ユダの四人は、車を奪って移動していた。
運転は吉川がしている。ユダと勤一は寝ていた。凡美は起きて、吉川と喋っている。
「あのデビルっていうの……生きていたのも驚きだけど、どうして私達を助けてくれたのかしら?」
「さあな……。向こうにも都合があったのかもな」
「都合って?」
「さあ……。俺達にわかるはずもない」
声に怒りを滲ませる吉川。デビルが自分に何かをしてバーサーカー事件のように自分を狂わせ、仲間を殺させた可能性があるので、デビルが自分を助けてくれたとしても、感謝する気には到底なれなかった。
「静岡の今切関所を抜けることにした。新居関所という呼び名でもある。正式名称が今切関所だとか」
吉川が方針を告げ、助手席で寝息をかいている勤一を一瞥した。
「原山はよく頑張っている。しかし……何でこんな素直ないい男が、サイキック・オフェンダーになっているのか、俺にはよくわからん」
自分に向けられた言葉でもないのに、凡美は吉川のその言葉を聞いて、救われたような気がした。
「きっと……ちょっと運が悪かっただけよ。彼も、私もね。多分私と同様に、周囲に恵まれなかった。それだけで人は、パブリックエネミーへと墜ちてしまうものなの」
暗い瞳で凡美は話す。
「そして恵まれている人が私達を悪者扱いして非難する。散々私達をいじめておいて……なお叩く。そう考えると、やっぱり社会は私達の敵だと改めて思える。憎らしくなる」
「そして憎しみのまま動いても、より不幸になってしまう。今までの社会ではそうだった。しかし今は違う。だから皆、力を、欲望を、恨みを解き放っているんだな」
凡美の話を聞いて、吉川は虚しそうに言った。
気分を変えるため、ラジオをつける吉川。
ニュースをやっていた。サイキック・オフェンダーの声明文が読み上げられていた。
『俺が社会に牙を剥き、人を殺したのは、お前達のせいだ。自殺志願者が殺人事件を起こした後で自殺した時、罪ッターで「死ぬなら一人で死ね」とぬかしただろう。「社会のせいにするな。自分のせい」とほざいていた奴もいた。あれを見て俺は、社会そのものが敵だと感じた。何の躊躇いも無く人を殺せるようになった。躊躇も同情も一切消えた』
「このパターンは多いな。これらの発言に触発されて犯罪に走る奴、もう何人見たか聞いたかわからないぞ」
気分を変えたかったのに、さらに虚しい気分に陥る吉川だった。
「因果応報。社会が撒いた憎しみの種が芽吹いた結果よ」
凡美が吐き捨てる。
「治安のいい国と悪い国、格差の酷い国とそうでない国があるが、これが社会の責任、国の責任で無いはずが無いしな。そして言葉は不用意に使っていいものではない。これは紛れもなく言葉が殺意の引き金を引いた。言葉は人を殺す」
吉川も同意した。そして吉川の言葉が人を殺すという台詞に、凡美も同感だった。
「貴方はどうして義賊なんてことをしていたの?」
ふと疑問が浮かび、凡美が尋ねる。吉川も自分や勤一と同様の考えのようだが、しかし彼は不殺を貫き、義賊などしていた。
「それ、俺を非難したいのか? 嘲りたいのか?」
「私は不用意に人を見下したりしないわ。行動を共にする人を見くびってどうするのよ」
嫌そうな顔をする吉川であったが、凡美は柔らかい口調で否定した。
「力を授かったからといって、それで欲望のままに悪事を行う気にはなれなかった。俺に優しくしてくれた人達もいたからな」
一切合切をひっくるめて憎む気にはなれなかったという吉川の気持ちは、凡美にもわかる。凡美も勤一達のことは憎めなかった。だが社会を敵視した凡美達と、社会に一矢報いながらも、困っている人達に恵みをもたらした吉川では、やはり違うと改めて感じる。
「それと、気に入ったアニメがあった。その影響を受けた。義賊の怪盗が活躍するアニメだ」
気恥ずかしそうな口調で付け加える。
「しかしまあ……それもお釈迦だ。バーサーカー事件の被害にあったとはいえ、俺が全てぶち壊してしまった。そのうえ俺の心までもが歪になっているときた。おぞましいな。自分の性格、思考が、別物になってしまうなんて。おぞましいはずなのに、俺は大して深くは受け止めていない」
そこまで喋った所で、ラジオがCMに切り替わり、ツクナミカーズの歌が流れる。非常に明るく、ポジティブな歌詞の歌だ。
「今は聴きたくない曲だな」
「ポジティブ全快の歌詞だしね」
揃って苦笑する二人。
「覚醒記念日で、世界中に超常の能力者が溢れかえったあの日、不幸な人達に、神様がようやく救いを差し伸べてくれたなんて、そう思ってたわ。でも違った。力を得て好き放題した人達は、世界の敵としてどんどん殺されていったもの。まるで害虫扱い。そして私達も今、こうして殺されるために追い回されている」
「でも黙って殺されるつもりはないから、こうして足掻いているんだろう?」
凡美がニヒルな口調で言うと、勤一が口を開いた。
「いつから起きてたの?」
「吉川さんがアニオタだったと言ってた所からかな」
「一番いいタイミングで起きてくれたな」
三人の顔に同時に笑みが零れた。
***
美香とツクナミカーズと義久は、軍用ヘリで次の関所へと移動していた。
少し離れた所で、二台の軍用ヘリが飛んでいる。海チワワを乗せたヘリと、自警団を乗せたヘリだ。同じPO対策機構でも、出所が違う者同士は、必要以上に交わらないようにしている。
「相手はたった四人なのに随分大掛かりだね」
義久が不思議そうに言う。
「かなりの力の持ち主だ! そしてかなりの人数を殺した! その結果A級指定された者達だ! 放置しておくわけにはいかない!」
「加えて、現在PO対策機構は順調に成果をあげており、東の秩序維持を大々的にアピールしたい、大事な時期ですからね。大きな失敗を犯したくないのでしょう」
美香と十三号が言った。
「そのために大勢の戦闘員が無理させられるのは、どうかとも思うがな……」
どうも義久の目には、上の方策のために、下が振り回されている構図に見えてしまう。
「日本の東部だけでも収束傾向にあるのは凄いことだよ。まあ、西に追いやられたってのもあるだろうけどさ。世界中にサイキック・オフェンダーが溢れかえって、連日悲惨な事件が報道された時、こいつは世界の終わりの幕開けかとも思っちゃったよ、俺は。それは大袈裟かもしれないが、それにしたってとんでもない事態すぎて、収束なんて出来そうに無いと思ってたのにな」
「あたし達がすげー頑張ったおかげだからねー。もっと褒めて。もっと感謝して」
義久が功績を認める発言をすると、二号がさらに要求した。
「せっかく能力を得たのに、社会への復讐で暴走しなくてもいいのにな」
「正直私にはそういう奴等の気もわかる! そうすることでスカッとする気持ちがわかってしまう! しかしその先にあるのは破滅だ!」
美香が複雑な想いを胸にして叫ぶ。
「一度得た希望を失えば、また悲しみにな~る~」
「その歌は知らないなあ。新曲?」
七号が突然歌いだし、義久が訝る。
「やめろ! その歌は好きではない!」
「オリジナルが失恋していた時期の、暗い歌詞の歌の一つだなー」
「なるほど……」
美香が止め、二号が教え、義久は納得した。
来夢から電話が入る。
『俺達も今そちらに駆り出されている所。ヘリで向かっている』
「そうか! よろしく頼む!」
『唾飛ばさないで』
「飛ばしていない! 見えもしないのに適当なことを言うな! そればかり言うな!」
『いいや、飛ばしている。俺にはわかるから。俺は美香の唾飛ばし鑑定職人だから、声を聴いただけでわかるんだ』
笑い声で断言する来夢。美香はそれ以上何も言わず電話を切った。
(一度得た希望を失えば、また悲しみになる?)
先程七号が歌っていた歌詞に気を取られた者がいた。
(それこそ絶頂からの奈落。悪魔が好む最大最高のシチュエーション)
美香達のヘリに潜んでいるデビルが少し気を良くする。
逃亡中のサイキック・オフェンダーを尾行しても、また明智ユダに発見されそうなので、こちらに便乗して移動した方がよいと踏んだデビルであった。




