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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
90 欲望の赴くままに遊ぼう
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2

 物語は数分前に戻る。


 山駄凡美は仲間達四人と同じテーブルで遅めの夕食を取りながら、ニュースサイトを閲覧していた。


『貴方も超常の能力に目覚めた!? 能力を利用して犯罪に走る者が激増!』

『未知の細菌による感染が、力を呼び起こす。能力覚醒者の体内より検出』

『世界各国で超能力者が出現、アメリカ、ドイツ、カナダ、フランスではすでに公認される』

『世界中で犯罪率が急激に増加。覚醒記念日より増加した覚醒能力による犯罪』

『日本の警察は対処困難? アメリカ、ロシアでは対能力者部隊が――』

『超常の能力を用いた犯罪者。サイキック・オフェンダーと名付けられ、厳しく取り締まる法案が可決』

『ソシオパスに限って能力を覚醒させやすい傾向にあるため、サイキック・オフェンダーも発生しやすいという説が濃厚』


 半年前の覚醒記念日から現在に至るまでの、超常の能力の覚醒現象と、それにまつわる世の中の動きに関する記事を読み漁る。


 山駄凡美も所謂サイキック・オフェンダーの一人である。半年前、見ている前で息子が殺された。息子は能力を覚醒させていじめっ子達に復讐を行っていたが、いじめっ子も能力を覚醒させて、息子を殺した。それを見た凡美も(略)。


 元々はシングルマザーのパートで、貧乏で辛い生活を送っていた凡美は、息子の死と、覚醒したことによる自身の殺人によって、タガが外れた。以来、自分を抑えることをやめた。能力を用いて、職場の人間を皆殺しにして金を奪うと、派手な生活を送るようになった。金が尽きると、手当たり次第に強盗を行った。殺人も躊躇わなかった。

 PO対策機構に追われるようになってからは、同じサイキック・オフェンダーである原山勤一を含めた四人と、行動を共にするようになった。徒党を組んで行動することで、生存率は飛躍的に上がる。


 しかしその分目立ってしまった面もある。PO対策機構を返り討ちにしまくったおかげで、凡美と勤一達はA級指定されるに至り、敵も執拗に追い掛け回すようになった。


「ところでさ、西に行くっていう選択肢は無いのか?」


 いち早く食事を終えた仲間の一人が尋ねる。


「西に行けば、俺達覚醒者は何をやっても咎められないっていう噂じゃねーか。PO対策機構の糞共のカバーもまだ及んでいないんだろ」


 確かにそれはそうだと凡美は思う。だからこそ西へと逃れるサイキック・オフェンダーも多いが、そう簡単に西へと行けるわけでもない。

 現在日本では、『関所』と呼ばれるシステムが導入された事で、陸路で東西の移動は厳しくチェックされている。江戸時代の関所とは全く違う代物だが、これが東から西へ向かうサイキック・オフェンダーを阻んでいる。空路や海路は、空港や港のチェックが厳しく、より困難だ。


「どうしても西に行きたければお前は行けばいい。止めねーよ」


 リーダー格である原山勤一が、スパゲティーを食べながら不機嫌そうに言う。どう見てもサイズの合っていない、ぶかぶかの服を着ている。


「いやあ、皆でならともかく、お前達と離れてまでも行きたくはねーな。せっかく出来た仲間だし。でも何で西に行きたくないんだ?」

「逃げるみたいで嫌だし、俺は東京を離れたくねーんだよ」


 西へ行きたいと言いだした仲間が尋ねると、勤一は理由を述べた。


「西は無法地帯と言っても、西の全てが世紀末的な無法都市になってるわけでもなくて、普通に都市は機能しているそうよ。ただ、犯罪が起こっても、超常絡みだと警察は手出ししないだけで」


 凡美がネットで知った話を口にする。


「で、元暗黒都市の転烙市とぽっくり市だけは、無法者蔓延るひゃっはーな世紀末都市になっているっていう噂だけどね」

「山駄さんは相変わらず情報通だ」


 別の仲間が凡美を見て微笑む。


「だとすると尊幻市はどうなっているんだろ? あそこは昔から無法都市だっていう話だが」

「尊幻市なんて文字通りの都市伝説じゃねーの」

「いや、西に行かなくても、尊幻市なら、PO対策機構の手も逃れられると思ってさ」

「奴等のしつこさには辟易だな」


 食事をしながら会話を続ける五人。


 やがて雑居ビルの中にある定食屋で食事を終え、五人はビルの外に出る。


「こんな所でこそこそと食事するのもいい加減うんざりだな。金はあるんだから、もっといい所で飯食いてーよ」


 仲間の一人がぼやく。


「一仕事するぞ」

 勤一が暗い表情で告げる。


「金ならまだあるだろ」

「殺意を抑えられない。誰でもいいから殺したい。金を奪うのはそのおまけだ」


 歪んだ笑みを浮かべる勤一を見て、他の三名は息を飲む。凡美だけは溜息をついている。


(力があって、仲間想いでもあるから皆付き従ってるけど、こういう所は皆もついていけないみたいね)


 凡美は思う。しかし凡美は勤一に対して引くことは無い。


「さよならパーンチ!」


 いきなり勤一が叫んだので、側を通りがかっていた通行人がぎょっとして勤一の方を見た。


 通行人は勤一の姿を見ることが出来なかった。通行人の視界に飛び込んできたのは、縦1メートルはあろうかという巨大な拳だった。何故そんなものが見えているのかもわからぬまま、通行人は巨大拳の一撃を食らい、上半身を吹き飛ばされた。

 下半身と分かたれた上半身が、建物の壁に激突する。拳が衝突した時点で、上半身の骨の大部分が砕け、内臓も血管も破裂しまくっている。即死だ。


 巨大拳はすぐに消える。現れた巨大拳は、力を視覚化した映像に過ぎない。


「ひっ!?」


 目の前で通行人の上半身が吹き飛ばされる光景を見て、向かいから歩いてきた女子高生が、表情を引きつらせて足を止める。


「さよならパーンチ!」


 勤一が続け様に同じ力を発動させると、今度は拳が上から降ってきて、女子高生を潰した。アスファルトに血が飛び散り、内臓が四方八方に弾け飛んで散乱する。


「いつも思うんだが、技名叫ぶにしても、それ、どうにかならないのか?」

「これが俺的には一番気分が乗るんだよ」


 仲間の一人が笑いながら突っ込むと、勤一は照れくさそうに微笑む。


 さらに仲間達も次々と力を用いて、近くにいる通行人達を殺して回る。凡美もそれに参加する。


 凡美は何も感じない。息子を失い、人を殺したあの日から、凡美の感性は変わってしまった。超常の覚醒者以外の一般人がどうなろうと、何も感じない。目の前で殺されようと犯されようと、可哀想にと思うことはない。それどころかすっとする。

 定期的に殺意を催し、無差別に人を殺さずにいられない勤一も、自分と同じなのだろうと、凡美は考える。全てが呪わしく、憎くてたまらず、怒りに満ち、殺意を抑えられないのは凡美も同じだ。しかし勤一の方が先にそれを表すので、凡美は自ら率先して殺すことはない。


 凡美は職場でパワーハラスメントを受けていた。劣悪な環境で低賃金で働き、いじめを受け、それでも一人息子のために頑張っていた。その息子までもが実はいじめられていたと知ったのは、息子が死んでからだ。

 世界は自分達親子をいじめ続けた。おまけに凡美は息子の命を奪われた。一切合切が憎らしい。心を開けるのは、同じように能力を覚醒させて、憎しみを解き放ち続ける仲間達だけだ。


「だ、だずげで……」


 残る通行人は一人。尻もちをついて震える子供だった。小学生高学年と思われる。しかし相手が子供だろうと、凡美も勤一も他三名も容赦はしない。


 勤一が進み出て、その子供を殺害しようとしたその時、銃声が鳴った。


「勤一君!?」

 思わず叫ぶ凡美。勤一の体が大きく傾いた。


「痛っ……ぐぅ……」


 頭を押さえて呻く勤一。頭部から血が流れている。銃弾は頭を貫通した。しかし勤一は死んではいない。


「援軍がまだなのに手出しちゃって……」

「だって見てられないだろー。目の前で人が殺されまくってるのにさー」


 雑居ビルの廊下の窓の内側で、凛が溜息をつき、晃が言い返す。


 晃がさらに銃を撃つ。二発目も当たった。今度は勤一の喉を貫いた。


「やっで……ぐれだ……なっ」


 喉を貫かれたせいでおかしな声であったが、怒りに満ちた声を発しながら、勤一は変身した。全身の肌が青黒くなり、筋肉が肥大化し、がっちりとした体型に変化して、背も伸びる。その顔は怒りの形相のまま固まって、まるで鬼の面を被っているかのようだ。

 身体が大きくなっても、服が破れることはない。いちいち服が破けるのも面倒なので、普段からサイズの合わない大きめの服を着ている。


「メジロエメラルダー、参上!」


 雑居ビルの窓から飛び降りながら、メジロエメラルダーとなった十夜が空中で名乗りをあげ、着地してからポーズを決めた。


「またPO対策機構の糞共か! しつけーんだよ!」


 勤一が吠えると、十夜の頭上に巨大拳が現れ、十夜めがけて落下した。


 十夜は難無く避け、勤一めがけて突っ込んでいく。


「あれは孫の手の一種ね」


 凛が呟きつつ、銃を売って他の四人を牽制する。孫の手とは、念動力系統の力を指して使われる呼び名だ。


「メジロタックル!」


 十夜が正面からショルダータックルをかます。


 勤一はあろうことか、十夜のタックルを片手で止めてしまった。その光景を見て、十夜と凛は目を見開き、止められた十夜も引きつった表情になった。


(こいつ、俺よりずっとパワーがある。ヤバいかも)


 十夜が危機感を抱き、すぐに後方に跳んで勤一に離れる。


 ついコンマ数秒前まで十夜がいた空気が揺れる。衝撃が駆け抜ける。勤一がもう片方の腕を振るって、十夜を打ちのめそうとしたのだ。

 どれだけの威力があるかはわからないが、食らったらただでは済まなかったと、十夜は理解する。すぐに離れて正解だったと。


 勤一の方から間合いを詰めて、蹴りを放つ。


 十夜は両腕でガードして蹴りを受け止めたが、蹴りの衝撃で後方に大きく飛ばされ、地面に転がって一回転してから立ち上がった。


「十夜を接近戦で圧倒するのか……」


 晃が唸り、銃を撃つ。狙いは勤一ではなく、他四名だ。


「海の如き鮮やかさ、空の如き爽やかさ、然れどその者、焦がし爛れをもたらす使者」


 凛が呪文を唱えると、巨大な青い炎の塊が出現し、他四名めがけて降り注いだ。


 炎塊が爆発し、四方八方に炎が飛び散ったが、四人はノーダメージだ。その中にいる一人が、バリアーを張って防いでいた。


(凛さんの青いファイアーボール、大きくなってるなー。威力もかなり上がってる)


 凛の術を見て、晃は思う。


「上の二人を何とかしましょう」


 凡美が言い、自身の右腕を変化させた。右手が棘付き鉄球になる。そして手首はバネと化す。


 凡美が腕を振ると、鉄球が凛と晃がいる窓に飛来する。


 凛と晃は即座に窓から離れた。鉄球が窓の中から飛び込み、壁にめりこんだが、バネの力ですぐに戻る。


「ちょっと距離がありすぎる」


 眉をひそめる凡美。この能力は凡美のオリジナルではない。息子の凡助が覚醒させた能力だ。息子が死んだ後、凡美は自分の手を切断して、息子の手を移植したことによって、この能力を受け継いだ。


 凡美が口を大きく開く。凛と晃が再び窓から顔を出したその瞬間を狙って、口からビームが放たれる。


 凛と晃はそれを見て、慌てて再び窓から離れた。ビームが窓を突き抜けて、壁にまた穴を開ける。


「ぐっ……」


 一方、十夜が横向きに倒れて呻いている。勤一の回し蹴りが脇腹に決まったのだ。


「流石、勤一だぜ」

 仲間の一人が誇らしげに笑う。


「噂通り強いね」

「原山勤一だけでも厄介なのに、他に四人もいるし、私達だけでは難しいでしょ。だから援軍を待てと」


 晃が窓の端から外の様子を見て言うと、凛が文句を言いつつ、亜空間トンネルを開き、中へと入った。


「死ね、コスプレ野郎」


 勤一が冷たく言い放ち、十夜に攻撃を仕掛けようとしたその時、空間の扉が開き、十夜の体が亜空間トンネルの中へと引きずり込まれた。


「空間使いがいるのかよ」

 舌打ちする勤一。


 ふいにサイレンが鳴り響く。サイレンの方を見ると、覆面パトカーが何台も現れ、パトライトを出して点灯せていた。


「警察だ。いつの間に……」

「数が多いぞ」

「警察まで相手をするのは面倒だな」


 仲間達が不安げに顔を見合わせる。


「撤退しましょう」

「そうだな。逃げるとしよう」


 凡美が促し、勤一が頷くと、五人はパトカーがいる方向とは逆に走っていった。


 パトカーは走り出した勤一達の後を追ったが、十夜達は追跡しなかった。

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