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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
89 千年前の記憶を掘り返して遊ぼう
3036/3386

19

 シェムハザはミゲルに連れられて、山の中に入った。


 獣道をしばらく歩いた所で、ミゲルは道から外れ、呪文を唱えた。すると生い茂る高い草が一斉に寝て、歩きやすくなる。


「行くぞ。こっちだ」

「はーい」


 ミゲルの後を追うシェムハザ。


 やがて二人は山の麓に到着し、山に開いた洞窟の中へと入っていく。

 中は明るかった。岩がほんのりと光っている。


「これって鍾乳洞? うわあ、初めて入るー」

「こらこら、はしゃぐな。転ぶぞ」


 鍾乳洞に感激して、声と歩を弾ませるシェムハザを、ミゲルは微笑みながら注意する。


(呪紋で岩が光るようにしているんだ。こんなの初めて見た)


 ほんのりと光る壁に、さらにほんのりと文字が浮き出ていることに気付くシェムハザ。


 歩いている途中、何人かの目つきの鋭い男達とすれ違う。


「おい、ミゲル。その餓鬼は何だ?」

 一人がシェムハザを見て尋ねてきた。


「新入り候補だ。まだ決まっていない」

「そんな餓鬼が新入りとはね……」


 男はミゲルの言葉を聞いて、呆れながらも疑いを持つことなく、立ち去った。


「そういうことにしておけ。話を合わせろ」

「うん。わかった」


 耳打ちするミゲルに、シェムハザは頷く。


 やがて大きな扉をくぐると、広間へと入る。中には大勢の人がいる。

 人々は緊張した面持ちで列に並んでいる。先頭の者は、箱の中に手を突っ込んで、棒を引いていた。棒を引いた者は、棒を見て安堵や歓喜の表情になっている。喝采をあげる者もいた。


「くじ引きしてるのー?」

「ああ、そうだ。俺達はこっちだ」


 訝るシェムハザを手招きするミゲル。二人は広間入口の横にある階段を上がっていく。


 広には一段高くなっているフロアがあって、そこにも大勢の人がいる。しかし下で並んでいる者達とは雰囲気が異なる。全員同じ服装。全員ローブ姿。飲み物などを飲みながら、くじを引く者達を見物している。


(この人達全員術師だね)


 一段高いフロアにいる者達を見て、シェムハザは思った。


「ああああ……」


 突然、くじを引いた男が蒼白な顔になって崩れ落ちた。泣き出しそうな表情で、己が引いたくじを見つめて震えている。


「本日の当たりが出たな」

「あいつは常連で結構長持ちしていた奴だ」


 一段高いフロアにいる者が囁き合う。


「うううう……嫌だ……嫌だ……。許してくれっ。死にたくなあいっ」


 くじに当たった男が泣きながら命乞いをしだし、あげく逃げようとしたが、シェムハザの近くにいる術師が呪文を唱えると、男が硬直して動かなくなってしまった。そしてフロアから降りた者二名によって、広間の一段高いフロアへと連れてこられる。


 くじ引きはその後も行われ、さらに二名が当たりを引いて、術で動きを止められて、上のフロアへと連れて行かれた。


「こいつは博打だ。娯楽だよ。くじに当たった人間は殺されるという設定になっている。外れた奴は金を貰える。ま、実際には殺されるわけではないんだがな」


 ミゲルが解説する。


 結局、当たりを引いて上のフロアへ連れて行かれたのは、三名に留まった。くじ引きに参加した者達は、広間の出口で何かを受け取って、外へ出て行く。シェムハザが見た所、金を受け取っている者もいたが、金ではないものを受け取っている者もいた。何を受け取っていたのか、遠目ではわからなかった。


 くじに当たった者達は素っ裸にされた。魔術師達が全身に札を貼り、薬品を飲ませ、何本も針を打ち込み、呪紋を描いていく。


 数人がかりで呪文を唱えて儀式魔術を行い始める。ミゲルも参加している。


 やがてくじで外れた男達の肉体が変化しだした。全身が黒くなり、輪郭が微妙にぼやけだす。悪霊と呼ばれる存在へ――ミゲルが言う魔従と呼ばれる者へと作り替えられた。


「と、まあこうやって魔従を増やしているのさ。殺人くじの名目で人を集めて、外れた奴が、魔術師によって魔従に改造される。それが悪霊の正体だ。ま、一応は任意のうえだからな」


 儀式が終わった後に、ミゲルがシェムハザの耳元で囁き、解説する。


「参加しているのは大半が村の馬鹿野郎だが、噂を聞きつけて、村の外から来る大馬鹿野郎もいる。この博打は村人皆が知っているわけでもない」

「参加者はただお金目当てなの?」


 金以外のものも受け取っていたことを見て、シェムハザが尋ねる。


「金か芥子を与えている。中毒になるから、死の危険も省みずに足を運ぶ糞馬鹿野郎も出来るって寸法だ」


 蔑むように言うミゲル。


『任意のうえで実験台にするという所がポイントですね』


 シェムハザの服の中に潜んだ使い魔の白鼠を通して、嘘鼠の魔法使いが囁きかける。


(さらってきたとか人身売買よりかは、バレる可能性が低いってことかなあ)

『その通りです。しかもこれは勝率の高いギャンブルですしね。リスクの大きさが計り知れないですが』


 シェムハザが心の中で言うと、嘘鼠の魔法使いが呆れ気味に言った。


 その後、二人は鍾乳洞を出る。


「個人で製作するんじゃなくて、団体ぐるみで一丸になって、魔従の製造研究をしているってことは、商売が目的なのかな?」


 鍾乳洞を出た所で、シェムハザが尋ねた。


「餓鬼にしては目敏いな。そういうことだ。この国のお偉いさんの依頼で、魔従を暗殺者へ仕立て上げる研究をしている」


 他人事のように事情を明かしまくるミゲル。自らも加担しているとはいえ、所属する団体の行為に、心から賛同しているわけでもないようだ。


「以上が魔従に関する全てだ。そしてその魔従が制御を外れて、村に現れて人を襲いだしている。真相を探るために嘘鼠の魔法使いに依頼した」

「ここにいる人達で真相を探らないのは何で?」

「教団の奴等は皆仲良しこよしってわけでもねーんだ。派閥もある。俺は無派閥だがな。で、今回の件でどいつもこいつも疑心暗鬼になっているし、積極的に触れようとしねえ。下手に手出しをしてダメージを被りたくないと考えている。俺も似たようなもんだ。だからこそ嘘鼠の魔法使いを呼んだんだ。来たのはこんなちんちくりんだったがよ」


 冗談めかして微笑むミゲル。シェムハザも微笑み返す。


「というか、俺もそう感じているように、問題を解決したいと思っても、個人の手には余ると、皆感じているんだろうな。しかも教団内の同胞は、信用できない者ばかり。あるいは派閥に属しているが故に、迂闊に動いて迷惑をかけられないと、そう計算するものもいるかも……って、餓鬼には難しい話だったか?」

「ううん、大丈夫。わかるよー」

「そうか。よし。じゃあおチビちゃんのお手並み拝見だ。嘘鼠の魔法使いが寄越したからには、それなりの腕なんだろう」


 ミゲルがにやりと笑って、シェムハザの頭を軽く撫でた。


***


 村に戻ったシェムハザは、一人になって調査を開始した。


 その前に悪魔が現れる。


「あれ? どうしたの?」


 シェムハザが尋ねるが、悪魔は何も言わず、ただじっとシェムハザを見ている。


 悪魔からしたら至極単純に、シェムハザがこれから何をするのか見物しているだけだった。遠くから見物するつもりであったが、シェムハザを見に行ったら、坂を上った所でばったりとシェムハザ本人と出くわしてしまったのだ。


「ひょっとして、私の調査に協力してくれるのー?」

「協力? 僕が何で」


 予想外の言葉を受けて、黙っているつもりだった悪魔が思わず口走ってしまう。


「悪魔だったら、力を貸してくれるはずだよー? 途中まで力を貸してくれて、いい所で裏切るのが、悪魔っぽい感じだと思うよー?」


 悪戯っぽく微笑みながらシェムハザが言う。悪魔は思案する。


(面白そうではある。それにこの子をもっと近くで見てみたい。乗ってやってもいいか)


 あっさりと悪魔の中で結論が出た。


『思いもよらぬことを実行するのは、シェムハザの悪い癖ですね。危険も考慮すべきですよ』


 呆れる嘘鼠の魔法使いが、使い魔を通じて注意する。


「で、どんな調査?」

「ミゲルさんに教えてもらって、村の中にいる教団の人間とその住居は把握してあるんだよねー」

「一人一人地道に調べていくの? 面倒だ」

「うん、面倒だし、そういうやり方は私の趣味じゃないかなー。こっちから仕掛けていくよ。まずは教団の副リーダーから狙ってみるかなあ。リーダーと仲がよくなくて、派閥は最大級なんだって」

「仕掛ける? 狙う?」


 シェムハザの言葉な不穏な響きを感じ、悪魔はぞくっと震えた。恐怖したわけではない。武者震いに近い感覚だ。


「池に釣り針を垂らすことはしないんだ。池に片っ端から石を投げ込めば、当たりだろうと外れだろうと、魚達は大慌てになるからね」


 笑顔で得意げに語るシェムハザ。


(面白い子。僕の見込み以上。狂われ姫よりずっと面白い)


 一瞬だが悪魔が微笑を零す。


「お手並み拝見」


 先程のミゲルと同じ台詞を口にする悪魔であった。

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