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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
88 もう一度世界を変えて遊ぼう
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16

 スノーフレーク・ソサエティー陣営は、S棟住人達と本格的に戦闘を開始した。


「虫取って! 虫が這いずってる! たかってくるぅぅーっ! わぶっ!?」


 目を剥いて唾を吐き散らし半狂乱に叫びながら、大量の黒い羽虫と共に駆けてきた女が、途中で滑って転倒した。

 しかし黒い羽虫は転んだ女に合わせて止まることなく、直進してくる。


「あんなのにたかられたらたまらないじゃん」

「俺が止める」


 慄く季里江の隣で、ジュデッカが宣言し、槍を縦に振るう。


 ジュデッカの動きに合わせて、不可視の力が広範囲に振り下ろされ、大量の羽虫が床に叩きつけられた。ジュデッカは巨大な蠅叩きで打ち下ろすイメージで、力を転移させていた。

 だが全ての羽虫を潰せたわけではなかった。そして残った羽虫から、同じ羽虫が分裂して次々に増えていき、元の数に戻る。


「止めてないじゃんよ」

「しゃーねえな……」


 季里江が言うと、ジュデッカは冷笑を浮かべて槍を軽く突く仕草を行った。


「こぺ?」


 転倒していた女の頭に穴が開き、血が垂れる。すると向かってきた大量の羽虫は一斉に消えた。


「能力者を殺すのが手っ取り早いが、出来れば殺さないで済まそうと思ったんだがね。こんな面倒臭い奴じゃ、殺すしかねーな。こっちに犠牲を出すわけにもいかねーし」

「殺さないで済ませる必要がそもそもねーよ」


 ジュデッカの台詞を聞いて、季里江が吐き捨てた。


「キュアアァアァーッ! キュイ! アァァアァァーッ!」


 雅紀が狂乱ベルーガおじさんを呼び出し、半獣人化した女に向かわせる。


「キュピャッ!」


 半獣人化した女の方が、頭二つ分ほど背が低かったにもかかわらず、狂乱ベルーガおじさんは半獣人化女のタックルを受けて、いとも容易く吹き飛ばされ、壁に打ち付けられた。


「う、嘘だろ……」


 呆然とする雅紀。狂乱ベルーガおじさんは相当なパワーの持ち主だ。それをここまで簡単に弾き飛ばすなど、半獣人化女の力は尋常ではない。


「パラダイスペイン」


 鈴音が不可視の衝撃波を放ち、半獣人化女を吹き飛ばそうとした。

 半獣人化女の勢いは鈍り、上体をのけぞらせてよろけたものの、その足が止まることはない。


「嘘……。今かなり強いのをお見舞いしたのに」


 半獣人化女のパワータフネスっぷりに、愕然とする鈴音。


 そうこうしているうちに、半獣人化女はスノーフレーク・ソサエティーの面々の目前まで接近しきた。


「じゃ、また俺が止めるぜ」


 槍を構えたジュデッカが不敵に微笑み、半獣人化女の前に立ちはだかる。


 半獣人化女が腕を振るう。


 ジュデッカは槍の柄で半獣人化女の攻撃を受け止めようとしたが、半獣人化女の力が勝り、ジュデッカも吹き飛ばされてしまい、吹き飛んだ弾みで、後方にいたスノーフレーク・ソサエティーの戦闘員達を巻き添えにして、数人一気に倒れる。


「あっちゃー……油断したぜ……。想像以上の膂力だ……」


 少年少女達の上に乗っかって倒れた格好で、ジュデッカが呻く。


「ヤマ・アプリ。拘束」


 政馬が能力を発動させると、半獣人化女の動きがぴたりと止まった。


「筋力と耐久力はすごいけど、抵抗力は今一つみたいだったね」


 政馬が言った直後、巨大な折り紙で出来た熊、虎、牛、UFO、大百足、馬に乗った騎士等が現れ、向かってくる。


壱岐神啓太いきがみけいた、仲間にはなってくれないのかな?」


 折り紙軍団を差し向けてくる啓太に、政馬が声をかける。


「俺を必要としてくれるのは嬉しいけど、俺は頭がおかしい子だからさ、きっとまた誰かを傷つけてしまうさ。そういう意味で、俺みたいな子は、ここが一番相応しい場所なんだよ。君達も傷つけられる前に、ここを立ち退いてほしいね」


 寂しげな表情で啓太が告げる。


「よし、今度こそ俺が止めてみせる」

 ジュデッカが立ち上がって槍を構える。


「いや、もういいんよ。ジュデッカは引っ込んでた方がいいって。どうせまたやられっから。また噛ませ犬になるのが見え見えなんよ」

「失礼だな。一人は斃してるだろ」


 半眼で止める季里江に、ジュデッカは苦笑した。


「ヤマ・アプリ。刑務作業」


 政馬が半獣人化女を操って、折り紙軍団へと向かわせる。


 半獣人化女は無言で折り紙軍団へと飛びかかり、熊と騎士を引き裂いたが、牛の角に腹部を刺される。


 それでもひるむことなく牛の首ももぎ取った半獣人化女だが、後頭部を虎に噛まれ、動きが鈍る。


 そこにUFOが回転しながら飛来してくると、半獣人化女の首を切断した。


「あのUFOはヤバそうだ」


 ジュデッカが言い、槍を続け様に振るう。最初にUFOが引き裂かれた。続けて、虎と大百足も切断した。


「まだまだいるよ」

 臆することなく微笑む啓太。


「まだまだじゃねーぞ。それ以上やるってんなら、お前を直接狙う。ま、死にたがりなお前にとっちゃ、願ったりかなったりかもしれねーが」


 ジュデッカが皮肉っぽく言ったその時、周囲の風景が一変した。


「ええっ!?」

「何だよ、これは……」

「どうなってんじゃん……」

「ワープさせられた? そんなわけないよね」

「重力無いぞ……。ふわふわ……本当にここは……」

「でも空気はあるぞ」

「君達の仕業ではないわけか……」


 動揺するスノーフレーク・ソサエティーの面々。最後の呟きは啓太によるものだ

 周囲の風景が宇宙空間へと変わっていた。月と地球と太陽が見える。全員、漆黒の空間の中をふわふわと浮いて漂い始めている。


「狼狽えんなよ。こんなの幻影に決まってんだろ」

 ジュデッカが言う。


「重力が消えてしまったのはどう説明するんだ?」

 雅紀が問う。


「それも集団幻覚を見せる幻術だ。しかしこの俺にもかけるとは……かなり強い術だな」


 と、ジュデッカ。彼の体も無重力状態になっている。


「空気はある。気圧もある。重力だけ無い感じだね」

「やれやれ、味方である俺にもかかってるよ」


 政馬と啓太が言った。


「サーチと完了っと。能力者は部屋の中にいるじゃん」


 超常の能力者も見つけ出す能力を持つ季里江が、何も無い黒い空間を指す。


「よし、あてすっぼうだが……ほらよっとーっ」


 ジュデッカが槍を大きく振り回し、季里江が指した場所に攻撃を転移させた。かなり広範囲に拡散させた転移だ。


「ぎへええっぇ!」


 悲鳴がしたかと思うと、周囲の風景が元に通路に戻る。つい今しがたまでふわふわと漂っていたのに、全員立っている。無重力状態にされていた事も、ジュデッカの指摘通り集団幻覚だったのだ。

 扉の一つが滅茶苦茶に切断され、中の部屋も壁や床に斬り痕だらけだ。そして寝間着姿の男が一人、体中に斬撃を受けた状態で、血塗れになって倒れていた。腹部からは臓物がはみ出ている。


「へへんっ、大当たりだったなー」


 部屋の中の無残な死体を見て、嬉しそうに笑うジュデッカ。


「ジュデッカって、槍で突くより斬ることの方が多くない?」

「たまたまだ。ま、こいつは突くだけじゃなく斬ることも出来るし、槍が突くだけってのも固定観念じゃねーか」


 政馬に突っ込まれ、ジュデッカは唇を尖らせる。


「しかし……狂っているせいか、能力の出力がどいつもこいつも強烈だよな」


 言いながらジュデッカは、未だ通路の真ん中に座ったままの啓太に視線を向けた。


(あ……)


 鈴音も啓太に視線を向けて、鈴音だけに見えるものが見えてしまった。


(死相が出てる……)


 鈴音の目に死相が映ったからといって、その者が必ず死ぬとは限らないが、死の運命を意識して、死の回避に努めないと、高確率で死ぬ。


「狂っていると強烈になるの? 強力になるの? いや、なるよね。うん、その理屈はわかる。狂気は心の力を後押しする。心の力は、超常の力の威力にダイレクトに直結する」


 疑問を口にしてから、自分で答えを口にする政馬。


「やあやあ、やってるねー」


 何人かにとって聞き覚えのある、弾んだ声が響く。


 通路の扉が開いて、純子があっさりと姿を現した。政馬達の方を見て、いつもの屈託のない笑みを広げる。


「ここにいたんだ……」


 鈴音が純子を睨みつけ、怒気に満ちた低い声を発する。


「へへんっ、もう一回この台詞言えってか? 大当たりだったなー」


 そんな鈴音とは対照的に、ジュデッカが笑顔で明るく軽い声をあげた。

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