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第九十八話・大事にされていると感じると人は不満を言わない

 またまた母の話。大阪に戻りたいと怒ってばかりいる母ですが、最近は落ち着いてきました。母を介護してくれる施設はコロナウイルス感染を警戒して外部からの見舞いや接触は厳禁です。しかしスタッフの人手不足のため、病院受診は娘の私の役目。母は孫を前にすると機嫌がよくなるので、私は意図的に受診に同行させました。

 そして数カ月たった現在、こちらでの生活も慣れて落ち着いてきました。薬のせいもあったのですが、スタッフさんの努力がありました。今回はその話をしてみます。

 毎日母の同じ泣き言を根気よく聞いて、「わかるわ、大阪に帰りたいよね。でも、今はコロナで危ない」 と繰り返し同情する。感染したら危ないからこれも母のためと優しく忠告する。

 個室はもちろん、他人との接触を嫌がる母の為に食事も部屋出しになった。以前のところも個室だったが、ケアマネさんが出不精の母に何度もデイケアやリハビリの提案をするので嫌がっていた。それを踏まえてしばらくは提案なしでいくことにしたのも大きい。

 セルフネグレクトがあるが、こちらではパジャマに着替えることすら、すすめない。つまり母は私服のままで寝ている。トイレに失敗したら汚れた下着を部屋の隅に隠すが、介護士さんも心得ていてお風呂で不在の間に見つけ出して黙って洗濯もする。一切おとがめなしというのが、いいのだろう。

 とうとう母は「ここにきてよかった」 とまで言って、驚いた。ここのスタッフさん、すごい! ベテランと若い人とのバランスがとれていて、それもよかったのかも。

 何よりも母は大事にされているという「特別扱い」 を喜んでいる。

 これは母だけの思考だが、私は微笑むだけ。この扱いは賛否両論あるかと思いますが、私もここに決めてよかったと思いました。まとめを箇条書きに書いておきます。


 母が思う特別扱いの理由。

① 食事が上げ膳据え膳で残しても注意されない。

② リハビリやデイケアを強要しない。

③ 毎日同じ服を着ていても注意されない。

④ 母の偏食を注意したスタッフをクビにした。(実際は母の前に出てこないだけ)

⑤ 奥の個室に引っ越せた。そこからは庭が見通せて快適(そこが一番高い部屋だと思っている)

⑥ みんな母を見ると笑顔になる。大事にしてくれる。


 そう、大事にされていると感じると人はここまで変わる。デイケアもリハビリもなにもない間、母は寝そべって考え事をする。診察の待合室で祖母や曾祖母の古い話や言い伝えを突然思い出して教えてくれる。新しいことを覚えるのは苦手だが、昔話なら得意だ。先日は薬の出来上がりを待つ間、昭和時代の風習について初耳の話を聞けた。母との会話に喜びを感じるのは久しぶりで嬉しかった。亡き祖母や曾祖母が今後も母を見守ってくれたらいいなあと思います。ただ母が信心するうさん臭い霊能者の話をまったくしなくなったのは、母の私に対する忖度ではなく、偽物とわかったからではないか。変な信仰をするよりも、現世を一緒に生きている施設の皆様、介護士様、ケアマネ様、訪問医にも感謝をするほうがずっと有益なことでしょう。

 例のクソ叔母たちは地獄に落ちますようにと願う私は、イラクサそのものだなあ。



ご参考までに  一応母はコルセットをしているものの、杖を持てば自力歩行が可能です。入院中は要介護四でしたが、現在一です。



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