第七十話・借金の取り立てに暴力団を使う
借金の取り立てにうっかり暴力団を使ってしまった人の話です。暴力団員とはいっても表には出てない。舎弟というのかよくわからぬが、その人も会社経営をしていて業界通じての儀礼的なつきあいがあった。物腰は紳士的で丁寧だがやはり暴力団でしたという話です。一般的にはこういう話は流出しないのですが、私が実際に聞いたら普通にあるというので、書いてみます。まず、ウィキから暴力団の定義を一行だけ抜き書きします。
……暴力団……
「暴力あるいは暴力的脅迫によって自己の私的な目的を達しようとする反社会的集団」 。
私とは彼らとまったく接点がありません。法律を守らないで自我を押し通す……怖いひとたちだ……もちろん、彼らなりの美学があって彼らの世界では仁義もある。そういったことにロマンを感じる人も多く、いわゆるヤクザ映画のジャンルがある所以だ。今回はそういうロマンチックなものではなく、現実的な話。先に結論から書くと安易に暴力団を使った人は今は後悔されておいでです。
Mさんとします。彼は、父の代から会社経営をしています。当然自然といろいろな人脈が出てくる。このうち暴力団とつながりができた。Mさんの父は故人で詳細はわからないものの、あたりさわりのない距離感でつきあう。相手も団員であることは隠さない。話が上手で態度も丁寧で、ちゃんと業務上のルールにも従う。別に怖いことでもないなと思っていたという。
ある時、Mさんは業務上のお金が三百万円ほど集まらず、N社が締め切りを守ってくれなかったので今月は困ったよという話をした。すると、その例の人が「その話を仕事にして私にくれ」 という。
どういうことかと思っていたら要はそのお金を返してもらえるように掛け合ってあげるから仕事として依頼してくれという。MさんはN社ともつきあいが長いのでもう少し待ってあげるつもりでいる。が、しつこくいってくるので根負けした。
「……まかせたんだ」
軽い気持ちだったこと、自信満々で手慣れた様子だったもので、つい……だそうだが、借金の取り立て、業界用語では債務整理というが、それが仕事としてできる人はちゃんと法律で決められている。債権者となる銀行だって弁護士や司法書士を使う。そして取り立て方法も法律で決められている。貸金業規制法二十一条第一項に「取立時の禁止行為」 がある。夜明けや深夜の取り立てなど人を脅かしたり、生活や仕事に影響する行為は厳禁であることなど明記されています。
数日後……その例の人は意気揚々とMさんの部屋に来た。取り立ては完璧にできました。これはお礼ですと封筒を差し出した。中身は三十万円。三百万円の取り立てを依頼したら三十万円だけかえってきた。残りの二百七十万円は手数料というわけでしょう。もちろん取り立てられたら手数料をあげるつもりだったが、九割もあげると言ってない。
Mさんはその場ではだまってやり過ごしましたがN社の様子を人をやって伺うとかなり惨いやり方でお金を三百万円プラス利息を取っていた。N社は倒産。MさんはN社の社長や社員を思って後悔の渦。N社から終生恨まれるようなことをしたという。
業務上の資金繰りは会社経営にとっては動脈にあたるが、とにかく金さえ取り戻せばよいという人に依頼したら相手の経営の動脈のみならず人脈も断ち切ってしまったわけです。
私もその話を聞いて結果を出せばそれで良しとする人種には本当に気を付けないといけないなと痛感しました。同じ世に生きていても暴力団員は思想が根本的に違う世界に生きていらっしゃる。
非合法なことでも余裕でやってのける暴力団員の世界を垣間見ましたが、実に怖い話です。Mさんも取り立てに関しても口約束だったので何も言えぬ。手数料は九割強で一割だけをMさんに平気で返してきたというその思考にも恐ろしさを感じます。
その非合法なやり方を見越したうえで上手につきあえる人はいるかもしれない。が、一般的に法律に縛られ税金を取られまくる側の私のような一般人とは縁のない世界だなあと思う。
弁護士事務所に行くと、たいてい待合室があるが、弁護士会発行の一般向けちらしが置いてあります。見ていると暴力団員には依頼しないでくださいとある。ある意味弁護士との商売敵になるのか。
確かに日常的な困りごとを弁護士や司法書士に頼むのは時間がかかる。それが嫌で手っ取り早くそういった人たちに頼む人が多いのでしょう。結果的に厄介ごとにもう一つ厄介ごとに巻き込まれることが多いとありました。
依頼した件で、それをネタに脅迫されたり、相手側と接触して組み、依頼人のお金を絞り出すのです。守秘義務など何それ状態。
弁護士だって悪徳弁護士もいるのは、知っていますが、非合法なことを平気でやれる人に依頼して人生を壊されるというのもまた怖い話です。
文章を綴っている限りは私は彼らとは全く接触がない。が、私には家族に気味悪がられるほどいろいろな事件がふってわいてくるのでこれもネタになるなと書いてみました。任侠道の小説や漫画は読むだけだとカッコいいですが現実で聞くかぎりはエグイ話しかないです。決まりきった縛りが多く税金を取られてばっかりの私のような庶民は彼らから見たらエサになるのかな……ま、貧乏人は対象にならないでしょうが、これも接点がないのでよくわかりません。
現在私は親戚から蛇蝎の扱いです。Mさん(実は親戚)は叔母Jの嘘を信じて、くだんの団員に依頼してヒットマン雇うかもなあ……私を殺すために……すっかりなじみになった弁護士さんにその話をしたら大笑いされました。あなた、考えすぎですよって。ヒットマンは職業としては、かなりワリにあわぬそうです。そうだったらいいのですがね。私的には、暴力団員よりも地位ある叔母Jの方が極悪に見えます。だって肉親に対して嘘の積み重ねでこの世を大きな顔をして生きてきたから。そして善人の顔をしたままこの世を去ろうとしているから。




