第六十六話・最強のコネ枠
とある場所で異業種交流みたいな会合があった。年齢は私のような四、五十才前後、つまり若くなく、ある程度の経験を積んだ人。全員が雇われ人だが、業務上の人脈を持つというところが今回の話のキモになります。
で、職場におけるコネ枠の話になった。とたんに話が盛り上がった。このあたりは若い人にはわからないと思う。コネ枠にもいろいろな事情がからむ。
Kさんの話。ある施設入所に関しては順番待ちが凄い。長期にわたり声がかかるのを待っていたご家族にやっと連絡できる。喜ばれるだろうなと思って準備していると、めったに顔を出さぬリジチョウ爺ちゃんが出勤してきて、Kさんに書類を渡した。「早急に誰かに出てもらいこの人を入れろ」 という。コネ枠仕様は了解したが、ちょっと待ってください、次にしますからといったらコネ枠最強の国会議員枠だった。すぐ最優先入所になった。リジチョウ爺ちゃんも本人から直によろしくと言われたそうで今日にでもという。Kさんも所詮雇われ人だし断ると生活の保障がなくなる。結局持ちつ持たれつなのだ。
私の叔母Jはそういう議員と同級生だったので、コネ枠の取次もしてかなり美味しい思いをしていた。正直に告白すると私達家族も亡父を施設入所するときに、Jが持つそのコネ枠を使った。父は要介護五の男性、個室希望、胃瘻におむつ、四肢発語不自由の状態で急ぎの入所はかなわない。叔母Jが金融ADRを起こした私を恩知らずと罵る理由の一つだ。横領を知っていたら私だってそんな汚いコネを利用しなかった。悔いている。
横領隠し、相続税の脱税や節税で肉親の戸籍をいじり、母たちの実印を自由自在に扱うような嘘を重ねた人生を送った叔母Jは最強の議員枠を取り扱えるということで周囲に重宝されていた。こういった仲介ができるというのは、その人の人生の節目の裏を把握しているということ。出生から就職、縁談、結婚。すべてに関われる。だからこそ根元を崩そうとした私がよけいに許せないのだろう。
Jはかねてから見下していた中卒の専業主婦の姉の子ども、つまり姪の私から責められ元の勤務先相手に金融ADRをされるとは思わなかったはずだ。Jの人生おもしろいねぇ……。ま、私も何もできず結局負けの人生だよ。Jの周囲は全員Jの味方だからね。例のゆるキャラの作成者の姉という位置づけもあるから認知度も高いし一発だよ。
Jは母の入院でも「私は院長と親しい人を知っているのでよくしてもらおうと言っておいてあげる」 と吹聴する女。本物の育ちのいい人はそういう取次ができても口では言わないね。主治医や看護長にこの話をしたら笑い話になった。誰のコネがあろうが、医療の中身自体は一緒なのに、Jはそういうのがわからぬのだ。笑ってくれてよかった。(詳細は医療従事者への侮辱というエッセイをご覧ください)
でも介護業界において一番強いコネは実は議員枠ではない。働き者の職員だよ。ある職員が母を入所させてくれないなら、ここを退職して母を入れてくれる施設に転職すると言ったら一発入所になった。どこの介護施設も人手不足の話だなということでコネ枠話のオチがつきました。終わります。




