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第五十五話・嫌味のない人

 飛行機に搭乗するときは、当たり前にファーストクラスだという人がいます。Iさんとします。それならマイルがすぐに貯まるだろうと言ったら「何ですか、それは」 という。ファーストクラスに搭乗すると区間マイルが百五十パーセント増量になったりするのに。もったいないですよと忠告すると、Iさんは「そういうものですか」 といってその場で電話をした。通話先はいつもチケットを手配してくれるIさんの子供。話はすぐに終わった。

「マイルを貯めるのは面倒だからいらないって。だから、もういいわ」 

 金持ちってそういうものか。今でも非常にもったいないと思う。今年もご夫婦で海外に行かれたがマイルもクレジットカードのポイントもどうせほったらかしだろう。今回もJALだったがせっかくのファーストクラスも寝てたから覚えてないという。食事も搭乗前のラウンジ滞在で食べ過ぎたのでいらないと断ったという。

 私なら彼女だったら一生に一度の思い出だからと満腹でもさらに食べちゃうのに。本物の金持ちはいろいろともったいないことを平気でする。そして私のもったいないよ、という気持ちを理解しようとしないし、全然平気なところに尊敬もするけれど庶民御用達無毒系変種イラクサが生える。


 Iさんはすべてに鷹揚で誰に対しても公平な口を利く。某の奥さんだがそれをひけらかさない。逆に「某の奥さん」 と言われるのが嫌だから仕事をはじめたという。某さんは経営者なのでIさんが働くとその分、つまり給料分がそっくりそのまま税金が増加する。だから仕事をやめてくれと、といさめているようだが、働きたいからと押し通す。某さんは仕方ないなあと引き下がる。そのあたりも、がっついた成金とは違う。

 育ちなども聞いたが驚いたのは地元で育っているのに方言禁止だったこと。つまり家の中では標準語を話すことが徹底されていた。どこにいっても通用するようにと。先日もIさんは母親に「なまっていますよ」 と注意されたそうだ。その話を聞かされた私は突然、参勤交代を連想する。各大名の家族は江戸幕府の実質上の人質として江戸住まいを強いられていた。江戸住まいの奥方や子供は地元の言葉は使わなかったという。政治の中心は言葉をも支配する。それが現在にも生きていると思考が飛んだ。


 結婚に対する思考も違う。同じようなご家庭が集まるとまだお子さんが小学生なのに「◎才違いの◎◎さんのお子さんと釣り合いが取れますね」 という会話もするそうだ。信じられない。Iさんの話を聞いているとシンデレラを代表とする庶民上がり女と王子とのラブストーリーはしょせん作り話だなあと感じる。でもお付き合いの面倒な縛りもあるから庶民の私は庶民育ちでよかったと思う。 

 Iさんみたいな人は、誰に対しても鷹揚で親し気で仲良くできる。見習いたいのでコツを教えてと頼むと「深く考えすぎないこと」 と一言。それはそうですが、もしかしてIさんが私向けに「深く考えた」 うえでのアドバイスではないかと思っている。頭のいい人なのはわかっているから。







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