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第四十話・怖い顔をした車


 今回はイラクサじゃないけどちょっと会話が面白かったので書いてみます。

 現在社会において必需品の一つとして車があります。交通の不便なところほど自家用車は不可欠。そういう地域では車を単なる便利用品扱いしている。この私もそう。車は動いてくれたらいい。しかし車に夢とロマンを求める人がいる。

 Yさんという人が新車を買うことになりました。Yさんも車に詳しくなく、動けばそれでいい人。安全で安い車を探していました。すると自称カーマニアのZさんが選んであげると言いました。Zさんは外車を持っているので、Yさんはクギをさす。

「国産ですよ。外車不可。そこらへんで走っている普通の車でないとだめですよ」

「いわゆる大衆車ですね」

「そう。燃費がよくて経済的な車。本当は軽自動車にしたいけど、おばあちゃんの通院や子供の送迎にも使わないといけないので普通車にします。それでいて、ちょっとオサレな感じのいいものをね」

「オサレ。了解」

「それとマニュアル車は不可。私はオートマの免許しかないからね」

 自称カーマニアはスマホでなにやら打ち込み、すぐにある車の画像を出した。

「これならどうかな? 色も六種類から選べるよ。もちろんカスタムといって他にもオプションがあるし」

 Yさんは見るなりそっぽを向いた。

「これはだめ、顔が怖い」

 Zさん驚愕。

「え、顔? 車の顔?」

 私もスマホの画像を見る。確かに目がとんがっていて、怖い顔をしている。

「ほんとだ~、怖い顔ねえ……」

 Yさんは「怖い顔をした車を運転したくない」 と断言する。Zさんは黙って検索をやり直しする。

「じゃあ、これだ。予算内でおさめられるし、コスパもいいよ」

「……だめ」

「え、どうして? じゃあこれは? このクラスだとちょっと高くなるけど」

「怖さ加減は減ってるけれど、これもだめ」

「ねえ、Yさん。車の第一印象は人それぞれだけど、もうちょっと車の特性や説明をよく読んでから決めた方がいいよ」

「いいえ、車を買ったら数年は使うので長い付き合いになる。命も預けることになる。だからこそ、目が三角で怒っているような車は苦手」

 Yさんは、芸術家肌というのだろうか、感性を大事にする人だ。でも機械類は私と同様絶望的に知らないし興味もない人だ。Zさんのようなカーマニアはそういうところは気にならぬものだろうか。

 Yさんは不審げなZさんに重ねて説明をした。

「ほら、怒っているように見えない? 威嚇されているよう。だからこれもだめ」

 Zさんはくだんの車種画像一覧を感心したように見える。

「怒ってるように見えるからだめとは初めて聞いた。そういわれてみれば確かに顔つきが怖いかもなあ。じゃあ、ライトバンはどうかな? ほら、これだと笑っているように見なくもない」

「確かに。ライトの部分の下が直線で上に丸みがあると笑顔の車になるね。でも普通車がいい」

 というわけでYさんの気に入る車はその場では決まりませんでした。私も通勤に必要なので車を持っていますが、怖い顔をしていません。平常心の顔をしていると思う。Yさんの車の話でその日のお昼の休憩は終わりになりました。結局お父さんから愛用していたメーカーの車で営業マンとお父さんに決めてもらったらしいです。

 私も対向車に顔を向けるときに「威嚇してるのかなあ」 というような顔をした車も見かけます。逆にただ一度だけですが、どう見てもつけまつげをしているような車も見ました。人間の顔に似せているようにみえるのは、パレイドリアという現象の一種と感じれば面白い。それで小説を書きましたけど落選しました……案を練り直してやり直しです。これでこの話はおしまいです。


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