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006 庶民って言うのは俺の事だ

「ちょっと待って……」


 俺は目の前に立っている豪邸を見て言葉を失った。

 約束の駅が高級住宅街のある駅だったからまさかとは思っていた。

 でも、本当にそのまさかが現実になるなんて想像すらしていなかった。

 だいたい、この付近に住んでる奴が俺の、電車で一時間もかかる高校に通うはずがない。

 だけど、俺のそんな想像すらしていない事が現実になった。


「ええと、言ってなくってごめんね」


 まったくもってこれは予想外すぎたろ。

 俺は大きな建物の前で思わずため息をついてしまった。


秋月大治あきづきだいじ


 大きく表札に書かれた名前。

 そう、俺はこの名前に見覚えがある。

 そして、秋月は隠さすに教えてくれた。

 お父さんは秋月クリニックの医院長だって事を。

 しかし、まさか秋月まさみがあの秋月クリニックの御曹司だとはしらなかった。


 秋月クリニック。

 いまや全国に、いや全世界に広がる病院の名前。

 確か、主に整形手術などをを行っている病院だったはずだ。

 でも……こいつは医大なんて目指してなかったよな?

 こいつの、そして俺たちの通っている高校は普通の進学校だ。

 おかしい、なんでこいつは俺たちの学校に入ったんだ?

 あと、なんで彼女を連れて来なきゃいけないんだ?

 御曹司なら別に高校で彼女なんてつくらないでいいだろ?

 あんな遠い高校に通う必要ないだろ?

 いろいろ意味がわかんないんだけど?

 俺は頭の上にはてなマークをいっぱいつけたまま門をくぐった。


「さぁ、遠慮せずにどうぞ」

「あはは……これって普通に遠慮したくなりますね」


 俺は冷や汗いっぱいかいて苦笑するしかない。

 マジで別の意味で緊張感がいっぱいだ。


「そ、そうですよね。遠慮したくなりますよね」


 完全にアウェイ状態でここまでのレベル差(家庭レベル的に)があって普通でいられる奴はそういないはずだ。


「や、やっぱりやめておきますか? いいですよ? 強要はしませんから!」


 そうは言ってくれているが、本気で困っている表情の秋月がそこに立っているんだ。

 俺だって男だ! ここで逃げるなんて出来るはずない。

 格好は女だけど!


「だ、大丈夫です! 行きましょう!」

「え、えっと、はい」


 まずは両開きの玄関ドアを開き中へと入った。

 とても広い明るい玄関は床が大理石だった。


「えっと、今日は僕の彼女として横にいてくれるだけでいいので……あ、靴はここに」

「あ、はい」


 言われるがままに靴を端によせた。


「ごめんね、緊張するよね」

「あは、緊張なんてしませんよ? なんて言えませんね。はい、緊張してます」


 これが俺の本音だ。

 今は俺はみずきじゃない。

 だから瑞穂として気持ちは素直に伝えるって決めていた。

 そう、これは姉の瑞穂のキャラ設定。


「そうだよね。でも大丈夫だよ? 思ったよりもいい人たちだから、うちの両親は。たぶん」

「そうですか、はい」


 最後のたぶんがかなり気になるけど、もうどうしようもない。

 俺は何度か深呼吸をしながら広い屋敷の中を歩いた。

 しかし、家の中を一分以上歩くとかありえないだろ?


「はぁ……」


 思わずため息が漏れてしまった。

 すると、俺の肩に暖かい感触が伝わった。

 横を見れば秋月の手は俺の左肩に乗っている。


「大丈夫だよ、僕はついてるから」


 やさしい笑顔で言い切った秋月の表情を見て、俺の心臓が跳ねた。


「は、はひ!」


 そして噛んでしまったぁぁぁ!

 秋月はそんな僕を見て苦笑しながら言った。


「えっと、本当に申し訳ないのですが、あなたの手を握ってもいいですか?」

「えっ?」


 そうだった。思い出した。

 俺と秋月は恋人同士のふりをするから家では手を握る予定だったんだ。

 そして、今の俺【秋山瑞穂】にもそれは伝わっているはずなんだ。


「は、はい……ちょ、ちょっと待ってくださいね」


 俺は手に浮かんだ汗をスカートで拭いてからそっと差し出した。


「ど、どうぞ」

「では、失礼します」


 俺の手を秋月はゆっくりと握ってきた。

 手から感じる暖かさが脳へと伝達されてくる。

 初めて握った秋月の手は本当に柔らかくって暖かかった。


「嫌、じゃないですか?」

「い、いえ! 嫌じゃないです!」


 まさみは震える俺の左手をぎゅっとやさしく握ってくれる。

 思わず緊張でまた汗がいっぱい出ている左手。


「あ、汗が!」

「気にしないで……」


 だけど、そんな手をまさみは力を緩める事なく握ってくれた。


「だけど……べたべたしてますし……」

「大丈夫だよ。緊張してたら汗くらい出るよ。僕だって汗がいっぱい出てるもん」


 さっとおでこを見せてくれた。

 そこには言葉の通りに汗が滲み出ていた。


「あ、ほんとですね」

「でしょ? 僕が実家で緊張するんです、瑞穂さんが緊張するのは当たり前ですよ」


 そして、俺に対して満面の笑み。

 俺はその笑みを見てまたしても心臓が激しく鼓動を早めた。

 顔はおもいっきり熱くなってしまった。


「どうしました?」

「い、いえ!」


 ……あ、あれ?

 男相手になんでこんなにドキドキしてんだよ!?

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