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クロス・ドレッサー・クロス  作者: みずきなな
エピローグから始まるプロローグ。そして本当のクロスへ
14/15

01 男装の彼女の女性としての恋心が初めて芽生えたゴールデンウィーク

予告1の正式版となります。本文の続きか続きでないかは個々の判断でお願いします。(おぃ

題名はいい加減です!誰か考えてぇ!

 部屋の窓から暖かな光が降りそそぐ温かい春の日。

 そんなお出かけ日和の4月の日曜日なのに部屋に引きこもる俺。

 カレンダーを見れば、もうすぐ日本人の一大イベントであるゴールデンウィーク。

 皆が皆いろなスケジュールが詰まる大型連休だ。


 新しく通い始めた大学でできた友人も旅行に行ったり、彼女とデートをしたり、かなりの盛り上がりを見せていた。


 俺? 俺にはそういうハッピーな予定はない。

 ゴールデンウィークは俺にとってはまったくゴールデンじゃないって事だ。


 姉からはコスプレイベントに誘われた。

 だが、俺は基本的にコスプレ趣味はない。よって、姉が瞳を輝かすコスプレイベントを蹴り、姉は意気消沈して部屋に篭ってしまった。

 そして暇が確定した大型連休。


 ぼーと外を眺めていると、ふと秋月の顔が浮かんだ。


 そういや、あいつからゴールデンウィークにデートの誘いとかなかったなぁ……

 前回のデートから一か月くらい経つし、そろそろデートしてますアピールが必要だろ? なんてデートの心配をしてしまう。

 でも、あいつは本当の意味での俺の恋人ではない。

 形式上は俺の肉体があいつと付き合っているのは事実だけど。

 いやいや、これじゃ言い方がすごし卑猥に聞こえるが、実際にはこの肉体を別人に変身させて偽装カップルとしてつきあっているって事だ。

 変身と言っても女装だけどな。


「いやいや、なんで俺が女装するデートの心配をしてるんだ?」


 女装姿の自分を想像して思わずため息が漏れた。

 いろいろな事があったとしても、やっぱり女装をして男装した女と付き合うとかふつうじゃない。

 自分のアブノーマルさがこういう暇な時にはすごく実感できる。

 そして、そのアブノーマルな関係なのに、次回はまだかななんて心配するあたりがちょっと危ない。

 だけど、なんだろうなぁ……俺ってあいつをほっておけないんだよなぁ。

 そう、俺はあいつの夢を応援したいんだ。


 ブルっとスマホが震えた。

 俺は机の上にあったスマホの画面を見た。

 画面には某ファーストフードのクーポンがラインに表示されている。


「スマイルは0円でもいらないっ! 腹いっぱいにならないからな!」


 カチッと電源を切るとまたしても妄想した。

 男装と女装のカップルを。


「しかし、本当の意味で偽装カップルだよなぁ……」


 アニメや小説なんかでこういうケースはあるかもしれない。

 最近になってTS小説とか男装とか女装とか流行ってるのは事実だ。

 小説家になろうとか、そういうサイトじゃTSや精神入れ替えとか流行ってる。

 だけどリアルでこういうカップルはいないだろ。

 まぁ、あんな小説やアニメがリアルにあればあったで大変だけどな。


 でも、俺は実際に女装して、【秋山瑞穂】として秋月と二回ほどデートをした。

 傍から見ればきっと男女に見えるくらいに完璧な偽装デートだったと思う。

 ちなみに、本当の俺は秋月と逢っていない事になってる。


「逢ってるのに逢ってないとか……どうなんだこれ?」


 そんな事を考えているとスマホがまた震えた。

 画面を見ればメールが着信しているのに気がつく。


「あ、秋月?」


 メールの差出人は秋月だった。珍しく本物の俺宛のメールだ。

 内容は俺に逢えないかって事。

 珍しい秋月の呼び出しに最初は驚いたが、実は俺もあいつに逢いたくない訳じゃなかった。

 実際は女装してあいつに逢うよりも、女装をしないで素で逢いたいなって思っていた所だった。

 あいつが男装しているのは内緒だから突っ込まないにしても、だけど俺はあいつの友達だ。そう、友達なんだ。


「よしっ!」


 俺と秋月はゴールデンウィークの初日、俺の大学の講義が終わる時間に合わせて近くのファーストフードで待ち合わせをする事にした。


 ★☆★


 約束の日。

 秋月は時間通りに現れた。

 姿はもちろんいつも通りの男性の恰好だ。要するに男装。

 こいつは俺に女だとバレている事をしらない。


 だから俺は秋月と普通の男友達としての時間を過ごした。

 秋月は男子高校生として過ごしたせいか、少しは男子トークもできるようで、普通に少年漫画なんかの話も盛り上がった。

 だけど俺は気が付いた。

 それは、秋月が女っぽい仕草を無意識にしているって事に。


 高校の時には気が付かなかったが、こいつが女だと解って意識をして見たからかもしれない。

 なるほど、秋月はこっそり女っぽい部分もあったんだな。

 そりゃそうだ。心まで男になった訳じゃない。こいつは女だ。


「そうそう、俺の大学でそういう事があったんだよ」

「そうなんだ? いいなぁ、僕も一緒の大学に行けばよかったなぁ」


 俺と秋月はたわいもない話をたらたらとした。

 そして、一時間経過した時だった。いきなり秋月の態度が変わったのだ。あからさまに態度が変化した。


「それでさ、次の休みに富士山に登ろうって言うんぞ? そんなのでき……って、おい、どうかしたのか?」

「えっ? いや、うん……で、ごめん、なんだっけ?」

「どうしたんだよ? 体調でも悪いのか? 顔色があんまよくないぞ?」

「大丈夫だよ!? 体調は別に大丈夫っ! で、あのね、ちょっと秋山君に聞きたい事があって……って言うか、頼まれてるんだ!」


 頼まれてるって?


「何だよ?」

「あのさ、秋山君って彼女いないよね?」


 いきなり何を聞くんだと突っ込み所が満載だったが、なんとか心にとどめる事に成功。


「そんなの知ってるだろ? いない。だから何だよ?」

「そ、そっかっ! ふーん」


 今度は笑顔になった。


「なんだよ? 俺の彼女がいないのがそんなにうれしいのか? そっか、お前は瑞穂と良い仲だもんなっ」


 と少し嫌味っぽく言ってみた。


「えっ? いや、そういう事じゃなくって! 瑞穂さんには仲良くしてもらってるだけだし……」


 すると、予想外に申し訳なさそうに俯いた秋月。

 思わず余計な事を言ったとすかさずフォロー体制に入る。


「で、なんだよ? 俺に彼女がいないと何かあるのか? もしかして俺に彼女でも紹介してくれるのか?」


 冗談でそう聞くと秋月の頬が赤くなった。って、おいまて?


「う、うん……ぼ、ぼくの知り合いでね、君の話をしたら興味があるから逢いたいって人がいてね」


 ぎこちない笑顔で答える秋月。


「いや、待て……ってマジ? お前の友達かなんかか?」


 秋月はこくこくとうなづいた。


「う、うん。どうしても彼女が秋山君に逢いたいって言うんだよね」

「なんだそれ? 俺に逢いたいとかどんな奇特な女だよ?」

「き、奇特な人じゃないよ? たぶん、ふ、普通だとは思うんだけど?」

「おい……マジで俺に逢いたいって言ってるのか?」

「う、うん。だめかな?」


 秋月は苦笑いをしながら頬を右人差し指でかく。


「うーん……」

「ぼ、僕がついつい秋山君の話をしたらさ、すっごい興味もったみたいなんだよ? お願いだから一度でいいから逢ってくれないかな?」


 秋月にここまで頼まれたら嫌だと言うのも気が引ける。

 だいたい、俺はこいつを騙して女装をして付き合ってる訳だし……

 しかし、なんて物好きな女だろう。俺に逢ってみたいなんて。


 半分ワクワクしながらふと秋月を見る。

 笑顔の秋月。そして俺の心に沸いてくる何か。


 『お前は俺に彼女ができても平気なのかよ?』


 ☆★☆


 ゴールデンウィークの真っ最中のとある日。

 秋月から指定のあった二駅離れた場所の喫茶店に期待半分で入った。

 シンプルで落ち着いた喫茶店で、店の中はコーヒーの香りが漂っている。

 店内は初老の男性や中年の女性が多く、とは言っても席の半分の埋まっておらず空席が目立っている。

 ゴールデンウィークは喫茶店が儲かるって事ないのか。


 指定は奥から二番目のテーブル……っと……


 秋月からのメールの文面を確認しながら奥へと進む。

 ふと指定の座席に女性が座っているのが見えた。

 その女性は黒髪ロングで眼鏡をかけている知的なイメージな女の子だ。

 女の子は俺の姿に気が付いたのかいきなり立ち上がった。


 あれ? 俺が秋山だってなんでわかった? 写真でも見せられたのか?


「はじめまして! 秋月真美あきづきまみです!」


 そして、いきなり規律して礼をする彼女。

 瞬間、俺は彼女のとある部分に視線が釘づけになった。


 お、おい! ちょっと前かがみすぎだろ!


 心の叫び。だけど心だけにしておく。じゃないと俺も困る。

 俺が釘づけになったのは、ボタンがすべては止められていない彼女のブラウスだ。

 ちょっとサイズが大きいのか……ブカブカで……

 はい! 下着が見えてます! ピンクでしたっ!


「秋山さん?」


 やばい、いきなりトラップに引っかかった系っ!


「あ、はいっ! 秋山です」

「今日はありがとうございますっ!」


 と、もう一度頭を下げた彼女。

 同時に【バサリ】と変な音が聞こえた。

 そう、テーブルの上に彼女の髪が落ちたのだ。そして、眼鏡も一緒に落ちた。


「ひゃっ!?」


 慌てて髪と眼鏡を手に取る秋月真実さん。


 で、それってウィッグ!?

 ウィッグはネットを被ってしっかりと止めないと落ちるんだぞ?

 メガネも伊達? どういう事だ? もしかしてコスプレじゃないよな?

 伊達でもメガネはサイズを合わせとけ? さっきみたいに落ちるぞ?


 しっかりと女装(半分コスプレみたいなもの)に慣れてきた俺は、思わず的確なアドバイスを心の中でしてしまった。


「うっ!?(うそだろ?)」


 しかし、そんな冷静さは彼女の素顔に崩壊した。

 そう、彼女の素顔めがね・ウィッグなしに俺は苦笑しつつ脂汗をかいてしまう。


「ご、ごめんなさい! 失礼しました!」


 俺は彼女の素顔にすごい見覚えがあった。


「いや、ダイジョブだけど?」


 まったく大丈夫じゃないけど、そう言うしかなかない。

 そう、ダイジョウブないけど俺は完全に確信してしまっている。


「ど、どうぞお座りください」


 ウィッグを被りなおし、メガネを掛けなすがもう遅いです。

 今の声のトーンってさっき慌てた時とまったく違うね。

 その声ってどう考えても作った声ですよね。


「わ、私はまさみの親戚なんです!」

「そ、そっかぁ……親戚なんだぁ」


 親戚とか言ってる。どうしよう。


「あ、秋山さんの話を聞いて、一度逢ってみたかったんです!」

「は、はぁ……それはどうも」


 一度逢ってみたかっとか言われたんだけど、ここは合わせておくべきなのか?


「ええと? どうかされましたか?」

「いや、マジどっ……っと、いや……」


 思わず素直に『どうかしたよ!』と答えそうになった。って言うか、マジでどうかしてんだよ! 俺もだけどお前もなっ!


「や、やっぱりウィッグダメですか?」

「いや、それは別に……」


 そうじゃないんだよ!

 なんと言うかさ、化粧とは化けると書くけれどあんた化けれてないんだよ!

 もっと化けるならきちんと化けようよ! 俺の女装みたいにさ!


「あはは……」


 もう笑うしかないだろ。だって……あんた【秋月まさみ】だろ!

 まさか、本人登場とは……予想外すぎた。


 目の前にいる女子。ウィッグに伊達メガネの女子。

 そう、この俺の目の女子は秋月まさみ本人だった。

 しかし、こいつは自分でバレてないと思っているのか?

 確かにウィッグを被って声のトーンを変えればちょっとは感じが違うけどさ。

 だけどな? そんなに簡単に他人になんてなれないんだよ。


「あのぉ?」


 言っておくが、俺のケース(女装)は特殊なんだ。

 そう、俺の女装は自分でさえ自分じゃないって思うレベルなんだよ。それは姉のユニークスキルの効果なんだよ!

 でも、うん、ごめん。まさみ、お前はダメだ。なってない。

 どうせ自分だけで化けたんだろ? まったく……


「いや、どうもしてないよ?」


 だけど、こいつは俺にバレてないと思ってる。

 だったら俺も無理に正体をばらす必要もないか。

 なぜなら、こいつがなんでこんな事をしたのか興味があるからな。

 もしかして……なんてちょっと期待してたり。絶対にないけどな。


「あのぉ……伊達メガネがダメですか?」


 いや、そういう問題でもないから。マジまったく……・


「ええと、別にそこらは気にしない」

「本当ですか? じゃあ伊達メガネもOKですか?」

「あ、うん……」


 いろいろ化けてる箇所を再度ばらしている秋月。本当にダメな奴だ。

 だけど本人はまったく気にしていない。

 不安そうだった表情だった秋月が、まるで花の開花のように明るくなったし。


「え、えっと、やっぱり秋山さんはやさしい方なんですね!」


 これでやさしいと言われるのもどうなんだろうか?


「いやいや、それほどでも」


 だけど、なんと言うか、よく見れば彼女は彼女で頑張って女の子してきている。

 実際にこんな女性らしい服装の秋月は初めて見た。

 他人に偽装するためにウィッグを用意して、そして伊達メガネだ。

 お化粧は正直おまけ程度にしかなってないけど。

 それでも、そのおまけが彼女を女性らしく可愛くしていたのも事実だ。

 元が可愛い男装女子だったし、素材はよかったんだなってって言い方がおかしいか?


 で、今日は画期的な変化がある。こいつ、いかにも今風の服装にスカートを穿いている。そう、スカートを穿いているんだ!

 俺は彼女の男装しか見た事がないから、よってスカートはもちろん初めてだ。

 しかし、こうしてみると出るべき部分はそこそこ出てるし、ひっこむとこもそこそこだし、いたってふつうに女子じゃないか。


「秋月さん?」

「あっ? いや、えっと、別に俺ってやさしくないと思うけどなぁ?」

「ううん、まさみが言ってました。秋山くんはすごくいい人だよって」

「ほ、ほほう……まさみがね……」


 まさみが言ってたって言われてもな……

 でも、わざわざ女の子の姿になってまで俺に逢ってくれるとか、どういう事だろう?

 まさか、マジで俺の事を好きとか?

 そう言えば、俺に女の子を紹介してくれるとか言ってたよな?

 女の子を紹介してくれるって事は……やっぱり?


 俺の脳内でいろいろな妄想が始まった。

 その結果……一気に顔が熱くなった。

 そういう結果しか妄想できなかったからだ。


 ま、まさかマジでこいつに告白されるとか?

 秋月が俺をマジで好きとか? あるのか?


 意識してしまうと突如として心臓が跳ねるように鼓動を速める。

 こんなに緊張したのは久しぶりかもしれない。


 あ、あはは……でも、こいつ彼氏なんてつくってる暇ないだろ?

 まだ当分は男装しないといけないのに、ないよな。

 なんて思っていた俺だったが。


「秋月さん!」

「は、はひ?」


 やばい、喉がからからだ。コーヒーで喉を……


「単刀直入に言います……あなたが好きです! わ、私とつきあってくださいっ!」


 俺の目の前を琥珀色の霧が舞った。

 いや、単純にコーヒー噴いただけ。

 まさかの予想通りと言うか、俺がまさみに告白されてしまった。


「た、単刀直入すぎじゃね!?」

「ダメですか? こんな私じゃダメですか?」


 あんた、コーヒーの霧は気にしないのか!?

 ウェイトレスさん、素早い反応をありがとう。そしてニヤけないでね?


 しかし困ったぞ? おい、なんだこの展開は。

 そりゃ良く見ればこいつは普通に可愛いし、知らない間柄じゃないし、本音はダメじゃないけど。だけどさ!


「いやいや、いきなりすぎだよ」


 そういきなりすぎるし、いろいろ問題もありすぎる。

 問題と言うよりも大問題だよ。

 俺がもしもこいつ(女バージョン)と付き合うようになったらいろいろなピンチが起こりうるだろ?

 女装した俺は男装したこいつの彼女なんだぞ? それが、女の子のこいつの彼氏になるだと?


 こいつがいつか俺の家に遊びに来たら、姉ちゃんが瑞穂が俺だってバラすかわかんねぇんだぞ?

 それに、接点が多ければ多いほど俺が瑞穂だってばれる危険も大きくなるだろ。

 今は接点が少ないから俺の女装だってバレていないんだ。

 俺の方がボロを出す危険だってあるんだ。


 瑞穂は俺が女装しただけの偽装女子だ。あくまでもベースは俺なんだよ。男なんだよ。

 今日の秋月ほどばれやくすないとは言っても、それでも俺は整形してる訳じゃない。根本的な顔の形だって同じなんだよ。


 そう考えると答えは一つしかないよな?

 こいつの夢の実現を考えても俺はこいつとは……


「そうですよね。いきなりすぎますよね? だけど、私は秋山さんの事が本当に好きになってしまいました……」


 すっげー矛盾だらけの言葉で突っ込みどころ満載だった。だけどもうそんなのどうでもいい。

 俺は人生で初めて女の子に好きだと言って貰ったのは事実だ。すごくうれしいけど、だけどどうしよもない。

 そう、うれしい、すっげーうれしいけどさ……ダメなんだよ!


「あのですね……」


 く、くそぉぉぉぉぉ! 俺が女装する前に告白してほしかったぁぁぁ!

 俺がお前の彼女(女装)になる前に言ってほしかったぁぁぁ!

 でもお前は夢の為に男装してるから無理だぁぁぁあ!

 うわぁぁ! 神様の馬鹿ぁぁぁ!


「もしかして……ダメなんですか?」

「ええと……」

「……答えを……教えて下さい……」


 そうだ、答えなきゃ。

 答えは……別にダメなんじゃないんだよ。だけどダメにせざる得ないんだよ。

 俺はあと十か月はお前の彼女でいなきゃいけないんだよ。だから……だからごめん……ごめん。


「ごめん……君とは付き合えない」


 俺はまさみがたぶん好きだ。

 あまり考えた事はないけど、でもこいつがほっておけない。だけど……


 胸が痛んだ。すごく痛んだ。


「……」


 秋月の顔から血の気が引いた。顔が真っ白になってゆく。

 相当のショックを受けたようでわなわなと震えながら瞳が潤んでゆく。

 そんな秋月を見ていて俺の心はナイフでも刺されたかのように再び痛んだ。

 痛い、痛すぎる……なんでこんな事に?


「私は……ずっと……ずっと前から……あなたを好きだった……ずっとあなたを見ていたのに……」


 ちょ、ちょっと待て! 今日が初めての出会いの設定なのになんでそういうセリフを言うんだよ!?

 気が動転しててもそこはアウトだろ! 落ち着けよ! 俺だって頑張ってるんだよ!


「落ち着け。とりあえず落ち着け」


 やっぱりダメだ。

 やっぱりこんな暴走するこいつと付き合うのはアウトだ。続くはずない。お互いの秘密がばれない訳がない……

 こいつの両親は感がいいんだ。きっとこいつが俺と付き合ってる事はいつかバレる。


 そうなればこいつの夢が……断たれるんだよ!


「うぅ……うぅぅ……」


 泣いちゃったよっ! どうすんのさこれ?

 俺は女性に対する免疫ないし、こういう場合はどう対応すればいいのかもまったくわかんねぇ!


「私……初恋だったんです……」


 ま、まじ? お、俺だって……たぶんそうだよ……


「初めて男性を好きになれたのに……」


 うぐぁ! 刺さる! すっげー刺さる! 胸が痛い! 痛いぃぃぃ!

 マジ、生まれて初めてこんな事言われたのにっ! うれしいのに悲しいっ!

 あー姉ちゃん、俺ってどうすりゃいいんだよ?


「本気で好きなのに……」


 刺さるような視線を感じて後ろを見ると、ウエイトレスが俺を睨んでいた。

 いやいや、別れ話じゃないから!


「お願いです! なんでもしますからっ!」


 うぉぉ! なんでもぉぉぉ!


「見た目よりもあります! 見てもいいですから!」


 いやいや、胸を強調しなくてもいいから! あと、見てもいいとか言うな! 秋月はそんなキャラじゃないだろ!?


「お願いです! 私と付き合ってくださいっ!」


 く、くそっ! こうなったら……究極の手段だ。


「じゃ、じゃあさ、一年だけ待ってくれないか?」

「一年?」

「そう、もしも君が俺を一年後も好きでいてくれたら、俺はよろこんで君の彼氏になるよ」

「……ど、どうして一年なの」


 お前の彼女としてあと十か月ほど一緒にいなきゃだからだ。

 そして、保険をかけて一年だ。なんて言えるかぁぁ!


「ちょっと、今はいろいろと取り組んでいる事(女装)があって、それがあと一年(正確には十か月)ほどかかるんだ。それを実行しないと夢が(お前の)叶わないからさ、どうしてもやりきらないといけないんだ(女装フェイクカップルを!)」

「わかりました……待ちます……」


 納得してくれたのか? マジで待つのか?


「でも、それでも友達にはなってもいいですよね?」

「友達に?」

「はい。彼女になるのは待ちます。だけど、お友達になってほしいです」


 これまで断るとさすがにやりすぎだよな。


「わかった。でも、逢う事は厳禁だからな?」

「……わかりました。私もなかなか逢えないとは思いますので」


 まぁ普段は男装だかんな。


「今日はありがとうございました……」


 秋月はいきなり席を立った。顔は真っ赤なままで目も真っ赤だ。

 ちなみにウエイトレスはやっと居なくなった。どうやら収まったと判断したらしい。


「秋山君」

「んっ?」

「えっと、私……一年後を楽しみにしてますね」


 やっと出た柔らかい彼女の笑顔。

 そして意味がわかるけど、言葉がおかしいから。


「了解」


 あれ? そういや、携帯アドレスもメアドも交換しないで友達なのか?


「それではまたっ!」


 彼女が手に取った小さな紙袋。

 すっと通路に出たとき、その紙袋が机の角にひっかかりびりびりっと裂けた。

 バサバサといくつかの本が床に転がる。


「わぁぁぁ!」


 発狂しながら、真っ赤な顔で本に手を伸ばす彼女。

 俺も落ちた本を一冊拾ってあげようとすると、彼女が必至にそれを奪った。

 だが、俺は見てしまった。その本のタイトルを。


【甘えてごらん~淫らな男子校性~】


 それは確実にBL同人誌だった。


「み、見てない!」

「えっ?」

「だから、見てないって言ってください!」

「ええと……秋月?」


 よく考えれば女になっても苗字が同じだからなんかふつうに呼べるなこれ。


「わ、わ、私……」

「ダイジョウブだ! 見たから!」

「えぇぇっぇぇ!」

「いや、別に秋月の趣味がどうでも気にしないから」


 俺はそれなにに気をつかったつもりだった。だけど秋月は最高潮に真っ赤になって。


「わ、私は普通に男性に興味があります! ダイジョウブです! これは趣味です! BLは趣味です! 百合属性はありません! ノーマルです!」


 凄まじい言葉が喫茶店に響いたのだった。

 一人喫茶店に残された俺。すっげー居心地が悪い。


「まったく……あいつ」


 この後数分後、喫茶店を出たはずの秋月が慌てて戻ってきて、俺のメールアドレスをやっと聞いてきた。

 そして再び別れる。

 俺は彼女に手を振ると、再び喫茶店でコーヒーを堪能したのだった。

 逃してしまった大チャンスを後悔しながら。


 そして、この出会いが俺とあいつの運命の歯車を大きく変える出来事になるとは、今の俺はまったく予想すらしていなかった。


つづく?

彼女と彼の本当のすれ違いの恋はここから始まります。

クロスドレッサークロスの題名はこの二人の恋物語を構想した時に考えたものです。

人間は恋をすれば幸せなのか?

何かを犠牲にしなければいけない時にどうするのか?

彼女は夢を叶えたほうが幸せなのか?

それとも恋に生きるべきなのか?


リアルの恋愛というものは絶対のハッピーエンドはありません。

この二人は果たして本当の意味でのハッピーエンドへたどりつけるのでしょうか?


最後に

再びのリクエストがあるようなら続きを書かうかなって思います。

次回目標の評価は150かな?

それではまた!

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