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貴女に永遠の愛を 《 改訂版 》  作者: aki
第二章
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このお話が『なろう様』での記念すべき初投稿部分となります。

 城内を行きかう人々の好奇に満ちた視線に耐え、ワーズワースに宰相の執務室前まで送ってもらった八重は、丁寧に礼を述べて彼と別れた。ワーズワースは最後まで何か問いたげに八重を見つめていたが、そこは完全無視を貫いた。


 そうしてとりあえず部屋にいたボネット宰相にことの次第を話し、エヴァンジェリスタに聞きたいことがあると告げると、彼は八重に書類を持たせ、共に皇帝の執務室へと赴いたのである。


 エヴァンジェリスタからはいつでも遠慮なく訪ねて来てほしい、と言われているがそれを鵜呑みにするほど八重は子どもではない。

 皇宮内での“ラヴィニア”の地位は、あくまでも“宰相の秘書”だと当人は思っていた。


 たった一人でエヴァンジェリスタのもとを訪れるなど、ありえない。


 少なくとも現時点では、ラヴィニアの正体を知らない第三者(たにん)の目がある場所で本性を表すつもりも、エヴァンジェリスタと特別に親しいそぶりを見せるつもりもないのだ。


 ラヴィニアを秘書として預かっている宰相も彼女の思いはきちんと理解しているらしく、あくまでも秘書として彼女を伴う形で皇帝の下を訪れたというわけだ。



「あのね、エヴァ。仕事中にお邪魔するのは大変心苦しいんだけど、今すぐに教えてほしいことがあるのよ」


 ラヴィニアと宰相が訪れるという先触れを受け、事前に人払いされた皇帝の執務室をボネットと共に訪れた八重は、扉が閉まると早々に話を切り出した。


「はい、何でしょう? 私に答えられることなら、何でもお答えしますよ」


 エヴァンジェリスタは手にしていた書類を机上に置くと顔を上げ、まっすぐに彼女を見つめる。


「ありがとう。じゃあ、詳しい内容は割愛して単刀直入に聞くわね。実は先ほど、ワーズワース侯爵と名乗る男に会ったの。でも、わたしの記憶が正しければ、あいつの名前は“ワーズワース”でもなければ“侯爵”だなんご大層なご身分でもなかったはずなのよね? いったい何がどうなっているのか教えてもらえるかしら?」


 ボネットが所在無げに壁際に立っているが、それを気にすることなく八重はエヴァンジェリスタに近寄ると、机に両手を突いて乗り出すように彼に詰め寄った。


 一方のエヴァンジェリスタは、八重の口から“ワーズワース”の名が紡がれるとわずかに眉間に皺を寄せる。

 

 ほんの少しの変化だが、内面から湧き上がる不機嫌オーラに、ボネットは内心震え上がった。

 ファーノ帝国建国以降、皇帝の懐刀の一人として、数多の貴族たちに睨みを聞かせる腹心の名を嫌そうに聞くなど、ポネットの知る限り初めてのことだ。


「フロルと…会ったのですか?」


 “ワーズワース侯爵”ではなく、“フロル”というファーストネームを口にする。


「フロル、ね。ファーストネーム(そっちのなまえ)は変えていないのね」


 やっぱり、という顔をして八重はハァッと息を吐く。


「ええ。ファーストネームはありきたりの名前ですから、3人ともそのまま名乗らせています。ですがさすがにファミリーネームを使わせるわけにはいきませんので」


「…まぁ…確かにねぇ。あの連中に真名を名乗らせるわけにはいかないか。で、他の2人は何て名乗ってるの?」


「ブラッドはベッドフォード侯爵、メレディスはレドモンド女伯です」


「ふぅん、そんな風に名乗ってるんだ」


 エヴァンジェリスタの口にした名を頭の中で復唱しながら、八重はニコリと微笑む。


「ところで、あいつらに私のことをしゃべってなんかいないわよね?」


 答えなど聞かずともわかってはいるのだが、念のために言ってみると、「当然です!」とエヴァンジェリスタは頷いた。


「貴女をこちらに召喚させていただいた時から、彼らに知られないように細心の注意を払ってきました。貴女の気配が漏れないように皇宮中を結界で覆って儀式に臨みましたし」


「確かにそうでしょうね。しゃべっていたら、とっくに私の周りを四六時中、うろついているはずよね。今日の今日まで一匹も見なかったのがしゃべっていない証拠か…でも、今までどこにいたの?」


「一応、爵位を与えていますので彼らもいまや立派な領主です。ですから召喚の儀の数ヶ月前から彼らを各々の領地に戻し、領地運営に力を注ぐよう命じたのです。帝都へ戻るようにとは命じていませんので、本来であれば、帝都にはいないはずなのですが…」


「つまり、エヴァへの連絡もなしにやって来たって事? それってやっぱり、私に気がついたのかな?」


 つい先ほどまでその存在すら忘れていたが、一応、彼らは勇者“八重”の主従契約者(げぼく)なのだ。正式に主従(げぼく)契約を結ぶにあたり、先王と、当時王太子であったエヴァンジェリスタの命にも従うよう命じたので、日本への帰還後は契約に基づいて帝国に仕えてきたらしい。


「確証は持っていないでしょうが、恐らく…」


「だよねー」


 彼らがエヴァンジェリスタに仕えているのは、八重が命じたからでしかない。

 契約が結ばれた瞬間から、彼らにとっての至上の存在は、あくまでも八重なのだ。


 彼女がこちらの世界に存在しないがゆえに、エヴァンジェリスタを第一の主人(あるじ)として仕えてきた彼らではあるが、本来の主人が同じ世界(こちら)に戻ってきたことに気づいた以上、彼らにとって八重は第一の存在ではなく、唯一の存在として認識されるのは間違いない。


「あー、面倒くさいなぁ。でもあいつらバカだから、私が抑えないと何しでかすかわかったものじゃないよわよね」


 もともと魔王の部下だった連中だ。人としてのモラルは大いに欠如していると言っていい。


「お願いできますか?」


「っていうか、するしかないでしょ? 今のエヴァなら、力づくであいつらを押さえ込むことは簡単だろうけど、それは望んでないんじゃない?」


 八重がそう言うと、エヴァンジェリスタは苦笑を浮かべながら頷く。


「性格的には問題はありますが、彼らの協力なしに今の帝国はありません。私にとって、失いたくない数少ない人材なのは確かです」


 よどみなく答えるエヴァンジェリスタの言葉を聞いて、自分がいない間、彼らが期待した以上の成果を挙げていたらしいことに感心する。


「了解。とりあえず、フロルには今日にでも秘密裏に会って話をつけるわ。あとの二匹は、エヴァの方で呼びもとしてもらえる?」


「ええ。お手数をおかけしますが、彼らのこと、よろしくお願いします」


「はい、お願いされました。とゆーことで、宰相閣下。フロル・ワーズワーク伯爵とラヴィニアが隠れて会える部屋をできるだけ早く、今日中に用意してくださいね」


 頭こそ下げないものの、どちらが上位者だかわからないやりとりを前にして、壁際の置物と成り果てて硬直していた宰相は、言葉もなく、ただコクコクと頷くのだった。



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